軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.神の使い?

目を開けたら、すぐ近くで綺麗な人が椅子に座って居眠りをしていた。

肩まである銀髪の人は男性なのか女性なのか、

大人なのか子どもなのかわからなかった。

もしかして神の使いなんじゃないかと思いついた時、

自分が何をされたのか思い出した。

黒髪の女性がナイフを持って近づいてきて……

「いやっ……いやぁぁぁ」

「!!」

「死にたくないっ」

「大丈夫だ!ジュリアンヌ!」

「いやっ!いやよ!お母様のところに帰して!」

「もうジュリアンヌを傷つけるものはいない!安心していい!」

「……え?」

名前を呼ばれ、ぎゅっと抱きしめられた。

温かい腕……

「もう大丈夫なんだよ」

「私、死んでいないの?」

「ああ、危ないところだったけれど、生きている。

もう安心していいんだ」

「……ここは天国じゃないの?」

神の使いに抱きしめられたと思えば、

私は死んでいないと言う。

じゃあ、あなたは神の使いじゃないの?

さっきまで居眠りしていたからわからなかったけれど、

私と同じ紫色の目をしている。

「ここはレドアル公爵家。ジュリアンヌのお母様の生家だよ」

「レドアル公爵家……伯父様の家?」

「そうだ。俺はジェラルド。君の従兄だ。

はじめましてだね?」

「従兄……ジェラルドお兄様?」

「ああ、そうだ」

お母様から名前だけは聞いていた。

伯父様の一人息子ジェラルドお兄様のことは。

ジェラルドお兄様は抱きしめるのをやめて、

私の両手をそっと握る。

見えた腕が傷だらけなのを見て、ハッとする。

「いやっ!見ないでっ」

「どうしたんだ?」

ベッドの毛布にもぐりこむようにして頭を隠す。

「急に動いたら危ない。まだ身体は治り切っていないんだ。

それに十日も寝たきりだった」

「……十日?」

「そうだよ。ロズリーヌ様がジュリアンヌの治療をしていたんだが、

倒れられたら困ると思って、今は休んでもらっている」

「お母様が治療を……」

「ああ。どうして急に隠れたんだ?

俺が怖がらせてしまったのか?」

不安そうな声を聞いて申し訳ないと思ったけれど、

バラバラに切られてしまった髪を見られるのが嫌だった。

「……見られたくないの」

「何を?」

「髪を……切られてしまったから」

ジェラルドお兄様が息をのんだのがわかった。

こんなみっともなく髪を切られた姿なんて見られたくない。

それが綺麗なジェラルドお兄様ならなおさら。

「……そうか。じゃあ、おそろいにすればいいか」

「え?」

何を言っているんだろうと思ったら、席を立ったらしい。

少し離れた場所からジャキジャキと何かを切るような音が聞こえる。

毛布のすきまから覗いてみれば、

机からハサミを取り出して自分の髪を短く切っていた。

「何をしているの!?」

「髪を切っているんだ。ジュリアンヌとおそろいになれば、

気にしなくて済むだろう?」

「そんな!ジェラルドお兄様が切る必要なんてないのに!」

「でも、こうでもしないと顔を見せてくれないだろう?」

バラバラに髪を切った姿でにっこりと笑う。

あまりのことに何も言えない。

私のせいでこんな風に髪を切らせてしまうなんて。

「あらあら。何が起きたのかしら」

知らない女性の声がしたから、またベッドの中にもぐりこんだ。

「ああ、母上。ジュリアンヌが目を覚ましました」

「その報告を受けてきたのだけど、その髪はどうしたの?」

「ジュリアンヌが髪を見られたくないというので、

俺もおそろいにすれば気にならないかと思いました」

「まぁ。……それはそうね、見られたくはないわよね。

じゃあ、ジュリアンヌのお世話はジェラルドにお願いするわ」

「もちろんです。そのつもりでしたから」

「それならいいわ。あとは任せました。

ジュリアンヌ、今は見られたくないでしょうからそのままで大丈夫よ。

私はマーガレット・レドアル。あなたの伯母よ」

「……伯母様?」

「ええ、そうよ。元気になったら可愛い顔を見せてちょうだいね」

「……はい」

とても優しい声。お母様に似ている。

お母様が本当の姉のように慕っている伯母様なのは知っているけれど、

まだ顔を見せる勇気はなかった。

足音が遠ざかって、ドアが閉まる音がした。

「もう出て来てもいいよ。ここには俺しかいないから」

「……」

見られるのは嫌だったけれど、

私のために髪を切ってくれたジェラルドお兄様を嫌がることはできず、

おそるおそる顔を出した。

「うん、いい子だ。まずは水分をとろうか」

「……」

言われてみればのどがすごく乾いている。

十日も寝たきりだったのならそれもそうか。

手渡されたグラスを受け取ると、レモンと蜂蜜が入った水だった。

わざと冷たくしていないのか、ごくごくと飲める。

「それを飲んだらまた横になろう。

まだ身体は回復していないんだ」

「……どのくらいで回復するの?」

「日常生活に戻れるのは三か月くらいかかると治癒士が言っていたな。

骨が折れていたし内臓も損傷していた。

無理はせず、ゆっくり休めばいい」

横になると、ジェラルドお兄様が手をつないでくれる。

「もう大丈夫だ。何かあれば俺に言って。

ずっと一緒にいるから」

「うん……」

本当に甘えていいのかなと思ったのをさとられたのか、

真面目な顔で言われてうなずくしかできない。

顔を見られたくはなかったけれど、一人になるのも怖かった。

目を閉じたら、またあの女の人が襲ってきそうで、

あの痛みを思い出してしまうのが怖くて仕方ない。

大丈夫、そう言いながら肩を撫でてくれるのが心地よくて、

気がついたら眠りに落ちていた。

それからはいつ目覚めてもそばにはジェラルドお兄様がいるから、

眠るのが怖いと思うこともなくなった。

三か月が過ぎた頃、ようやく立って歩けるまで回復できた。