軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-13 温泉街ユートポーラ これは事件ですよ!

旅の道中も最早終盤。

野営中、ふと今日の分のお小遣いスキルを使い忘れていたなと思い使用した時のこと。

とある出来事が起こったのだ。

まず簡単に説明すると、俺のユニークスキルの『お小遣い』は今は毎日金貨五枚。

50万ノールが手に入る状態である。

こう聞くととんでもなく便利なスキルではあるのだが、今となっては50万ノールはちょっと良いアクセサリーを作れば簡単に稼げるため、現在は今ひとつ地味なスキルとなってしまっている。

ユニークスキルは『流れ人』が持つ強力なスキルであり、唯一無二のチート能力であるはずなのに、だ。

正直今となっては勿体無かったかな……と思わなくも無い。

だが、貰った当初は確かに役に立ったし無くても生活の出来るレベルまで向上したのだとするならば良いか、と諦めていたのだ。

それに、このままレベルが上がればきっと更に入ってくる額は増えるだろう。

そう考えれば、いずれは錬金すらもせずに生活ができるようになるかもしれないと思っていたのだ。

『お小遣いスキルのレベルが 4 になりました』

そんな時、随分と長い間隔を経て、ついにお小遣いスキルのレベルが上がったのだった。

だがしかし、虚空から振ってくる金貨は5枚のまま。

50万ノールから増えていないのである。

不思議に思っていると、頭の中に次の言葉が流れたのだ。

『ボーナス が追加されました』

ボーナス? え、年二回あるかないかわからない賞与の事か? と思っていると……ポンッ。と可愛らしい音と共にひらひらと一枚の紙切れが舞い降りてくる。

それを掴み取り書いてある文字を読む。

『スタンプカード 一日一回押す事が出来ますよ』

そしてこの文字の下には、縦6、横5マスの枠組みがされていて、左上と、右端の列にだけなにやらウサギ……のようなマークが施されていた。

ちなみにだが全て手書きである。

どうにも手作り感が否めない。

そしてだが……その、ウサギ? の絵はとてもじゃないが上手ではない。

……これはもしかしてあの女神様の手作りだろうか?

あんなに可愛いお顔をしていたのに、絵が下手……じゃない、上手ではないとかギャップ!

オブラートに包まない言い方をすると、輪郭も歪んでいて、左右の耳の大きさも形も違い、ウサギではない。

だが必死に描いたのだろうと思い、その光景を思い浮かべて微笑んだ。

それにしても、どうしたんだろう。

気でも使ってくれたのか、それともスキルの元々の仕様なのかはわからないが、せっかくなので薄らと光っている一番左上のウサギ? のマークに触れてみたのだ。

パンパパパパパーン!

うおう。

突然ファンファーレがなり、驚きと同時にとても小さな物が地面へと落ちる。

「やべ……」

かなり小さかったし、しかも黒かった気がする。

まさか虫では無いよなと思いながら足元の草むらを探すと、ふと指に当たるどこかで触った事のあるような感触。

どこだったか……しかも何か懐かしい。

手に取り、それを見て俺は一瞬思考が停止してしまった。

それは、魚の形をした容器だった。

口には赤いキャップがついており、中には黒い液体が入っている。

まさかとは思えどもドキドキしながらキャップを開き、匂いを確認した。

すると、日本人のDNAを刺激するあの匂い。

間違いなく、嗅ぎなれた『醤油』の香りであった。

醤油! 醤油である!

まさかの醤油であった!

「……女神様、愛してる!」

なんで女神様が醤油を持っているんだとか、最近はこの魚型の容器もあんまり見ないなあとか思うよりも早く俺は行動に移る。

まずは魔法空間から取り出し、七輪もどきと網を用意!

今なお燃やしている薪に炭を放り込んで、熱するのだ!

「主君? どうしたんだ?」

次はお米だ!

