作品タイトル不明
8-16 アインズヘイル記念祭 二日目の3
「旦那様。そういえば休憩の時にお好み焼きの露店を見てきたのだけど、作っている子が汗を沢山かいていたのだけど……」
「ああミゼラも見てきたのか。魔力が足りなくて、冷風を出していないらしくてさ。今日の露店が終わり次第調整に行く予定だよ」
もう少し魔力の巡りを調整しないと、あれじゃあ倒れちまいそうだしな。
「その時は私も……」
「もちろん。勉強のためにミゼラにも付いてきてもらうからな」
「はい。わかりました。……ありがとう」
本当勉強熱心だねえ。
感心どころか俺も見習わなきゃだよ。
よし。わたあめ販売頑張るぞと!
「いらっしゃいま――」
「ふっふっふ。ずいぶんと楽しそうじゃな?」
「……した」
ご来店いただいたお客様はとても良い笑顔でした。
ええ、とても、貼り付けたような笑顔でございました。
頑張ると決めた矢先だが、店を閉めてお家に帰りたくなってきた。
「いやあまさかのう……お主が店を出しているとはのうー」
「と、とりあえず……中へお入りください……」
「うむ」
皆昼休憩を取り終わりアイナ達も着替えが完了すると、浴衣効果のおかげか客足が心なしか増えたんだけど……。
招かれざる……というか、招き忘れてしまったお客さんまでお呼びしてしまったようだ。
外で騒がれるよりは良いだろうと中に招き入れたのだが、どうしようか!!
「えっとな、アイリス……その、別に忘れていたわけじゃ……」
「ほぉー。そうかそうか。教会の者には話をしたというのにわらわには言わなかったのは忘れたわけではないのか。なるほどのう」
んんっ!
そうか。アイリスはよく教会に来ると聞いたし、テレサ達かこっちにくる予定の子達から聞いたのか。
「わらわは悲しい……。本当、悲しい……」
「いや、えっと……」
「ぐすっ……ひぐぅ……」
マジ泣きしていらっしゃる!?
「いや、本当ごめん! 忙しくて……その……ぽっかりと抜け落ちてました……!」
「そうやってお主はいつもわらわをないがしろにするのじゃ! わらわがどれだけ心を持っていかれていると思っておる……」
んんんーっ!
その発言はまずい! 誤解を生んでいるぞ!
わたあめを受け取ったご家族の親御さんが子供には見せられないと目線を遮ったぞ!
「目が覚めたらお主が迎えに来てくれると思っておった……。くすん。だが……わらわが訪れるまでそれも無かった……」
あ、ちょっと引かないで!
大丈夫だから! 健全なお店だから!
カップルの女の子はクズを見る目でこっちを見ないで!
男の方は彼女を抱きしめてお前とは違う!みたいな顔をしないで!
「だからわらわは来た……。お主(の甘味)を求めて……。お主(の甘味)を味わわねば、わらわはもう満足できぬのじゃ……」
違いますううう!
誤解なんですうううう!
だから、お子さんを大事そうに抱えないでください!
略した所もちゃんと伝えて!
言葉にしないと伝わらないことってあるんだよ!
「あの本当、ごめんなさいっ! とりあえず……わたあめを食べて落ち着きませんか?」
「うむ……食べる……」
まだべそをかきながらも椅子に座り、わたあめを受け取るアイリス。
俺はというと営業に差し障りがあると奥へと追いやられてしまいました……。
「甘い……」
「ごめんな? わざとじゃないんだよ……」
「……うむ。今回は許す……じゃが……新作が出来たときはこれからは頼むぞ?」
はぁぁ……うん。これからは新しい甘味を作るときはまず真っ先にアイリスに知らせよう。
俺も椅子に腰掛け、さっき失敗したわたあめを取りだして食べる。
すると、アイリスが椅子から降りて俺のひざの上へと座る。
「……わらわの特等席じゃ」
「おーい。シロが睨んでるぞ」
「今日は知らぬ。抱きかかえい」
「はいはい……あ。俺の方食べるなよ」
「知らぬ……。わらわ、超特急でお仕事終わらせて来たのじゃからもっと労え」
なんというか、声音がいじけていらっしゃる……。
そういえば忙しすぎて祭りには来れないって言ってたもんな。
よく見れば誤魔化されてはいるが目の下にクマが出来ている。
ったく……そこまで無理して甘味を食べたかったのか……。
「わらわは頑張った。だから撫でろ」
「はいはい」
「うむ……極楽じゃ……」
体を預けられ無言のままわたあめを食べるアイリス。
聞こえてくるのは祭りの音と、たまに指をちゅぱっと吸う音くらい。
「ほれ、これ飲んどけ」
「ん? なんじゃこれ」
「お薬。体熱いぞ。体調悪いんじゃないか?」
「……うむ。感謝する」
先ほどから抱きしめているアイリスの体は熱く、もしかしたら熱があるのかもしれないので、ミゼラにも渡した血流運栄薬を渡すとこくこくと飲み始めた。
「……薬なのに美味いのう」
「そりゃあ味にもこだわってるからな」
「無駄なところに力をいれておるのう……。わらわは甘くて好きじゃがな」
「それ砂糖使ってないんだぜ? すごくない?」
「そいつはすごいのう……。どうやったのじゃ?」
「ふっふっふ。秘訣は素材の甘さをどう引き出すかですよアイリス様」
どうやら機嫌は直ったらしい。
俺は蜂蜜や野菜の甘みを抽出してミゼラのときよりもさらに美味しさを追及した血流運栄薬の説明を続けると、アイリスは大人しくわたあめを食べながらも笑顔で聞いてくれるのだった。
「あの……ご主人様」
「ん、どうしたウェンディ」
「その……お客様が……」
「おや、アイリスではないか」
「ぬ……シシリアか。まだいたのか」
シシリア様がいらっしゃったのか!?
