軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-28 砂の国ロウカク 龍の尻尾

レアガイアは荒れていた。

そりゃあ大事な鱗を砕かれた上にその相手も殺せず、さらには4人がまとわりつくように、砕けた鱗部分をしつこく目指して動き回られていればイラつきもするだろう。

現在レアガイアは地面を踏み鳴らし体を揺すり大きく動いていて手がつけられない程に暴れまわっている。

「うわっぷ、ぺっぺっ……ここまで砂が飛んでくるんだけど、あいつら大丈夫かな?」

「大丈夫……みたいですね。動きは先ほどよりは良いみたいです」

「そっか。……で、ウェンディさんはいつまで抱きついてるの? 暑くない?」

「ご主人様がもう飛び出さないように押さえているんです」

「いや、流石にもう無理だよ? 魔力も底を突きかけてるし、体もふらふらだし……」

今飛び出したらカサンドラのようにつんのめって受身も取れずに顔から見事に転ぶだろう。

正直、立ち上がる事すら億劫な状態なのだ。

「……冗談ですよ。私も久々に大きな魔法を使ったので少し疲れてしまったんです」

「なっ、は、早く言ってくれよ! 魔力回復ポーションか? 普通の回復ポーションかっ!? どっちのがいい!!?」

なんか違和感が……と思ったら、馬車でくっついたときはひんやりしていたのに今はしていない!

よく見ればウェンディも額に汗をかき辛いのを隠している顔をしているじゃないか。

何で気づかなかった俺!

またミゼラの時のように顔を殴るか。

いや、今は倒れたら流石に起き上がれそうもない。

「大丈夫ですよ。このまま少し休めば治りますから……」

「本当か? 無理はだめだぞ?」

「それをご主人様が言うんですか? まったくもう……」

そういうとウェンディは俺に頭を預け、リラックスするように目を閉じて休み始めるので、俺はそのままの体勢でウェンディの頭を撫でて労いつつ戦いを見守ることにした。

『チョウシニ ノルナ!』

淡々と言っているようで怒気の篭った声を上げるレアガイア。

「っぁ……鱗は剥げたのに、暴れすぎでしょ……近づけないじゃない」

「だが、大分動きが荒くなっているな。砂塵も怒りに任せて勢いだけの大雑把のようだし、希望が見えてきたぞ」

「っすね。とりあえず分散して目標散らして可能な人があの剥がれた所をぶっ叩いていくっすよ」

「ん。お腹すいてきた……」

「……そうね。晩御飯前には終わらせましょうか」

「ん。今日はドラゴンステーキ」

「え? レアガイア食べるんすか!?」

会話をしながらも戦いを続ける4人。

戦闘職ってやつは、疲労困憊な上にあの荒れ狂う暴風がごとく苛烈な攻撃の中で、悠長に話しているのだから本当に恐ろしい……。

「おや? 意外に余裕だねえ。でも悪いんだけど、母様は食べないでほしいな。弟達の尻尾ならかまわないよ。それと……ちょっとどいていてくれるかな?」

「むっ!?」「ちょ、誰っすか!?」

カサンドラがアイナとレンゲの襟をつかむとこちらへと投げてくる。

ふわっとした軌道で優しく投げたつもりなのだろうが、人をボールみたいに投げるんじゃない!

「は、裸のおん、おっぱ……!」

ソルテだけは襟がないので両手でほいっと投げたわけだが、ソルテ……お前こんな時でもそこを見るんだな。

って、……軌道はふんわりだけどこっちにまっすぐ飛んできてない!?

大きな体のソルテが俺の真上に……?

ぎりぎりだって言ったでしょ!

んんん! なんとか、なんとか捻り出せ魔力球ー!!

