軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7-17 幸せ・願望 信じて頼る

決意の日から数日――。

はぁぁぁぁ……。

今日も特訓するかーと意気込んで外に出たのだが……。

「さあさあ! ご主人やるっすよー!」

うわー。やる気満々だよ。

腕ぐるんぐるんまわしてるよ……。

前宙とか、バク宙とか平然と準備運動のようにやるんだもんなあ……その足場、トランポリンとかじゃないんだよね?

「はあ……」

「あのー……ご主人? なんで自分相手だと露骨にやる気無くすんすか?」

「いや、だってさ……」

レンゲとも何度も特訓をさせては貰っているのだが、正直に言えば一番怖い。

まず近い。超近接で来る上にレンゲが相手の場合って基本的に俺は防御ばかりになるのだ。

無手の崩しとか実際にされるともう、どうしようもない。

為す術もなく倒されて、腹や顔に寸止めを入れられるのを繰り返すのだ。

「大丈夫っすよ。もう空中コンボとかしないっすから!」

「当たり前だ!」

何が、『ちょっと面白い事するっすから、剣真っ直ぐ構えててくださいっす』だよ!

下から打ち上げられたと思ったら飛び跳ねたレンゲの足技でどんどん高く上げられるし、レンゲは褒めて欲しそうにドヤ顔してたし!

「アイナやソルテ達と違って、レンゲはほとんど生身だからなあ……気がひけるってのもあるし……」

「あははは、大丈夫っすよ。ご主人の剣なんて当たらないっすし、当たっても切れないじゃないっすか!」

「その通りですけども!」

そりゃあ、マナイーターじゃ切れないけど!

そりゃあ、俺じゃレンゲに当てられないけど!!

事実なのだが、悔しいのだ。

今日こそは当ててやると目に闘志を浮かばせる。

「あははは、ほらほら。一本取ったら今日は大サービスで、ご主人用の太ももを使った技をかけてあげるっすよ」

「よし、潔くやろうじゃないか」

なんだろう?

太ももを使った技……。アレか? まさか挟んで……なるほどスライムローションの出番か。

ふふふふ、ならば今回は攻めに転じざるを得ないじゃないか。

楽しみにしているぞ! とても!

「じゃあ、やるっすよー!」

「っしゃあ、行くぞおおおお!」

数時間後……。

「え、えっと……ご主人? 大丈夫っすか?」

「っ……へぁー……うへぇ……」

心配そうなレンゲを前に、かろうじて剣を杖代わりに立っている俺……。

ごめんよマナイーター。大層な武器なのだろうけど、こんな使い方をする俺を許しておくれ……。

でも、俺が泣きそうなんだけど、泣いていい?

太ももを使った技を受けたのだが、単なるフランケンシュタイナーだった。

いや、大技だし単なるって言うには派手な技だけどさ……。

挟まれた瞬間は確かに最高の瞬間だった。

ただし、あくまでも瞬間であってその後くるんと地面に倒されるわけで……。

視点が回るって、怖いなあ……。

「……なんだかボロボロね」

声をかけられた方向になんとか首を向けるとそこにはシロとミゼラの姿が……って、え!?

ちょ、息がっ! 驚いて息が詰まる!

