作品タイトル不明
5-18 (仮) 王都一武術大会チーム戦 - 二回戦 -
「悪いな、アイリス。ちょっとこれ落ちそうにないぞ」
「申し訳ございませんアイリス様」
「別に良い。そしてこやつについても諦めた……。これは外に出る際に汚れても良いものを選んでおるから気にしないでよいぞ。大方取れてはおるしの」
そうなのか?
でも高そうなドレスだし、隼人に油を浮かせる洗剤のようなものがないか確かめないとだよな……。
「えっと……変なタイミングで悪いんだけど、お腹も膨れたしそろそろ私達は準備してくるわね」
「ああ、次も頑張ってな」
「アイリス様、申し訳ありませんでした」
「良い良い。その分試合を楽しみにしているぞ」
「了解っす! 格好良く決めてくるっすよー!」
そういえばアイナ達の試合以降、殆ど見れなかったな……。
まあでもアイナ達の試合だけはしっかりと見れたからいいか。
今は、7戦目が始まった所のようだ。
全部で16チームだから、8戦目が終われば次はアイナ達の試合だな。
「ふわあ……それにしても、眠くなるような試合だな……」
アイリスが言うように7戦目の試合はお互い防御が主体の戦闘スタイルのため、武器の間合いに入っても手を出さずにいるような状態であった。
「退屈……」
「シロもか。ならば少し寝るか……」
「おいおい、アイナ達の試合ももうすぐだぞ」
「じゃがこの試合長すぎじゃろ。観客達も冷めているぞ」
確かに、あまりに静か過ぎる。
固唾を呑んでいるのかもしれないが、相手の隙を窺っているわけではなくお互いが打って来いと盾を構えているだけなのだ。
この感じだと皆飽きてしまっているのかもしれない。
「済まぬが少し眠る。あの三人の試合が始まる時に起こしてくれ」
「わかったよ」
アイリスは跨ったまま足を伝って深く座れるようにすると、身体をこちらに預けてしまう。
シロもそれに倣うようにしてこちらに来ると、二人とも頭を俺の胸に当てて目を瞑ってしまった。
俺はと言うと、寝てしまわれたらバランスも何もないので両手で抱き支えるしかなくなってしまう。
正直、俺も少し眠いのだが俺が寝てしまって二人に転倒されるとかなり困るので退屈だが起きているしかない。
ふわあああ……。
大きな欠伸を一つし、未だ動かない試合を見る。
頼むから早く終わってくれと、願わざるを得なかった。
「ほら、起きろって。そろそろ始まるぞ……」
「んん、んー……そうか、起きるか……」
なんとか7戦目の苦難を乗り切ると、8戦目はあっという間に終わってしまった。
なので次は小休止を挟んでから二回戦目が始まるぞというところ。
客達のテンションは7戦目に比べれば、大分上がってはいるがやはりトーンダウンした感じは免れない。
『それでは、二回戦第一試合を始めたいと思います! Aランク冒険者『 紅い戦線(レッドライン) 』対Bランク冒険者『 俊足の牙(ソニックファング) 』の入場です!』
『『『『ウオオオオオオオ!!』』』』
『この試合、普通に見ればランクが上の 紅い戦線(レッドライン) が有利でしょうが! 下克上はあるのでしょうか!』
副隊長が場を盛り上げようと頑張っているな。
その声でアイリスとシロも目を覚ましたのだろう、ウェンディから飲み物を受け取っている。
お、出て来た出て来……、あれ? なんかアイナ達の表情がおかしくないか?
