作品タイトル不明
六王幹部に会おう・七姫編⑥
希望に満ち溢れていた気持ちをいとも容易く地獄へ叩き落とした緑の悪魔……実に忌々しい話ではあるが、いつかこんな日が来るんじゃないかという思いもあった。
ラズさんと仲良くなり、畑で出来た野菜などをたまに貰っている時点で、いつかピーマンが現れるのは避けられなかった運命であり、その時に俺は果たして嫌な顔をせずに受け取ることができるのかという不安はあった。
幸か不幸か、これまで何度か野菜を貰った中にピーマンは存在しておらず、少し油断していた部分もあったかもしれない……だが、まさか、ここで現れるとは……。
こうなってしまえば、俺に選べる選択肢はふたつしかない。
ひとつは素直にピーマンが嫌いであることをふたりに打ち明けるというもの……この選択肢におけるメリットは言うまでもない。ラズさんもティルさんも無理強いをするような方ではないし、この選択肢を選べば俺がピーマンを食べるという事態は回避できるだろう。
だが、それを躊躇わせるのは……ちっぽけなプライド。いくら、実年齢が遥かに年上であるとはいえ、幼さを感じるふたりの前で『ピーマンが嫌いで食べれません』とか……正直言いたくない。ちっぽけな見栄を張りたい気持ちが、消えてくれない。
となると二つ目の選択肢……ピーマンが嫌いであることは打ち明けずに、我慢して食べるという方法。得られるメリットは俺のちっぽけなプライドの死守。デメリットは、ピーマンを食べなければならないこと。
一見するとデメリットに対してメリットが少ないようにも思えるが、ティルさんの心遣いを無にしないといった効果もあるので、悩ましいところだ。
打ち明けるべきか、黙っているべきか……まさに究極の難題といえるものに心の中で悩みまくっていると……予想だにしないところから助け船が出てきた。
「ティル、駄目ですよ。カイトクンさんはピーマンさんが少し苦手なのです。なので、別のにしたほうがいいですよ」
「あや!? そ、そうなんですか?」
「え、えぇ、まぁ、そうですね。少しというか、ほんの微かに……苦手と言えばそうかもしれないですね」
「それは、ごめんなさいです。ではでは、トマトとかはいかがですか?」
「……あ、はい、トマトは好きですよ」
そう、ラズさんがティルさんを窘めてくれたのだが……あれ? 俺、ラズさんにピーマンが嫌いって話したっけ? いや、してないはずだ……というか出来る限り、知られないようにしてきたつもりだ。
「……ラズさん、えっと、どうして俺が、その、ピーマンを少し苦手だって知ってるんですか?」
「えっとですね。前にクロム様が……」
「クロが?」
俺が首を傾げていると、ラズさんが以前にクロとのやり取りについてを話してくれた。
それは、二年ほど前に遡る。いつも通り畑仕事をしていたラズリアの元にクロムエイナが訪れ、快人についての話をした。
「ラズもカイトくんと仲良くなって、野菜とかをプレゼントする機会も出てくると思うんだ」
「はいです! カイトクンさんにも、ラズの作ったお野菜さんを食べてもらいたいですよ!」
「うん。ラズの野菜は本当に美味しいし、カイトくんも喜ぶと思うけど……ひとつだけ注意してほしいことがあるんだ」
「注意、ですか?」
「カイトくんは、食べられないとかじゃないんだけど、ピーマンの味が少し苦手みたいなんだよ。だからカイトくんに野菜を上げる時は、ピーマンは入れないで上げて欲しいんだ。もちろんカイトくんは優しいから、渡せば笑顔で受け取ってくれるとは思うけど、無理に苦手なものを食べてもらうこともないと思うからさ」
「あやや、そうだったんですね。ラズもお肉さんとかは苦手ですし、気持ちは分かるですよ! 分かりました、カイトクンさんにはピーマンさんは渡さないようにするです」
「うん、よろしくね」
そんな、短いやり取りがあり、ラズリアはソレを覚えていた。
……これは惚れ直す。なんという完璧な気遣いだろうか。
ラズさんが野菜を俺にプレゼントすることを見越して、あらかじめそういう話をしておいてくれたとは……だからいままでラズさんに貰った野菜にはピーマンが入っていなかったのか。
しかも、俺がピーマンを食べれないとは言わず、味が少し苦手という表現にすることで……『食べれるけどあまり好みじゃない』という風に思わせ、俺のちっぽけなプライドも守ってくれている。
さらに極めつけは、おそらく相当前……それこそクロが俺のピーマン嫌いを知ってすぐに言ってくれたのだろうが、特に恩着せがましくこちらに伝えたりはせず、こっそりサポートしてくれていた。
それこそ、今回のやり取りが無ければ、クロがそんな話をラズさんにしてくれていたなんて気づかなかったと思う。
正直ちょっと、いや、かなり感動している。なんというか表現するなら、繰り返しになるが惚れ直したという言葉がしっくりくる。
いや、本当にクロは……ベビーカステラ関連を除けば、非の打ち所がない恋人である。うん、本当に……ベビーカステラさえ絡まなければ……。