作品タイトル不明
11-6 シュバルドベルツ帝国 ガルシアという男
謁見も無事? に終わりを迎え、旅の疲れを癒すためにシシリア邸へ。
色々あって……まあ本当、色々あって疲れがたまっていたのかシシリアの大豪邸だとか、迎えに並ぶ人数の多さだとか驚きどころはたくさんあったにも拘らず、一番の印象はベッドの気持ちよさであった。
ちょっとだけ横になるつもりだったのだが、あっという間に眠ってしまい、いつの間にか爆睡。
朝が来たのか体を揺すられて起こされたと思ったら、何故か目の前にはシシリア様がいらっしゃった。
しかも、俺がシシリア様の両手を抑えて組み伏せ、押し倒す形での対面であった……。
「……目が覚めたか?」
「……えっと……はい。あの、これはどういう状況で……はっ! す、すみませんすぐにどきます!」
やばいやばいやばい。
シシリア様をベッドに押し倒すとかこれはまずい。
前回の失態は執事服を着るくらいでどうにかなったが、押し倒してはどんな罰があるのかわからない!
「大丈夫だ。何もされてはおらぬ。だが……まさか起こそうと思った我の腕を取り、流れるように押し倒してくるとはな……。お主は寝ていると強くなるのか? それとも、強さを隠していたのか?」
「隠せるほど強くないですよ……。ステータスも生産職向きで、シシリア様に敵う訳がないんですが……」
「そうか。しかし、ドキッとしたぞ? あんな話を聞いた後故、眠ったままのお主に我もウェンディ達のように嬌声を上げさせられるのかと覚悟したほどだ。それで……するのか?」
「しません……というか、なんで組み伏せられた側が手を掴んでいるんですか!? 手を離してください……誰かに見られたら大変な誤解が……っ!」
シシリア様が指を絡ませて掴んでくるせいで離れられず、未だ俺の下にシシリア様がいる。
しかもかなり強引に押し倒したのか、衣服が乱れておりこれが誰かに見られたら……っ!
「ふふ。それも一興ではあるが……面倒なことに弟からお主を呼んで欲しいと言われていてな。恐らくは昨日のアレの結果だと思う。早朝で済まないが、少し付き合ってくれるか?」
「ガルシア、様がですか?」
危な、呼び捨てにするところだった。
「ガルシアで構わんぞ。あのような無礼をしてしまったからな。むしろ蛙皇帝でも構わんくらいだ。くく、ボコボコにしても良いとは言ったが、まさか精神的にボコボコにするとは思わなんだ。そして、その後の処世術も見事であったぞ」
「処世術というか、ただの贈り物ですけどね……」
「その判断が瞬時に出来ることが素晴らしいのだ。んんー……やはり欲しいな……。どうだ? ガルシアの用事など放っておくか? 今なら我のこれも好きに出来るぞ……?」
これと言っても両手はふさがっているので示しようがないはずなのだが、上半身を揺らして同時に揺れる至宝さんの事だとは瞬時にわかる。
毎回毎回リーサルウェポンを餌にするのはどうなんですかね?
いい加減グラグラと揺れて腕の力を抜いて体を倒してダイブしてしまいそうなんですけども、って危ない危ない。
「……呼ばれているんでしょう? 早く行かなくちゃじゃないんですか?」
「むぅ……。仕方ない。まだまだ機会はあるだろうしな。最低でも、我の酒の誘いを断らぬくらいにはなってもらわねば」
「……お酒くらいなら付き合いますけどね」
「ほう。いつの間にか我も誑しておったか? ふっふっふ。我もお主に負けぬ誑しやもしれぬな」
「俺は誑しのつもりはないんですが……。それで、皆はもういるんですか?」
「いや。かなりの早朝故起こしてはおらぬが、護衛はほれ」
「ん」
シシリア様が目線で示す扉の方を見ると、そこには眠そうな顔のシロがいた。
目をこすりぼーっとしつつ、首を傾げ……
「……事後? 合意?」
「ただの起床だよ……」
こうして、眠そうなシロを膝の上に乗せて馬車に乗り、早朝から城へと馳せ参じると……。
