作品タイトル不明
魔界の都市で①
フュンフさんとの話も終わり、俺とジークさんは予定通りふたりで街へと観光に向かった。
当たり前といえば当たり前だが、シンフォニア王国の首都とはまた街の雰囲気が大きく違う。
シンフォニア王国はなんというか、俺が思い浮かべる中世ファンタジー的な街並みといった感じだったが、ここはもう少し近代的な印象がする。
まず道が綺麗に整備されていて、材質はわからないが日本などでよく見たアスファルトの道路のような印象を感じる。
あとは建物の大きさが結構まちまちな印象を受けるが、これは住んでいる人の体躯の差が人族に比べて大きいからだと思う。
「……すごいですね。ハイドラ王国よりも進んでいて機能的な街並みに見えます」
「たしかになんか全体的にスマートにまとまってる感じがしますね。やっぱりトップ商会が多く集まる経済都市だからですかね?」
「それもひとつの要因だと思います。あとはやはりそう言った商会が多いからこそ、最新鋭の技術が集まりやすいのかもしれませんね」
ジークさんも魔界にはあまり着たことがないみたいで、興味深そうに視線を動かしていた。
「ジークさんもあまり魔界には来たことが無いんですか?」
「そうですね、人界であればともかく、魔界となると旅行するにもそれなりに費用が必要ですし、単純に日数もかかります。人界から魔界への転移はかなり高額ですし、通常はゲートを経由しての移動になりますからね」
「たしかに、転移魔法の魔法具も高価ですしね」
「はい。人界から魔界に転移可能なレベルとなると一般人にはとても手が届かないもの……だったはずなんですが、いまは手が届きそうなので戸惑っています」
そう言って苦笑するジークさん。その理由はペットであるレインボードラゴンのセラだった。というのも、どうやらアリスがセラのレインボーダイヤモンドを素材としてかなり気に入ったらしく、たびたびジークさんから購入しているのだ。
何処まで真実かはさておき、金が無いと言いつつもそこは世界最大と言っていい配下を持つ王、かなりの高額で買い取っていくためジークさんの手元には相当のお金が転がり込んできたみたいだ。
「……お金があり過ぎて使い道に困るなんて初めての経験ですよ。私はリリの屋敷に住み込みですし、お金を使うような趣味も無いので」
「いっそ、本当に転移魔法の魔法具買ってしまうというのは?」
「たしかに、今後フュンフ様のところに通うことを考えると……ありかもしれませんね」
「なら、せっかく世界最大の魔法具商会の本拠地がある街に来てるわけですし、見に行ってみますか?」
「ふふ、そうですね。行ってみましょう」
俺の提案に微笑んだあと、ジークさんは嬉しそうな様子で俺の手を握った。少しはしゃいでいるように見えるのは俺の気のせいではないだろう。
なにせ、俺の方もこうしてジークさんとデートするのは楽しくて、テンションが上がっているのだから……。
以前にもオルゴールの魔水晶を買うために訪れたが、さすが大商会の本部だけあって離れた場所からでも分かるほど非常に大きい建物だ。
楽しく雑談をしながら本部に隣接する直営の店の前まで辿り着くと……なにやら入り口で焦った表情を浮かべているふたりの少女が居た。
「居た?」
「居ない……あ~もぅっ! また抜け出して!!」
「どうして姉様は、戦闘力は皆無なのに隠密行動だけはうまいのか……探知魔法もすり抜けてて、見つからない」
「それほど遠くへは行ってないはずだから、急いで探そう」
双子だろうかよく似た顔立ちのふたりで、片方は赤紫の髪を右サイドテールに、もう片方は青紫の髪を左サイドテール。スーツに似た服で腰にはそれぞれ大きな刀を携えていた。
話を聞く限り誰かを探しているように思えるふたりは、不意にこちらに気付くと慌てた表情で駆け寄ってきた。
「すみません、そこの方々、紫のポニーテールで背の高い女性を見ませんでしたか?」
「いえ、俺は見てないです」
「私も同じく」
「そうですか……突然失礼しました」
それほど注意して行き交う人を見ていたわけでは無いが、高身長の女性を見た覚えはない。ジークさんも同じように首を横に振る。
俺たちの言葉に軽く肩を落としつつ、頭を下げる赤紫の髪の女性とこちらを見てなにかを考えるような表情を浮かべている青紫の髪の女性。
「……ひとまずはこの人たちが来たのと逆方向を探してみよう……って、どうしたのシエン?」
「……この人、どこかで見たような気が……えっと、どこだったっけ?」
「いまはそんな事より、トーレ姉様を探すのが先だよ!」
「そうだね……ごめん、チェント。急ごう」
俺を見て何かを思い出そうとしているような様子だった青紫の髪のシエンと呼ばれた女性は、赤紫の髪のチェントと呼ばれた女性に声を掛けられ、ハッとした表情になったあとで俺たちに頭を下げて去っていった。
「……知り合いとはぐれたんでしょうかね?」
「おそらくは……それにしても、あの二人は凄まじい実力者ですね」
「え? そうなんですか?」
「はい、たぶん伯爵級でも上の方ではないかと思います……ただ、名前に覚えは無いですね。アレだけの実力者なら、有名でもおかしくないと思うのですが……まぁ、単純に私が知らないだけで魔界では有名なのかもしれませんけど……」
奇妙な出会いに首を傾げつつも、気を取り直して俺たちは店の中に入っていった。