「ゲホッゴホッ! ガハァ!」

「大丈夫……?」

「レンゲ、やりすぎ」

「っすね……反省するっす……」

「主は弱いんだから、ちゃんと程度を控えないと死んじゃう」

「ぜ、全部寸止めっすよ!?」

「ん。でもボロボロ」

「うーあー……ごめんなさいっす……」

いや、まあ……怖かったけど。

でもほら、ね。特訓だしさ多少それくらいの目に遭わないと強くなれそうも無いし。

今日だって、一発だけ惜しかったんだぜ? 多分。

って、喋りたいのにまだ息が整わない……。

よし、吸ってー……吐いてー……。

「これ、お水よね? はい、飲める?」

「ふぃー……あ、あり」

「無理に話さなくて良いわよ。はい、慌てずゆっくりね」

ミゼラから受け取ったコップの水を、一気に飲み干したくなる衝動に駆られつつも言われたとおり一口一口ゆっくりと、飲み込んでいく。

「ぷはぁ……はぁ。ありがとう。えっと……おかえ……り?」

「……ただいま」

「今日は、ちょっと遅かったな」

「日に日に逃げる時間が増えてる。やりおる」

「結局捕まってるんだから、褒められた気がしないわ……」

ミゼラはあの日から、一日一度この屋敷から逃げ出していた。

好きにしろと言ったのだから勿論構わない。

逃げ出さないように監禁するなどは絶対にしない。

勿論、帰ってきたら他の皆と同じように扱うと決めている。

「それよりも、大丈夫?」

「ああ……これくらいなら割りと多いしな。レンゲ、特訓ありがとう」

「ごめんなさいっすぅ……。肩貸すっすか? お風呂行くっすか?」

「いや、三人で先に入ってくれていいぞ。それに……」

シロに連れられて帰ってきたミゼラを迎えたのだが、狭い道を通ったのだろう。腕や顔が多少黒く汚れているみたいだ。

だが、それよりも首下の服が凄いことになっている。

真っ赤だよ……。血ではなさそうだけど、真っ赤なんだよ。

だから先ほど驚いて息が詰まってしまったのだ。

「……どうしたんだそれ?」

「……せっかくいただいたトメトを少しこぼしちゃったの」

「ああ、いつもの野菜売りのおばさんか?」

「ええ、申し訳ないんだけど……」

「わかった。それじゃあ、貸しに付けておくよ」

「ごめんなさい。お願いします……」

ミゼラとシロの追いかけっこが始まって数日、その姿は街の人たちにもよく見られる事となり、お店の陰に隠れていた時におばさんに発見されてから野菜をいただく事があった。

俺がそれを聞いて買い物の際におばさんに代金を払おうとしたのだが……。

『あははは、いいんだよ。あんたはいつも沢山買ってくれてるしね。元気が良いのが一番さ。うちの領主様を見ればわかるだろう?』

と言われてしまった。

それならばと普段よりも沢山買うなどで返していけばいいかと思ったのだが、ミゼラは必ず自分で返すからと言って聞かないので帳簿をつけているのだ。

ちなみにだが、野菜屋のおばちゃん以外にも肉屋のおっちゃんやパン屋のおじさんなど、ミゼラを応援してくれている人達が沢山居る。

あいつら……楽しんでやがる。

「……それじゃあ、お風呂行ってきな」

「いいの? その……旦那様のほうがボロボロだし、先に入った方がいいんじゃない?」

「ちょっと仕事があってな……。お風呂入ったらすぐに寝ちゃいそうだし、先に済ませておきたいんだ」

アイリスから個別の発注として『マイク』の注文が入ったからな。

取りに来るそうなので、何時来てもいいように早めに用意だけは済ませておきたいんだ。

それに……。

「そう……わかったわ」

「シロも一緒してきな」

「ん? シロは汚れてないよ?」

「狭い道通ったろ? ほら、尻尾の先が黒くなってるぞ」

シロの尻尾は真っ白だから、汚れがわかりやすいのだがわざわざ自分の尻尾を見るような事はしないのだろうか?

