軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-17 砂の国ロウカク 就寝中はご用心

充てがわれた部屋は一人部屋……。

どう考えても鋭敏な俺の危険センサーがウーウーと大音量で鳴り響いていたので仕方なく宿を取ろうと街に出た。

だが、悉く宿屋は満員御礼状態。

おそらくはコレン様とクドゥロさんが手を回したのだろうと、今の俺はすぐに察する事が出来た。

っていうか……本気すぎない?

だが俺だって馬鹿じゃあない。

一人部屋だが、二人で寝てはいけないという決まりは無いので、皆の勧めもあってレンゲには俺の部屋で一緒に寝てもらう事にしたのだ。

とはいえ警戒は最大に。

壁に仕掛けは無いな。

鍵は……スペアがあるだろうし、閉めても開けられてしまうか。

それならば何か重いもので抑えた方がいいかな?

いっそ錬金で新たに鍵を作り直すか?

……窓からの侵入もありえるな。

それと可能性としてはやはり意識混濁系の薬物、それかアルティメットナイト程ではないにせよ、それに類する精力系の薬だろうか。

客観的に見て、俺はコレン様よりも弱いだろう。

接近されれば無理やり飲まされる恐れもあるか……。

ガス系……となると、 不可視の牢獄(インビジブルジェイル) で酸素が吸えることを考えると防ぎきれるか微妙なところだな……。

それに、防げたとしても寝ながら張り続けられるかどうかが不安だな……。

……物騒な考えだと思わなくも無いが、 あの(・・) 女王様の何かしそうな微笑を見たら十分ありえそうなんだよな。

よし、万能薬はいつでも飲める準備をしておこう。

「ご主人なんか怖い顔してるっすよ?」

「……ご機嫌だね君は」

あんな事があってあれだけ落ち込んでいたのに、まるで何も無かったかのように陽気で元気で、胡坐を組んで、ん? なんて首を傾げつつコロっとした笑みである。

まあ、レンゲは元気なほうが似合うし、俺も見ているだけで元気が貰えるから落ち込んだままよりはずっといいけどさ。

「だってなんかよくわからないっすけど、皆がご主人と部屋を二人きりにしてくれたんすよ? こんな降って湧いたチャンス、ご機嫌になるに決まってるじゃないっすかー!」

「…………え、覚えてないのか?」

「何がっすか? そういえば、晩餐会の途中から記憶がないような……まあ、忘れるって事はどうでもいいってことっすよ!」

レンゲ……お前、記憶がっ……。

くっ……だが、今日は約束どおりお前を抱きしめて寝るよ……。

「さ、ご主人。今日も疲れたっすし、早く寝るっすよー。なにかあったら自分が守るっすから安心するっす!」

「ああ。そうだな。そうしよう……」

「わわわ、なんすか? するんすか!? せっかくの二人きりっすし、もっと皆が寝静まった頃の方が……って、抱きついて寝るだけっすか?」

ああ。そう約束したんだよお前と。

だから抱きしめて寝るよ……。

「んふふふ。ちょっと苦しいっすようご主人」

「ああ、悪い。大丈夫か?」

ちょっと気持ちが入りすぎて力が篭ってしまったかもしれないな。

「大丈夫っす。ちょっとだけっすし、もっとぎゅっとしてもいいっすよ。ご主人に包まれながら寝たら気持ちよく眠れる気がするっすぅ」

今度は自分から抱きついてくるレンゲ。

ベッドは一人用で狭いので、くっついて寝ないと落ちてしまうからくっつくのは必然なのだが。

「ね、ご主人。なんか一人用のベッドで二人で寝るっていいっすね」

「狭くないか?」

「狭いのがいいんじゃないっすかぁ」

ぎゅうううっと、抱きしめる力を強くし、足を絡めて極限まで触れる面積を増やそうとくっついてくるレンゲが、うりうりと俺の胸板に顔をうずめて動く。

「すぅぅぅ……はぁぁぁ……ご主人の匂い、好きっす……」

息を鼻から吸い、口から吐くと同時に蕩けるんじゃないかというほど力を抜いてしまうレンゲ。

その後すぐにぎゅうっと抱きしめなおしている。

とはいえ、お風呂に入りはしたがあまりしっかりと嗅がれると恥ずかしく思ってしまう。

「あんま嗅ぐなよ」

「嫌っす。すぅぅ……はぁぁぁ……。やみつきっすもん……」

妹といい君達姉妹は匂いを嗅ぐのが好きなのかい?