「あれ? 猫ちゃんちょっと避けないで欲しいんだけど……」

「ん。誰? 痴女? 副隊長……?」

「副隊長……って誰だい? ほら、おとなしく後ろに下がっててよ。巻き込んだら、盟友に恨まれちゃうからね」

「ん? んあー」

一度目は避けたシロだが疲労からか、カサンドラに首根っこを捕まれてこちらへと放り投げられる。

シロは空中でくるくると回転し、見事に砂を俺にかけずに目の前に着地すると両手を広げてポーズを取った後、首を傾げた。

「……ただいま?」

「おかえり。まあひとまず一杯飲んで休んでくれよ」

飛んできた皆に腰を下ろすように勧め、レアガイアの前に進むカサンドラを観戦しようと誘って、回復ポーション(大)を取り出して配っていく。

すると、シロが俺の前に立って後ろを向き、ウェンディが腕を離してシロへと場所を譲ってあげた。

「私は先ほどまでご主人様にくっついていましたから」

俺の視線に気づいたのか、ウェンディはそっと微笑んで皆に場所を譲るように身を引いていく。

「わーい。ご主人の横もらいっすー!」

「ではこちら側はいただこう」

「ん。シロは膝上」

「私は……あー……戻るのもめんどうね。服着なきゃだし……。よっかかっていいわよ」

両サイドに二人が座り、ソルテが背もたれになるように俺の後ろに回ったので、お言葉通り背もたれにさせてもらう事にした。

……ちょっと暑いが、ふわふわの毛が体を包み込むように優しく受け止めてくれる。

「あれは……さっきの龍?」

シロが回復ポーションを飲みつつ聞いてくるので、シロからは見えないだろうが頷いて答える。

「ああ。カサンドラだ。手を貸してくれるってさ」

「ほう……という事は地龍対地龍か……」

「よく味方になってくれたわね」

「そりゃあ俺の人徳――」

「ご主人様の濃厚なものでご満足していただいたら、お味方になってくれましたよ」

いや、あの……あってるけど違うよね?

ウェンディさん? 疲れているとはいえ説明っていうのは簡潔にすればいいってものじゃないのよ?

いやでもまさかこんな説明を真に受けるはずがないか。

うん。俺の信頼する愛してやまない皆がそんな訳ないだろう!

「ご主人……龍まで範囲内っすか……?」

「おい」

までってどういう意味だ。

「わ、私達が戦っている最中に何してたのよ! どうせおっぱいに誑かされたんでしょう!!」

「おい」

いいかソルテ。

おっぱいになったのは味方になってくれた後だ。

「ウェンディ! おっぱい同盟は私とじゃなかったのか!?」

「……よく考えてくださいアイナさん。三人なら他の勢力に大きく差をつけられるじゃないですか」

「ふむ……なるほど」

「おい」

なるほどって納得するの早くない?

カサンドラは一時的に味方になってくれただけだからね?

