軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8-12 アインズヘイル記念祭 運命の出会い

ふうっと一息ついて、ようやく露店テントへと戻ってこれたので椅子に座って休む事にする。

流石に少し疲れたかな……。

「んっ、あああ……」

思い切り腕を伸ばして胸をはり、少し凝った肩に手を置いて肩を回してほぐしていると、そっと肩に手を添えられ、振り向くとソルテがいた。

「主様大丈夫? あの子達ったら……あとでお灸を据えておかないと……」

「まあまあ。やっぱ恋する女の子は可愛いねえ。皆目を輝かせて出て行ったよ」

あのあと彼氏と待ち合わせでもしていたんだろう。

しかし、相手の男はあそこまで思われて幸せだろうよ。

「恋する女の子か……。ねえ、私も可愛い?」

「……そういうところがな。たく……」

ぐいっと体を寄せさせて、頭を撫でる。

本当は尻尾を撫でたいところだが、毛が抜けて混入でもしたら大変だからここは我慢である。

「わふ……いきなりはやめてよ……」

「とかいいつつ尻尾は喜んでるみたいだけどな」

ぶんぶんと振られる尻尾によって、地面の砂が小さく飛ばされている。

相変わらず自分の意思では止められないようで、必死に手を伸ばしているがお尻を押さえているようにしか見えないんだよなあ。

ぱっと手を離すと少し不満そうな顔をしながらも、尻尾は満足気に振ったままきびすを返すソルテ。

「主君おかえり。すまないな。うちのものが……」

「なあに。ソルテのやきもちも見れたし、いい事尽くめだったよ。それより、だんだんと人が集まってきたな……」

「ああ。そろそろ開会式だからな。普段ならばあの混雑の中で領主様の挨拶を聞くんだが、ここでも十分見えるようだな」

「だな。じゃあ座ったまま見させてもらうか」

今座っている位置からでもステージは十分に見えている。

それに、オリゴールにはマイクを渡してあるので声も届くだろう。

昨日の夜作った急ごしらえの特製品だが、上手く作動してくれよ。

そんなことを考えていると時間になったのかオリゴールがステージへと姿を現した。

『んん、あーあー。皆、聞こえているかな?』

そんなオリゴールの問いかけに、皆が大きな声で答えるとオリゴールは満足そうにうなづいた。

『それでは、領民諸君。挨拶は手短に済ませようかな。ボクも長い挨拶なんて大嫌いだしね。まあでも、まずは皆のおかげで今年もお祭りを開催する事が出来たよ。ありがとう。さあ、大いに騒ごう! 食べよう! 飲もうじゃないか! ただし、無法は駄目だぜ? お祭りに水を差す奴らには厳罰だ! それを忘れずに、楽しんでくれたまえ!』

パチパチパチと拍手が喝采し、男達がうおおおおっと叫ぶ。

皆、この瞬間を待ちわびていたようだ。

『さあ、アインズヘイル記念祭を始めよう! お祭りは三日間あるんだ。一日目でばてるんじゃないぞー!』

『『『『『おおおおおおおおー!!!』』』』』

これにて、お祭りが始まったわけだ。

それにしてもいい挨拶じゃないか。

オリゴールのことを見直したぞ。

「さあ皆、働こうか」

「ん」「はい!」「ああ!」「うん」「はいっす!」「ええ」

……と、気合を入れて望んだのだが……。

「なんだ……意外と暇だな……」

「まあ、開催したてではまず腹に溜まるものの方が人気になるさ。ほら」

アイナが促したのは孤児院のお好み焼き店。

ものすごい行列を作っており、子供達は目を回しつつも必死にそれぞれの仕事をこなしているようだ。

「あの匂いには……抗えない」

「だな。大人気みたいで良かったよ」

どうやらあちらは嬉しい悲鳴をあげているようだ。

こちらは……まあぼちぼちといったところか。

わたあめじゃあ腹は膨らまないし、甘いデザートと考えれば後回しになるってなもんだ。

『さあさあアインズヘイル名物のキャタピラス焼きはいかがだい!? 今は20人待ち、これからもっと増えるから、早めに並んでおいた方がいいよおおおお!』

……うえ。

キャタピラス焼きも大人気だな……。

アインズヘイル名物なのは間違いないらしいので、やはり外から来た人はこれを目当てに来るんだろうか。

「あのー。こちらは何を売っているんですか?」

「ん、ああいらっしゃい。うちはわたあめ屋だよ」

「わたあめ……聞いたことがありません。おそらく綿のような飴なのでしょうけど……一体どんなものなのでしょう。気になります」

目の前に現れたのは長めの耳が特徴的な小さな獣人の女の子。

なんというか、年相応に目を輝かせてはいるのだが、わたあめ機を見ながら顎に手を当て、ふんふんと観察しているようだ。

「チェェェェスウウウウウ! キャタピラス焼きはいいのデェェェスカァ?」

「はい師匠。チェスはこちらの方が気になります」

「ふぅぅぅぅむ! これは……オゥ……見たことがない魔道具デェェス!」

中のわたあめ機を覗き込むように見るおじさん……。

ヤーシスと同じくらい……いや、少し若いか。

片眼鏡(モノクル) をかけ、両端が跳ね上がったカイゼルひげで、髪はおでこを出して前髪を後ろの方に流してまとめている。

普通に考えれば紳士なのだが、口周りがなにかのたれでべたべたでチェスと呼ばれた女の子に、首を回され口を拭ってもらっているのだが……大きいお子様のように感じてしまう。

