作品タイトル不明
10-14 アインズヘイルで休息を メイラと二人……
相変わらずでっけえ家だな……。
ダーウィン邸の廊下を歩きながら調度品を見つつ使用人の後ろを歩いて行く。
「今日もダーウィンはいないのかな?」
「ええ。旦那様は本日も商売へと出ております。家にいることは少ないですね」
あまり家にいないのならこんなでかい家は必要ないのではなかろうか……。
それにしても商売……商売ねえ……。
ダーマやメイラは何を仕事にしているかは聞いているが、ダーウィンのメインの仕事はいったい何なのだろう……。
いや、深くは関わるまい。
巻き込まれる恐れが……否、あいつは面白がって絶対巻き込んでくるだろうからな。
「こちらでございます」
「ありがとう」
まあ、今日は元々ダーウィンには用事はないんだけどな。
恭しく頭を下げて案内された先は、一度来たこともあるメイラの執務室だ。
軽くノックをするも返事はないのだが、使用人さん曰くいつもの事なので入ってもかまわないらしい。
「メイラー? 入るぞー?」
声をかけつつ部屋へと入る。
すると、メイラが書類の山に囲まれていて頭を机につけ、手には書類を持ったまま停止していた……。
「おいメイラ!? 大丈夫か!?」
「……へぁっ!? ……あれ? 私は……何故貴方が……って、もう約束した時間ですの!? あっ! 駄目!」
俺が声をかけると目を覚ましたようだが、手に持った書類、俺の顔、外の明るさを見て慌ててしまい、山になっていた書類を倒してしまう。
「あああああ……。今日は従業員もおりませんのに……」
「だ、大丈夫か?」
「はぁ……ええ。大丈夫。いつもどおりですわ……」
そんなに悲痛な顔で言われてもまったく大丈夫に思えないのだが……本当に大丈夫なのだろうか?
「こちらからお呼び立てしておいて大変申し訳ないのですが、見てのとおり仕事がまだ終わっていないのです。それで、約束は後日にしてもらえないでしょうか……?」
しゅんっとした態度で落ち込みながら書類をかき集める為にしゃがみ、見上げる形で告げてくるメイラ。
おそらく、俺が来る前に終わらせようと思っていた仕事を寝落ちしてしまい終わらせられなかったのだろう。
「んんー……」
「ご足労をかけてしまって申し訳ございませんわ。後はこの書類だけなのですが、当分終わりそうもなく……。今度必ず、埋め合わせはさせていただきますから……」
「ああ、いやそれはいいんだが……。良かったら、手伝おうか?」
「え?」
書類は承認済みか否かの物が混じって散らばっている訳だし、これらを分けるだけでも一苦労だろう。
今日は普段働いている人達もいないようだし、俺との約束をキャンセルするってことは、今日終わらせなきゃいけない仕事なんだろうしな。
「まあ、できることなんて限られてるだろうけどさ。書類の整理くらいなら俺にもできると思うぞ」
「そんな、お客様である貴方にお願いできることではありませんわ」
「まあなんだ。ここで断られちゃうと暇になるしな。それに、困ってるんだろ?」
「それは……そうなのですけれど……。でも、貴方もお疲れなのではないですか?」
「俺はそうでもないよ。帰ってきたばかりだけど急いでやらないといけないのはヤーシスの分の仕事くらいだし、最近は冒険者ギルドの納品もミゼラのおかげで楽が出来ているしな」
最近は理想に少し近づいている気がするよ。
まあ、だからといってミゼラだけに働かせて自分だけ楽をしようだなんて考えはしないけどな。
だからと、書類をかき集めるメイラの脇に手を差し込み、持ち上げて、椅子へと座らせる。
「ひゃぁぁ!」
「だから、簡単な仕事なら指示してくれれば手伝うよ。でも、その前に……っと」
「え?」
俺は魔法空間から取り出した小さな桶とタオル、それと各種ハーブと花を取り出して床に置き、準備を始める。
