軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-6 温泉街ユートポーラ 帰還報告2

次はバイブレータの納品をしにヤーシスのところに行かないとだな。

どれほどの頻度で売っているのかわからないが、そろそろ出かける前に渡した量じゃ足りないかもしれないしな。

錬金ギルドからヤーシス奴隷商館に向かう途中、中央広場から漂う美味そうな匂いに釣られ、シロと顔を合わせて牛串を2つ購入した。

シロで一本、俺とウェンディで一本だ。

朝食を食べた後なのだが、この街に帰ってきたら食べたくなってしまったのだ。

「毎度あり! また来てくれよあんちゃん!」

「おーう。俺はここのファンだからな」

「お、嬉しい事言ってくれるねえ! 次来た時はサービスするよ!」

「おいおいあんちゃん! 久しぶりに見かけたと思ったのに、今日は白パンはいらないのかい?」

「悪いな、朝食食べてきてるんだ」

「なんだい、今焼きあがった焼きたてなのになあ」

「焼きたてか……じゃあ1斤、いや2斤貰おうかな」

「お、さすがはあんちゃん! 太っ腹だね!」

相変わらず元気のいい屋台どおりだ。

それに、顔を覚えられると言うのは嬉しいもんだな。

……俺がそれほどここで牛串サンドを買っているという事か。

一先ず買った白パンは魔法空間に仕舞いこんで、夕食時に熱々を食べるとしよう。

牛串はここで食べてからだな。歩き食いも嫌いじゃないが、人にぶつかれば落ちない油の染みが出来てしまうし。

「お」

「ほらシロ」

「ん。ありがと」

「に」

「ウェンディ先に食べるか?」

「いえ、ご主人様からどうぞ」

「い」

「それじゃお先――」

「ちゃあああああああああああん!!!!」

「ふんぬらっ!!」

「ご主人様!?」

た、玉ぐぁっ……!!

潰れ……いや、感覚はある。大丈夫だっ!

「んー! 久しぶり! 久しぶりだよ! 酷いじゃないか帰ってきたのなら知らせてくれてもいいじゃないか! ああ、この、このう!」

この! 俺のふくらはぎをホールドしやがった!

ぐりぐりすんな!

俺の玉をぐりぐりすんな!

それは頬ずりじゃねえ、とどめだ!

鼻が当たるたびに響くんだよ!

「すぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁすぅぅぅぅはぁはぁはぁ」

「鼻で息をすんな!」

「芳しい。ああ、若い男の芳しい香りがボクの肺を満たしていくのが分かるよ!」

「変態がっ!」

「その通りだ! でも、君が言うのかい!?」

「俺はお前ほどじゃない!」

一緒にするな!

俺は変態レベル3、お前は変態レベル6だ!

ちなみにMAXが10である。

「いいじゃあないか! 久々の再会なんだ! 抱擁くらい許してくれよ!」

「抱擁どころじゃないだろうが! ……とりあえず落ち着け」

身長差って大切だよ。

抱きつかれるにしても、抱きつくにしてもな。

「むうう。分かったよ。それで、何時帰ってきたんだい?」

「昨日だよ。後でオリゴールのところにも行こうと思ってたんだが……」

「そうだったのか! ならいいよ! 許してあげよう!」

「はいはい。ありがとうありがとう」

俺は一体何を許されたのだろう……。

「それで、これから何処に行くんだい?」

「ヤーシスのところに仕事の用事だよ」

「へえ。面白そうだね! 僕も行こうかな!」

「んんー。俺としては別についてきてもいいんだが……」

「ん? どうしたんだい?」

まあなんだ。

一応の付き合いだから教えてやろう。

指でオリゴールの後ろを指し示してやる。

「領主様!! また逃げ出しましたね!」

「うっげえ……ウォーカスじゃないか」

「……逃げてきた……んだよな」

「そんな事は無いよ。毎日毎日毎日毎日、ぺったんぺったんぺったんぺったん! もう飽き飽きだ! だから今日のボクは街の為にも視察の仕事をする事にしたんだ!」

「はぁ……。黙って出てきたのか?」

「そりゃボクは領主だからね。ここじゃあ一番偉いんだぜ? 誰に許可を取れって言うのさ」

そりゃそうだろうけどさ。

ああ、ウォーカスさんの後ろから怒涛の勢いで走りこんできているのは確か……レンゲの事件の後に馬車で迎えに来てくれたソーマさんか。

……ソーマさんだよな?

「クソガキがぁ! 今日という今日は許さん! また大事な書類を執務室に散らかしたな! あれほど駄目だと言っているのに!」

第一印象は確かきりっとした老執事だった気がするのだが、今やその面影すらない。

「ソーマまできてる! これはやばいね。お兄ちゃん、残念だけどまた今度ご一緒しようね!」

「ああ……うん。わかった」

「それじゃあバイバイ! 『 微速前進(エアブースト) !』」

オリゴールが魔法らしき言葉を放つと、オリゴールの周囲に緩やかな風の流れが生まれる。

「はっはっはー! どけどけー! 領主様のお通りダー!」

オリゴールは小さな身体を活かし、町民の間を器用にすり抜けるように駆け、あっという間に小さくなってしまった。

あの感じ、普段から行っているのであろう。

迷い無く、そして誰かにぶつかる事も無く駆け抜けていったのだ。

「領主様!? 今日提出せねばならない物もあるのですよ!?」

「言っても無駄だ! どうせ日付が変わる直前に出してくるぞ!」

「くっ……警備隊も使いますか?」

「そうだな。暇している奴らを総動員させて捕まえるぞ!」

「「では皆様、失礼致します」」

二人は俺らに一礼をすると、とても老人とは思えない動きでオリゴールを追いかけていった。

「はぁー。大変だなあの二人も」

「まああれもアインズヘイルの名物みたいなもんだからな」

牛串屋のおっちゃん、慣れすぎだろ……。

いいのか領主があんなので。

いや、治め方についてはしっかりやっているようだし、領民にとっては別にいい……のか?