炊きたて……は待てない。

仕方ない、俺の秘蔵の『唐突に食べたくなった時用』のご飯を出すとしよう。

まず手を洗い、お櫃を取り出して一食分より少なめのご飯を握る。

いかんせん醤油の量が少ないからな。

沢山食べたい気持ちはあるが、美味しくなければ意味が無い!

あとは三角形だ! 今回は三角形じゃないといけない!

「主? ごはん食べるの?」

炭を取り出して七輪にいれ、網を熱する。

まだかまだかと待ちきれないが、早めに置いてしまうとくっついてしまいかねないからな。

一番美味しいところを張り付かせてしまうのは、絶対に許されないのだ!

「何か凄く集中しているみたいね」

「ああ、ごめん! ちょっと今気持ちが昂ぶってるんだ! あ、それと少し出かけてくるからな!」

「何処にっすか?」

「同士の下に!」

「同士って……あ、隼人さんですか?」

「ああ。これは、これだけはどうしてもあいつじゃなきゃダメなんだ。ウェンディ達と、も……悩むがこれだけは、やっぱりあいつとじゃないとな……」

そうだ連絡をしておかないとだよな。

ギルドカードを取り出して、夜だろうと関係なく隼人の名前をポチっとすると、少し時間を置いて隼人が出た。

「もしもし隼人か? 出来れば今日このあと時間をくれないか? 後悔はさせないぜ!」

半分こしよう!

この今の俺の喜びを分かち合おうじゃないか!

『え、あ……え? ……いいですけど』

「それと、出来れば二人きりで会いたいんだが……」

量がないからな、見せたらきっと食べたくなっちゃうと思うんだ。

これからもっと手に入るかもしれないし、その時は振舞わせてもらうけど、今回は俺と隼人の分だけしかつくれそうにないしな。

『え……』

「大丈夫だ。必ず満足させてみせる」

いや、するね。

確信が持てる。

なんせこの世界にいる期間が隼人よりも短い俺がこんなにも待ち遠しいのだから!

『……わ、わかりました』

「それじゃあまた後でな! 楽しみにしておけよー!」

よし。

これで問題ないな。

さて、そろそろおにぎりを網の上に乗せてっと……。

「……主、夜這いに行くの?」

「え?」

「こ、こらシロ! 突っ込んじゃダメって言ったでしょ」

「でも、そうとしか聞こえなかった」

「そうっすけど! ご主人が男色だったらどうするんすか!?」

「ちょっとまって!? どうしてそうなった?」

俺はただ、隼人と食べたいものが、隼人と食べなきゃいけないものがあるだけだ!

その為に七輪でおにぎりを焼いているのだぞ。

あ、そろそろいいか。

しみこませてから焼いてもいいのだが、軽く焼き目を入れてからにしたいのが俺の拘りだ。

外はかりっと、少し焦げた香ばしい醤油の味わいで、中はじんわりひろがった醤油の味を楽しみたい!

「一応言っておくけど、違うからな。ちょっとこのおにぎりを隼人と食べたいだけなんだ」

「そうなのですか? でも、どうして突然……?」

「理由は……これだ!」

魚の形をした容器を見せる。

ちなみに、中身は使い切ってしまい残っていない。

「お魚?」

「入れ物だけどな。中身は元の世界の調味料だったんだ!」

しかも日本人にとっては馴染みの深すぎる、それも俺が求めていた醤油である。

「なるほど……。だからご主人様と同郷の隼人様なのですね」

「んー……香ばしい匂い。美味しそう」

「すまんなシロ……。次手に入った時は必ず皆にも振舞うから。だが今回は諦めてくれ!」

同じく日本人である隼人も、きっとこの味を待ち望んでいる事と思う。

だから今回は申し訳ないが我慢してくれ!

「ん。わかった。その時を楽しみにしてる」

「おう! お、そろそろいいか。それじゃあ行って来る!」

焼きあがった焼きおにぎりを皿の上に乗せて魔法空間へとしまう。

次に 空間座標指定(エリアポインティング) で隼人の座標を探し、転移魔法で一気に向かうのだ!

