作品タイトル不明
11-17 シュバルドベルツ帝国 三人の流れ人
「んがっ!」
ゆっくりと目が覚めるのではなく、ハッとするように目が覚めた。
危ない危ない。
夢の中でまで鍛錬をしており、裸のシシリアが振るう木剣が当たると思った瞬間に目が覚め、一瞬夢か現か分からなくなってしまった。
辺りを見回し、最後に見上げた天井がぼんやりとして見え、少しの間ぼーっとした後に、二度寝と洒落込もうかと瞳を閉じて体を倒す。
『アーニーキー! あーそびーましょー!』
「……」
何やら窓の外から男の太い声で子供じみたお誘いの声が聞こえてきた気がしたが、きっと気のせいだろう。
聞き覚えのある真によく似た声だが、真は高校生くらいの年齢だ。
いくら何でも、あんな誘い方をする訳がない。
つまり、これは夢だ。
いつの間にか二度寝出来てしまったようだが、昨日はお酒も飲んでいたし、その後の鍛錬で疲れた上に、お風呂で気を張っていたので当然と言えば当然か。
そういえば、夢だとシシリアが裸で木剣を振るうだなんてありえない状態でも自然と受け入れられるものなん――。
『アーニーキー! あーそびーましょー!』
……真がいくら阿呆とはいえ、シシリア邸に向かって大声を上げるなど阿呆なことをするわけもない。
俺は真を信じているからな。
それじゃあおやすみ。
もう一回いい夢をみれますよう――。
『わっ! いや、ちょ、違くて! ちょっと兄貴をお誘いに来ただけって言うか、茶目っ気を出しただけで、悪意があるとかじゃなくて!』
「……」
『あ、兄貴と合流したらすぐ出て行きますから! アニキー! アニキー!! 侵入? 違いますよ! さっきシシリア様とすれ違って入れてもらったんですよ! 証明? え、それは……ちょ、助け、兄貴ぃいい! 早く出てきてえええ!!』
「うるせえええ!!」
何を勝手に俺が悪くなるような流れを作ってくれてやがりますかこの真は!
これ後で『ああいうのは困ります』とか、絶対言われるやつじゃねえか。
約束すらしてないんですけど? ノーアポだよノーアポ!
アポは大事だよ!
「あ、アニキ……」
「ちょっと大人しくそこで正座して待ってろ馬鹿たれ」
窓の外から見下ろして告げると返事を待たずに窓を閉める。
ったく……ああー……惰眠を貪りたかったなあ……。
「ん……。主、真来てる」
「知ってる……。朝……じゃないにしても、昼前からなんだあいつは……」
「髪跳ねてる」
「あー……直さなくてもいいだろう」
真だし。
「ん。じゃあシロが押さえとく」
スルスルっと俺の体を登り、肩車の体勢になるとシロは俺の頭に手を添えて、跳ねた髪を抑え出す。
大した重さでもないのと、気を使わずともシロは絶妙にバランスを取ってくれるので、そのまま引き続き着替え、洗顔、歯磨き等を早々に済ませて真のいる外へと向かっていった。
「シロは朝飯食べたか?」
「ん。食べた。主のは後で出来立てを用意するって」
「あー……ゆっくり食べたいが、真がいるしな。非常用のでいいか」
とりあえず魔法空間から適当なシロパンと香辛料をつけて焼いた肉、新鮮な野菜なんかをサンドして口に運ぶ。
「ほれ」
「ん。あーん」
シロは朝飯を食べたとは言ったが、きっと食べるだろうと思って差し出すとパクッと食べ、俺も残りを食べる。
一つじゃ足りなかったのでもう一つ作り、途中で会ったメイドさんに朝食はいらない旨を伝えて表に出ると、満面の笑みの真が現れた。
……メイドさんたちに槍を突きつけられながら。
「兄貴! ほ、ほら知り合いだったでしょう!」
訝しげな目を向けられる真に向かってため息をつきつつ、一応という部分を強調して知り合いだと伝えてメイドさん達には頭を下げた。
俺が頭を下げると、あなたが頭を下げる事では! と、恐縮されてしまったのだが、もう、本当に申し訳ない……。
「で、なんだよ」
「だから言ってるじゃないっスか遊びましょうって! せっかく帝国で会えたんですし、遊びましょうよー」
「ふわああああ……眠いんだが?」
「もう昼ッスよ兄貴……。兄貴若さが足りないッスよ」
うるせえ……。20代はまだまだ若いとか言われるが、後半になると老いを感じ始めるんだよ。
