軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふたりでリゾート・後編

待て待て、おかしい。これはなにかがおかしい……え? もしかして俺、ジークさんが入る予定だった温泉に間違えてきちゃった?

いや……でも、いま明らかにジークさんは俺に話しかけてきたわけだし、俺が居ると分かって来てるよね?

突然の出来事に混乱していると、お湯をかける音が聞こえ、ジークさんが温泉に入ってくる気配がしたので慌てて顔を逸らした。

「ジ、ジークさん!? どど、どうしてここに?」

問いかけながらすぐに視線を下に……この温泉は……よし! 白っぽい濁り湯、ならセーフ……いや、別になにもセーフじゃないな。

「それが、なんと驚きなのですが……恋人になったら、一緒にお風呂に入る必要があるそうですよ」

「……はい?」

「以前、ルナがリリに話しているのを聞いた覚えがあります」

「いや、それは……」

たしかにその話は聞き覚えがある。というか、リリアさんが実際に被害を被ったルナさんのイタズラであり、ルナさんへのお仕置きを含めてすべてが終了している……筈だ。

しかし、ここにきてまさかのジークさんが!? そんな話を真に受ける人だとも思えないのだが……。

そんな風に考えながら、ジークさんが湯に浸かるのを待ってからそちらを振り向くと、ジークさんはからかうような笑みを浮かべていた。

これはアレだ、ルナさんの話が出まかせだと分かった上で実行してる顔だ。

「えっと、ジークさん?」

「まぁ、正直にいいますと……ちょっとした、子供じみた嫉妬のようなものです」

「うん?」

「この前の海水浴の時に、偶然話の流れで聞く機会があったのですが……私以外は皆カイトさんと一緒にお風呂に入ったことがあるという話だったので」

「……言われてみれば……確かに」

思い返してみれば、その通りである。いや、どれも俺がしようとしてそうなったわけでは無いのだが、ジークさん以外とは全員一回は混浴をした覚えがある。

「なので、せっかくの機会だったので……まぁ、その……もちろん、恥ずかしくはあるのですが」

ここでその照れたような顔は反則だと思う。しかも、なんとも理由がいじらしく……これは、拒否できない。

「えっと、じゃあ、その……一緒にお酒とか、飲みます?」

「はい!」

結局俺が折れる形でそう伝えると、ジークさんは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「それと、いちおう肩紐のないタイプですが水着も着ていますので、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」

「あっ、そ、そうなんですか……」

「着てない方が、よかったですか?」

「い、いや、そういうわけでは……」

「ふふふ」

「ジークさん!」

「すみません、なんだか反応が面白くて」

今日のジークさんはちょっとだけ小悪魔的である。しかし、まぁ、水着を着てくれているのは少し安心した。やっぱり緊張感が違うというか、着てないとどうしても意識してしまう。

少しほっとしつつ、マジックボックスから日本酒を取り出してジークさんと乾杯する。

「星がなんとも綺麗ですね」

「ですね、今日は雲も無いですし、満天の星空がよく見えますね」

「なんだか、すごく贅沢をしてる気分です」

「分かります、その気持ち」

穏やかに話すジークさんの言葉に同意する。こうした絶景の中でこうして愛しい恋人と穏やかに会話をしながら、互いに注ぎ合って酒を飲む。

う~ん、本当に凄く贅沢な時間を過ごしてる気分だ。特に落ち着いた雰囲気のジークさんと一緒だと、静かなこの気配も極上のように感じられる。

「……なんだかあの時に似てますね。ほら、ジークさんの家に遊びにいって、一緒に縁側でお酒を飲んだ時に」

「そうですね。あの時も綺麗な星空でしたね……もう、二年以上前になるんですね」

「早いものですね」

もっとも、途中で異世界に戻っていた俺としては、一年ちょっと前という認識なのだが、それをわざわざ口にするのは無粋というものだろう。

「……カイトさん、もう少し近くにいってもいいですか?」

「え? あ、はい」

「では、失礼します」

断りを入れたあと、ジークさんはスッと俺のすぐ隣まで近づいてきた。肩と肩が触れ合うほどの距離である。

水着を着ていると分かっていても、これだけ近くだとひどく緊張してしまう。実際水着はお湯に隠れているので、傍目には分からないレベルだし……。

そこで、不意にジークさんの肩に少しだけ力が入っているような、そんな気がした。顔が赤くなっているのは、湯と酒のせいだけというわけでもないだろう。

……それは、そうだよな。緊張してるのは俺だけじゃなくて、ジークさんもだよな。俺ひとりだけ、アタフタしてるのもカッコ悪いか……。

そう考えた俺は、緊張する気持ちを抑えつつ、そっとジークさんの肩に手を伸ばし、その柔らかくスベスベの手触りに少し驚きながらも、その体を抱き寄せた。

「ぁっ……ふふ」

一瞬驚いたような顔を浮かべたジークさんだが、少しして嬉しそうに笑うとコテンと俺の肩に頭を乗せて先ほど以上に体を寄せてきた。

緊張や気恥ずかしさもあるが、それ以上に強く幸せを感じる空気の中……俺とジークさんは無言で顔を見合わせたあと、軽く口づけを交わした。

「……あっ、そうだ。ごめんなさい、カイトさん、ひとつだけ嘘をついてしまいました」

「嘘?」

「本当は水着、着てませんでした」

「……」

うん、なんとなく抱き寄せて密着してる割には、水着の感触ないなぁとか思ってたけど……物凄く意識してしまうので、出来ればそれを打ち明けるのは、せめて温泉から出る直前とかにしてほしかった。