まあ狼だし、鼻は良く利くんだろうけどさ。

「ふわああああ……。なんか、落ち着いたら眠くなってきたっす……」

「ああ、ふわあ……レンゲの欠伸がうつったな。それじゃあ、寝るか……」

二人して欠伸をして笑いつつおやすみと言い合い眠る事に。

まあなんだ。流石にレンゲがいる中で襲うという事は無……いや、逆にありえそうだな。

だけどまあ、レンゲがきっと何とかしてくれるだろう。

うん。姉妹でどうのと言っていたけど、冗談だと信じよう。

今は……眠い…………。

んん……なんだろ……なんかが腹の上でもぞもぞしてる……。

「……人、ご主人……」

「んん……どうした……」

空ろな目で呼ばれたほうを見ると、顔が近い……。

どうやら俺の顔の横に手をついて俺を見下ろしているようだ。

「ご主人……。今日はしないんすか?」

「ん……」

ささやく様な小さな声で、頬を少し染めて呟かれる。

女性にしないのか? と言われれば当然応えるのが男の矜持であり、義務であろう。

女性から誘うと言うのは、仮令慣れ勤しんだ恋仲だとしても勇気がいるものだと思うからな。

とはいえ、だ。

「しないよ……」

「えっ!?」

お断りデェス。

今日はもう寝るのデェェス。

……さっきまで、エリオダルトと実験をしていた夢を見ていたのでどうやらうつってしまった様だ。

飛行船のような何かを一緒に作り、空を飛ぼうと計画するロマン溢れる夢だった。

結構楽しかった……。

「ちょ、ちょっとぉ!? なんでっすか!? せっかく二人きりっすのに! 久しぶりのベッドっすよ!?」

「あーうるさい……。ふわぁぁ……夜も遅いんだから静かにしなさい」

俺は夢の続きを見るのだ。

これから空を飛ぶところだと言うのにいいところで起こしおって……。

そういえば、空を飛ぶ夢を見るのって欲求不満なんだっけ?

……この世界に来てから三大欲求はほとんど満たされているはずなんだがな。

「むむむ……じゃあいいっすもん。勝手にするっすもん!」

「あーこら。寝るんだから変なところ触るんじゃないの……」

「だって! ご主人が手を出してくれないからじゃないっすかー! 普段は好き勝手するくせに!」

「ふわあ……普段から好き勝手にはしてないよね。 コレン(・・・) 様には」

「……え?」

え? じゃないよ。

レンゲが誘ってきたのであれば、もちろん当然致すけれど、コレン様が相手じゃあするわけにはいかないというだけだ。

「な、何を言うんっすか? 自分はレンゲっすよ?」

「えー……まだ続けるの?」

ネタが割れているものほど退屈なものはない。

いやでも、演技だなと思いつつ見てみると逆に面白いのか?

うん。悔しそうに口を一文字に結んでいるコレン様は少し面白いかもしれない。

「…………なんでわかったのですか? 姿も声も話すクセも完璧なはずなのに……」

「どれだけ似ていても、愛した女を間違えるわけがないだろう……。ふわあ……わかったら、寝かせてくれ。ふっ……ああ、あー欠伸がとまらん……涙出てきた」

「っ……ぁ……」

レンゲに扮したコレン様は口を開けてぽかんとしてしまっている。

っていうか、ばれないと思ったのか?

いかにレンゲと顔や声がそっくりでも、致命的に違う部分があるのだよ……。

「それに……84と80じゃあ間違いようが無いだろう……」

「何のことですか?」

「いや、こっちの話……。それで、どういうつもりなんだ?」

「……お姉様の姿ならすぐにでも致していただけると思ったのですけどね……。ちょっと侮っていましたね」

そうだねえ。流石にそれは侮りすぎだね。

よく見てみると、よりいっそう違いがはっきりしてくるもん。

っていうか、尻尾の艶や肌触りも違うしな……。

なんというか、コレン様の尻尾は惜しい……。

後一歩で素晴らしい尻尾なのだがな……まぐわいはともかく、グルーミングさせてもらえないかな?

