軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7-14 幸せ・願望 ファーストコンタクト

いやーしかし、疲れていたんだな。

目は覚めたのに起き上がれない。

というか、体が重いのかな? 全く動かないんだよ。

はっはっは、無意識に無理をしていたといったところか。

アイナに言われたとおり本当に気をつけないとだな。

よし。反省終わりっと、早く起きて風呂に入りあの子の様子を見に行かないとな。

まだけだるく瞑ったままの目ではあるが、気合を入れろ。いち、にの、さんで起き上がるぞ?

いち、にの、さん!

「ぁん……」

Oh……。

……あ、これ違う。

俺の体が重いんじゃない。

俺の体に誰かが乗っているのだ。

いや、誰かというのはふさわしくないな。

この圧倒的ボリュームは俺の知る限り一人しかいない。

胸元につぶれる面積の広さ、柔らかさ、そしてこの積極性を考えれば答えはすぐにわかるだろう。

「ウェンディ?」

「あふ、おふぁようございまふ……」

俺が瞳を開けて下を見るとウェンディが俺に覆いかぶさりまだ覚めぬ瞳をこちらに向けていた。

「はい。おはようさん」

「んんぅー。ご主人様の匂い……」

「あー……風呂はいる前だから、匂いを嗅ぐのは勘弁してくれ?」

「すぅー……良い匂いですよ?」

いや、それはないだろう……今がどれくらいの時間かはわからないが、いい大人が丸一日前後風呂に入っていないのだ。

香ばしい匂いがしているかもしれないので、出来ればすぐにでも風呂に入りたいんだけど。

「ほら、目を覚ませって」

「んんーあ……おはよう……ございます?」

お、今度はしっかりと目が覚めたらしい。

だがまだ俺の上には乗ったままなんだけどな。

瞳をぱちくりとした後に現状を確認し終わると、慌てて説明を開始した。

「あ、あのですね……その、あの子が少し元気になって、また眠ってしまったので、代わりに診るから私も休むように皆さんに言われて、ご主人様はちゃんと休んでいるかな? と心配になって来てみたのですが――」

「あまりに気持ち良さそうに眠っているもんだから、寝顔を見ているうちに自分も……ってところかな?」

「はい……」

頬を染めて顔を紅くしてしまうウェンディが愛おしくて思わず強めに抱きしめてしまう。

はぁ……良い目覚めだ。

「あの、眠っているところをお邪魔して申し訳ございませんでした……」

「いいよ全然。気持ちよかったし」

現在進行形で気持ちいいしね。

暫くこのままでいたいとは心から思うが残念ながら風呂に……そうだ。

「お風呂、一緒に入りに行こうか」

「はい……」

この後、転移を使って二人きりで温泉に入る事にした。

……少し長風呂になってしまい、疲れてしまったウェンディは寝てしまったので、家に帰ってウェンディのベッドに寝かせてあげる事にした。

「さてと……着替えは部屋なんだけど、寝ているなら大丈夫かな?」

この油断が、まさかあんな事に……。

さて、今回の件で最も大切な事はやはりファーストコンタクトだろう。

いかに俺が彼女にとって敵ではないかと示す事がとても大切だと思っていた。

その為にはまず彼女の健康を取り戻し、正常な状態の時にきさくな感じの俺で会わねばなるまい。

特に!

人族に対して恐怖心を持っているだろうから、人族の男である俺はとても気をつけねばならないとわかっていたはずだ。

だというのに!!

現在の状況。

俺→パンツ一枚と膝までズボン

彼女→こちらをじっと見ている。

……はい、終わったあああああ!

これにて完です!

もう無理かな? 無理だよね!?

ごめんフリード。俺は約束を違えたばかりか、相手に恐怖心を更に与えてしまったよ!

「あのー……ね、寝てませんでしたか?」

確認するまでもない寝ていたはずだ。

先ほどドアの隙間から覗き、そろーっと部屋に入って確認した時は静かに寝息を立てていたんだ!

あああ、どうして俺は彼女が寝ているからとこの部屋で着替えをし始めてしまったのだろう。

「私、眠りは浅いのよ」

そうだったんですね!

ぐっすり寝ていると思ってました!

すぐ済むからと油断をしたのが大間違いだった!

というか、視線が交じり合った瞬間に転移で消えてしまえば夢幻の類と思われたかもしれない。

突然の出来事に思考停止を起こしてしまった……。

「……ねえ、ズボン上げたら?」

「はい! 汚いものをお見せしてすみませんでした!」

そうだよね! まずははきかけのズボンを上げるべきだよね!

ジャンプしてはくから! すぐにお目汚しをやめるからね!

