軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-11 シュバルドベルツ帝国 『兄貴』と呼ばれた男

Aランク冒険者『 愛の蜜(ラブリーシュガー) 』の愛の大妖精ミルクと、美の大妖精ココア。

筋骨隆々だが、格好がミニスカートなど女性的という事は……きっとそういう『可愛い』願望がある方なのだろう。

あ、もしかして周りの冒険者が言っていた兄貴って――

「ミルクの兄貴、ぶぎゃ!」

「ボルアアアアッ! だあああれが兄貴よう! 私は愛の大妖精。性別を超越した存在なのよおおおう! せめてお姉ちゃんて呼びなさいよおおお!」

あ、違ったようだ。

でももう一方は俺の予想通りだったらしい。

「あー……もしかして、普段この席に座っている冒険者だったか? すまんが、この子が食べ終わるまで居ていいかな? 砂時計が落ち切る前には終わると思うからさ」

「あら。私達の座るテーブルじゃないし、別にそんな小さい事をいちいち気にしないわよ。それよりその子、そんなに可愛らしい小さな体でうちの特製山盛りブランモームステーキを食べきる気?」

「ん……。余裕。美味」

「私達を見て、食欲失せたりしない? お邪魔になってないかしら?」

「なってない。全く問題ない」

シロは食欲など減衰せずに、もりもりとステーキを減らし続けている。

砂時計もまだ余裕があり、このペースならば食べきれるだろう。

しかし、このテーブルに普段座っている冒険者じゃない上に、社交的って事は、騒動を見て納めに来てくれたのだろう。

きっといい人だ!

「あらあら。私達を初めて見て偏見を持たない子だなんて貴重だわ。この筋肉は子供受けは悪いのよね……」

「あら、それならこちらの男性もよ。私達を見て驚きはしたものの対応は普通だもの。化け物! だなんて叫ばれた日には私達の愛と美について一晩語らないといけなくなるところだったわ」

「そんな化け物だなんて……」

わざわざ地雷とわかっていて踏み抜く馬鹿もいないだろ……。

と、俺は思うが周囲の冒険者の一部では膝をついて顔を抑い、絶望感漂う雰囲気を出す者が少なからずいた。

なんというか、文化圏が違うと許容範囲が増える気がする。

そういうものなんだろうな、って納得する自分がいるもんだ。

「 愛の蜜(ラブリーシュガー) か……噂はかねがね。相当な実力者だと話は聞いているぞ」

「あら、貴女がアイナちゃんかしら? こっちも噂は聞いているわよ? 噂通り、ううん。噂以上に可愛い女の子ね」

「どんな噂か知らないけど、名ばかりのAランクじゃないわよ」

「勿論よ。見た瞬間に貴方達の強さは肌にビンッビンッ! 感じたわ……。ここにいるボーイ達が揃って襲い掛かったところで数秒で返り討ちね。ボーイ達、三人が出たところで引けば良かったのに……貸し一つよ。うふ」

