作品タイトル不明
8-13 アインズヘイル記念祭 一日目の休憩時間
子供達が買ってくれた後はぼちぼち客足が増え、昼前ではあるが少しだけ列が出来てほどほどに忙しくなったころ。
「そろそろ休憩を回していくか」
と、呟くと皆が一瞬動きを止めたような気がしたが、すぐに動きだした。
そんな中、レンゲだけが止まったままぷるぷると震えており、がばっと顔を上げた。
「ふっふっふ……一日目の休憩は自分のものっすー!」
「ん? 最初はレンゲから休むのか?」
「違うっすよー! ご主人と休憩する権利っす! お祭りは三日間! とはいえ忙しくて休憩を取れるかわからない日もあるっすから、一番最初の休憩を自分が勝ちとったんすよー!」
レンゲは満面の笑み、それとは対照的に恨みがましくレンゲを見つめる視線は4つ。
ミゼラだけは粛々と自分の仕事をこなしているのだが、皆は手が止まっていた。
「うう……もう少し考えて腕に抱きつきとか我慢していれば……」
「言うなソルテ。最近レンゲはこのために我慢していたのだ……。それに、会議の結果だから仕方ないさ……」
「でもぉ……私達、4番目5番目なのよ? 休憩あるかしら? 三日目は大盛況で休憩がつぶれるとかないかしら?」
「……たぶん、大丈夫のはずだ」
会議の結果?
ああ、もしかしてこの前俺が王都の大聖堂に行っていた際に行っていたのかな?
「さあさあご主人! お祭りを一緒に回るっすよー!」
「あ、ああ。でも店も心配なんだけど……」
「大丈夫っす! 4人もいれば回るっすよー! ほら、早く行くっす! 時間は有限っすよー!」
「わ、わかったから押すなって! じゃ、ちょっと行ってくる!」
後ろから力のないいってらっしゃいを受けつつ、レンゲに押されるがままに露店から外に出る。
「で、どこから行くんだ?」
「まずは腹ごしらえっすよね! お腹すいたっすし!」
「そー……だな。しかし、何処も混んでるなあ」
「そうなんすよねえ……ご主人といろいろ回りたいっすし……困ったっすねえ」
辺りを見回すとまだ昼時ということもあり、どこも列を作って混んでいるようだ。
『さあ、キャタピラス焼きはいかがかな? 列の最後尾は角を曲がった先だよー!』
……キャタピラス焼きどれだけ人気なんだよ……。
いや、まあこの街の名産品ってだけあって人気なんだろうけどさ……。
「ご主人?」
「ああ、悪い。それでどこにするか決まったか?」
「とりあえずあそこにするっす! 列の流れは速いっすし、腹ごしらえにもなりそうっすから!」
レンゲが指差したのは、シンプルに肉を焼いて串を刺した店。
列には10人くらい並んでいるが、常に焼き続けているようなので回転率は悪くないようだ。
「よし。それじゃあ並ぼうか」
「はいっすー!」
しかし牛串だと普段屋台で買うのとあんまり変わらないなあとか考えていると、レンゲが腕に抱きついてくる。
「えへへ。なんか久しぶりな気がするっすね」
「何がだ?」
「ご主人の腕っすよー。この前もアイナとソルテに譲ったっすし、でも今は自分だけのご主人ー! って感じで幸せっす!」
この前って、ああミゼラと一緒に冒険者ギルドに行った時のことか。
そういえばさっき勝ち取ったとか言っていたし、なにやら俺の知らないところで、俺の知らない取り決めを行っているらしいが……一体何をしている事やら。
「そういえば……自分こうやってご主人と二人きりでお出かけって初めてっすかね?」
「いや、夕飯の買い物とかであるんじゃないか?」
「そーいうのじゃないっすよー! こう……恋人みたいにするのは初めてって事っすよー!」
「そっか……初デートか」
「はいっす! お祭りが初デートなんて、なんかいいっすよね!」
ぎゅーっと抱きついている手に力をこめ、頭というか体全体を押し付けてくるレンゲ。
「んんー! ご主人と独り占めデートっすー! 贅沢っすー!」
「いや、俺もレンゲを独り占めだしそれは嬉しいんだけど……それにしてもテンション高いなあ」
ここ外だからな?