水を桶に入れ、ハーブを浮かべて 魔力球(マジカルボール) (火)を数個浮かばせ、水を温めつつハーブの成分を染み出させる。
「あの、何をなさっているのですか?」
「疲れが目に出てるからな……。鏡で顔見たほうがいいぞ」
「鏡……? えっと……っ。……これは、殿方にお見せできるお顔ではございませんわね……」
「元が良いから尚更な……」
まあまずクマがひどいよな……。
相変わらず働き者というか働きすぎというか、ある程度は他人に仕事を任せてもいいと思うんだがね。
優秀すぎるっていうのも、考えものって事だろうか。
「嗚呼、肌もガサガサですわね……。化粧のノリが悪いわけですわ……」
「ってことで、これの出番ですよ。はい、目を瞑って」
「へ? ひゃぁ」
俺はメイラの顎をすくって上を向かせ、温めたハーブ湯につけたタオルを絞って目の上に乗せる。
「ああ……じんわりしますわ……」
「薬効ハーブと、薬体大草、その他薬草類を各種少量、生姜成分のジンジャールに、沈静効果の高いカモミールとラベンダーなんかもオイルを抽出して一滴だけ落としてるからな。それと……」
俺は小さな魔力球を調整して目のうえに置き、更に温めることで香りを強く立たせていく。
「しばらくそれで大人しくしてな。熱かったら言ってくれ」
「確かに気持ち良いですが、でも……」
「おっと、動いたら魔力球が落ちるからな? 動くなよ?」
「っ……」
「それじゃ、書類はこっちで分けとくぞ。終わったら呼ぶよ」
「……ええ、ありがとうございます」
さてと、あーあー……見事なまでにばらばらだな。
んんー? いやでも流石はメイラだな。
書類をよく見ると端の方に色がついており、効率化が図られているようだ。
「色別に分けて後は承認済みかどうかでわければいいかな?」
「ええ。それで構いませんわ。本当にありがとうございます」
「いいえー。眠れそうなら眠っちゃってもいいぞ?」
多少なり時間はかかりそうだしな。
来たときも寝ていたのだし、寝不足なんだろう。
リラックス効果も高いし、大人しくしていれば眠りそうなもんだが、メイラは抗っちゃいそうだからな。
「流石にそんな訳には……あ、いえ。そうですわね……。眠ってしまうかもしれませんわね。私、眠りは深い方ですからその間に何かなさっても気づかないかもしれませんわよ?」
「しないよ……」
「……しないんですの?」
「なんでそんな驚愕の事実みたいな言い方なのかな? しないっての」
俺を何だと思っているのだろうか……。
というか、体調が悪いくせに何を言っているんだこの子は……。
「せめてものお礼にと思いましたのに……。お好きでしょう?」
「好きだけども。体調悪いやつと何かしようとは思わないよ」
「あら、それは体調が治ったら構わない……ということですの?」
「はいはい。調子が出てきたのはわかったから、とりあえず大人しくしときなさい。この後俺が出来ない仕事はあるんだからな?」
俺が今やっていることは分別と整理なので、この後メイラはこの資料に目を通して判子なり、修正なりをしなければならないはずだ。
まあでも、半分……まではいかないまでも、ある程度は終わらせてあるみたいなので、今日中には終わるだろう。
「わかってますわ……。ただ、今日はせっかく貴方だけをお呼びたて致しましたし、お願いして二人きりで温泉でしっぽりと……と考えていましたの……。勿体無いですわね……」
「また今度行けばいいだろう?」
「貴方と二人きりの予定を作るのは苦労するのですわ。今日だって、他の方々が興味を引くものを用意して、その上で貴方をお誘いしたのですから……」
「あー……だからか。シロは食べ放題のお店、ウェンディとミゼラは特売があるとかで買い物、アイナ達は指名のクエスト依頼だとか言ってたな」
え、まさかその全部を何らかの形でメイラが関係しているのだろうか……。
