作品タイトル不明
究極の神⑤
神界の神域にて一部始終を眺めていたふたりの神、シャローヴァナルとエデン……ネピュラと快人の初顔合わせを見終えたあと、エデンは青ざめた表情で呟く。
「……なるほど、貴女の改変の力……なんとも恐ろしいものです。あの絶対者であるネピュラが、あそこまで我が子に従順になるとは……いったいどんな改変を?」
「格落ちと固有能力の制限です」
「いえ、そうではなく性格の方です。我が子に対して従順になったり、他者に友好的だったりという改変を……」
「そんなことしていませんが?」
「…………はい?」
不思議そうに首を傾げながら告げたシャローヴァナルの言葉に、エデンはキョトンとした表情を浮かべる。それも当然だろう、エデンはてっきりネピュラはシャローヴァナルの 物語の終わり(エピローグ) の力によってなんらかの改変を受け、それ故に快人に友好的だったりという態度をとっているのだと思っていた。
そうでなければ、多重世界の頂点に君臨していたネピュラが、一介の人間とまともに交流しようなど考えないはずだと……しかし、その予想に肯定の言葉は返ってこなかった。
「ネピュラの性格を改変はしていない? なにかしら制限を付けたりは?」
「快人さんに対して危害を加えられないようにとはしました。なので、精神的に傷つけるという意味であれば、暴言などは吐けないかもしれませんね。ですが、本当にそれぐらいですよ」
「……ではその……えっと……先ほどからネピュラが我が子を『主様』と呼んでいたり、明るい笑顔で社交的に接しているのは?」
「それは自分でやっているだけですね」
「…………そう…………ですか」
エデンは再び天を仰いだ。いまはなんとも言えない気分だった。彼女はネピュラと直接会ったことはなかったが、数多の世界の頂点に君臨する凄まじい存在だとは知っていた。
膨大な世界、そしてその世界の創造主たちを統べる圧倒的な力とカリスマ性には、少しの憧れもあった……だがそれは、粉々に砕かれた気分である。
「……私は疲れたので帰ります。格落ちさせているなら問題ないとは思いますが、反旗を翻すことを企てている可能性もゼロではないのですから、警戒は怠らないようにしてください」
そう告げて、頭を抑えながらエデンは神域から去っていった。とりあえずいまはゆっくり休みたい気分だった。
そんなエデンを、シャローヴァナルは不思議そうに首を傾げて見送っていた。
バタバタと慌ただしく屋敷の関係者などにも挨拶を終えた夜、ネピュラは世界樹の枝に腰かけていた。格落ちしているとはいえ準全能級の力を持つ彼女に睡眠など必要ではない。
いや、そもそも番犬として配置されているので、休む必要が無い体にするのは必然ともいえる。ともかく睡眠の必要が無いネピュラは、明かりの消えた屋敷を見つめながら思考していた。
(なんたる屈辱! なんたる有様! よもや絶対者たる妾が、下等生物共にペコペコと頭を下げる羽目になろうとは……ぐぬぬ、だがそれも一時のことだ。そう、いまは雌伏の時、妾は絶対者……必ず相応しき立ち位置に……む?)
思考の途中でなにかに気付いたネピュラは、フワッと座っていた枝から空を飛び、カーテンが締まっている一つの部屋……快人の寝室の窓をすり抜けて中に入る。
そして眠っている快人の……寝返りをうったせいで少しはだけていた布団を掛けなおしてから、再び窓をすり抜けて世界樹の枝に戻って腰かける。
(まずは現状を正しく整理すべきだな。忌々しいことだがいまの妾の力は準全能級……たかだか全能レベルにすら劣るほどに弱体化している。まぁ、たとえ相手が全知全能であったとしても、いざ戦いになれば絶対者たる妾の力により、全てを内包し勝利できる。だが、敵対せねば使えない上に、こちらがワザと敵対するように行動した場合にも発動しないという制限まで加えられているのは不便で仕方ない)
現状のネピュラはハッキリ言ってしまえば凄まじいレベルで弱体化しているが……番犬としては最強である。攻め込んでくる相手に関してはすべてを内包する力が発動するため、絶対的上位者として蹂躙できる。
しかし、それ以外では準全能級の力しか持たない。それでも世界の創造主レベルの力はあるが……かつての力を思えば、まったく話にならないレベルだった。
(……問題は全て内包する力が発動したのち、相手を処したあともそこで得た力が継続するかだ。以前ならば継続した。つまり、全能級の者が攻めてくれば妾は全能級の力を取り戻せる……だが、そこにも制限をかけてないなどという間抜けなことはしておらんだろうし、そうなるとやはり……む?)
そこでネピュラは再び思考を止めて枝から飛び立ち、再度窓をすり抜けて快人の部屋に入り、寝返りによってはだけていた布団を直す。
(……少し寝がえりの回数が多くないだろうか? ある程度の寝返りは必要だが、あまり回数が多いのも問題だ……いや、まだ誤差の範囲か? 念のため調べてみるか、その程度は弱体化した今でも容易……絶対者たる妾が居ながら主様……下僕が体調を崩すなど、あってはならない。そうなったとしたらそれは妾の落ち度、しかと注意しておかねば……ふむ、問題はなさそうだな。ついでに少し夢見がよくなるようにしておこう)
少し安堵したように息を吐いたあと、ネピュラは再び世界樹の枝に戻って腰かけ思考を巡らせていった。
神域では、シャローヴァナルが今日のエデンの様子を思い出して不思議そうに首を傾げていた。
「なぜか、今日の地球神は落ち着きが無かったですね。というより、やけに心配性だった気がします」
エデンは快人のことを心配しており、ネピュラが不満を爆発させることを恐れているような感じだった。何度も本当に番犬はネピュラでよかったのかと、別に作った方がよかったのではないかと言ってきたりもしていた。
しかし、シャローヴァナルにはそれが不思議だった。
「……あれほど心配する必要はないと思うのですが……はて?」
そこには両者の得ていた情報と印象の違いがある。エデンにとってネピュラは数多の多重世界を統べた頂点にして、絶対者であり、人間の下に着くことなど認めない存在だろうと、そう考えていた。
しかし、ネピュラを番犬に選んだシャローヴァナルの印象としては……。
「ちゃんと、私の知る中で……『最も善性が高く』『他者に対して優しい存在』を選んだので問題ないと思うのですが……不思議です」