軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-14 シュバルドベルツ帝国 シシリアお勧めのお店・2

ふふふ。

あははははひひひ……。

こいつは気持ちの悪い笑い方も出てしまうってもんだろう。

「ッ! クァァアアアーッ!」

喉を駆け抜ける冷たい清涼感、そしてすぐ後に続くキレのある苦味。

キンッキンッに冷えた強い炭酸が、まるで目に届くかのように強く 瞬(まばた) きを強要し、あっという間に通り過ぎていく。

つまみのトロトロになるまで煮込まれたブラウンモームの濃い味付けと溶け出した脂とほろほろのお肉が、『ほれほれ。さっぱりさせたくなるだろう?』と促すようで、またごくごくとラガーを飲み進めてしまう。

更に白身の魚を良質な油で揚げたサクサクなフライが合わないわけがあるまいさ!

揚げ物なんてもう……こいつはもう一杯、いや、限界まで飲めてしまうじゃないか!

「アァー……あはは、美味い……っ!」

口に溜まった油分を洗い流すジョッキごと冷やした淡麗なラガーの爽快感は、何物にも代えがたい至福で笑いがこみあげてくる。

疲れた体、暑い季節、一日の終わりにこの一杯……と是非これからいきたいもんだ。

「ご満足いただけたようで」

「ははは、最高っ!」

「ふふふ、これも全てお客様がガラスのジョッキを作ってくださったおかげでございますよ」

そう。

俺は美味い飯と美味い酒にとても気分がよくなってしまい、給仕に俺の元の世界で使っていた透明なガラスのジョッキを錬金で作ってみせ、それを店に寄贈したのである。

厚みがあり、透明感の高いジョッキはラガーを注ぐとそれその物が芸術品のように映り、舌や鼻、のど越しだけでなく見た目までもが味わえるものなのだ。

飲む器を変えただけでも、やはり変化が起こるのがビールだなと。

木の樽で出来たジョッキが悪いわけではない。

ただ、やはり爽快感を味わうのであれば、木で出来た樽ジョッキよりも、この厚いガラスのジョッキだろうと俺は考えたのだ。

木の香りを含めた美味いラガーも勿論ある。

実際フルーティで飲みやすい、ミゼラやソルテが気に入ったフルーツビールとも言える甘いラガーは木のジョッキの方が美味いと思うしな。

木のジョッキは泡立ちがいいし保冷効果も高いので、ゆっくりと飲むにはこっちの方が良いだろう。

だが、キンッキンのままに飲み干すならば、やはりガラスのジョッキだろうとも。

「ックアアアア! 美味いっすね!」

「お、良い飲みっぷりだなレンゲ」

「冷たくて飲みやすくて最高っすよ! 苦味よりのど越しの爽快感やキレの良さを味わう感じっすね!」

レンゲはジョッキを机に置き口元をばっと拭うまでがセットだというように豪快に飲み切る。

その飲みっぷりに俺も新しいのを貰い、つまみを食べてごくごくと飲み進める。

「ううう……レンゲずるい。私はやっぱりまだ苦手ね……」

ええっ……と舌を出して、眉根を寄せるソルテ。

そういえば以前ラガーを飲んだ時は渋い顔をしていたそうだもんな。

大人になろうが苦手ってものもあるだろう。

「まあ、飲みやすいと言ってもやっぱりラガーだしな。無理はするなよ。ソルテはさっき飲んで気に入っていた紅いのがいいんじゃないか?」

「うん……そうする。すみませーん。さっきのチェリッシュラガーお願いします」

確かサクランボを使ったフルーツビールだったかな?