「って、あれ?」

「……なに?」

「いや、あのー……大丈夫なのか……」

叫び声を上げられると思っていた。

そして俺は集まってきた皆に怒られるものだと思っていたのですが……。

「……そうね。正直怖いわ。でも、貴方がここの主なのでしょう?」

「そう……だな。うん」

「なら、叫び声を上げるわけにはいかないでしょう……」

やけに冷静……というか、落ち着いているように見える。

だが、表情からは無理しているのが伝わってきているのでなるべく早めに退散するとしよう。

「はぁ……初めまして。私はミゼラ。知ってると思うけど、ハーフエルフよ」

「あ、えと……俺は 忍宮一樹(しのみやいつき) 。さっき言ったとおりここの主で、錬金術師をやってます」

「錬金術師……なら、私は差し詰め実験動物ってところかしら?」

「いや、そんなつもりないけど……」

ズボンの紐を結びつつ彼女の疑問に答えるが、あれ、ちょっと普段より焦って結べない……。

「なら、どういうつもりなのかしら……? 言っておくけど、私に邪な気持ちで触れたらビリっといくわよ」

「そんな気無いっての……っとと、一先ず、体を治す事を優先しなよ」

お、結べた結べた。

どうするもなにも、そういった大事な話は額に脂汗を浮かべながらするものでもない。

「体目的じゃないなら……私の体力が回復しないと耐えられないほどの実験ということかしら?」

「だから違うって。いいから体調を治しな」

上着上着……あれ、上着がないんだけど……。

「……わかったわ。旦那様。貴方が私の主なのだから、従うわよ……。でも、体力が回復次第逃げ出すとは思わないの?」

「そりゃあ、その可能性もあるとは思っているけどね」

前回のオークションで逃げ癖があるって聞いてるからな。

だからといって、彼女を拘束するつもりなどない。

……上着ないや。もういいか、このまま外に出てしまおう。

「逃げ出したければ逃げればいいさ。後は追わない。だけどまあ、ちょっとは様子見くらいしてくれてもいいんじゃないか?」

「様子見?」

「そう。俺がどんな奴かとか、ここで暮らしたらどうなるのかとか。男の人族が主じゃ変に疑いたくなるのもわかるけどさ。今、一つだけ言えるのは、俺は君が求めるのなら、この手を差し延べるよ」

それだけ言うと俺は上半身裸のままで部屋の外に出る。

……あぶねえええ!

間に合った! ウェンディは誰かが診てくれていると言っていたので、部屋にいないという事はなんかしらの用事で少し部屋を空けていたのだろう。

あの状況を見られたら怒られる事は間違いない!

流石に彼女の前で怒られたら威厳も手を差し延べるも何もなくなる!

情けない俺の言う事など信じては貰えないだろう。

それと、意思疎通はなんとか出来るようだ。

正直、男を見たらすぐさま取り乱す可能性もあると思っていたのだが……。

とは言っても、相当無理していたようではあったが……。

「……ご主人、上半身裸で何してるんすか?」

「ぴゃ!」

「まさか……ミゼラに変な事してないっすよね?」

「な、何もしてないよ!? 風呂上りで暑かったからたまたまクールダウンしてたんだよ!」

レンゲがじとーっと疑いの眼差しを向けてくるので、俺は冷や汗が止まらなくなり、目線は泳ぎまくってしまっていた。

「……クールダウンなら、早く汗拭いたほうがいいっすよ。それか、どうせ暑くなってるなら外で鍛えてもいいんじゃないっすか? 外にはアイナとソルテがいるっすし」

「そ、そうか。ならそうするかな」

今この場から離れられるなら何だって良い!

よっしゃ、体を鍛えるぞっと!

「ああ、上着はウェンディが持って行ってたっすよ」

「なるほど。だからなかっ……はっ!」

「……黙ってはおくっすから、訓練後のお風呂は、自分と二人っきりっすよ?」

「……はーい」

「約束っすよー?」

引っ掛けられた……というかバレバレだったか。

まあでも、二人きりでお風呂で済むなら大分安いものだ。

というか俺には良いことづくめだしな。

それじゃあ、たっぷりしごかれてきますかね。

へとへとになったら体をレンゲに洗ってもらおう。

「あれ? 主様、おはよう。訓練するの?」

「おはようさん。混ざって良いかな?」

「構わないが、今日は他に予定はないのか?」

「ばっちりだ。だからガッツリ頼むぞ」

納品予定は暫くないし、誰かと約束を交わしてもいない。

本来ならば魔法の訓練の時間も考えて余裕を持たせたのだが、使えないので思いの外時間は余ってしまっているのだ。

その分を、たまには体を鍛える方に回しても良いだろう。

「ガッツリね。じゃあ、初っ端から模擬戦で行くわよ」

「おう。ちょっと待て、マナイーターを取り出すから」

マナイーターとは俺が模擬戦の時に使う片刃の剣。

生命体に触れると刀身が幽体になるので相手を斬ることはできない。

だが、触れた相手の魔力を吸い、持ち主に還元するという能力を持った武器である。

アイナ達は寸止めが出来るが俺にはそんな技術はないからな。

打ち合いには使える上にアイナ達の方が強いとはいえ、万が一、億が一にでも彼女達の体を傷つける事を怖れるチキンな俺にはピッタリの装備だったのだ。

「それでは、主君。おもいきり来るが良い!」

「ああ、お手柔らかに……いや、たまには本気できてくれよ」

「ふふ、ならば本気を出させてみろ」

「言ってくれるな……」

マナイーターの背を肩にとんと乗せて飛び掛るが、絶賛連敗更新中の俺の連敗記録がアイナとソルテによってまた大きく更新されるのだった。

その後、息を切らせて空を仰ぐ俺にシロが期待した顔で現れ、更に連敗を刻む。

その日はもう完全に動けずレンゲに俺の事は全て任せたのだが……嬉しそうに甲斐甲斐しく世話を焼くレンゲは楽しそうだった。