軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話・チェント、シエン~世界の変革は太陽と共に~

――世界は狭く、そして冷たいものだった……少なくとも、彼女たちにとっては。

チェントとシエン、双子として生まれた魔族である彼女たちにとって、当時の世界は酷く生きづらいものだった。

魔族は人族とは違い、必ずしも親が居るというわけでは無い。特に単一種と呼ばれる魔族は魔力を元にして生まれるケースが多く、親どころか同族すら存在しない者も珍しくない。

双子として生まれた彼女たちにとって、世界とはふたりのみで完結するほど狭いもので、温もりを感じない冷たく暗いものでもあった。

彼女たちが生まれた当時の魔界は、六王や爵位級という制度が広まり、大きく変革を迎えようとしていた時期だった。

彼女たちはそんな時代をふたりで支え合いながら生きていた。彼女たちは大きめな街を拠点として便利屋のようなことをしていた。

幸い魔界は変革であちこち混乱しており、生きていくだけの金銭を得ることは難しくはなかった。

チェントもシエンも、それで十分満足していた。彼女たちはそれなりに戦闘力はあり、どこかの陣営に属することも可能だっただろうし、それなりの地位に就くこともできたはずだ。

しかし、彼女たちはそれをよしとはしなかった。彼女たちは互いさえ居ればそれでよく、ずっとふたりで生きてきたのに、いまさら誰かに仕えようなどという気にもなれず、誰とも深く関わることなく便利屋を続けていた。

そんな彼女たちに訪れた転機……その切っ掛けは唐突だった。たまたま街で道に迷っている魔族を見かけて、案内をしようかと声をかけた。

無論親切心ではない。小銭程度は稼げるだろうと、そういう打算ありきだった。

「ホント!? すごく助かるよ!」

少しの報酬を貰って道案内した紫髪の女性にもなんの感慨も抱くことはなかった……『翌日また迷っているのを見かけるまでは』。

なぜ、二日連続で同じような場所で迷っているのか、呆れて顔を見合わせていると、女性の方がこちらに気付きまた案内をお願いされた。

そして、さらにその翌日、同じような場所で女性を見かけた時は思わずため息を吐いた。

「……それで、なんで貴女は三日連続で、しかもほぼ同じ場所で迷ってるんですか? 馬鹿なんですか?」

「不思議だね。昨日とは景色が違って見えるよ」

「通りが一本違いますからね……」

三日連続で迷っていた事実に、ふたりは心底呆れてしまった。そんなふたりに対し女性……トーレは、苦笑しながら告げる。

「いや~、実は長めの休暇を貰って観光してたんだけどさ、この街って結構道が複雑で難しいね」

「……いや、普通は一度目……遅くとも二度目に迷ったら、対策を講じようとはしませんか?」

三度道案内をしながら話すチェントだが、トーレはお気楽な様子で口を開く。

「大丈夫! 世の中、大抵のことはなんとかなるから!」

「……いや、なってないからいま迷ってるのでは?」

シエンもトーレにツッコミを入れるが、トーレはなにが楽しいのかニコニコと笑う。

「なってるよ? ほら、また君たちが助けてくれたからね」

「…‥それは、あくまで報酬目当てで」

「あっ! そうだ、いっそのこと休暇中街の案内とかしてくれないかな?」

「チェント……」

「…‥あ~休暇中にずっと道案内、もとい観光案内をしろと? 報酬次第ですね」

「ふむふむ、いくらがいいかな……」

トーレは馬鹿であるという結論に達し、チェントは呆れながらもとりあえず仕事としてなら応じることを告げた。

観光案内だけで報酬がもらえるなら楽なものではあるし、こちらを騙せるほど賢い相手にも見えない、報酬さえよければ受けても構わないだろうと、そう思っていると……。

「30日間だから、金貨3枚とかでどうかな!」

「「……は?」」

笑顔で告げたトーレの言葉を聞き、チェントとシエンは一瞬硬直した。そして、相談すると言ってトーレを少し待たせてから、離れた場所で話し合った。

「……30日の道案内で金貨3枚? シエン、どう思う?」

「怪しすぎるけど、騙そうとしてる様には見えないね……ひょっとして、どこかの金持ちの娘とか?」

「金払いがよく、世間知らず……それっぽくはあるけど、それならわざわざ私たちみたいな浮浪者とほとんど変わらないような子供を雇う必要ある?」

「……とりあえず、受けてみる? もちろん警戒はして、だけど……」

「金貨3枚あれば……魔法具ってやつも買える。受けて、見ようか……」

六王のひとりが発明したという魔法具は、極めて便利なものが多いが、まだ普及し始めたばかりで値が張るため、ふたりでは手が届かない。

贅沢がしたいわけでは無いが、食材を劣化させずに保存できると聞くマジックボックスに関しては、なんとか手に入れたいと思っていた。

だからこそ、これは好機と考え、ふたりは十分に警戒した上でトーレの依頼を受けた。

そして、30日間の観光案内となったわけだが……彼女たちは、それはもうトーレに振り回されまくった。トーレは基本的に楽観的であり、とりあえずなんとかなるだろうという精神で行動しまくるので案内も一苦労。

