作品タイトル不明
11-2 シュバルドベルツ帝国 カサンドラとシシリア
さて、今夜はゆっくりと宿で休息を……とはいかないらしい。
道中に大きな街はあったのだが、刺客が既に放たれていた場合は、街中で人込みの方が危険だからという理由で今夜は野営となったのだ。
なんというか、俺らのせいで皇帝の姉君であられるシシリア様に野営だなんて……と、申し訳なく思ったのだがシシリア様は気にしたそぶりを見せなかった。
むしろ、野営でテンションが上がったのか、俺の作ったチョクォとバニラを合わせたチョクォバニラを三杯ほどおかわりし、満足そうな笑みを浮かべるとすぐにアイリスに自慢。
その後は俺に『新作はわらわに先に食わさぬか! それに三杯もなぞずるいわっ!』と、アイリスから泣きそうな声で言われてしまった。
次はチョクォチップにする予定なので、そちらはアイリスに先に食べさせてあげよう。
で、そんな野営中の夜の事。
すっかり夜も更けた時間にふと目を覚まし、周囲を見回すと皆が寄り添って寝ている姿に少しほっこり。
だが、何やら外から甲高い金属音のような音が聞こえた気がした。
シロ曰く、野営中ならば寝ていても敵が近くに来れば絶対に気が付くと豪語するので敵ではないのだろう。
確か今の見張りはセレンさんだったはずなのだが……鍛錬でもしているのだろうかと顔を外に出してみると……。
「くっ……! やりおる!」
「うーん……邪魔だなあ……」
……。
目の前には細剣を腰に戻し、とある女性と対峙するシシリア様の姿。
そして、その傍らにはきゅーっと目を回しているセレンさんがいる。
で、その相対している相手なのだが……。
「はぁ……面倒くさいなあ……テントの中に用事があるだけなのに……」
こんな場所に似つかわしくないような、白いワンピースを着た褐色で金髪の女性が、気だるそうな眼差しで腕を鬱陶しそうに撫でていた。
見覚えのある大きなおっぱいのその持ち主は……カサンドラ?
え、なんでここにいるの? なんでシシリア様と戦っているの?
「その武器、かなりの業物みたいだけど私には傷をつけられないよ?」
「……そのようだな。まさかあの男以外に生身で正面から『 薄刃陽炎(ウスバカゲロウ) 』に耐える者がいるとは……。だが、我にも譲れぬ理由がある。一度交わした約束を、裏切るわけにはいくまい?」
「あー……気持ちはわかるね。じゃあ、悪いけど。ちょっとだけ本気で行くから……諦めないと死んじゃうかな?」
「いやいや。駄目だよ? 何してるのさカサンドラ……」
カサンドラが本気になったら流石にシシリア様だって無理だろう。
なんせ地龍だもん。
今現在の地龍の長だもん。
というか、なんでシシリア様とカサンドラが戦ってるの!?
「あ、盟友。良かった。無事だったんだね」
「無事って……そりゃあ無事だけど……」
「用事があったから会いに来たんだけど、盟友がどんどん西へ進むから心配していたんだよ。全くもう。勝手にどこかへ行かないでおくれよ。てっきり連れ去られたのかと、思わず助けにきてしまったじゃないか」
「ああ、心配してくれたのね。それはありがとうだけど……」
とりあえず、カサンドラに経緯を説明しこれから帝国へと向かう事を伝える。
その際に、シシリア様にもカサンドラは知り合いなのだと説明……。
「なるほど……知り合いだったからシロ達が目覚めなかったのか」
「まあ殺気も出していないしね。私も一応敵じゃない可能性を考慮して殺しはしなかったからね?」
「いやお前、最後の方面倒くさがってたじゃないか……」
「いやあ、傷はつかないけどチクチク痛いんだよ。それに、力加減が難しくてね……あ、そっちの子は叫び声を上げて五月蠅そうだったからうまく手加減したんだよ? 褒めてくれていいよ」
そっちの子ってセレンさんだろ?
おでこを赤く腫らしてシシリア様の膝の上でダウン中なんだが、手加減……? いや、地龍からしたら十分手加減なのか。
そういえば、以前も騒がしいのは嫌いだとか言ってたな。
再現なのか、中指を親指で止めて弾いて素振り……うん。デコピンだね。
でも結構離れているのにそのデコピンから風圧を感じて前髪が上がるんだけど、俺にそれやったら頭がはじける気がするから絶対やめてね。
「……それで。何者なのだ? 私の『 薄刃陽炎(ウスバカゲロウ) 』で薄皮一枚切れぬ奴など、真と呼ばれる冒険者くらいだと思ったのだがな……」
え、シシリア様って真知ってるの?