ココアさんが貸し一つといったところでひぃぃぃっと声を出してズーンと沈んだ雰囲気を出す冒険者達。

シロはそんな絶望のオーラに囲まれながらも食欲は減衰しないまま、最後の一口を味わっている。

「けぷっ……ご馳走様でした」

「あら、お見事。マスター。これでタダね」

「飲み物もタダよね? 人数分頼んだら?」

「……商売あがったりだ」

「味は美味しかった。とても、美味しかった」

マスターはぷいっと後ろを向いて酒の瓶の手入れをし始めてしまう。

だが、シロに褒められると後ろ手にグッとサムズアップして見せてくれた。

そしてなんと連れの飲み物もタダらしく、俺らは人数分の飲み物を頼む事に。

「あ、でもテーブル動いた方が……」

「心配しなくても大丈夫よう。別にルールで定まっている訳でもないし、文句言ってきたら私達が対処してあげるわ」

「そうよそうよ。それに、貴方達に興味が出て来たもの。少しお話ししたいわ」

うーん……まあそうだな。

帝国のAランク冒険者で、アイナ達も知っているようだし、シシリア様もまだ来ないようだし、そうさせてもらうか。

「……なら、お言葉に甘えて」

「うふふ。甘えてくる男の子って可愛いわよね」

おおお……ぞくぞくっと来るが、俺はノーマルです。

ノーマルなのです……。

「あ、そういえば、 愛の蜜(ラブリーシュガー) って魔族も討伐してたっすよね?」

「え? ええ、若い魔族ばかりだけどね。帝国は王国よりも魔族が多いのがネックよね……。知り合いの冒険者も、魔族にやられて引退した人も多いのよ……」

「魔族が多いからって王国の冒険者を低く見るのが絶えないのよね……。まったく、耳よりも目を養いなさいよ。一目見て強者だってわかるじゃない」

「別にいいわよ。実力は実際に見てみないとわからないものだもの」

「 愛の蜜(ラブリーシュガー) も見てすぐにわかったぞ。噂通りの強さのようだな。確か火竜の群れも討伐したとか……」

まあ……この二人は強いだろうな。

俺でも見てわかるもん。

アイナ達はアイドルと見まごうような可愛らしい女の子だもんな……。

見た目じゃあ分かりにくいというのも分からなくもない。

「あら、あれは群れじゃなくて20体固まってただけよう。 紅い戦線(レッドライン) が討伐した闇洞窟だって凄いじゃない。何年も放置されたクエストでしょ? 貴方達ならダンジョンの攻略さえ済ませたらSランクにもなれるんじゃないの?」

「Sランクには興味がないっすねー。ご主人と一緒にいる方が大事っすから」

「あら、そうなの? あ、そういえば奴隷になったとも聞いたわね。もしかしてこの人が……?」

「そうっすよー。ご主人であり、恋人でもあるっす!」

「んまっ! もしかして全員? すんごい絶倫なのね……」

凄く! 熱い! 視線が!

厚めの唇を舌なめずりしないでください……。

「駄目っすよー? ご主人に手を出したら」

「わかってるわよー。今はお気に入り以外に手を出す気はないもの。私、最近は皇帝が熱いのよね……。金髪の皇帝って燃えるわ……」

「私も黒髪黒目の子がお気に入りなんだけど、お気に入りは二人までって決めているの。英雄隼人ともう一人で埋まってるから、ごめんなさいね」

「いえいえ、俺も恋人達がとても凄く何よりも大切なのでお気にせず……」

隼人やガルシアが好きって事は、きっとイケメンが好きなメンクイさんなんだろうな!

おそらく嫌がる相手に無理を強いる事はしないだろうが、今日ほどイケメンじゃなくて良かったと思う日もないだろう!

別に彼ら……彼女達の趣味嗜好を否定する気はないが、俺とは合わない事だけはご理解いただきたい!

「ああ、そういえばこのテーブルってココアのお気に入りの――」

「兄貴! こいつらでさあ! 兄貴達のテーブルを占拠してるんでさあ!」

「なーにー? 美人で巨乳なお姉さんや可愛らしい女の子を複数引き連れた羨ま、じゃなかった。けしからん奴ってのはお前かあああ! 成敗してくれ……る? あ、あれ? ミルクとココア……それと、アイナさん達? ウェンディさんと、シロさんも? ……っという事は?」

俺の後方。

そこから突然聞き覚えのある声が大音量で響き、おそらく人垣をかき分けた勢いのままに男である俺の頭を掴んでしまったのだろう。

そして、周囲の女性陣を見て見覚えがある事を思いだし、彼女達がここにいるという事はと、足りない頭を巡らせて答えに行きついたわけだ。

「あ、あ、あああ……兄貴ッスか?」

「…………おう。真」

振り向かなくてもわかるな。

そっと俺の頭から手を離させ、くるりと振り向けばそこにいるのはやはり真だ。

なんだか懐かしいな。その落ち着かない表情も。

「あわわわわ。あわわわわわ! 違うんです!」

「何がだよ……」

「これは、その……あの……違うんですよ!」

だから何がだよ。

面白いのでちょっと放置してみるか。

「あ、兄貴?」

「ばっ、おまっ! ふざけんな! この人は! この方はなあ! 俺の兄貴分であり、俺が最も尊敬する男の一人だぞ! 俺の愛の兄貴! 愛とはなんぞと教えてくれた大恩人! つまりはお前達の大兄貴なんだぞ!」