相変わらず素晴らしいおっぱいをお持ちですね!
「当然だろう。アインズヘイルで祭りがあると聞けば、滞在日数くらいは引き伸ばすさ。それに、貴方が店を出すと聞いたからな……楽しみにしていたよ」
しかも俺の視線に気づいたのか腕を組み、下からおっぱいを持ち上げてくれるサービスまで……流石です!
「ウェンディ放っておいてよいぞ。こやつは今わらわのご機嫌を取ることに手一杯じゃ」
「え、ですが……」
「ご機嫌を取らねばならぬなど……めんどうな主だな。どうだ? 我であれば、機嫌を取る必要もないぞ?」
ピシィッ、と空気にひびが入る音が聞こえた気がする。
さっきまでのムードが一変、緊張感があたりを包んでしまった。
「あわわわ。あわわわわわ」
セレンさんが目に見えて慌てているのが唯一の癒しかな……。
君の目指す凛々しさとは程遠いけど……。
「お? なんだいなんだい?」
あとオリゴール。いたのならさっさとどうにかしてくれ……お前領主だろ。
お祭りの主催者だろ。
「見てわからぬか? こやつはわらわの魅力にメロメロじゃぞ? 先ほどから股間を膨らませてわらわを誘惑しておるのじゃ」
してません!
俺の息子はそこまで節操がなくはありません!
ただし、事実はアイリスのスカートに隠されているのだが。
「ふむ……だが、その男の視線は我のこの胸に向かっているのだがな。その膨らみは、我の胸を見たからだろう」
……チガウヨ?
ホントダヨ?
「はっ……乳ババア」
「なんだ? ワガママロリ」
バチバチだ!
雰囲気に押されてか販売も止まってしまっているんだけど。
これを止められるのは……主催者のお前しかいないぞ!
さあ、オリゴール! お祭り成功のために領主らしいところを是非見せてくれ。
「へい! お二人さんちょっと待ってくれ」
お、よく言ったぞ。
そのまま頼む。
くれぐれも! かき乱してくれるなよ!
「はっはっは……お兄ちゃんはボクのものだぞ? 何勝手に二人で盛り上がっちゃってくれているのさ」
……おい。
予想通りの反応をするんじゃない。
ここはあえて俺の予想を裏切ってこそお前の株が上がるというものだぞ。
もっと裏切れ、俺を……っ!
「たかが領主風情は黙っておれ」
「そうだな。良いのか? 我の機嫌を損ねればあの話は無しになるかもしれんぞ?」
「はっ。お兄ちゃんは大事なアインズヘイルの領民だぜ? ボクが守り、ボクが愛するのは当然だろう! それにボクはもうお兄ちゃんの臨戦態勢までは見てるんだぞ!」
んんんんーっ!!
オリゴールサーン?
ちょっとお口チャックしよう?
温泉な? 温泉の時の話だよな?
三人が睨め付け合う一触即発の空気。
しかも原因は俺? になるのか?
というか俺は別に誰のものでもないから、解決法なんてないんだけど……。
「はぁ……お三方はなにをしているのですか? ご自分の立場と、周りの目をもう少し気にしてください」
この一触即発の空気の中、冷たい水をかけるような冷静な声を放つ救世主が現れる。
「アヤメか。遅かったのう」
「ええ。アイリス様がとても早く仕事を終わらせたので、関係各所に資料を回すのに手間取りました。護衛を置いて王都から出るとは……あまり心配をかけないでください」
「なに、手紙に教会の奴らと行くと書いたであろう。問題はなかったのだから許せ」
え、お前アヤメさん置いてきたの?
危ないってそれは……。
「貴方も……出来れば事前に連絡は差し上げてください。そうすればもっとしっかりと準備も出来ましたのに……」
「はい……すみませんでした……」
「……あくまでも出来ればの話です。貴方に非があるわけではありませんから」
俺が殊勝な態度を取ったからか、アヤメさんが珍しく俺のフォローをしてくれた……。
もしかしてこれがデレか? デレたのか?
「何を見ているんですか? 気持ち悪い妄想でもしているんですか? 踏み砕きますよ?」
あ、違いましたね。ごめんなさい。
それで、なにを踏み砕くつもりなんでしょうか?
やめて! 二つしかないの!
大事な玉を見ないでください!
……なんとかアヤメさんのおかげでこの場は収まりはしたが、怖かった……。