「ほうほうほう…………なぁーるほど、回転球体と火の魔石の応用のようデェェス。無数の穴から砂糖を溶かした液を遠心力で噴射させて綿のように細くするのデェェスネェ?」

「そうみたいです。それにしても……回転球体を加工しておきながら歪みがないなんて……」

「経験からなる技でしょうネェ! ふむ……素晴らしい腕前デェェス!」

二人が店先で騒ぐもんだからなんだなんだと近くにいた人たちが遠巻きにこちらを見始めていた。

良いのか悪いのかはわからないが、注目は得ているようだ。

「師匠も食べますか?」

「勿論デェェス!」

「では、二つお願いします」

「あ、はい。では1200ノールです」

ミゼラがお金を受け取り、おつりを渡している間に俺は準備を始める。

棒を取り出してわたあめ機にざらめを投入し、作り始めたのだがこの二人はその様子をじっくりと見つめていた。

「おお……熱の加減、回転速度……調整も完璧のようです。魔力の変換も……効率的ですね」

「チェェェスゥゥ! よく見て勉強しておきなさぁい! この魔道具を作った錬金術師は、貴方よりも数段上の腕前デェェェスヨ!」

「はい師匠! わかってます! 見れば見るほど、所々の気配りに感服します……」

じぃーっと見つめられながらわたあめを作る事のなんたる気まずさか……。

しかもわたあめではなく、稼動しているわたあめ機に注目しているのだから困りものである。

「はい。出来上がり。どうぞお客様」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございマァァス!」

二人がわたあめを受け取ると、口ではなくまず目を近づけた。

「ワオ……。随分と細いデェェスネェ……」

「凄いです師匠。ふわっふわです」

「オゥ、チェェスゥ! 師匠よりも先に食べるんじゃありまセェェン!」

ちょ、おじさん!?

チェスちゃんはきっちり指でとって食べたのだが、おじさんの方はわたあめに顔を突っ込んでもごもごと動き始めた。

熱くはないはずだが……大丈夫か?

「プハァ。これは……甘いデェェス」

「甘々ですねぇ……。それにふわふわで、舌の上に乗った瞬間に溶けるようでした!」

「その食感と触感のための細さのようデェェスネェ。脳を使った後に良さそうデェェス。美味しいデェェス!」

デスデスいちいち大げさなおじさんのおかげで集客効果は期待できそうだ。

遠巻きに見ている人達からの視線が、奇異なものを見る目からこのおじさんたちがいなくなり次第並ぼうという気持ちが見て取れる。

「師匠。おひげについてます」

「オゥ。失礼したデェェス」

「しかし、この繊細にして風変わりで大胆な錬金技術……やはり……」

「そうデスネェ……。間違いなく、『バイブレーター』と『マイク』の製作者デス。ねえ、お兄さん?」

途端に、おじさんのまとう空気が変わり、真っ直ぐに俺を見る相貌が鋭くなる。

口元はニヤリと笑ってはいるが、雰囲気のそれは今までの愉快なおじさんではない。

どちらかといえばヤーシスやダーウィン、オリゴールが真面目に仕事をしているときのような視線の鋭さだ。

その異様な気配にシロが俺の前に立ち、ソルテやアイナが両脇から俺を隠すように前に出る。

「ふふふふ……」

机の向こう側で不敵に笑う男が俺のほうへと近づいてくるにつれ、シロ達が警戒を強めていく。

が、キラリと何かが光ったような気がした瞬間に途端に男の姿が消えた! と思ったら、今度は一瞬暗闇が発生し、突然目の前に現れ――思い切り抱きつかれた。

「ようやくお会いできマァァァーシタ! 我が今生のライバルデェェェス!」

「ん」

「ちょ……」「なっ……」

「ちょっと待てええええ!」

突っ込みどころが多すぎる!

何で消えた? どうやって現れた?

まさか、空間魔法か!? っていうか敵なのか!?

いや、シロはナイフをしまっているってことは敵意はないんだろう。

アイナとソルテはまだ武器をしまわず警戒したままだが、俺も状況がわかっていない!

「んんーキスしてやるデェェス! 唾をつけておきマァァス!」

「やっめっろおおおおおおお! おじさんにキスされる趣味はねええええ!」

「ん。それはだめ。切るよ?」

「オゥ、リトルガール。怖いデェェス……。でも、さっきは切らないでくれてありがとうデェェス!」

「シロは見えてたの!?」

「ん。目を見て、好意の目だとわかったから切らなかった。でも、主は女の子が好き。だからキスは駄目」

「ワォ……ワタシの『光闇迷彩』を破るなんて驚きデェェス……。でも、わかったデェェス! 我慢しマァァス!」

「いや、わかったなら離れてくれ……」

いつまでもおじさんに抱きつかれている趣味などない!