いや待て、しかし一考はしてみよう。

三人でこう……トライアングルを描くように囲われたらどうだろう……。

シシリア様も加わってサークルを描かれ四方全てがおっぱいだったりなんかしたら……俺は幸せすぎて死ぬかもしれない。

「主……シロもいつかおっぱいになるから待ってて!」

「…………ん、お、おう」

待て待て一度落ち着こう。危ない危ない。

しかし、どうしてこう俺の周りはおっぱいおっぱいと胸の大きさばかりを気にするのだろう。

そりゃあおっぱいは好きだ。

大きいおっぱいは大好きだ。

カサンドラのおっぱいはそりゃあもう間違いなく正真正銘の大きなおっぱいなのだが、おっぱいならなんでも良いというわけではない。

大きさは勿論だが、張り、艶、肌触り、重量、弾力や柔らかさ、向きに感度など様々な評価ポイントがあり、総合的に考えねばならないのである。

ちっぱいながらも総合的にはおっぱいよりも上の場合もあるというのに、皆おっぱいは大きければいいと思っていそうなのが不満である。

……カサンドラのおっぱいは見た目から推測するに相当な良おっぱいではあると思うが。

とはいえ大体――

「ん。レアガイアが止まった」

「ん、え、ああ……みたいだな」

おっと、おっぱい論に熱が入るところだった。

思わずぶつぶつと呟きなどしたら流石にドン引きされる可能性もあったからな。

俺はたまに思った事を口に出すみたいだし、危ない危ない。

「さて……」

どうやらレアガイアが止まったのはカサンドラが目の前に立ったからのようだ。

カサンドラがレアガイアの眼前で足を広げ腕を腰に当てて仁王立ちを見せる。

翻るローブが風で舞い上がったタイミングですかさずレンゲとアイナに目隠しされてしまう。

「やあ、母様。ご機嫌どう? って、斜めか。空腹な上に鱗まで壊されてるんだもの」

『カサンドラ……』

「あ、やっぱりこの姿でもわかるんだね。そうだよ。愛娘のカサンドラだよ」

『ナニシニ キタ』

「わからないのかな? これだけ力を貯めて、母様の前に立っているんだよ? 宣戦布告に決まっているだろう?」

『……マダ ハヤイ イズレ ユズル」

「それを決めるのは母様じゃないよ。……龍は力。母様と戦って得るからこそ意味があるんだ。譲られた長の座にはなんの意味も価値もないだろう?」

それに、と続けて掌を天に向け人差し指と親指だけを広げてレアガイアを指差し、挑発するように……。

「正直、今の母様なら楽勝だって思ってる」

『ズニ ノルナ!』

レアガイアが大きく前足を踏み込むと、そこから砂が尖ったまま凝固して棘のようになりカサンドラへと向かっていく。

あれも砂塵の操作と同じ要領なのだろうか?

硬化されている砂の棘がカサンドラへと襲うが……カサンドラは動じずにゆっくりとレアガイアへと向かっていった。

「……なにこの攻撃。今の私、最高の状態なんだよ? この程度とか舐めないでくれるかな? 全力で来なよ」

『……』

レアガイアはゆっくりと近づいてくるカサンドラに対して引き気味に首を構える。

すると、突然前に踏み込んで反動をつけて首を振り、カサンドラのいた場所が一瞬で砂ごと噛み千切られた。

「カサンドラ!?」

砂の上にカサンドラはいない。

つまり、食われたって事か!?

いや違う。レアガイアの口が完全に閉じきっておらず、砂が口から零れていっているのだ。

「……母様。衰えたね。最近硬いものも食べていないから、顎が弱くなったのかな……。ちゃんと地竜も食べないで姫巫女の魔力ばかり取って寝てばかりいるからこんなにも弱くなるんだよ……」

『グヌヌヌ!』

カサンドラはレアガイアの口先にいて、片手で上顎を支えて噛まれずに済んだようだ。

というか……。

「すげえな……これならいけるんじゃないか?」

カサンドラは言動を見ても大分余裕なようだし、このままいけば地龍の撃退ができる。

さらに、カサンドラが長になれば盟約は破棄してくれるだろう。

もしかしたら、大量発生する地竜についてもうまく話をつけられるかもしれない。

「むぅ……」

「ん? どうしたシロ。不満そうな顔して……」

「主。お腹すいた。お肉焼いて」

「腹減ったって……まあ 被装纏衣(ヒソウテンイ) 使ったんだからそうだよな……。 でも今すぐか?」

「ん。今。今食べたい」

「いいけど……手の込んだものは無理だぞ?」

あっちはなんだかシリアスな感じなのだが、こっちはBBQをしてもよいのだろうか……。

というか、焼くとすれば先ほど手に入れた地龍の尻尾になるんだけど……親子で争っている最中に別の子供の肉を食べるって怒られないかな?

でもシロは頑張ったからお腹が減っているのだし、今と言ってじっと期待した目で見てくるので焼くとしよう。

味付けは……やはりシンプルに塩コショウが一番か。

「主君。火なら私が出すぞ」

「ああ、ありがとう。頼めるか?」

龍のテール肉をシロに大きさを指示して切り取ってもらい、アイナに火を貰ってフライパンの上に乗せる。

地竜は硬すぎて食えたもんじゃなかったが……こいつは生肉の段階で既に美味いとわかる良い肉だ。

テール肉は普通味は濃厚でコラーゲンが豊富。

見た目は霜降りのようで柔らかそうなのだが、筋張っていて硬い……はずなのだが、何だこの肉……。

塩と胡椒を揉みこんで火を入れるとコラーゲンが溶け出して中央の骨に寄るように身が引き締まって行くのだが、トングで返そうとしたらずぶりと先っぽが入ってしまい、身が裂けそうなほどに柔らかい。

コラーゲンが溶けて完全な赤身肉へと変貌を遂げ、溶け出したコラーゲンは焦げる前に再度肉に吸い込まれるようになじんでいくのだが、熱され泡を立てるその際の匂いに思わず涎があふれ出してくる。