多分もっと歳を取ったら同じようなことを思うのだろうが、10代と一緒にするんじゃないやい。
「あの~……イツキお兄ちゃんの都合が悪いなら、日を改めた方が……。とっても残念ですけどぉ~……」
そう言うのは真の陰に隠れていた……と言うか、メイドさんの囲む輪からは外れていたせいで気がつかなかったな。
今日の光ちゃんは白いブラウスと薄いピンクのフレアスカート、おしゃれ眼鏡で女の子らしさの高い休日のデートで着てきそうな可愛い格好だ。
「いや、大丈夫だよ。それじゃあ行くか」
「いやいや兄貴、なんで俺のお願いは駄目で光ちゃんのお願いはすぐに聞き入れるんッスか?」
「真はでかい声で俺の幸せの妨げをしたからな」
俺の眠りを妨げた罪は重いぞ。
今日1日は蔑ろにされる覚悟を持つといい。
「ええーっ! いいんですかぁイツキお兄ちゃん?」
「ああ。せっかくの出会いだしな。真とも久しぶりだし、いいよ」
「うわーい! イツキお兄ちゃん優しい! 大好きですー!」
「ぐぬぬぬ……光ちゃんからもう大好きとか……」
「そう言えば他のパーティメンバーはいないのか?」
真の唸りはスルーです。
「あー…………今日はせっかくだし流れ人同士で楽しもうと思ったんスよ!」
「流れ人同士か……」
んんー……まあ言いたいことはわかるのだが……。
シロの方を見るとまあそうだよなと言わざるを得ないように、手をクロスしてバッテンを作っていた。
シロの心配も当然、時期が時期だし、勝手に遊びに行くにはタイミングが悪いよな。
「シロさんいいじゃないッスかー。今日だけ! 今日だけッスよ! 俺がいるから兄貴には怪我一つさせないッス!」
「だめ」
「責任は全部俺が取るッスから!」
「真が取れる程度の責任じゃ足りない。無理」
「て、程度って……」
おお、久しぶりのシロさんTHE辛辣だ。
真が俺に助けを求めるように目線を向けるので、仕方なくシロに耳打ちをする。
「……とりあえず、姿を隠してついて来てくれ」
「ん。……わかった」
シロならば気配を消してついてくることもできるだろう。
申し訳ないが、真と光ちゃんには表面上流れ人だけと言う形にさせてもらおう。
「ん。真。主に何かあったら許さない」
「あ、説得できたんッスね! ゆ、許さないってちなみにどんな……」
「真が思う一番酷い方法」
「え……」
「の、10倍の苦痛を与える」
「ひい!」
シロの淡々とした口調のせいか、本気に取られてるな。
はっはっはうちの可愛いシロがそんなことする訳ないだろう。
……なあに、何もなければ大丈夫さ。
「じゃあシロ、皆に出かける旨を伝えておいてくれるか?」
「わかった。…………後で追いつく」
最後の方は俺に聞こえるか聞こえないかの声であったが、シロは俺達が門を出ていくまで見送りをし、今日は一応流れ人の三人で遊ぶことになった訳だが……。
「で、どこに行くんだ?」
「どこに行きますかねー。兄貴、どこか行きたいところないッスか?」
決めてないのかよ……。
行きたいところって言われてもな……観光するなら皆でしたいし……。
「俺の行きたいところって言うと、道具屋とか、素材屋になるからな……」
帝国にも面白い素材がないかとか気になるしな。
「それはつまんなそうッスね!」
「わかってるよ。今回は若者に合わせてついていくから好きな所に行けよ」
「うーん……光ちゃんはどこか行きたいところある?」
「……お洋服とか、アクセサリーが少し見たいですぅ。昨日のクエストの報酬も入りましたしね!」
「じゃあそうしようか」
「わーい! 可愛いお洋服と出会えたら嬉しいなぁ~」
身体全体を使って喜びを露にする光ちゃん。
それをにやけが抑えられずに見ている真。
服……と聞いて、ウェンディを思い出す俺。
勝手に買ったら怒られそうだよな……。
見るだけ見て、特別気に入ったのがあったらにしておこう。
「うおぅ……」
「何止まってんだよ真?」
「いや、兄貴……ここ、敷居高すぎじゃないッスか……?」
「そうか?」
宝石屋と一緒になっているせいでアクセサリー屋にしては店構えがかなり豪華なようだがこんなもんだろう。
というか、アクセサリーってもともと結構高いぞ……。
「わぁぁ……素敵ですぅ……」