「ぬ……? なんじゃ? なんか怒っておらんか?」
「だよな。なんか顔が強張ってるというか、やっぱ怒ってるよな?」
珍しくアイナも怒っているようにみえる。
レンゲに関しては既に臨戦態勢なのか、シャドーにも殺気が乗っていそうなほどやる気十分だ。
「ったくよー。何で俺らがまるで格下みたいにわざわざ言われなきゃいけねんだよ」
「どうせあいつら顔でAランクになっただけっしょ」
「わかんねえよー? お偉方に体を売ったのかも知れねえし」
「「「ぎゃはははははは!!!」」」
『ちょ、あの、聞こえてますよ?』
「いいっしょ? 別に」
「聞かれて困るのは俺らじゃないし」
「な? 奴隷のAランク冒険者さん?」
「ああ、別に構わないさ。それより、早く始めて貰えるだろうか」
アイナが冷静に……冷静に? 開始を促すと、副隊長は双方に目を向けてから腕を上げた。
『そ、それでは、試合を開始します!』
「ま、俺らがこいつらより強いってとこを見せ付ければ、問題ないっしょ」
「むしろ俺らの強さに惚れられたりして」
「まじ? やばくね? 俺アイナ貰いー!」
「あ、てめえずりいぞ。俺もアイナー」
「じゃあ俺ソルテー。あの生意気な顔が男に媚びへつらう瞬間とかたまらなく……あ?」
「いつまでうだうだやってんすか? もう試合始まってるっすよ」
頭の悪そうな表情で、頭の悪そうな会話をして油断している所に俊足で現れるレンゲに対応しきれるわけもなくボディを呆気なく打ち抜かれる剣を持ったチャラオA。
吹き飛ばされるわけではなく、その場で鳩尾を打ち抜かれたチャラオAは苦悶の表情を浮かべたまま膝を折り、地面に倒れそうになっていた所にすかさず顎を蹴られ、膝立ちのまま起こされる。
「倒れられちゃ困るんで、ちゃんと立ってもらっていいっすか?」
レンゲの目がハイライトが消えているかのように無慈悲にみえた。
「て、てめえ!」
「遅いわね。俊足が聞いて呆れるわ」
チャラオAが倒れないように今度は逆側から蹴りをいれようとしていたレンゲにチャラオBが襲い掛かろうとするが、それをソルテの槍が通せんぼのように塞いで行かせないようにした。
「なめてんじゃねえぞ! 女風情が!」
「あんたこそ、Aランクの冒険者を舐めないでくれるかしら? 身体を売る? 顔でAランク? そんなんでなれるなら、もっとAランク冒険者には女が多いんじゃないかしらね」
ソルテは通せんぼをしていた槍をそのままチャラオBの方に振りぬき、顎を狙って振るうが避けられてしまう。
「っは! 当たるかばーか!」
「当たるわよ。ほら、遅いからいくらでもね」
「ぶべらぶぶあ!」
ソルテは低めに槍を構えなおすと、突きの連撃をお見舞いし、そのことごとくが命中していく。
チャラオBは同じく槍を持っているにも拘らずソルテの槍になす術がなく徐々に後ずさっていった。
「これで終りね」
ソルテが一際槍を引き、既にグロッキー状態のチャラオBに槍を打ち込むとチャラオBは抵抗もなく場外へと突き飛ばされた。
「今の一撃はいらない。逆転の目が出る余計な一撃……」
「シロ?」
「ん、なんでもない……」
俺からすると、ソルテ達の強さが際立つ圧倒的な試合なのだが、シロの瞳には別の物が見えているのかもしれない。
「な、なんでこんな一方的に……」
「それが実力差というものだ」
「ふざけんじゃねえ! こんな格好悪い負け方してたまるかよ!」
剣と盾を持ったチャラオCがアイナに近づいていく。
流石に俊足の名がついているだけにその接近は速く、あっという間に間合いに入られてしまう。
「おら、どうしたAランク冒険者! 実力差がなんだって?」
「はぁ、速いだけで基礎がてんでなっていないなっ!」
キーンと甲高い音が鳴り響き、防御一辺倒であったアイナがチャラオCの剣を下から上にかち上げて体勢を崩させる。
「ふんっ!」
すぐさまチャラオCは左手で持っていた盾を構えて防御に備えるが、アイナは剣を横に構えると一歩踏み込んで力を込めて振りぬくと、金属のひしゃげる鈍い音がしてチャラオCは驚くほど速く後方へと吹き飛ばされていく。
「ほいっす」
そこにレンゲが襟首を掴んでいたチャラオAをリングぎりぎりの軌道上に投げてぶつけると、二人纏めて場外へと叩き出されてしまった。
