作品タイトル不明
城門の巨兵③
簡単な自己紹介を終えたあとで、フュンフさんは優しげな表情のままで告げる。
「立ち話もなんだし、私の部屋に招待するよ。けど、ちょっとだけ待ってね……オートコントロール」
そしてパチンと指を弾くように鳴らすと、瞬く間に先ほど見た巨大甲冑が出現する。そしてフュンフさんの言葉に反応して、ひとりでに動き出し最初に居た門の前に戻っていった。
「よし、それじゃ行こうか!」
「はい……って、あれ? 髪に服が……」
巨大甲冑の方に向けていた意識をフュンフさんに戻して驚愕した。いつの間にかショートヘアだったフュンフさんの髪が腰ほどまで伸びて緩くまとめられており、服装もスーツっぽい服装に変わっていた。
「うん? ああ、私の髪の長さは本来こっちだよ。戦闘したりするときは邪魔だから短くしてるけどね」
「なるほど……」
「フュンフ様、先ほどのはゴーレムを自立行動させる魔法ですか?」
「その通りだよ。まぁ、私は自分から切り離して独立発動させる術式はあまり得意じゃないから、私が動かしてる時よりは数段性能は落ちちゃうけどね」
俺たちの質問に答えながら歩き出したフュンフさんに続いて移動する。ジークさんはフュンフさんの使用していた魔法に興味があるのか、移動中もいくつかの質問をしていた。
「……と、そんな感じかな、詳しくはまた改めて教えるよ」
「ありがとうございます、参考になりました」
「気にしなくていいよ……けど、ふむふむ、なるほど……」
ジークさんの質問がひと段落したタイミングで、フュンフさんはジークさんを見てなにかに納得したような様子で頷く。
「クロム様が私を推薦するぐらいだから、たぶんそうだろうなぁとは思ってたけど……ジークリンデは、練成魔法の資質が高そうだね……っと、着いたよ。ここが私の部屋、ささ、どうぞ」
話の途中でフュンフさんの部屋に辿り着いた。フュンフさんの部屋はシンプルながら大人っぽくお洒落な家具が揃った綺麗な部屋で、その広さも相まってモデルルームのようにも見えるぐらいだった。
「ふたり共なに飲む? 紅茶、コーヒー、ジュース……いちおうお酒もあるけど」
「えっと、それでは紅茶を」
「俺も同じもので」
「了解、ちょっとだけ待っててね」
やはりなんとなく雰囲気がお姉さんっぽい感じで、会話のテンポが非常に軽快だ。実際クロの家族の中で上の方ということは、たくさんの弟や妹がいるようなものでもあるわけだし、納得できる部分もある。
というか、なんとなくではあるが口調と言いフィーア先生に少し雰囲気が似てる気がする。
そんなことを考えているうちに紅茶が用意され、フュンフさんはお茶菓子と一緒に俺たちの前に置いたあと、自分の分の紅茶を持って俺たちの対面に座った。
「……それで、さっきの話の続きだけど、たぶんジークリンデには練成魔法の素質があると思うけど、いままで使ったことはあるかな?」
「い、いえ、さすがに練成魔法ほど高度な魔法は……」
練成魔法はたしか、ノインさんが使っている魔力の物質化を行う魔法だったはずだ。クロに教わった限りでは、魔力の消費が大きく魔族の中でも使える者はそれなりに高位の者だけ。
その上、爵位級とかのレベルでも人によってかなり得意不得意が分かれる魔法らしい。それこそ伯爵級クラスでも、使えはするものの苦手であまり積極的には使わない人も多いとのことだ。
「そっか、じゃあ実際に指導することになったら、練成魔法の基礎から教えていくね」
「はい! よろしくお願いします」
そこまで話すとフュンフさんは一度紅茶を飲んで一息入れ、真剣な表情を浮かべながら俺の方を向いた。
「……話は少し変わっちゃうけど、カイトには前から会いたいと思ってたんだ」
「俺に、ですか?」
「うん、クロム様や家族から話を聞いてっていうのももちろんあるけど……それ以上に、ずっとお礼を言いたかった」
「……お礼?」
どうにも要領を得ない言葉に首を傾げていると、フュンフさんは椅子から立ち上がって俺に深く頭を下げた。
「……ありがとう、フィーを助けてくれて」
「えっと……」
「フィーってのは、フィーアのことだよ。私とフィーは同じぐらいの時期にクロム様に拾われてね、ずっと姉妹みたいに育ってきたんだ。だけど、私にはフィーを救うことはできなかった……だけど、カイトのおかげでフィーは前を向いて歩けるようになったみたいで、本当にどれだけ感謝の言葉を尽くしても足りないぐらいだよ」
先ほどフィーア先生と雰囲気が似ていると感じたのは、間違いではなかったみたいだ。フュンフさんからは本当に深い感謝の気持ちが伝わってきており、フィーア先生が前向きになれたことを心の底から喜んでいる。
「俺は……」
「はい、ストップ!」
「え?」
「たとえ切っ掛けがなんであれ、フィーが君に救われたのも、私が君に感謝してるのもゆるぎない事実なんだよ。だから、ここでは謙遜はせずに、素直に感謝の気持ちを受け取ってほしい」
「……」
「改めて、本当にありがとう」
「……はい。どういたしまして」
なんとなくではあるが、このやり取りはフュンフさんにとってとても大事なものなのだと感じた。だから、余計なことは言わず、フュンフさんの言葉通り感謝の言葉に素直に頷く。
俺の言葉を聞いて少しするとフュンフさんは下げていた顔を上げた。その表情は、とても晴れやかな笑顔であり、彼女にとってなにかしらの区切りがついたことを感じることができた。