「よく来た我が好敵手よ! さあさ近くに来るがよい!」
「……朝っぱらからテンションが高い」
「はっ! 好敵手は寧ろ低いな。朝こそ元気よく動かねば、一日を最高のパフォーマンスで発揮できんというものよ。しかし、いきなり気安いな? まあ良い。お前は余の好敵手であるからそれくらいでないとな!」
俺が部屋に入るなり手には何やら業務日誌のようなものを持ったまま駆け寄ってくるのは、昨日あんな事があり敵視されていたはずの皇帝ガルシアだ。
早朝という時間帯に早朝らしい眩しさで鬱陶しいとか思っちゃいけないけど、ついつい思ってしまう。
あれだ。オリゴールとは少し違ったベクトルの鬱陶しさだ。
「おっと姉上。おはようございます。今日は揉んでも?」
「駄目に決まっているだろう。どうしてお前は乳の前だとそう残念になるのだ?」
「仕方ありませぬ。でかい乳は全ての男を童心化させ、癒し、魅了するものですから……む? おい。この資料を作った者は誰だ? 初期段階で計算が狂っているぞ。今日中にやり直せと命じろ。で、だ好敵手よ!」
「朝早くから多忙なのにご機嫌だ……」
「それはもう! 好敵手のおかげで余は人生がさらに楽しく豊かになったぞ! 昨夜など三人を相手にしたが余裕がまだまだある! 政務もこの通り捗っておる! よし。……概ねこのままで良いが人員が少し気になるな。ここの予算を削り、人員を増やしておけ」
俺と会話をしながらも文官さんが持ってくる資料に目を通し、的確な指示を飛ばすガルシア。
おそらく政務なのだろうが、判断が早く指示を出すまでに時間をかける様子もないのは見事である。
しかし、他人の夜の房事の話など基本的に困る。
というか、弟の房事の話を聞かされる姉のシシリアはどうなのだろうとみると、大きくため息をついていた。
「朝も早いのに忙しそうだな……」
「うむ。余は皇帝であるからな。たびたび会話中に済まぬが、出来る時に済ませねばならんのだ。それに、こうでもせぬと時間が取れぬのだ。だが、自由な時間は基本的に妻たちと過ごす故、こんな形でも男に時間を使うなど滅多にないのだぞ」
「それはまた光栄で」
ガルシアにとっては男に向ける最大の賛辞なのだろうが、言われても嬉しくはない。
だが、奥さん達への愛情は本物のようで、愛した妻たちにはきっちりと愛を注ぎ込み幸せにすると豪語しただけの事はしているようだ。
「しかし、面白い物をとは言ったが、まさか龍の肝で作った精力増強薬とはまさしく度肝を抜かれたわ!」
そう。
俺が渡した贈答品は地龍の肝で作った精力増強薬である。
精力増強……というか、スタミナが増えるよ! って文献に書いてあったので飲んだらスタミナってそっちのスタミナかーい! ってオチだったのである。
……まあ、レインリヒから俺向けだと聞いてなんとなく予想はしていたのだけどな。
2本作っていたので本当なら隼人に……とも思ったのだが、まあ今レアガイアが逃げてカサンドラが追っているので、もしかしたらまた手に入るかもしれないしな。
今回で手に入らずとも、レアガイアならばお願いするとまたくれるだろうと判断してガルシアに渡す事にしたのだ。
『む……なんだこれはっ! これはまさか龍の……っ!』
『鑑定使えるのか。ならそれをやるから、効果を実感出来たら、ウェンディもアイナも諦めると約束しろよ』
『っ……いいだろう! コレを使っているのであれば余の懸念も払拭されよう。面白い献上品であれば褒美をやると余は言った! 余が満足すれば約束を守ろうではないか!』
といった一幕があり、
「余は大大大満足である! 約束通りあの二人については諦めよう。余の妻たちにより良い幸せを与えられるようになったのは余の私欲を曲げるに値する!」
「そうかい……ったく、はた迷惑な奴だよ……」
あ、なんか今の口調レインリヒっぽくないか?
やだもう、弟子は師匠に似るもんなのか?