「主! 主! もう焼けた?」

「もう少しだよ。……龍肉ってレアでもいけるのかな?」

「龍に取り付く寄生虫はいない! 生でもいける!」

待ちきれないのかシロも涎を垂らし、落ち着かない様子でじっとフライパンの中の肉に目を向ける。

というか、アイナやレンゲ、クドゥロさんやコレン様までもが目の前の戦闘をそっちのけでじいっと視線を向けているのだが、この香りを嗅げば気持ちはわかる。

「ご主人様。私もお手伝いします」

「ああ。その方がいいみたいだ」

シロだけ……という訳にもいかないだろうし、同時にウェンディにも焼いてもらうことにする。

そして……出来上がったドラゴンテールステーキを皿の上に乗せるとまずシロへと出してやった。

「んんー……良い香り!」

「だな。さあ、食べていいぞ」

「ん。……でも、まずは主が先」

「いいのか?」

「ん!」

シロが涎を垂らしながら目の前に肉を差し出すので、早くしてやろうと迷わずにかぶりつく。

その瞬間、皆がごくりと口内に溜まった唾液を飲み込むのがわかった。

歯を立てた先から噛み千切るというよりは肉が勝手に裂けていくほど柔らかいが、中から肉汁はそこまで溢れてこない。

だが、口の中ではしっかりと肉の噛み応えがあり、噛めば噛むほど旨みが中から肉汁となって溢れ出してくる。

犬歯を使えば肉が裂け、臼歯を使えば肉汁という旨みが飛び出してくる。

おそらく潰す力には強く、裂く力には弱くなっているのだろう。

まさしく、食べるためにあるようなものだ。

塩と胡椒のシンプルな味付けが旨みの主役とはならない程に肉の味を鮮明に、濃厚に舌に伝え、意識せずに細かくなっていった肉を喉が勝手に飲み込んでしまった。

「ほわぁ……」

思わず感嘆のため息を漏らした。

一口の満足感が半端じゃない。

最早小さく噛み砕いたはずが、いまだに腹の中にずっしりと食べた大きさ以上の存在感を残しているようだ。

「美味い……」

感じたものは数多くあれど、言葉にするにはただこの一言に尽きるような味だった。

「ん! シロも食べる!」

「こちらもすぐに焼きあがりますから、皆様はこちらをどうぞ」

ウェンディがそういうと皆がぞろっとそちらへと寄っていく。

俺は新たにもう一枚焼きながら、シロの方を見るとナイフで骨を刺して持ち上げ、横から大きな口をあけて噛み裂き、口いっぱいに肉を頬張っていた。

「あーあー……そんなに欲張ると噛めないぞ?」

「んん……んんんん……っ!」

目を輝かせ、嬉しそうに咀嚼するシロが膨らんでいる頬を押さえて身悶える。

そうだよな。地竜は美味しくなかったから残念がっていたんだもんな。

やがてまん丸になっていた顔が普通に戻って行くとぱあっと花開くような笑顔で口を開けた。

「美味しい! 魔力も濃厚で、味が濃い! 噛めば噛むほどどんどん美味しくなる!」

「魔力もって、ああだからか」

肉を食べると俺の魔力の回復が上がった気がしたのだが、気のせいじゃなかったようだ。

おそらく地龍が溜め込んだ魔力が尻尾にまで蓄えられていたのだろう。

もしかしたらあのコラーゲン部分が魔力と融合していたのかもしれないな。

「これは……美味いな……」

「長い人生で、龍肉を食べるなど初めての経験ですな……」

「龍肉なんて滅多に食べられるもんじゃないっすからね!」

「ああ……手でなんてはしたないですが……これは仕方ありませんよね」

「ええ。私も失礼して……んんっ」

あちらも実食が始まったらしい。

それぞれが皆顔を綻ばせて肉を食らい、恍惚とした表情を浮かべていた。

「ソルテはこっちな。ほい出来上がりっと」

「ありがとう主様! 放り投げてくれればいいわよ」

狼状態のソルテは皿やフライパンにサイズが合わないので、言われたとおり肉を放るとパクンと肉に噛み付いた。

「熱っ! はふっ……はっ、あ、んん、はふ……あふぅ……」

当たり前だが焼きたてなので熱そうにしていたが、やがて皆と同じようにたっぷりと吟味し、目を閉じて美味そうに咀嚼を繰り返していく。

そして、ゴギギと骨を砕く音が聞こえた。

「あ、これ骨の中も美味しいわ! その骨でスープを作ってもいいかも」

「なら、骨は回収して後でそうさせてもらうか」

余すところなく、この美味しい食材を頂こう。

こうして、俺たちは地龍親子の戦いを傍にドラゴンテールステーキを堪能したのだった。