会場はあまりに一方的で苛烈な戦闘にしんと静まり返っていた。
『しょ、勝者『 紅い戦線(レッドライン) 』! 圧倒的、圧倒的でした!』
『『『『『お……おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』』
アイナ達はまだ晴れぬ顔のまま歓声に答えると足早にリングを去って行ってしまう。
残された副隊長は満身創痍の『 俊足の牙(ソニックファング) 』を見ると担架を呼び、すぐに彼らを運んでいった。
「むう……圧倒的な迫力のある試合じゃったが、一戦目の方が良かったのう」
「感情的になりすぎ。……まあ予想は出来るからわからなくもないけど」
「シロ? なんじゃ、顔がこわばっとるぞ」
「ん……問題ない。主、お腹すいた」
「えええ!? さっき食べたばっかりだろう!?」
「ちょっとだけ空いた」
「何かあったかな……。ああ、昨日の分食べ損なった奴ならあるぞ」
とりだしたのはチキンを炙って塩と胡椒を振りかけただけのシンプルな肉。
「それでいい」
「はいはいっと」
シロに箱ごと渡すとすぐにフォークで食べ始めてしまう。
骨は取り除いているので丸ごと食べられるように工夫してあるのだが、まさか本当に一口で食べるとは。
あーあーほっぺがぱんぱんだぞ。
「ただいま」
「おかえり。って、何か不満そうだな」
「まあね。あーむしゃくしゃするわ」
「あれだけ暴れといてかよ……」
「あんなの物足りないわよ。試合内容もだけど最悪だったわ……」
ソルテは不機嫌そうな顔のまま腰を下ろして、置いてあったコップに飲み物を注ぐと、一気に呷る。
「なんじゃ、何かあったのか? そういえば試合開始前に何か言われておったな」
「あれは別に良かったのですけどね……。女だけで構成している以上そういう噂も絶えないでしょうから」
「そうなのか。ではどうした?」
「主を馬鹿にされた?」
「シロ、なんでわかったっすか?」
え、俺知らないところで馬鹿にされてたのか……。
「なんとなく。あの怒りようだとそう思った」
「その通りだ。我々の奴隷紋を見るや否や絡んできてな」
「そうっすよー! やれおっさんだとか、エロオヤジに買われたんだろうとか、相当好き者だなとか、好き勝手言いやがったんすよ!」
「事実だけど! エロオヤジなのは事実だけど他人に言われるのはむかつくのよ!」
「そうだ。主君は確かに選り好みのしない好き者だが、あいつらに一体主君の何がわかるというのだ!」
おっさん……エロオヤジ……好き者……。
自分で理解しているつもりではあったが、実際言われるとこう、クルものがあるな……。
おっさん……おっさんかあ。
20歳からこの年まであっという間に感じたもんな……。
体感時間で言えば20歳くらいが折り返し地点らしいし、もうそう言われる年齢なのか……。
「ご主人様!? 泣いちゃだめです! 心を強く持ってください! 私はそんなご主人様が大好きですよ!」
ウェンディ、ごめんよ、年を取ると涙腺が緩くなるそうなんだ。
そっか……俺ってもうおっさんなんだ。
26歳、10代からみれば立派なおっさんだよね。
しかもこの世界って結婚する年齢が若そうだし、そうなると26歳っておっさんだよね。
さらにエロ親父か……。
あれ、おかしいな……。
頬を温かいものが伝うよ。
「イツキさん気にしないでください! イツキさんはおっさんじゃありませんよ! 確かに少しエッチなのは事実かもしれませんが、むしろ年齢よりも子供っぽいですよ!」
「そうじゃな、こやつは子供っぽいと思うぞ」
「隼人はともかく、アイリスにフォローされると余計に傷つくんですけど……」
「なんじゃー! わらわがせっかく気を使ってやったのに!」
あと、26歳が子供っぽいって、フォローになってないからね。
ちょっと童心を成人式に置き忘れてきただけのつもりだったんだけど……そっか、俺って子供っぽいのか……。
隼人が言うんだからそうなんだろうな……。
おっさんが子供っぽいか……イタイなあ……。
「主、元気出す。シロがヤっちゃおうか?」
「ありがとうシロ……。ううん、大丈夫だから……」
シロの差し出してくれた骨無しチキンの味が、心なしかもの凄くしょっぱい気がした。