「じゃあいいです。開き直って率直に言いますけど、子作りをしましょう」

「おあいにく様。愛した女以外を抱く気はないんだなこれが」

「それなら、愛してくれていいですよ?」

「……コレン様が俺を愛してくれるなら、少し考えようかな」

「それは無理ですね……。私の愛は100%お姉様への物ですから」

だろうね。

まあ、それがわかっていたからそう言ったのだし。

それにコレン様がレンゲを姉妹愛以上に想う事自体を悪いとは言わないけれど、利用されてやるつもりは無い。

「そのお姉様はどこにいるんだ?」

「お姉様でしたらトイレに行かれた際に細工を少し……。今はおそらく爺と戦っているかと思われます。ですから、こちらにはしばらく来れませんよ?」

「細工って……」

「別にたいしたことではありません。ちょっと内側のドアノブを外し、別の出口を土の魔法で作っただけです。お姉さまは単じゅ、んん。まっすぐな性格なので、ドアを壊すよりもそちらを攻略に行くと踏んだのですよ」

今、最愛のお姉様の事を単純と言いそうにならなかったか?

……まあ、割と否定は出来ないが。

「さあ、これでしばらくは助けにも来られません。誰にも知られず、邪魔もされずに行えますよ?」

「女性に恥をかかせるようで悪いけど、それでも譲る気はないかな」

「仕方ないですね……。じゃあ、これを飲んでください」

「なっ……ん、ごくん……。やっぱり 薬(そっち) 系で来るか。悪いけど、毒物なら効かないぞ」

万能薬の用意もしてあるし、体に異常があり次第飲む準備は出来ている。

「いやですねえ。毒なわけないでしょう。そんな事したらお姉様に嫌われるどころではないじゃないですか……」

想像したのか自らの体を抱きしめて顔を青くするコレン様。

じゃあ一体何を……。

「晩餐会で、 熱毒蛇(ガラムスネーク) を食べたでしょう? あれは毒抜きした肉を食べると舌がぴりぴりするだけなのですけれど、 薬仙人掌(メディカルサボテン) を濃縮した丸薬と合わせると――」

ドクン――と、心臓が跳ねるように大きく一度鳴る。

「――性欲が急激に上昇するのですよね」

やばいなんだこれ。体が熱く、視界がぼやけるようにぼおっとしてしまう。

っ……早く万能薬を飲まないと……。

「あ、それ、毒でも薬でもないですから薬は効かないと思いますよ。むしろ、下手に薬と合わせると危険なので飲まず……御身体を、貴方の欲に委ねてくださいな……」

「ちょ……」

「わぁ、これが男の……。ちょっと怖いですけど、お姉様を虜にしたのであれば、興味も出てきますね……。どうです? お姉様程ではないですが、それなりに容姿は良いつもりです。貴方の欲を受け止める相手ならここに手頃なのがいますよ?」

「つ、ぁ……」

駄目だ、頭がぼーっとしてくる。

考える事を放棄して、この子の言うとおり欲に身を任せてしまいたくなる。

「っぅぅ………っ!」

「我慢なさらず……。好きにして、いいんですよ?」

ゆっくりと服を脱いでいき、扇情的に誘惑をしてくるコレン様。

これは、ちょっと、予想外にきつ――

ズドン!

と、鈍い音が響いた後吹き飛ばされた扉がすばらしい速さで反対側の壁にぶつかり、ごとりと音を立てて床に落ちた。

あの太もも……レンゲっ、来てくれ……へ?

「ふーっ……ふーっ……」

寒くもないのに白い息が可視化され、レンゲが荒々しく呼吸を漏らしていた。

だが、それよりもレンゲの体に赤いラインのような紋様が入っており、赤々と輝いているのが気になった。

「……なーにをしてるんすかね? コォォォレェェェンンン?」

月夜に照らされたレンゲの双眸が光り、妹であるコレンを見据えている。

赤く輝く紋様が光を増し、白く可視化した呼吸からは怒りの感情がうかがえた。

「よくも……」

「ひ……お、お姉さま? これは、違……」

「よくもご主人の前でチューしやがったっすねええええ! ごめんなさいじゃ済まさないっすよおおおおお!」

あ、そこ?

そこなの? そこに大激怒してたの?

っていうか、レンゲ……記憶が戻ったんだな。

よかった……で、いいのかな?