「ん。わかった」

「悪いんだけどミゼラ、しっかり洗ってやってくれないか?」

「わかりました。旦那様」

ミゼラはここのところ毎日逃げ出してはいるが、戻ってくるとしっかりと奴隷として行動してくれる。

というか、散々逃げ回って疲れて帰ってきているようなので余計な体力を使いたくないのだろう。

お風呂に入り、食事をしてしっかりと明日逃げる英気を養ってもらいたいもの……いや、逃げない方がいいんだけどさ……。

まあ、諦めてもらうには何度も試行が必要なのだろう。

好きにさせると決めた以上、好きにさせようと思う。

「それじゃ、途中まで一緒に行こうか」

「ご主人! 支えるっす!」

ありがとう、とレンゲに肩を貸してもらい、ゆっくりと歩き出す。

「そういえば……その、地下への道明るくしてくれたのね……」

「あー……まあ、ちょっと魔導ランプも作ってみたかったしな」

ミゼラのトラウマが地下室であり、暗いのはまずいと思ったので急遽ではあったが、魔導ランプを作ったのだ。

ランタン型で、鋼鉄とガラスを用いたシンプルな西洋風デザインなのだが、上手くできた方だと思う。

「……作ったの? これを?」

「ん。錬金術師の主なら造作もない」

「良い雰囲気出てるっすよね。通るだけでも明るくて楽しいっす!」

「……どうして錬金術の才能があるのに……」

「ん?」

ミゼラがとても小さな声で何かを呟いていたのだが聞き逃してしまう。

「なんでもないわ。……ありがとう」

「いえいえ。まあ……地下にはお風呂もあるしな。これから使う機会も多いだろうし……」

「ええ。通る時も、一人じゃなくさせようとしてくれてありがとう……。これだけ明るければ、大丈夫よ」

「……おう」

それだけ返事をすると、三人はお風呂へ、俺は仕事部屋に入り空気清浄機に魔力を注いで仕事椅子に座る。

「はぁぁ…………」

マイク作りは 既知の魔法陣(エクスペリエンスサークル) ですぐに作り終わる。

何せ既存の物ならばすぐに出来るのだ。

後は 贋作(マルチコピー) で即時数を増やして、これにてお仕事終了である。あっという間だ。

はぁぁぁ、疲れた……体痛い……。

でも、ランプ作ってよかったな……。

ミゼラ、少し笑ってたし大丈夫って言ってくれたし……。

「あー……」

よし、作業の続きをしよう。

仕事机に図書館から借りた文献を積んでいく。

確か、この本のここからだったな……。

ああー……目が少し霞んで、細かい字が読みづらい……。

目薬作るか? それか、眼鏡を作るか……。

どっちにしても、時間がかかりそうだな。

「……ご主人様」

「っと……ウェンディ。どうした?」

振り返るとウェンディが心配そうな顔で立っていた。

そのまま俺の横に歩み寄ってくる。

「その、お夕食の用意が出来ましたので、お知らせに……」

「ありがとう。任せちゃって悪いな……」

「いえ、お買い物はアイナさんとソルテさんが行ってくれましたから……。その……お疲れのようですが……」

「ああ。ちょっと今日は訓練が激しくてな……。はは、今日もぼっこぼこだったよ」

「……あの……何をお調べになられているんですか?」

「ん、ああ……どうして、ハーフエルフが特に強く差別されてるのかなって……。能力成長が期待できないくらいで、あそこまで扱いが酷いなんて、ちょっとおかしいと思ってさ」

ハーフエルフの特徴はスキルの成長が乏しい、寿命が長い、スキル耐性が高い、邪な感情を持ち合わせた相手は触れられない……。

うん。別に不幸になるとか、そういうことでは無いんだよな。

それに、スキル耐性が高いというのは能力の高さに値するんじゃないのか?

そもそも、ハーフエルフじゃなくたって、能力が低い者もいるだろう。

それに能力が低いから、差別をしても構わないのがこの国のルールだとしても、何かきっかけでもないと納得がいかなかったのだ。

「……あの……私にお手伝い出来る事はありませんか?」

「えっと……ウェンディには生活のことを任せているし、大分助かってるよ?」

お祝いの日から俺は家事を全てウェンディに任せてしまっている。

買い物も、アイナ達にも付き添いをお願いしているしその分俺の時間が出来るので調べ物に集中できているので相当助かっているのだが……。

「私……もっとご主人様に頼って欲しいんです。何時も一人で、無茶ばっかりして……心配なんです」

「無茶……って程じゃないよ?」

「嘘です……。ずっとお部屋に帰ってないじゃないですか……」

あー……。

そういえば仕事部屋は鍵を閉めていれば皆察して入ってこないし、集中するのにも便利で快適だから篭ってたもんな……。

「ご主人様がミゼラの為に頑張っているのはわかります。だけど、それでご主人様が倒れたら、私達も、ミゼラも悲しいです……」

ウェンディはそれこそ泣きそうな顔で、泣きそうな声で搾り出すように呟く。

「調べ物なら私にもお手伝い出来ます。だから……もっと自分も大切にしてください……。この前だって……」

「……ごめん。悪かった」

「言葉だけの反省は嫌です……。私もお手伝いします」

「……うん。ありがとう」

ただでさえ俺のわがままを……って思ってたから、これくらいは自分でと思ってたんだけどな……。

「じゃあ、頼みがあるんだけど、聞いてもらえるか?」

「はい!」

「……少し、膝枕で寝させてくれ」

「ご主人様……嬉しいですけど……」

「それと起きたら、一緒に調べ物を手伝ってくれ……」

「はい!!」

嬉しそうに返事をするウェンディに、ソファーで膝枕をしてもらって横になる。

膝上からウェンディを見上げると、にへらっと緩んだ顔でこちらを覗きこんでいた。

「ごめんな、心配かけて」

「許しません。だから、しっかり眠ってください……」

「ああ……。そうさせてもらうよ……」

優しくウェンディに髪を撫でられつつ、極上の枕であっという間に眠りに就くのだった……。