作品タイトル不明
絶対者の一日~朝~
ネピュラが世界樹の精霊として現れてから十日ほど経つ頃には、彼女はすっかり快人の家の一員として馴染んでいた。
眠らない彼女だが快人たちが寝ている深夜などには、基本的に世界樹の枝に腰かけており、早朝日が昇り始めると行動を開始する。
まず始めに自分の本体ともいえる世界樹の景観をチェックし、枝などが伸びていたり葉の付き方のバランスが悪ければそれを調整する。
その後は同じように庭に生えている他の木や植物などの様子を一通り見て景観を整えたあとは、落ち葉を拾ったり噴水周りの清掃なども行ったりする。
快人の家の庭と繋がっているリリアの屋敷の庭も自分の領地だと言わんばかりに、リリアの屋敷の庭の方も同様に手入れを行っていると、そのタイミングでリリアの屋敷から出てくる人物たちが居た。
(……ふむ、ずいぶん早い。出てきたのは……葵さんと陽菜さんか、出かける支度をしているようだが……)
かなり早い時間に外出しようとしている葵と陽菜に近づくと、ネピュラは明るい笑顔で挨拶をする。
「葵さん、陽菜さん、おはようございます」
「あっ、ネピュラちゃん! おはよ~!」
「おはよう、ネピュラちゃん」
ネピュラの言葉を聞いて、陽菜が元気よく挨拶を返し、葵も微笑みながら挨拶を返す。十日の間にふたりもネピュラとは何度も話しており、すでにそれなりに仲良くなっている。
「おふたりとも、ずいぶん早くからお出かけですか?」
「ええ、今日は冒険者の仕事で少し遠出なのよ。とはいっても、夕方には戻れる予定だけどね」
「なるほど……う~ん」
葵の説明を聞いたネピュラは、一度頷いたあとで少し考えるような表情を浮かべた。
「……ちょっと、待ってくださいね」
「「うん?」」
首を傾げる葵と陽菜をその場に残し、ネピュラは世界樹の元に移動すると、葉を二枚取ってからふたりの元に戻ってきた。
そして、取ってきた表と裏で色の違う独特の葉をふたりに差し出す。
「これを持っていってください。簡単ですが『雨避けの魔法』をかけておきました。持っていれば、一日程度なら雨に濡れるのを防げると思います」
「……え? ネピュラちゃん……今日って、雨降るの?」
陽菜が驚きながら聞き返すと、ネピュラは空を一度見上げたあとで頷く。
「空気が少し湿っているのと、雲の動きや大きさを見た感じだと……昼過ぎぐらいから降ってくると思います」
「そ、そうなんだ……ありがとう、ネピュラちゃん。助かるわ」
「いえいえ、そこまで強くはならないと思いますけど……足元がぬかるむ可能性はあるので、少し早めに街に戻った方がいいかもしれません」
「ネピュラちゃん、ありがとう! それじゃあ、葵先輩、少し急ぎますか」
「そうね、焦ってミスが無い程度にね」
「おふたりとも、いってらっしゃい。お気を付けて!」
「「いってきま~す!」」
明るく手を振るネピュラに、葵と陽菜も笑顔で手を振り返しながら出発していった。ふたりの背が見えなくなるまで見送ったあとで、ネピュラは庭の手入れを再開した。
庭の手入れがある程度終わったタイミングで、大きな籠を持ったイルネスが屋敷の中から出てきたので、ネピュラはイルネスの元に移動して声をかける。
「イルネスさん、おはようございます! 洗濯ですか?」
「おはようございますぅ。ええ~午後からぁ、天気が崩れそうなのでぇ、早めに干して~昼前に取り込む予定ですよぉ」
「なるほど」
ネピュラとイルネスは、性格的な相性がいいのかかなり仲は良い。互いに気配り上手という共通点があり、なにかと話が合うのだ。
「庭の手入れも終わりましたし、妾もお手伝いしますよ」
「それはぁ、助かりますねぇ。量が多いですが~大丈夫ですかぁ?」
「もちろんです! 妾は絶対者ですから、造作もありません!」
「くひひ、それは~頼りになりますねぇ」
イルネスの隣を浮遊しながら笑うネピュラを見て、イルネスも笑みを零す。そのままふたりは一緒に洗濯物を干しながら、雑談を交わす。
「そういえば、イルネスさん。主様に許可をいただいたので、家の裏手に小さな畑のようなものを作ろうと思っています」
「おや~それはぁ、面白そうですがぁ、野菜を育てるのですかぁ?」
「いえ、茶葉を育てようかと思っています。なので、なにを植えるか考えてるところなんですよ」
「なるほど~ネピュラが育てるのならぁ、とてもよいものが出来そうですねぇ」
「ふふふ、妾は絶対者ですからね! 無論、素晴らしいものを作り上げてみせます……まぁ、実際のところは若干手持無沙汰なので、空き時間にできることを始めようかと思っただけですが……」
穏やかな空気の中で会話を行いつつも、ふたりの手はよどみなく動いており、大量の洗濯物もあっという間に干し終わってしまった。
ふたりが仲が良い理由の一つに、互いに様々な能力に優れるからというのもあるかもしれない。
その後もネピュラは快人が起きてくるまでの間は、イルネスの仕事を手伝いつつ楽し気に雑談を続けていた。