赤が強めの赤茶の様な色合いで、アレはアレで美味しそうだったな。

「私もやはり冷やした物が一番体に合うな。うん、美味い。火照った体に染みわたる……」

「なーんかアイナが飲むと大人っぽいっすよね……」

「そうか? 変わらないと思うのだが……」

アイナとレンゲはどうやらこの冷たいラガーは気に入ったようだ。

俺も酒で火照った体を一瞬で冷やしこみ、飲み切った後はまたぽかぽかと体が火照るのを感じては、つまみとラガーを交互に飲んでしまう。

「やっぱり俺はこの味だな……」

濃厚な味わいのラガーもいいが、やはり爽快で軽やかなごくごくと飲めるのど越しを味わうラガーが好きだな。

「どうやらそちらのラガーが気に入ったご様子ですが、お持ち帰りになられますか?」

「ここで注文出来るのか?」

「ええ勿論。ただ、別途代金はかかりますが、何樽でも構いませんよ」

「そうか……じゃあ、とりあえず10樽貰おうかな」

「10ですか……保存はあまり利きませんが、大丈夫でしょうか?」

「それは問題ない。大丈夫だ。それと、ソルテとミゼラが飲んでいる物もいくつか頼む」

合計で15~樽くらいか。

まあ俺には時間が経過しない魔法空間があるからな。

今後の事を考えると10樽でも足りない気がするが、流石に自重というものを俺は知っている。

遠慮が出来る男……それが大人のイツキさんなのである。

「……うむ。気に入ったものが見つかったようで良かったぞ」

とすっと左肩に重みを感じると、シシリア様が俺の肩へと頭をぶつけ、そのままの体勢で止まってしまっている。

その瞳はとろーんとしていて、どうやらお酒が随分と回り、半分閉じかけていた。

「シシリア様……眠そうですね」

「んんー……そんな事は……ない。我はー……まだまだ飲めるのだぞ……」

肩から少し離れるとふらふらと頭を揺らしていて、今にも寝てしまいそうだ。

まあ、今まで激務に次ぐ激務を早めに終わらせて時間を作ったんだもんな……。

そりゃあ、疲れた時に酒が入れば酔いも回りやすいというものだろう。

……とはいっても、シシリア様は果実酒もラガーも数十杯は飲んでいるのだから、普段はもっとずっと強いのだろうな。

「……それよりも、いい加減『様』を外せ。貴様、アイリスには様をつけておらぬだろうふわああ……ぁぅ」

きっと『が』と言いたかったのだろうが、欠伸でふわになってしまい、それを気にしたようだ。

「欠伸……出てますよ? 眠いなら寝た方がいいですって」

「楽しい時間は長く楽しみたい……。敬語もやめい……。こうして酒を酌み交わした以上、我とお主は最早友である。公の場でもあるまいし、友に敬語を使うでないわ」

「はーい……。よしよし。ほら、お眠りよ」

「ううう……だがせっかく……」

横にすると逆流してくる可能性もあるので少し体をこちらへ傾けるようにさせて、肩を貸すと力を抜いて俺へと寄り掛かるシシリア。

「また次の機会も作るから少し休みな? もう皆もちびちび……」

「はぐはぐがつがつもぐもぐあむあむ」

皿が、皿が積みあがっていく……。

給仕の紳士も俺と話している間にまさか食べきるとは思っておらず、今は片づけに大忙しのようだ。

「シロはまだ余裕みたいだけど、皆もまったりムードだし休める時に休んだ方がいいよ」

「んん、むぅ……」

よしよし、と頭をぽんぽんするとすぅっと瞼を閉じて寝入ってしまう。

まあ、他の皆は満足げにゆっくりとお酒を楽しんでいるようだし、俺もまったりと楽しもう。

「あうううー……」

「ミゼラも飲み過ぎか?」

シシリアの反対側に座るミゼラの方から小さな呻き声が聞こえたのでそちらに首を向けると、ジョッキを手に持ちながらも重力に従って首が傾けられていた。

「酔ってないわよ……」

「酔ってるよ……」

くっくっと、その状態で酔ってないは流石にないだろうと笑ってしまう。

「ミゼラ、飲み過ぎなのですよ。はい、お水です」

「ありがとうセレン……」

「いえいえ。私は皆様の護衛ですからね。酔って寝てしまっても、しっかりとお屋敷までお届けしますからご安心を」

セレンさんは飲酒運転駄目絶対というように一滴ものんでおらず、食事をジュースで楽しんでいるようだった。

基本的には従者が一緒に食事……という事はなさそうだが、セレンさんとシシリア様ならばアリなのだろう。

「ん、モグモグモグ。ん。……護衛ならシロもいる」

「はい! シロさんがいれば百人力です!」

「ん。活力満タン。龍でもヤレそう」

いや、流石に龍を相手にはしたくないぞ?

