軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-9 シュバルドベルツ帝国 師匠と弟子

さて、アインズヘイルでの習慣と言えば、戦闘訓練以外にもう一つある。

まあこちらは仕事であり危険物も扱うので、流石にシシリア様の館の一室を借りて行うのははばかられるだろう。

という事で、俺のスキル『 隔離された小世界(プライベートラウンジ) 』を使ってその中で行うことにした。

「師匠。どうかしら?」

師匠……少し前までは先生だった気がしたのだが、俺が臨時で講師をやってからはエリオダルトの弟子であるチェス同様、師匠と呼ぶようになったみたいだ。

まあ呼び方なんて特にこだわりはないので、自分が呼びやすいように呼んでくれればいいと思う。

俺もレインリヒは師匠呼びだしな。

「どれどれ。んんー……9割方ってところかな? ほらここ、時間が少し経つと搾り切れてないのが浮いてきた。もう少し搾れるはずだ」

「わかったわ。やってみる」

9割方搾れていればほぼほぼ成功するのだが、どうせなら少しでも確率は高い方が良いだろう。

ミゼラの腕も良くなってきており、レベル自体はまだ低いままだが、ポーション作成の成功率も上々になってきた。

まあ、俺としては仕事は別に帝国まで来てやらなくても良いと思うのだが、弟子のやる気を削ぐわけにはいかないのと、個人的に作っておきたいものがあったので付き合う事に。

「そういえばミゼラ。体調の方はどうなんだ?」

長旅はミゼラにはやはり辛かったのか、疲労が出てきてしまい体調を崩していた。

回復ポーションでは治らない類なので、俺がまた何か作ろうか? と言ったものの、休めば自然に治るから良いと断られてしまったのだが……もう仕事をして大丈夫なのだろうか?

「んんー……少し疲れは残っているけれど、心配される程じゃないわよ。でもやっぱり、私には遠出はきついわね……」

元々体力はあまりないミゼラを今回は危険もありそうなので連れてきたのだが、やはり長旅はきつそうだな……。

それに付け加えてミゼラは仕事をしっかりとこなしたいと思う勤勉で真面目な頑張り屋さん。

今もポーションを卸すことが出来ないからと、アインズヘイルに帰った際に沢山渡せるようにコツコツ作っておきたいという思いやりのある優しい子なのである。

「……やっぱりミゼラのポーションは値上げするべきだな。あいつら安いからとすぐに買い占めやがって。絶対全部消費してないだろ」

ミゼラのポーションが卸されるや否や『ミゼラちゃんを見守り隊』の連中が列を作ると、隊長らしき男が板切れを取り出し、それを並んでいる連中が持つ板切れと合わせているのを俺は見た。

……あいつら、ミゼラのポーションを買う際に揉め事が起こらぬように割符まで用意しているんだぜ。

怖いと同時に、まだ卸す前から誰が買うかが決まっていたら何時まで経ってもポーションは足りないままになるだろう。

……いっその事これからは俺が作った物と混ぜて卸して……って、それはただの嫌がらせだな。

それにあいつらならあらゆる手を駆使してどっちが作った物なのかを調べ上げそうな気が……いや、流石に考えすぎだろう。

「あら? それだったらポーションは売れた上に傷つく人が少ないのだから、どっちにも良い事じゃない?」

「それでミゼラが常に忙しい思いをしてるんだろ? 頑張っている人に頑張るな……なんて俺は言わないが、もう少し遊びがあっても良いと思うぞ? ポーション作りばかりってのも、華が無い気がするがなぁ……」

ここ最近……というか、ミゼラは俺らが用事を作らない限りは基本的にポーションばかり作っているからな。

期待に応えたいって気持ちを応援したくもあるし、せっかく覚えたスキルをもっと上手く使えるようになりたいって気持ちもわかるのだが、公私を分けるのは大事だと俺は思う。

……ガルシア程ではないにせよ、だ。

社畜になると、生きるために働くはずが働くために生きている……なんて事にいつの間にかなっていたりするからな……。

自由な時間や休みの日もぼーっとして終わったり、あっという間に時間が過ぎて行って……やめよう。思い出すのは良くない。

「ふふっ。いつかのシロと同じこと言ってる……。大丈夫よ。大変だけど、楽しんでいるもの。それにポーション作りばかりしている訳じゃないわ。ウェンディ様と料理を作ったり、アイナさん達と買い物に出かけたり、シロやポココと日向ぼっこをしながらお茶をしたりもしているのよ。全部かけがえのない大切で幸せな時間なの……。勿論、旦那様と錬金をする今の時間もね」

「……そっか。でも、オーバーワークだと判断したら無理にでも止めるからな。健康第一、仕事は二の次だ」

「はーい。気を付けます」

過保護なんだから、と小さくつぶやくも機嫌は良さそうに作った回復ポーションを瓶へと詰めるミゼラ。

優秀な弟子だね。俺も師匠としてやるべきことはやらないとなー。

「……ところで、師匠は何を作っているの?」

「これか? なんだと思う?」

「わからないから聞いているのだけれど……油と、レッドトンガ? それにガリオかしら? それと……粉にしたレッドトンガ? 他の香辛料はわからないけれど、料理でも作るの? 随分と刺激が強そうね……」