「「「「大兄貴!?」」」」

「いやもう大兄貴なんてもんじゃない! 超兄貴だ!」

「「「「超兄貴!?」」」」

どっちも意味わかんねえよ……。

大差ないだろそれ……。

「おいやめろ。なんで勝手に弟分が増えてんだよ」

「お、お前らやめろ! 兄貴の弟分は俺だけなんだ! 大兄貴とか超兄貴とか呼ぶんじゃない!」

「いやお前も認めてないし……。というかまずは久しぶり、だろ」

「おおおおおお、お久しぶりです!」

ガチガチに緊張しているのは俺が頭を掴まれた際に咄嗟に出した手元の薬品が気になるからか、それとも頭を掴んでしまいシロが睨みつけているからか……。

「……おう。久しぶり元気だったか?」

「はい! ……あ、はい!!」

「ん? なんで一瞬考えたんだ? っていうか、美香ちゃんと美沙ちゃんはどうした?」

真がいるのにあの二人が一緒じゃないのは不思議である。

いやまあ、別行動くらいするだろうが、なんとなく美沙ちゃんは大体真の周囲にいる気がしたのだが……。

「あー……そのー……二人は今学園に通ってまして……」

「学園? なんで?」

「あ、学園って言っても専門学校みたいなもので、なんというかその……花嫁修業を学べる所でして、二人が興味があるそうで短期の間寮住まいで通うことになりまして……」

ほぉーう。

そんな学園もあるんだな。

ウェンディが興味ありそうな表情を浮かべているのだが、俺の顔を見るとはっとして今度は悩みだしてしまい、最後はぷるぷると顔を振ってにこっと笑顔を浮かべてくれた。

可愛い。

「じゃあ、今は真一人なのか?」

「あ、いえ……臨時でパーティを組んでクエストに……」

「真ちゃーん。私達のパーティに臨時で入ってもいいのよ……」

「大歓迎しちゃうわ! 真ちゃんなら肉弾戦の秘儀を私が手取り足取り腰とり教えちゃうわよ!」

「ひっ……! お、俺は女の子が好きなんだよ! マッチョは興味ないんだよー!」

「やだもう。どこ見てるのよ……そんなに胸ばかり見られると、モスト・マスキュラーを取りたくなるじゃない……」

「あら、男の子って好きな相手に意地悪しちゃうのよね……。うふっ。大胸筋と括約筋が疼くわあ……」

「ひぃ!」

あー……ココアさんが好きな相手、隼人ともう一人との話だったが、どうやら真の事らしい。

なんというか、瞳が恋する乙女のそれで可愛らしい。

瞳が。

「しかし、臨時でパーティねえ……そういう事もあるのか」

「意外とあるわよ。期間が決まっている間だけ別のパーティに行くこととかね」

「私達はしないが、レンゲがロウカクでの仕事の為に一時的に抜けるような場合もあるからな」

「それに、組んでみて合う合わないもあるっすからねー。最初から最後までずっと同じパーティっていう方が珍しいっすよ」

なるほどなー。

まあ二人が花嫁修業でいないのなら真は暇なのだろうし、それで臨時パーティを組んで冒険者として仕事をしている感じなのだろう。

そういえば、その真のパーティは……。

「真お兄さ~ん? テ~ブルは……あれ? どうかしたんですか?」

「あ、そうだ兄貴! 俺の臨時のパーティメンバーを紹介します! 俺達と同じ流れ人の、 光(ひかり) ちゃんです! こっちは 忍宮一樹(しのみやいつき) さん。俺が良く話してる兄貴だよ」

そう言って真が俺の前に出してきたのは小柄な子だった。

黒い髪ではないが、茶色に染色したであろう明るめの肩まで伸びた髪と黒い瞳。

小さく華奢な体で、防具というよりは可愛いを重視したような服装で良く似合っている。

「えへへ。光ですぅ~。初めましてぇ。えっと……イツキお兄ちゃんって呼んでもいいですか?」

少し間延びした声を発し、薄い胸と小さな顔、まるで花の大妖精と言われても信じられそうな、可愛らしい流れ人だった。