軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-22 砂の国ロウカク 護りたいもの

城を出て、用意されたデザートパラサウロに乗ってロウカクを離れていく俺達。

レンゲが御者をし、ロウカクから大回りに王国を目指していた。

「いやあー……結局最後はどたばただったっすねえ」

「そうだな……」

「まあでも、これくらい離れたらもう安全っすよ! この子も元気いっぱいっすし、とっとと帰るっすよー!」

城を出る前はあんなにも慌てて取り乱していたというのに、明らかにテンションのおかしいレンゲ。

城を出てすぐは口を噤んでいたのだが、少ししたらこの調子になっていた。

「それでー? 結局ご主人はコレンに何したんすかー?」

「……別に、普通にマッサージとグルーミングだよ」

「本当っすかー? もっとエロエロな事したんじゃないんすかー?」

「……」

はぁ……やめろよその顔。

見ていて痛々しいんだよ。

なんで、そんなに無理して笑顔作ってんだよ……。

後ろを振り向けばレンゲの事を心配そうに見つめる4人の姿。

皆も俺と同じ想いを抱いているようで、表情からそれが簡単に伝わってくる。

うん。……わかってる。俺が言うよ。

「で……いいのかよ?」

「何がっすかー?」

「何がって……」

わかってんだろう。

今ここで、いいのか? なんて聞く理由なんて一つしかないだろうが。

俺が真剣な眼差しでレンゲを見つめると、最初ははぐらかした様に笑うレンゲだったが、すぐに効かないとわかったのか笑顔を消してしまう。

「……いいんすよ。自分はもう、この国の者じゃないっすし……。二人がせっかく逃がしてくれたんすから、今のうちに逃げるっすよ」

「……お前がそれでいいんなら、いいんだけどな」

俺はレンゲの隣で一緒に砂漠の先を見る。

振り向けど、荷台の後ろからはもうロウカクの街すら見えなくなっていた。

「なんすか、その言い方……」

「いや。別に……。それで、ロウカクはどうするんだろうな」

「……盟約に従うだけっすよ。それで……民は助かると思うっす」

「また盟約か……って民は?」

「そうっす……。本来なら……姫巫女が生贄になって終わりなんすよ……。でも、自分は……」

「ちょっと待て。どういうことだ?」

姫巫女が生贄って……。

何をさも当然のように言ってるんだこいつは。

「地龍の目的は食事っす。姫巫女の濃厚な魔力を味わいに来たんすよ。……姫巫女の役割は地竜の討伐と、地龍への生贄。でも、当然姫巫女がいない時期もあるっすからね……そういう時は、盟約に従い王が代わりを勤めるんすよ」

ぶわっと鳥肌が立ち、目が見開く。

ちょっと待て、それだとコレン様が……。

「おそらく、話し合いは次の王の用意っすね……。こういう時は分家の従姉妹が多分なると思うっす。あんまり会った覚えはないっすけど……まあ、あそこの家系は真面目っすし、問題はないと思うっすよ。後は……一応民の安全の為に一旦街から離れさせるくらいっすかね」

「そういう問題じゃねえだろうが」

コレン様が死ぬって事だぞ?

何悠長に次の王の話なんざしてんだよ。

「それでいいのかよ……」

「…………いい訳ないじゃないっすか。自分が……自分のせいでコレンは王になったんすよ! もし逆なら、今頃コレンは自由で……」

悲痛な顔で叫ぶレンゲの声に、デザートパラサウロも驚き動きを止めてしまう。

なんとも心配そうな顔をこちらへと向けていた。

「その話は聞いたよ。コレン様は、お前を命の危険にさらしてしまったって悩んでた。こんな未来が起こるだなんて誰にもわからないんだからそこはお互い様だろう。その上でどうしたいんだって聞いてるんだよ」