俺がレインリヒのように……もまずいが、ミゼラがもし俺のようになったらどうしよう。
『はぁ……働きたくないわ。日がな一日ベッドで寝て不労所得で暮らしていきたいわ』
とか言い出したら泣こう。
泣いて懇願して弟子を解任して真っ当な道に戻してあげよう……。
それがきっと、師匠である俺の最後の役目にって、そうならないようにちゃんとしよう。うん。ちゃんとね。
「まあ、二人に手を出さないってんなら何でもいいけどな」
「はっはっはすまぬな! ハーレムの崩壊は多くが性生活に関わるものなのだ。好敵手は顔に覇気がなく、淡白そうに見えた割に女が多いのであまりに良い女故、余が救ってやろうと思ってな!」
すまないというくせに、人に覇気がないとか一切悪びれない上に勝手で恩着せがましい……。
あーいや、ガルシア基準で言う覇気は確かにないかもな。
「だが、余と同等に近い夜の英雄であるならば問題はない。でかい乳の女は夜も満たされ、幸せにせねばならぬ! 既に満たされ幸せであるというのなら、余が関与する必要も無かろう! これからも余と同様にでかい乳を揉んでいくと良い! ……む。おい、この件は前回修正草案を出したであろう? アレを基準にせよと言ったはずだが、担当は新人か? 新人でないのなら担当を替えよ。時間の無駄だ」
とのことで、忙しそうにしながらもアイナとウェンディに手を出す事は無いと宣言してくれたようだ。
悪い奴……かどうかの判断はまだつかないが、約束を破るようには思えないので、一先ずは安全であろう。
だが……。
「……でかい乳、すなわちおっぱいでなくとも満たして幸せにするものだろ……?」
この疑念に触れないわけにもいくまい。
昨日の態度のそれは、明らかにちっぱいに対して排他的というか、敵意があるようにさえ思えたからな。
「いかん。いかんぞ好敵手。性癖とは己が根幹である。食欲、睡眠欲、性欲は人の三大欲求だ。食事の好き嫌いや寝具の良し悪しがある以上、性癖も良し悪しがあるというものだ。己が性癖を定めておかねば、快適な生活は出来ぬというもの。中途半端はいかんぞ」
「どちらでも良い、ではなくちっぱいもおっぱいもどちらも好き、なんだけどな……盲目的なおっぱい信者め」
「おっぱい信者……。ところで、ちっぱいとは蔑称か?」
「敬称だよ……。なんでそこまで目の敵にしているんだよ……。なんか嫌なトラウマでもあるのか?」
「むう…………」
悩むように呟くと少し押し黙ってしまう皇帝ガルシア。
一瞬チラッと眠そうなシロを見て苦虫をつぶしたような顔をしたかと思えば顔を横に振り、目を瞑り呼吸を整えてからゆっくりと目を開ける。
「ふむ……確かに、余は好敵手の言い方をするとおっぱい信者であり、ちっぱいには何の興味もない。だが、興味がないだけでないがしろにするつもりもなかったが……」
「昨日のソルテやレンゲ達への態度を見るに、そうは取れなかったけどな」
「ああ。わかっている。昨日の態度については素直にすまないと謝罪しよう。いささか過敏であったと、余も振り返りそう思う」
……へ?
シロと俺に向かって頭を下げるガルシアに、俺は思わず口をぽかんと開けてしまう。
「……なんだその顔は。余が庶民には頭の下げられぬプライドだけは高い愚物だとでも思っていたのか?」
思ってましたけども……。
ほら、シロも眠そうだった瞳が驚いて目をぱちくりしてる。
ここにソルテがいないのが残念だが、いたらソルテにも頭を下げていたような物言いだ。
「言い訳になるが……少々こちらにも辟易とする理由があってな。だが、お前達には関係の無い事で八つ当たりをしてしまった事は事実である故謝った」
「はぁー……ほぉー……」
「だから何だその顔は。余も人である。優秀故に神童と呼ばれて育っては来たがそれでも人だ。公ならばともかく私であれば自分が悪いと思ったならば謝るのは、人として当然の事であろう」
「お、おう……」
なんだ? 地龍の薬にはこう、善い人風にさせるような効果も持ち合わせていたのではないかと疑うほどに意外過ぎて気持ちが悪い。
昨日見たこいつは10の内1ある非常識がピンポイントで浮き彫りになっていたのだろうか?
「そ、それでなんで八つ当たりなんか……」
「ふむ。そろそろのはずなのだが……」
『………に……うを…………せろー!』
「ん?」
「はぁ……やはり今日も来たか」
『貧乳に優遇を! 貧乳への補償を充実させろー!』
『Not巨乳! YES貧乳!!』
『巨乳などただの肉! 貧乳こそ洗練された美しさ!』
ガルシアの後ろに続いて窓の外を見てみると、何とも偏った主張をプラカードを持って主張する団体さんが、門兵へと肉薄している。
そんな彼女達の胸元は皆…………見事なまでのちっぱいであった。