光ちゃんは光り輝くアクセサリ―に目を輝かせており、きゃあきゃあと女の子っぽく楽しそうだ。
俺は……うーん……。
宝石はロウカクの方が上だし、アクセサリーは自分で作れるしな……。
とはいえ意匠は勉強にはなるので見て回るか。
「ううーん……真お兄さん。イツキお兄ちゃん。どっちが似合うと思いますか?」
光ちゃんが手に持ったのは二種類のバレッタと呼ばれる髪飾りだ。
一つは蝶々、もう一つはなかなか派手めの宝石が沢山ついているようなもの。
「うーん……俺はこっちの方がいいかな?」
「そうですか……。イツキお兄ちゃんはどうですか?」
「俺も蝶々の方かな。そっちの方が似合うと思うよ」
「こっちですか……。えへへどうですか?」
髪に当てて後ろを振り向き、俺らの反応を見る光ちゃん。
んんーやはり似合うな……。
「凄い似合ってるよ! 光ちゃん滅茶苦茶可愛い!」
「えへへ。ありがとうございます~。イツキお兄ちゃんはどうですか?」
「ああ。良いと思う」
「えへへ~そうですかぁ~」
照れたように顔を紅くし、可愛らしくはにかんで喜んで見せる光ちゃん。
真はそんな光ちゃんに鼻の下を伸ばしているようだ。
年下……だとは思うが、真から見れば数歳の差か。
んんー……いや、余計な口出しはすべきではないな……。
ん? おお? これは……。
「うーん……可愛いなあ……欲しいなぁ……でもぉ……ううーん……」
光ちゃんは蝶のバレッタを気に入ったようだが、値段を見て悩んでいるようだ。
その際にちらりちらりとこちらを見ている気がするが、俺はそんな事よりも今話題の『とっても気持ちのいい素敵な耳かき』とやらを見つけてしまい、耳かきは木製の物を持っているのだが、新しく新調するかで悩み中である。
「真お兄さんにもイツキお兄ちゃん! にも似合うって言って貰えたしぃ……。でもでも無駄遣いしたらお洋服が買えないかもしれないし……」
自分で作っても良いのだが、たまには他人が作った物も欲しいのだ。
だが、耳かきに一万ノール……これは買いなのか否か……。
材料費を見る限り、量は使ってないうえに材質は安い金属だから間違いなく高い。
だが、箱は大きくかなりの量があった形跡があるのだが、残っている本数があと3本しかない。
「うーん……どうしようかなぁー!」
何やら光ちゃんの悩む声が大きくなっている気がするが、俺も今悩み中なのだ。
元の世界で考えると耳かきに一万円……。
買って後悔するか、買わずに後悔するか……。
いや、一万ノールくらいならウェンディも無駄遣いだと怒らないかもしれない。
「ひ、光ちゃん! ここは俺に払わせてくれ!」
待て待て。
一万ノールは決して安くない。
いくら昔よりも稼げるようになっているからって金銭感覚を狂わせては身の破滅である。
「ええー! そんなぁ……せっかくのクエスト報酬なんですし、光の為になんて勿体ないですよぅ」
節約の為に、食費が勿体ないと自炊を頑張りだしたあの頃を思い出せ俺!
「なあに! いつも怖い思いをしながらも応援してくれる可愛い女の子へのプレゼントって事で、受け取ってくれると嬉しいな! それに、一期一会って言うのかな? この商品が今まで残っていたのは、光ちゃんと出会うためだったんだと思うんだよ!」
これが運命の出会いなのか否か……。
ああっ!
一本売れてしまった!
やはり人気商品なのかっ!
ぐぬぬぬぬ……。
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えてしまいます……。真お兄さん素敵です……」
「ふふふ! 素敵なお兄さんに任せときなさい!」
どうしようかな……。
ただでさえ気持ち良いらしい耳かきだが、ウェンディやレンゲ達に膝枕をしてもらいながらすると更に気持ちいいだろうし……うーん。
よし!
「「これください!!」」
「ん?」
「お?」
「兄貴も何か買うんですか?」
「あー……まあな。真もか?」
「ええ。俺は素敵なお兄さんなので! くぅ、今日の俺、我ながら格好良く決められたぞぉ!」
「お、おう……? そうか。ほどほどに……な?」
あれ? 手に持ってるのってさっき光ちゃんが気に入っていた……ああー……まあ、真のテンションも高いようだしいいか。