というか、あんなことは二度とないと信じている。

もっと平穏に生きていきたい。

「うう……セレン……」

「はい。なんですかミゼラ?」

「……あのね。お祭りの時、セレンが私の為に怒ってくれたこと、とても嬉しかったわ」

「はえ? あーあれですか。当然の事なのです。ミゼラと私はお友達ですもん」

お祭りって言うと、あの事件か……。

俺がキレてしまったあの……。

確か、セレンさんもブチギレてたな。

8人もの冒険者に止められながらも、ゆっくりとではあるが進んでいたのだが、この前の模擬戦のおかげで今なら納得だ。

「うん……セレン、あのね。私と友達になってくれて、ありがとう。貴方が私と友達になってくれて、私はとても嬉しいの」

「んん? それは違うのですよ?」

「え?」

「ミゼラだけではなく、私もミゼラの友達になったのです。友達とは一人でなるものではないのです。だから、どっちもありがとうなのです」

おお、良い事を言うじゃないかセレンさん。

確かに、友達は一人じゃあなれないもんな。

セレンさんにとっても、ミゼラと友達になれたことは嬉しい事なのだろう。

良きかな良きかな。

「セレン……んんんー!」

「わっわっ! ミゼラ!? どうしたのです!?」

感極まったのかセレンさんに抱き着くミゼラ。

勢い余ったのかそのまま押し倒されてしまうセレンさん。

不意打ちとはいえ鍛えているセレンさんを押し倒すとはやるなミゼラ……。

「ちょ、ちょお……にこやかに見ていないで助けてください主さん!」

「ほらほら、暴漢に襲われたらそれどころじゃないぞー。頑張れー」

「暴漢と違って力ずくで剥がすわけにはいかないでしょう!?」

確かに。

ミゼラはただでさえ華奢だから、セレンさんの力で引きはがしたらまずいだろう。

んんー……しかし、二人の友情を邪魔する訳にも行くまい。

どちらもスカートで、こちらに足を向けているからという訳ではない。

「んんーセレンー……」

「ひゃああ! そこはお尻ですよ!? ミゼラ!? ちょ、ちょお、落ち着いて!」

「私……もし男の子だったらセレンを好きになっていたと思うわ」

「それはとても光栄で嬉しいのですけど、もしではなく今のミゼラは女の子ですからね!?」

「あー……そういえば、女の子同士だと 一生の誓い(オンリーワン) ってどうなるんだろうな」

「知りませんよ! ああー! 今おっぱい揉まれました! 私ミゼラは好きですけどノーマルなんですけど!」

「馬鹿言うな。ミゼラだって俺と愛し合っているノーマルだぞ」

あとセレンさんは……ギリギリおっぱいだな。

うん。ギリギリだけどおっぱいだ。

あれ? 出会った頃よりも少し大きくなったかな?

なるほどなるほど。そちらも成長中という訳か。

良きかな良きかな。

「何を満足気に頷いているのですか!? ちょ、両手で揉まれているんですけど!? ミゼラも主さんも酔って思考がぼやけているんですか!? ああもう、酔っ払いって面倒くさい!」

ほどなくしてミゼラはそのまま寝入ってしまったのだが、顔を真っ赤にしてのそのそと這い出たセレンさんは、痛くない程度に俺の背中をぴしぴしと無言で叩くので、それは甘んじて受け入れる事にしたのだった。