前後のカップルが途端に会話をやめてしまったのに、お気づきですか?
「だって、普段はこんなに普通でいられないっすからね。ねちっこく大事なところを気持ちよくするんすもん……。いっつもトロトロにされちゃうっすからねえ……」
「……レンゲ。それ尻尾の話だろ?」
「そうっすよ? あーご主人変な事想像したんすかー? エロエロっすねえ!」
いや想像していたのは絶妙に微妙な空気の中黙っていた前後のカップル達だろう。
今ではなにかを誤魔化すためかあははは、となんとなく笑ってはいるが俺にはわかる。
きっと男のほうは祭りのテンションにかこつけて夜は夜で二人きりのフェスティバルと行きたかったのだろうに……。
このせいで変に意識してしまい、その計画が失敗しないことを祈っておこう……。
「んんー。やっぱ塩が一番っす!」
「そうか? こっちのタレも美味いけどな」
俺達は豚と牛の串をタレと塩で二本ずつ買い、人通りの少ないところで食べていた。
一本がなかなかのボリュームなので、二本食べれば結構お腹一杯になるだろう。
「そうなんすか? じゃあ、あーん!」
「あいよ。垂れるから気をつけてな」
「ほぐほぐ。なはなはっふねえ!」
「飲み込んでから喋りなさいな」
「ほぐほぐ……。ん。なかなかっすね! でも塩も美味いっすよー」
レンゲが差し出した牛串に噛り付き、串から引き抜くと確かに美味い。
素材を生かした塩はやはり美味いが、店主が工夫をこらしたタレも流石と言わざるを得ない。
市販というものがないので、それぞれの店がそれぞれの工夫をこらしたタレで勝負しているのを味わうのも良いのだ。
「さーて。それじゃあ次はどこ行くっすかねえ」
食べ終わった牛串の串をピンっと口から引き抜くレンゲがうーんと上を見上げて考えていたので、串だけは回収しゴミ箱に捨てておく。
「っても、休憩だからな。あんまり回れないかな?」
「そうなんすよねえ……。んんーじゃあ適当に歩くっすかね」
「いいのか? それで」
「ご主人と二人なら何だって楽しいっすよー!」
嬉しい事を言ってくれるじゃあないの。
もちろん俺だってレンゲと二人でいるだけで楽しいけどさ。
「ご主人あそこ! なんかやってるっすよ!」
「お、本当だ……って、ナイフでジャグリングとか見てるだけでも怖いな」
大道芸か何かか?
玉に乗りつつ4本のナイフをジャグリングしているのだが、見ているこっちが冷や冷やしてしまう。
「でも刃は潰してるっすし、失敗してもダメージはほぼないみたいっすね」
「よくわかるなあ」
流石、見るところが違うな。
俺にはまだあのナイフの刃が潰れているかどうかなんてわからないっての。
「あれ? レンゲさん?」
後ろから声をかけられ、振り向くと先ほど尻尾を綺麗綺麗してあげた女の子の一人が、レンゲと同じく男の腕を取り立ち止まっていた。
「おお、そっちもデートっすか?」
「そうなんですよー! も、って事はレンゲさんもデートなんですね!」
「うひひ。そうなんすよ! 今日はご主人を独り占めなんすよー!」
「おお、あの争いの中から見事勝ち取ったんですね。あ、紹介するね。この人がさっき言ってた尻尾を綺麗にしてくれた人なの!」
と、女の子に紹介されたので男の方にぺこりと頭を下げると、少し遅れて男が頭を下げた。
白い耳に先が青い三角形っぽい耳の獣人の男だ。
冒険者ギルドで見かけた覚えはなんとなくあるようなないような……。でも、体つきを見る限りは冒険者、または兵士といったところだろうか。
「……あの」
「ほう……大きな尻尾ですな」
「あ……」
低めの声の男が何かを言いかけていたのだが、それよりも先に男の尻尾に目がいってしまった。
今まで見た尻尾の中でも最もボリューミー。
毛質は硬いのか? 柔らかいならばきっとふわっふわな手応えなんだろうなあ。
でも、硬いなら硬いでそれもいい。さぞ主張強く、立派なんだろうなあ!