「どうしたいって……助けたいに決まってるじゃないっすか!」

レンゲが押さえ込んでいた感情を爆発させるように叫ぶ。

瞳には涙を溜めて、大きく顔を歪めながらも俺の顔を真っ直ぐに見つめていた。

「なら、どうしてそれを言わないんだよ?」

「言える訳ないじゃないっすか! 自分は今ご主人のものなんすよ! 自分が助けに行くって言ったら……」

「当然。俺も行くわな」

「そんな事認められるわけないじゃないっすか! それにそうなったら……」

「勿論。主君が行くのならば私達も行くわけだ」

「っ……それが、それがわかっているから……」

苦悶の表情を浮かべるレンゲは、ずっと感情を押し殺して無理矢理にでも笑い、ロウカクを後にしていたのだろう。

頭の中でどうすればいいのか考えて考えて、どれだけ考えても解決策が見当たらず、コレン様とクドゥロさんの想いに応える事にしたのだろう。

「そりゃあ地龍だもんな。相当危険だろうさ……。で、どうするんだよ?」

「だから、どうするって……」

「助けたいんだろう? 当然、お前が代わりに犠牲になる……って選択肢はなしだぞ」

「何を、何を……言ってるんすか?」

「はぁ……全部言わなきゃわかんねえか……。このまま逃げて憂いを残して生きていくのか、地龍ぶっ倒して気分よく生きていくのかって話だろ?」

「なっ……」

レンゲは俺が言った事が理解出来なかったのか、口を開けて驚いたまま固まってしまう。

「ま、そうなるわよね」

「そうだな。それが一番理想だろう」

「ん。シロは主についていく」

「はぁ……また危ない事をするつもりなのですね……もう」

「悪いなウェンディ」

「いいえ。かまいませんよ。私も当然、ついて行きますからね」

本当は……と言いたい所だが、俺もわがままを言うわけだし、言いっこなしだろう。

「み、皆何を言ってるんすか? わかってるんすか!? 相手は地龍っすよ!? ただの魔物じゃないんすよ!? 世界でも最強種である龍種なんすよ!?」

「そうだな……実は俺、地下でレアガイアじゃないが地龍は見てるんだよ。すげえおっかないのな」

「なっ……そ、それなら、どれだけ無茶を言ってるかわかるじゃないっすか!」

「まあな……正直、あれに普通にやって勝てるとか思えないよな……。でも、もしかしたら地龍が目覚めたってのも俺のせいかもしれないし、世の中通さなきゃいけない無茶もあんだろう。……その顔、今後もずっとしていくつもりか?」

まあ、俺のせいって線は薄いと思うけどな。

レアガイアとカサンドラじゃあ名前が違うし。

どちらかと言えば地竜の大量発生の方が怪しいと思う上に、俺が落ちる前にカサンドラは起きていたみたいだからな。

とはいえ、なんらかの関係くらいはありそうだとは思う。

それに、レンゲのさっきまでの笑顔は酷いものだった。

酷いを通り越して苦しかった。

このままアインズヘイルに戻ったら、もう二度と普段のレンゲの笑顔は見られないだろう。

もしかしたら他の誰かには気付かれずに過ごせるのかもしれないけれど、俺達には辛くしか映らなくなってしまう。

そんなのは、ごめんだからな……。

「普通じゃって……じゃあ何か……勝算でもあるんすか?」

「んんーそうだな……手は尽くすか。隼人は………………駄目だ。出ねえな。アイナ、真のほうはどうだ?」

「こちらも……だな。おそらく、どちらもダンジョン内にいるのだろう。まあ、私達の無茶につき合わせるのも忍びないし、仕方ない」

今回は隼人がいるからとかではなく、俺達の個人的な意地だしな。

そりゃあ、いたら助かるし、隼人なら即断でありとあらゆる約束をキャンセルしてでも助けに来てくれるだろうけど、相当危険な事に巻き込む訳だしな……。

連絡が取れないなら仕方ないさ。

「ってことで、勝算なんてねえよ。でも……それが諦める理由にはならねえだろう」

「なんで……。なんで皆もご主人を止めないんすか……」

「そうねえ……鬱陶しいくらい明るいあんたの笑顔が見られなくなるのは、物足りないもの」

「ああ。それに、私達は仲間だ。仲間の身内のピンチとあらば、有無を言わずに手を貸すさ」

「主はシロが守る。……ついでに、皆も守る」

「皆さんが無茶をしすぎないように、見張る役目も必要ですよね」

「って訳だ。もう一回聞くぞ? どうしたい?」

俺は笑顔を浮かべ、レンゲに手を差し伸べて待つ。

「……皆、馬鹿じゃないんすか……。絶対死ぬっすよ……」

「馬鹿はお前だレンゲ。初めから死ぬ為に行くわけねえだろう。これからも楽しく生きるために行くんだよ」

素直に笑えないなんざ生きてはいるが、死んでないだけだろうよ。

そんな人生はつまらない。

つまらない人生をレンゲが、俺達がおくるだなんて、認めない。

これからも笑顔ではしゃぐお前と一緒にいたいんだよ。

「さあ、あとはレンゲの気持ちだけだぞ」

俺達の考えはすべて伝えた。

その上で、最後はレンゲからレンゲの本当の想いを聞きたかった。

皆一様に、レンゲを見つめる。

その瞳には、一切の迷いも恐怖すらも宿らずに。

「うぅ……っぁ……ひっぐ……ぁ、だすけ……たいっす……コレンも、皆も助けだいっす……。助けに……行きたいっす……」

レンゲは何度拭っても止まらない涙を流しつつしっかりと、俺達に届くように自分の気持ちを話してくれた。

だから――。

「おう。んじゃあ、行くか」

「あ゛いっす……」

レンゲは俺の手を取ってくれた。

目を真っ赤にして、ボロボロの顔で子供のように泣きじゃくりながら手を取ってくれた。

「ええ。行きましょうか」

「地龍か……全力で臨まねばならんな」

「ん。軍はシロがボコボコにしたから役に立たない。その責任くらいは取る。……あと地龍は美味しいと期待する」

「龍種も食べるんですね……」

「それじゃあデザートパラサウロ。転進だ。頼むぞ」

そういうとデザートパラサウロはどこか嬉しそうな鳴き声を上げ、元来た道を走り出していく。

おいおい大丈夫か? と思えるほど、全力疾走だ。

レンゲはまだ涙を流しながら真っ直ぐにロウカクの方を見つめていたが、俺が微笑みつつ見つめているのに気づいたのか視線が合うと一生懸命に瞼をこすり、必死に笑顔を作って見せてくれる。

そう。その顔が見たかったんだよ。

これからも見続けたいんだよ。

無理無茶無謀とは無縁で生きていきたいが、お前のためなら押し通してみせるさ。

……護るよ。必ず。その笑顔を。