「料理と言えば料理だが、料理に使う調味料ってところかな。油に味を付けるんだ。ちょっと辛味と旨みのある油を作ろうかと思ってさ」

そう。

まあ、簡単に言うと辣油である。

餃子を作ろうかなと考えていたのだが、醤油はあれど辣油を持っていなかったのでせっかくなら自家製辣油でも作ろうかなとね。

「錬金で作るの?」

「まあ一部はな」

「……こういうのを才能の無駄遣いというのかしら」

「無駄遣いって酷いな……。ミゼラだって、美味しい物をもっと美味しく食べたいと思うだろう?」

「それは……そうだけれど。はぁ、凄腕の錬金術師なのにその技術を料理に使うのは勿体なく思ってしまうわよ……」

「はっはっは。まあ、俺が必要だと思ったものを作るのが俺だからな。世の中の為になる物を作るぞ! 文明に改革を! なんて、興味がないからなー」

アレが足りない、コレが食べたい、アレが欲しいという願望が俺の原動力だからな!

俺が使わない物を作ってもしょうがないのだよ。

「はぁ……こういう柔軟な発想が出来る人ほど大成するのかしら? 私も何か……って、考えている時点で固いのでしょうね」

「まあ、人それぞれだよ。さて……それじゃあ、俺も作り始めるかな」

ロクマ油……。

ロクマと呼ばれるゴマに似た小さい粒状の種子を絞った濃い琥珀色の油で香ばしい強い香りが特徴の……まあ、ゴマ油と相違ない。というか、ゴマ油だな。

それに普段から使っているオリブルの油を合わせてじっくりと温めていく。

まだ低い温度の内に半分に割ったレッドトンガを種ごと油に入れ、ロウカクで買った香辛料も少々入れて温めておく。

ガリオとジンジャールの香りや成分を錬金で抽出した水で、粉末のレッドトンガと少量のレッドパプリを梳いて混ぜたもの、更に炒っていないロクマを金属製のボウルに用意しておく。

油の温度が上がってくるのを確認し、少しだけ取って粉末のレッドトンガにかけるとシュワっと細かい泡が立ち、すぐに消えていくので、中の材料が焦げる前に取り出して残りを少しずつ粉末へとかけ入れていけば完成だ。

「……凄い良い匂いがするわね」

「あ、悪い。集中の妨げになったか?」

「手は止めていたから大丈夫よ。師匠が何をしているのかを見るのも弟子の役目でしょう? それより、錬金というよりは料理の作業ばかりなのね」

「まあ、錬金で出来る事と出来ない事があるって発見だな。この香ばしい香りは、ただ香りと成分を抽出しただけじゃあ出せないよな」

ああ、赤い色のついた辣油が美味そうだな。

これに味噌を入れて揚げたオニオルと、ガリオを砕いた物を底に沈め、味をさらに整えて瓶に入れれば食べる辣油もできるかな?

ああ……しかし、大豆があれば豆腐ができるのに。

麻婆豆腐で、汗をかきながらかきこんで、冷やしたラガーを飲みたかったな……。

「うう……真っ赤。見るからに辛そうね……」

「見た目ほどじゃないぞ? これと醤油を絡めてビネガーを少し入れて食べる餃子は美味いぞう」

「……楽しそうな顔してるわね。ギョウザ? は、わからないのだけれど、きっと美味しいんでしょうね」

「ああ! もちもちパリパリの生地に肉汁がじゅわっとしたタネと醤油と辣油のタレがマッチして美味いぞー! それに冷たいラガーや飲み物を合わせれば……くぅぅ! 早く味わいたいっ!」

「……何故かしら。ラガーもギョウザも食した事が無いのに旦那様の言葉だけで私も食べたくなってくるわ」

ごくんと唾を飲み込むミゼラにも、餃子とラガーの魅力は伝わったらしい。

願わくば餃子に合いそうなラガーを見つけられますように!

樽で買うよ樽で!

「ふっふっふー。一緒に作って食べようなー!」

「全く……子供みたいな顔して。ええ。勿論。その時はいろいろ教えてね」

勿論だっ!

チーズや海老の変わり種や、手羽で作る手羽餃子なんかもありだよな。

シロはきっと肉を沢山詰めすぎて、包めなくなるに違いない。

皆で作ってその場で焼いた方が楽しそうか?

よし。ならばホットプレートのようなものが必要だろう。

そうと決まれば、すぐに取り掛かるとするか。

「また何か作るの?」

「ああ。孤児院で作ったお好み焼きのプレートの小さいのが欲しいと思ってな」

「欲しいと思った物を作るのね。……勉強の為に見ててもいい?」

「勿論。分からないことがあればすぐに聞いてくれていいぞ」

「はい。よろしくお願いします」

辣油づくりをしていたのだが、なんだかんだ師と弟子らしい事も出来たのだった。