軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宮間快人の長い一日⑨

そういえば、マキナさんが俺の世界の神様だと聞いて、少し疑問に思ったことがある。それは、なんというかシロさんのような強大な力をあまり感じないという点だ。

そこはかとないヤバさこそ感じるものの、シロさんと最初に会った時みたいな底知れなさは感じない。

「あはは、それは仕方ないよ。シャローヴァナルにバレないように極力力は押さえてるしね。それに、もし私が力のほんの欠片でも解放しちゃうと、この空間が圧に耐え切れずに『ぺっちゃんこ』になっちゃうかもしれないからね」

「……」

ぺっちゃんこ? 可愛く言ってるけど、ソレつまりマキナさんの力が強大すぎて、少しでも解放しようものならこの空間が押しつぶされてしまうってことだよね? なにそれ、怖い。

あとナチュラルに心を読まれたけど、シロさんといい神様的には標準の能力なのかもしれない。

「あっ、ごめん、怖がらせちゃったかな? 大丈夫だよ。もし仮にそうなったとしても、我が子には傷ひとつ付けないからね。いや、本当はもっと丈夫な空間を作ればいいんだろうけど、そうするとシャローヴァナルに気付かれる危険が増しちゃうからね」

「そ、そうなんですね」

「うん……この前も遠回しにクレーム入れられたからね。アレはある意味私も被害者みたいなものなのに……」

そうブツブツと呟いたあとで、マキナさんは自然な動きで高層ビルの縁に腰を掛ける。

「我が子は、椅子の方がいいかな?」

「そ、そうですね。椅子とかあると、助かります」

いくら夢の中みたいなものとはいえ、高層ビルの縁に腰かけるのはちょっと勇気がいる。幸いビル風とかはまったく無いので立っていても問題はないのだが、ここはお言葉に甘えさせてもらうことにしよう。

マキナさんが軽く手を振ると目の前に木造りの椅子が現れ、俺はその椅子に座る。

「あっ、せっかくだし、ご飯でも食べる? ここは夢の中みたいなものだから現実のお腹は膨れないけど、味は楽しめるよ」

「え? あ、はい。ありがとうございます」

「じゃあ、とっておきのご馳走を……」

にこやかに告げながら、マキナさんはどこからともなく紙袋のようなものを出現させて渡してきた。

神様が用意してくれた食事なんて聞くと、なんだか恐れ多いような気がするけど……いったいなんだろう? 中には個別に包装された丸い形の包みがふたつに、ドリンクとフライドポテト……うん? あれ? おかしいな……どこからどう見ても、チェーン店のハンバーガーセットにしか見えない。

いや、確かに美味しいとは思うし、俺も好きなんだけど……とっておきのご馳走? なんというか、ずいぶん庶民的な神様である。

「え? あ、あれ? 駄目かな? 私の大好物なんだけど……他のがよかった?」

「あ、いえ、少し驚いただけです」

実際駄目なわけではなく、本当にただ意外だっただけだ。神様がご馳走っていうぐらいだから、なにか俺が見たこともないような高級料理でも出てくるのかと……。

「高級料理……和牛のステーキとかかな!」

「……」

思ったんだけど、やっぱりこの方……想像よりだいぶ庶民的な感性をお持ちの気がする。具体的には高級料理と聞いてステーキを思い浮かべる辺りが、驚きの親しみやすさである。

なんというか、ところどころにヤバさとか湿度とか、そういうものは感じるが……なんとなく、悪い方とは思えない。

実際、俺はいま思い出せない状態だけど、知り合いみたいだし……いい人なんだろう。

「……ありがとうございます。いただきますね」

「うんうん、おかわりもあるからね」

ニコニコと楽しそうに笑っている姿からは、神様としての威厳は感じずどこか可愛らしい。

「……はぁ、食事してる我が子も可愛いなぁ」

けどなぁ、やっぱりなんか時折妙な寒気を感じるんだよなぁ……。

そんなことを考えながら紙袋からハンバーガーを取り出して食べる。なんだかんだで、普段は料理長が作ってくれた料理を食べることが多いし、ハンバーガーを食べるのは本当に久しぶりな気がする。

いや、アリスとかに言えば作ってくれそうな気はするので、また食べたくなったら頼むのもいいかもしれない。

「ああ、そう言えば我が子……ここに呼んだ一番の目的をまだ果たしてなかった」

「え? 目的、ですか?」

「うん……と言ってもすぐ終わるよ。我が子」

「はい?」

「……ありがとうね」

「へ?」

突然告げられたお礼の言葉に俺が首を傾げると、マキナさんは優し気な微笑みのままで告げる。

「いつかさ、我が子にはちゃんと直接会ってお礼を言いたいって思ってたんだ。なんだか、ずいぶん時間がかかっちゃったけどね」

「えっと……そのお礼というのは、一体なににたいしての?」

「私の大切な『親友』を救ってくれたことについて、だよ」

「……親友?」

「そうだね。せっかくだし、食事してる間、もう一度……今度はぼかさずに昔話をしよっかな」

そう告げてマキナさんは曇天の空を見上げながら、ゆっくりと語り始めた。とある世界での、ひとりの少女の物語……俺もよく知る『かつて英雄と呼ばれた少女』に関する話を……。