軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絶対者の一日~夕方~

午後2時を過ぎたあたりで空模様が怪しくなり、ベルフリードたちは専用の小屋に戻り、ネピュラは快人の家の廊下で浮遊し、窓の外の景色を眺めていた。

彼女としては別に雨程度問題なかったのだが、快人が心配したために家の中に移動していた。

その後雨が降りはじめ、3時を過ぎた頃には大雨とはいかないもののそれなりの雨が降っていた。

(……若干手持無沙汰になってしまった。主様を心配させるわけにもいかないから、『雨が止む』午後8時頃までは家の中に居たほうがいいが……さて、なにをするか。主様は夕方に来客があるということだし、そちらに行くわけにもいかないか……今後を思えば、室内で出来る趣味も考えておくべきかもしれんな)

そんなことを考えながら窓の外を眺めていたネピュラだが、門の方に傘を差して歩いてくるふたりの人物を見つけた。

それを確認するとネピュラは移動し、リネン室のような用途で使用されている部屋から二枚のタオルを取ってから玄関へ向かう。

ネピュラが玄関に辿り着くと、丁度そのタイミングで玄関のドアが開き、快人の両親である明里と和也が帰ってきたので、ネピュラは明るい笑顔を浮かべながら声をかける。

「明里さん、和也さん、おかえりなさい! よろしかったらこちらを使ってください」

「あっ、ネピュラちゃん! ありがと~」

「助かるよ、傘を差していても少し肩が濡れてしまったからね」

持ってきたタオルを差し出すと、明里と和也は笑顔でそれを受け取り、濡れていた部分などを拭く。

「それにしても、朝出かける前にネピュラちゃんが雨が降るって教えてくれて助かったよ。それなりの雨だし、傘を忘れていったりしたら大変だったね」

「本当にね……こっちの世界には天気予報とかないからね」

「天気予報……名前の響きから察するに、その日の天気の情報を知らせるようなものでしょうか?」

和也が口にした天気予報という単語を聞いたネピュラが首を傾げながら尋ねると、ふたりはネピュラに天気予報について簡単に説明する。

もっとも、ほぼネピュラが予想した通りだったので、あまり追加で教えることも無かったが……。

「……なるほど、でしたら今後天気予報を聞きたいときは、妾にお尋ねください! その日の天気なら、お教えできると思いますよ」

「ははは、それは頼りになるなぁ」

「うんうん、ネピュラちゃんは可愛くて頼りになる凄い子だね」

「無論です。妾は絶対者ですからね!」

空中に浮かんだままで胸を張るネピュラを見て、和也と明里はとても微笑ましそうな表情を浮かべ、そのままネピュラと共に移動しながら楽し気に雑談を続けていった。

……もっともふたりは、ネピュラの発言が冗談でもなんでもなく、彼女の力をもってすればその日の天気など的中率100%で伝えることができるとは、分かっていなかったが……。

夕方に差し掛かったタイミングで快人の部屋にやってきたネピュラは、初対面である目の前の人物を前にして大きく首を傾げていた。

というのも、会ったことが無いその人物に紹介すると呼ばれたはいいものの、なぜかその相手はネピュラから大きく距離を取って離れており、やけに不安げな表情を浮かべていたからだ。

「……やっぱり応接室に移動した方がいいか」

「うん? なぜ応接室に移動する必要が? 挨拶ならここで出来るかと思うのですが……」

その様子を見て告げた快人の言葉の意味もネピュラにはよく分からず、彼女は不思議そうな表情を浮かべて聞き返す。

するとなぜか部屋の端に居たもうひとりが、驚愕したような表情を浮かべ、恐る恐るといった感じで口を開いた。

「……えっと……精霊は魔力に敏感なはず……だけど……ネピュラは……私のこと……怖くないの?」

「う、うん? 怖い? お話の趣旨がよく分からないのですが……妾と貴女は初対面だと思うのですか?」

「……う、うん……そうだけど……私には……死の魔力が……」

部屋の端に居る人物……アイシスもまた、ネピュラと同じかそれ以上に戸惑っていた。というのも、リリウッドや快人から話を聞いてネピュラに会ってみたいと口にしたものの、離れた場所から言葉を交わすか、特殊な仕様の応接室で会話をするかのどちらかになると予想していた。

というよりも、最初は応接室で顔合わせをしようとしていたのだが、快人がネピュラを呼びに行こうと部屋を出た際に偶然ネピュラが通りがかったため、そのまま部屋で挨拶する流れになってしまっていた。

これは、アイシスにしてみれば最悪の状況であるはずだった。咄嗟に部屋の端に移動して可能な限り距離を取ったものの、それでも死の魔力で怖がらせてしまうと、そう思っていた。

……だが、予想に反してネピュラはアイシスをまったく怖がっていない。演技とかでもなく、本当にアイシスの言葉が心底不思議といった表情だった。

(……死の魔力? ああ、たしかに精神に圧を与える類の魔力を感じるが、ソレのことか? 多少珍しいとはいえ、たまに見る程度の特殊魔力になにを……いや、いちおう権能級の力ということは、普通は珍しいのか? なるほど、その魔力が妾に影響を与えると心配していたわけか……舐められたものだ。その程度の特殊魔力が絶対者たる妾に影響を及ぼすことなどあり得ぬというのに)

アイシスが口にした単語である程度の事情を察したネピュラは、一度頷いたあとで笑顔でアイシスに近づいて声をかける。

「なんとなく事情は分かりましたが、妾には特に影響はありませんのでご安心ください。改めて、妾はネピュラと申します。よろしくお願いします」

「……そ、そうなんだ……あっ……私はアイシス……アイシス・レムナント……よろしくね」

「はい! よろしくお願いします、アイシスさん!」

「ッ!?」

戸惑いつつも自己紹介をして、つい反射的に差し出してしまったアイシスの手をネピュラは小さな両手で握って握手をした。

近づいてもまったく問題ないどころか、触れることさえ可能なネピュラにアイシスは驚いたような表情を浮かべたが、少しして嬉しそうに微笑む。

「……本当に……平気なんだ……大きな力を秘めてるみたいだし……それが原因かな? ……ネピュラは……凄いね」

「妾は絶対者ですからね!」

「……ふふふ……そっか……ねぇ……よかったらネピュラも……一緒にお茶しよう?」

「はい! ちょうど手持無沙汰でしたので、アイシスさんと主様が構わないのなら是非!」

口癖として定着しつつあるネピュラの言葉を聞いて嬉しそうに笑ったアイシスは、そのままネピュラを抱きかかえて膝の上に乗せて椅子に座る。

そして向かいの席には微笑まし気な表情を浮かべた快人が座り、そのままネピュラを加えて三人でお茶を飲みながら楽しく雑談を交わした。