「まあ、できる限りではありましたけどもね……。たまたま運がよかった……というのもありますの。でも、おかげで徹夜続きで結果はこれだなんて……お笑い種ですわよね」
「あー……本末転倒というか……。別に、俺だけを呼び出したら、俺一人で来るぞ?」
アインズヘイル内であれば、別に一人で動いても問題はないだろうしな。
なんか巷でトラブルメーカーだなんだと言われているそうだが、俺自体がトラブルをメイクした覚えなど全くないのだ。
「うふふ、実はその言葉が欲しかったんですのよ。口約束でも約束ですからね? 言質は取りましたわよ?」
「しおらしくしてたのはわざとか……。いいよそれくらい……。ほら、資料分け終わったぞ」
「あら、早かったですわね。こちらも大分疲れが取れましたわ……。肩の重みも少しは楽になりましたわ」
「そうか。じゃあ、早く終わらせて温泉行こうぜ」
「え!?」
「ん? 行くんだろ? 温泉」
「それは……いいんですの? 結構遅くなってしまいますわよ?」
「構わないよ。メイラと温泉も楽しそうだし、それに言ったろ? 今日は暇だって」
「……仕事の間、ずっと暇になってしまいますわよ?」
「まじめに働くメイラを見てたらあっという間だろうさ。それに、お茶くみや肩なんかの軽いマッサージならお任せを」
仰々しく肘を曲げて足を引き、ダンスのお願いでもするかのように頭を下げてみる。
擬似執事っぽくなっただろうか?
いや、俺の知り合った執事達はこんな動作していなかったから完全に偽者だな。
まあでも、祭りの時もそうだったけれどメイラはちょっと無理しすぎだ。
仕事なんてよっぽどではない限りある程度でいいと思う。
人生は仕事のために生きるのではなく、楽しいや嬉しいや好きを原動力として、娯楽のために生きるべきだ! と、俺は思う。
だから、温泉好きな同志として今日中に温泉に連れて行くのだ!
「貴方は……本当、そういうところですのよ?」
「ん? 何が?」
「わざとらしいですわね……。そういうところが、好ましいと言っているのですわ。……仕方ありませんわね。貴方にはサポートをさせてあげますわよ」
「あれ? いつの間にか俺がお願いしてる感じになってる?」
「あら? 私から主導権を取れると思っていたのですか? 私、借りを作るのはあまり好きではありませんの。だから……お礼は即日に温泉でしっかりと返しますわよ」
「おー……そいつはまた……わかった。楽しみにしてる」
「ええ。私、今日は貴方が満足するまで帰す気はありませんから、帰れなくなったと連絡するのなら、ここを出る際にしてくださいまし」
そうだな……。
早めに連絡を入れたら、誰かしら来ちゃうだろうしな……。
二人きりで……ってことだもんな。
約束は守らないとね。
「それでは、始めますわよ。まずは紅茶をお願いしますわね。砂糖はなしで、目が覚めるくらい渋くお願いしますわよ。ああ、肩でも胸でも好きなところを触って構いませんわ。集中したら、気がつきませんから」
「了解。邪魔にならない程度にしておくよ」
この後のメイラの集中力はさすがであった。
会話はなく、ただメイラが筆を動かす音と、書類が捨てられそれを俺が拾って分別するだけの音だけが執務室に響いていた。
ぬるめに作った紅茶の4杯目を飲みきった頃にはお月様が大分高い位置にある時間帯。
疲れきったメイラは椅子に倒れるように体を傾け、天井を見上げたので顔を出すと、「終わりましたわ……さあ、温泉に行きましょう」と微笑むのであった……。
翌日。
満足のいくお礼をいただいたのだが、メイラは流石にお休みだそうなので、豪邸のベッドへと寝かせて家へと帰る。
家に連絡は入れて貰っていたのだが……多分きっと、怒られはしないまでも察されはするんだろうなと思いながら、まあ仕方ないよねと欠伸をしつつ早めに寝られることを願うのだった……。