ああ、そういえばシシリア様も冒険者登録をしているみたいだし、もしかしたらあいつ帝国にも行ったことがあるのかもしれないな。
「私? 私は地龍の長、カサンドラ。盟友とは盟約で結ばれていて、盟友には私の加護を与えている善良な龍のお姉さんだよ」
「…………地龍?」
「そう。地龍」
どういうことだと目で語るシシリア様。
もうこうなってしまっては、経緯を語るしかあるまい……。
だが、かいつまんで話そう。
「ロウカクで、友達になった!」
「わかるか。きちんと話せ」
ですよね。
納得してくれたりはしないですよね……。
……しょうがないか。
「……なるほど。ロウカクでそのようなことが……」
きちんと話し終えたらシシリア様はごくりと喉を鳴らし、カサンドラの方を見るとカサンドラは俺が渡した魔力球を食べながら首を傾げて見せる。
「……もうこの地龍に頼んで公爵を殺してきてもらった方が早くないか?」
「うーん……盟友のピンチって言うならやってもいいんだけどね……。ただ、私達地龍はロウカクとは密接な関係があるし、相手が王族だと国際問題? なんて心配はあるかな。それと、龍種はあまり国同士の歴史に関与しちゃあいけないんだよね……。他の龍種の長に、怒られちゃうのは新参者としてはよろしくないんだよね……」
「あー……まあ、まだ大丈夫だよ。本当にピンチになったら助けてくれって言うかもしれないけどさ」
「うん。そうしてくれると助かるな。流石に盟友に死なれてしまうのは困るからね」
ロウカクの事や、カサンドラの言う龍種の盟約みたいなものもあるのだろう。
龍は盟約を守るもの……だもんな。
人は人の事情と理を、龍は龍の事情と理を持っているのは当然だろう。
「ふふ。盟友。あーん」
もうさっきの分は食べ終えたのか、新しい魔力球をおねだりしてくるのですぐに作って口元へ放り投げると、パクンと食べ、嬉しそうに頬を抑えるカサンドラ。
「……随分と懐いておるな」
「ん? うん。盟友は眺めてて、一緒にいて楽しい相手だからね。まだまだ興味は尽きないよ」
「はぁ……まさか、龍種まで誑すのか……」
「誑す? あははは。そうだね。私もだけど、母様と弟達も盟友に誑されてるかも」
「人聞きが悪い……これに釣られているだけだろう?」
もう一個作ってぽいっと投げると、シシリア様の方を向いていたのに超反応で確実に食べるカサンドラ。
少し大きめにしてしまったせいかもぎゅもぎゅと口を動かしてから飲み込むと、ふうとお腹を撫でるので満足してくれたみたいだ。
「母様……というと、地龍レアガイアか。世代交代をしたようだが、生きているのだな……」
「うん。母様は今ダイエット中だよ」
「ダイエット……地龍がダイエットか……。価値観が変わりそうな事実だが……目の前の龍の力は本物であると……。これは、ロウカクには手出しせぬよう弟に言わねばなるまいな」
「うん。その方が良いと思うよ。歴史に関与しないとは言ったけど、私の領域に踏みいるのなら容赦はしないからね」
「……ロウカクがとんでもない守護者を有しているという情報を手に入れられただけ良しとするか。しかし、地龍か……しかも、野良の龍ではなく正当な龍種の長と対面して生きていられるとは……」
「えっへん。流石に野良と一緒にはして欲しくないよね」
そういえば、龍って野良でもいるんだよな。
前にレインリヒが隼人に火龍の肝を取ってきてもらったって言っていたし、つまり地龍もカサンドラやレアガイア、ロッカス、ロックズ以外にもいるという事か。
「あ、そうだ。カサンドラは用事で来たって言ってなかったか?」
「ああ、そうだったそうだった。魔力球をいくつか貰っておきたいのと、母様が魔力球を持って脱走したからちょっと追いかけてくるねって。まあ、今の母様が逃げてもすぐに追いつくと思うけどね。でも、暫くはロウカクに来ても会えないよーって伝えようと思ってさ」
逃げちゃったかー……。
まあそろそろ限界だろうなとは思っていたけど、魔力球を持って逃げたって事は、今まで頑張ってきた分は全部ぱぁになりそうな……。
「さっさと捕まえて、罰を与えたらまた会いに来るよ。龍の素材はあればあるだけ盟友は喜んでくれるだろう?」
「お、おう……」
あ、これボコボコになるやつだ。
素材もはぎとる前提って事は、結構残酷なボコボコ具合だろう。
レアガイア……これに懲りたらもう逃げない方が絶対良いと思うぞ……。
「さて、用事も済んだし帰るとするかな。しかし、それにしても盟友……やっぱりこれが好きなんだね。魔力球も貰ったし、良かったら私のを揉みしだくかい?」
カサンドラは背中を見せつつ上体をひねり、自身のおっぱいを持ち上げながら俺を見る。
「なんでそうなるんだよ……。いや、好きだけどさ」
「いやあ。だって私の知らない女がいると思ったら、凄く大きいこれの持ち主だしさ。とはいえ、人間では身分の高い相手なのだろう? もし、揉みしだけずに欲求不満なら、私のをと思っただけだよ」
「欲求不満て……」
あれ? 俺カサンドラにまでそういう目で見られてるの?
まだそういう面はあまり見せていないはずなのに……龍の瞳にはどこまで見えてって、俺にだって理性くらいはあるのだが……。
「なーんてね。今日は時間もあまりないし、それは今度にするとしようか。それじゃあね盟友。良い夜を」
あ、爆弾発言だけ残して手をひらひらとさせて水泳の飛び込みのように地面へと潜っていきやがった。
どうしてくれるんだこの空気を!
シシリア様の方を向けないこの空気をどうしてくれ……る?
あれ? 腕に幸せな感覚がっ!
「欲求不満なのか?」
「いや、その……そういう訳じゃ……」
「そうか。では、わらわの欲求不満に付き合ってもらおう。あやつとの戦闘も中途半端に終わってしまったから火照ったままなのだ……。それに、お主とは朝まで時間を取りたいと思っておった所だ……」
なんですとう!?
いやでもそれは流石にまずいんじゃ!
それにほら! 見張りもいなきゃですし、俺じゃあ役に立たないまでも誰もいないのはって……あれ?
セレンさんが目を覚ましてる? しかも、私は何も見てませんって感じで顔を手で覆った上に背けていらっしゃる。
臣下の鑑か!
あっ! 力強い!
待って! もともと力の差が歴然で抵抗できないのだけど、俺の勝手な意思も相まって余計抵抗できないから!
もうテント入っちゃう! ベッドに倒されちゃう!
ちょ、お願いだから優しくして!!