だが、現状手入れはされてはいるようだが最良とは言えないな。
「うふふ。ね? 言ったでしょ?」
「ああ……そうみたいだな。すまなかった」
「ん? どうした?」
「実は男の人に尻尾を綺麗にしてもらった。って言ったら不機嫌になっちゃって……。でも、この人はそういうんじゃないよー。尻尾が好きなんだよー。って言ったんだけど信じてもらえなかったんですよー」
ああー……なるほど。そりゃあそうだよな。
同じ男として、好きな子の大事な部分を別の男に触らせるのは嫌だよな。
……これからは彼氏の有無、許可の確認を怠らないようにしよう。
「あー……なんか、ごめんな?」
「いや……こちらこそあらぬ疑いをかけてすまなかった。それでなんだが……」
「ん?」
男が手を口につけて女の子に聞こえないように話したいらしく、俺はそれにそっと耳を近づける。
「……近々彼女の親に挨拶に行きたいのだが……男の俺の尻尾でも、やってもらえるだろうか……?」
「おおおお……! 任せとけ。それじゃあ冒険者ギルドのマスターに出来そうな時間を連絡しておくのでいいか」
「わかった。ではよろしく頼む……」
「なになに? 内緒話?」
「んんっ……いや、なんでもない」
「うんうん。なんでもないよー!」
「……ご主人のテンションが高いっす。なんでもないわけなさそうっすけど……多分、尻尾っすね」
「あ、なるほど……」
なぜばれたし。すまない男よ。だが理由まではばれていないはずだから許せ!
そして、うわーい! もっふもふだー!
やはり獣人は尻尾を綺麗にしたいんだなあ!
そして結婚のご挨拶とあらば気合を入れてやらないとな!
そのあと頭を下げて腕を組み去っていくご両人をまたなーと見送ると、にやにやとレンゲが笑い出した。
「で? 本当は何だったんすか?」
「んー? あの人があの子の親御さんに挨拶に行くから、尻尾を綺麗にして欲しいってさ」
「おお、当たらずとも遠からずっすかね。と言うことは結婚って事っすかね?」
「多分な」
「はぁー……結婚すかぁ……」
「どうした?」
「いやあ。うちの人は甲斐性がありすぎるなあーと」
……すみません!
誰か一人とか……選べませんっ! ごめんなさい!
「まあそんなご主人が皆好きなんすから、ご主人は今のままでいいんすけどね」
「……ありがとうございますっ!」
ここでお礼を言うしか出来ないとは、割と最低だな俺。
でも仕方ないじゃない! こうするしかないんだもの!
だって皆好きなんだもの!
「と言うより、ご主人の性欲を一人じゃ受け止めきれないって方が正しいかもしれないっすね」
「……なんか本当、すみません……っ!」
「あははは。まあたまにこうして二人でデートに行ってくれればいいっすよ!」
はぁ……本当、俺には勿体無いほど良く出来た子だよ……。
だがそういうことならば今を目一杯楽しんでもらわねばなるまい!
「よし。ならばレンゲ! まだもう少し時間はあるし、もっといろいろ見に行くぞ!」
「はいっす! って……」
レンゲの手をとり、指を絡めて繋いでみた。
恋人つなぎと呼ばれる手の繋ぎ方だ。
「わわっ、これいいっすよね! なんか恋人って感じがマシマシっす!」
わかるわあ。
このつなぎ方って、正直汗ばんでないかとか心配になるんだけど、幸福感がやっぱり多いんだよな。
レンゲもんんーっ! と、この感覚を堪能しているようだ。
「さあご主人! まだまだお祭りはこれからっすよー!」
「おう! 行くぞー!」
俺達は一応露店には戻りつつもあっちにふらふら、こっちにふらふらと露店を回り、お祭りをおおいに楽しんだ。
そして最後はお土産を買って露店へと戻る。
勿論、手は繋いだまま。