あああ、せっかく宣伝になっていたのに、遠巻きに見ていた人の目がうわあ……になってる。

そりゃそうだ! テントの中でおじさんが男に抱きついているのだからそうなるさ!

「師匠! お店の中に入ったらいけませんよ。ご迷惑をおかけしていますよ。ほら、早く出て!」

「オゥ、チェェス……。今ワタシの喜びがどれほどのものなのか、わからないのデェェスカァ?」

「わかりませんよ。いいから出る! もうお部屋を片付けてあげませんよ!」

「オゥ……わかったデェェス。戻りマァス……」

ようやく離れてくれた……。

しかも帰りは机の下を這いずって出るんだな……。

あれ、なんかもう一箇所這いずった後があるんだけど……。

……ああ、『迷彩』って言ってたってことは、来るときも這いずってきたのか……。

「師匠が本当に失礼しました!!」

きっちりかっちり頭を下げる弟子のチェスちゃん。

だが、師匠の方は暢気についた砂を払い、上機嫌を隠そうともしていなかった。

「エリオダルト師匠。仮にも爵位を持つ方が何をしているんですか……。領主様もおっしゃっていたでしょう? 祭りに水を差すなと」

「それはそうデェスが……。出会えた喜びが勝ってしまいましたァ……」

しょぼくれるエリオダルトというおじさん。

だが、俺はそこではなく、エリオダルトという名前に何か引っかかっていた。

なんだったっけか……欠片も思い出せん。

エリオダルト……。エリオダルト……。あぁーどこかで聞いた気がしなくもないんだけどまったく思いだせん!

この喉奥に小骨が刺さったような感覚嫌いなんだよなあ。すっきりしたい……。

『お、おい……エリオダルトって……』

『ああ。王国屈指の錬金術師だよな?』

あああ! そうだ! 隼人が言っていたんだ!

確か、王国の筆頭錬金術師で、伯爵で、あの空気清浄機を作った錬金術師の名前だ!

ナイスだ周りの人。ああ、すとんとはまってスッキリした!

「あなたが、あのエリオダルトだったのか」

「オォ! ワタシの名前を知っていたのデェェスか!」

「ああ。あなたが作った冷房魔具を使わせてもらってるよ」

俺はエリオダルトの手をぎゅっと掴み、握手を試みる。

すると、エリオダルトも子供のようにその場で何度も跳ねながら満面の笑みで握手に応えてくれた。

「アレをお持ちなのデェスか!? まだ市井には出ていないはずデェスガ……。オゥ! この街ならダーウィンデェェスネェ!」

「そうそう! ダーウィンから家を譲り受ける時に貰ってさ! アレのおかげで気持ちよく快適に錬金をさせてもらってるんだよ! いやあ、アレには感動した!」

「それはよかったデェス! ワタシも、貴方のバイブレーターのおかげで肩こりに悩まされなくなったのデェェェス! 私もあの、緻密な組み合わせによる振動数の増加は驚きマァした!」

おお、それはよかった!

稀代の天才の役に立ったのなら嬉しいもんだ!

っと、相手も同じようなことを思っているらしい。

男二人が手を結んだままニコニコと喜んでいるという事実は放り、この出会いに俺も少なからず喜んでいた。

「あの、ご主人様……」

「師匠、まずいです」

「ん? どうした?」

「なんデェス?」

いったいなんなのだろうか。

せっかく、有名な錬金術師にあったのだ。

話したいことが、聞いてみたいことが山ほどあるのだが。

「……あー……すみませんが、そろそろよろしいでしょうか? 人の流れを乱さないでいただきたいのですが……」

あ……。

いつの間にか集まっていた鎧を着た兵士達。

今日はお祭りの警備のために、各所に散らばっており問題を解決する役目をおっていたはずだが……なるほど。ここが問題だったか……。

「し、失礼しました! 師匠! 行きますよ!」

「なんデェスカァァァ! ワタシと、マイフレンドの仲を裂こうというのデェェェスカァァア! チェェェェェスゥゥゥ!」

「はいはいはい! ほら、今日はご挨拶は出来たのですから、また今度でいいじゃないですか。捕まっちゃいますよ!」

「へぶし、ちょ、引きずらないで! マイフレェェェェンド! アイ、カム、バァァァァァァック!」

チェスちゃんがテント内へと入り、エリオダルトの足を持って引きずって行く。

エリオダルトは俺に手を伸ばし、とても悲しそうな顔で去っていった。

俺はその姿が見えなくなるまで小さく手を振って見送り、その後は全力で腰を90度曲げて兵士さんに頭を下げる。

「ご迷惑おかけしましたっ!」

「あー……いや、解決したんならいいんです。だけど、気をつけてくださいね……」

「はいい……すみませんでしたっ!」

で、気を取り直して露店を再開することにしたのだが……。

遠巻きに見られ、興味はあるが近づいていいものかと思われたのか、お客さんが寄り付かない……。

そんな中、孤児院の子供達が来訪してくれたおかげでなんとかその後に続く者たちが現れ、無事盛況になることができたのだった……。