魔法空間にしまってあるので、熱が冷める事は無いが俺とて一分一秒が惜しく、速く食べたいのである!!

「お、お待ちしていました……」

「おう! お待たせ! さっそくだけどこいつを見てくれ!」

魔法空間から取り出したのは当然焼きおにぎりだ!

「これは……焼きおにぎりですか? え!? でもまさか……この匂いは!」

「そうだ! 正真正銘醤油で焼いた焼きおにぎりだぞ!」

「手、手に入ったのですか!? 醤油が!? 一体何処で!?」

「ふふん。気になるだろう? だがまずは食おう!」

俺は小さな焼きおにぎりを半分に割って片方を隼人に差し出した。

「えっと……いいんですか?」

「ああ勿論だ! 共に幸せを分かち合おうじゃないか!」

「では……」

「「いただきます!」」

口元へと運ぶと、醤油と米の焼けた香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

小さな焼きおにぎりでは、一口で口の中に納まってしまうが……その感動はとても小さいとは言えぬ物であった。

必要以上に咀嚼を繰り返し、この味を身体全体に染みわたらせるように味わう。

そして、ゴクンっと飲み込んだ。

「あー……美味かった……」

望んだとおりの味だ。

そしてそれが何よりも感動した。

醤油も米も日本人にとってはソウルフードと言える品だ。

それらを一緒くたにして味わう焼きおにぎりなのだから、そりゃあもうたまらない美味しさであった。

「隼人、どう……だ?」

「はぁ……最高でした……」

「そうか。そうだよな!」

「はい! でも、どうやって手に入れたのですか?」

「いやな、ユニークスキルのレベルが上がったらこんなのが届いてな」

ぺらっとスタンプカードを隼人に手渡して説明をしていく。

一番最初のウサギ? マークには丸い円がついており、次のウサギマークは4日後となっている。

「これは……え、女神様の手作りなんですかね?」

「多分な。でもそれよりもこのウサギ? マークだ。俺の予想だとこのマークのところで何かが貰えるんじゃないかって思うんだ!」

「あ、醤油って決まっているわけじゃないのですね」

「まだ一回目だし、わかんないけどな」

醤油確定だったらいいんだけどな。

でも5日ごとにこの小さな醤油では、少々物足りない……いや、醤油が手に入るだけでもいいと考えるべきか。

「良かったんですか? そんな貴重な物を僕と食べて……」

「馬鹿。お前と食べたいと思ったんだよ」

「イツキさん……」

俺たちは、固く熱い握手を交わしたのだった。

「…………ちょ、ちょっと押さないでよ!」

「あ、ダメなのです。倒れるのです!」

「こら。誰よ押してるのは」

「うう……重いです……きゃあ!」

そして、握手を交わしたとほぼ同時に扉から倒れこんできたのはレティ達。

「皆? なにをしているの?」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「なのです!」

「あ、あはは。私は止めたのよ?」

「はあ!? エミリーが一番乗り気だったじゃない!」

「は、隼人が意味深な事を言うから悪いのよ! なにが『……僕は今日……いや、何でもない。ただ、誰も部屋に入らないで二人きりにして欲しい……』よ! ただお米を食べてただけじゃない!」

……隼人?

「あはは……」

隼人?

「あははは……だってそう取れる言い方をしたじゃないですか!」

「いやそうかもだけど! 普通は違うと思うだろ!」

「やっぱりお兄さんはライバルなのです?」

「違うから! 俺は、女が好きなの!」

「ぼ、僕だってそうですよ!」

このあと、俺が隼人には手を出さないという別名『焼きおにぎりの誓い』が行われ事なきを得たのだが……。

勘違いしたと言うのなら、『わ、わかりました……』はまずいんじゃなかろうかと思わないでもなかったのだった。