「それよりあんちゃん」

「ん?」

「肉、焼きなおそうか?」

あ……。

手に持っているのはすっかり冷めてしまった牛串。

シロはと言うと、ちゃっかり全て食べ終えてしまっていた。

「あー……頼む」

「あいよ。ちょっとまってな」

冷めても美味いが、やはり牛串は温かくてこそだと思う。

おっちゃんに焼きなおしてもらい、俺とウェンディで食べ終えてからヤーシスの商館に向かうことにした。

そういえばヤーシスの商館に来るのも久しぶりだな。

最近はヤーシスの使いの人が物は取りに来てくれるし、新たな奴隷を手に入れたいわけでもないので訪れることがなかったのだ。

「おやおや。旦那様に用事ですかな?」

「やす……あ、ああ。ヤーシスはいるか?」

「かしこまりました。旦那様をお呼びしてきますので、少々お待ちくださいませ」

安男!? お前本当に安男か!!?

言葉遣いも、気品も、オーラも、顔つきからなにからなにまで全く変わっているぞ!

「旦那様。特Aのお客様が玄関でお待ちです」

伝声管のようなものに声を放ち、こちらに向きなおすと、腰を90度曲げて頭を下げる安男。

「お客様。以前は大変失礼を致しました……」

「あ、いや。気にしてないからいいんだけど」

「ありがとうございます。もしまた奴隷が入用でしたら、なんなりとお申し付けくださいませ。私が担当することはありませんが、ご相談等などなんなりとお申し付けくださいませ」

物腰柔らかい!

わっかりやした! とか言わない!

何があったの!?

いや、何をされたの!?

「おや、お客様。お帰りになられたのですね」

「あ、ああうん」

ヤーシスが現れて話しかけられるが、それどころではない。

「? 一先ず奥の部屋に参りましょうか」

ヤーシスに連れられて、以前座ったソファーに腰をかけた。

いやあ……いまだにあの男の変わりようという衝撃が残ったままだぞ。

その事をヤーシスに話すと、

「はっはっは。驚かれましたか?」

「そりゃ驚くだろ……」

「磨けば輝く原石でしたからね。ようやくその片鱗を見せてくれましたよ」

「片鱗って言うか、完成形だろ……」

「あそこにユーモアが加われば完成ですよ」

確かに。

今のままでは堅苦しいイメージがあるかもしれない。

ヤーシスを見習うならば、冗談を交える場面もあるのが商談だと思ってしまう。

うわあ、ヤーシス二号が生まれるのか……。

「それで、本日はどのようなご用件ですか?」

「ああ、滞ってた分のバイブレータを持って来たんだが」

「おお、助かります。これでようやく予約分を捌ききれそうですね」

「捌ききれる……って事は、もう売れないのか?」

「いえいえ。貴族様でご所望な方を私が選んでおりましたので、次は第二次販売予定の方々にお売りしますよ。お一人で何個も欲しがっている方もいらっしゃいますからね」

そうか……ならまだ安定した利益にはなれそうだな。

だが、それでもいずれは頭打ちになりそうだな。

これはまた別の何かを考えておいた方が良さそうだな……。

販売方法はまたヤーシスを通して……、となると同じようなジャンルでまた何か考えてみるか……。

「さて、それでは……丁度50個ですね。それでは250万ノールと、魔力代の5万ノール。あわせて255万ノールですね」

ヤーシスが金貨を並べ、俺は枚数を数える。

金貨10枚の列が2つと金貨が5枚、それと銀貨5枚の列が一つで255万ノールだな。

「たしかに。ああ、そうだ。あとお土産があるんだった」

「お土産ですか?」

「うん。隼人からもらった物なんだが、甘い物とか大丈夫か?」

「私はそれほど得意ではありませんが、妻や子供が大好きなのでありがたくいただきます」

「そうか。じゃあ多めに持ってってくれ」

「では遠慮なくいただきますね」

「ああ。ただ一つは残しておいてくれ。多分……だが、メイラも好きそうだしな」

「かしこまりました。このあとはダーウィンの家に行かれるのですか?」

「そうだな。……ちなみに、あいつの家って何処だ?」

確か西地区統括だって言ってたから、西地区なんだろうけど……行った事無いんだよな。

なんか、怖そうだし……。

「この商館の通りをずっと真っ直ぐ行った先にありますよ。一目見ればすぐわかるくらい大きなお屋敷です」

「すぐわかるのか?」

「ええ、すぐわかります」

そうか。

ならとりあえず行ってみるか。

ヤーシスにはお土産の菓子袋を三つ渡し、来て早々ではあるのだが俺達は次の目的地、メイラやダーマのいるダーウィンのお屋敷に向かう事にした。