その上トーレはチェントとシエンも一緒に観光したり、遊ぼうと言ってきた。かかるお金はすべてトーレ持ちとあれば断る理由もなく応じたが、とにかくトーレは行動力があり本当に30日で広い街を回り切ってしまうのではないかと思うほどで……なんというか、ものすごく大変だった。

トーレは底抜けにポジティブであり、楽しむということがとても上手かった。興味を惹かれれば立ち止まってキラキラと目を輝かせたり、ささいなことで大袈裟に驚いたり、ともかくいまという瞬間を全力で楽しんでいるようなトーレの姿は……ふたりにとって、ひどく眩しかった。

トーレに振り回された結果、長く住んでいるはずの街で新しい発見があった。トーレに引っ張られて、いままで利用したことが無い高級料理店に入り、出された料理の美味しさに驚愕した。

一日たつごとに会話の頻度は増え、いつしか『トーレに言われて付き合っている』から『トーレと一緒に観光を楽しむ』ように心境も変わっていった。

そして、約束の30日目が近づくにつれ、ふたりの心には言いようのない寂しさが湧き上がってくるようになった。

彼女たちにとって、世界はふたりで完結するもの……だった。だけど、そこに三人目が強引に入り込んできてしまった。

冷たかったはずの世界で……互い以外の温もりを感じてしまった。

「……ねぇ、ふたりとも、私と一緒に来ない?」

だからこそ、30日間の案内が終わった時に告げられたその言葉は、ふたりの心を大きく揺さぶった。

トーレが浮かべる満面の笑顔は、目を背けるにはあまりにも眩しすぎて、差し出された手は、振り払うにはあまりにも温かかったから……。

そしてふたりは、トーレの手を取り、彼女と共に行くことを選んだ。そしてトーレに連れられて、クロムエイナとその家族と巡り合い、彼女たちの世界はどんどん広く温かくなっていった。

クロムエイナの指導により大きな力を得たふたりは、己たちの世界を変えてくれたトーレへの恩返しを兼ねて彼女の護衛に志願し、そしていまに至る。

ベッドの上に横たわり、トーレはぐったりとした表情で呟く。

「……滅茶苦茶叱られた。普通、あんなに叱る?」

アインとツヴァイにこってり絞られた様子のトーレを見て、チェントとシエンは苦笑を浮かべる。

現在は叱られた直後なのでこんな感じではあるが、底抜けにお気楽でポジティブなトーレのことなので、少ししたらケロッとしているのは目に見えているからだった。

……だからこそ、何度も叱られているわけなのだが……まぁ、懲りることはないだろうとふたりとも思っている。

「……トーレ姉様、なにか飲みますか?」

「あっ、紅茶がいいな! この前買ったやつがあったでしょ? あのオレンジみたいな香りのやつ!」

チェントが一声かけただけでこの様子である。これはまたその内、すっかり忘れて今回みたいに勝手に出かけるだろうと、そう思ってふたりはため息を吐く。

本当に困った話ではあるが、チェントもシエンも……心底トーレのことが大好きで、心から慕っているため……なんだかんだで甘くなってしまう。

「そうそう、ふたり共聞いてよ。前にクロム様に教えてもらった海鮮料理のレストランに行ったんだけど、結構おいしかったから、今度は三人で行こうね」

「あぁ、あの店ですね。私とシエンも少し気になっていました」

「トーレ姉様はなにを食べてきたんですか?」

もうすっかり元気になったトーレが楽しそうに話し、チェントは三人分の紅茶を用意し、シエンは茶請けの菓子を用意してトーレと同じテーブルについた。

――彼女たちにとって、世界は狭く冷たいもの『だった』。

――彼女たちにとって、世界はふたりで完結するものだった。

――そう、突然巡り合った『3』の名を持つ底抜けに明るい太陽が……彼女たちの世界を照らすまでは……。