軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絶対服従らしい

突然シロさんによって送りこまれてきた軍人風の女性、アニマ。元ブラックベアーだと告げる彼女に驚いているが、最大の疑問は何故俺に仕えたいと思っているのかだ。

仮に彼女が俺の手によって倒されたとかならまだ分かるのだが、俺は別にアニマに勝ってなどいない。寧ろ傷の一つも与えられないままにやられた筈だ。

「何故、君はミヤマくんに仕えようと思うんだい? ミヤマくんが君より強いと言う訳ではないのだろう?」

どうやら同じ事をレイさんも考えたらしく、アニマに対して質問を投げかける。

問われたアニマは、切れ目を鋭くレイさんの方に向け、睨みつける様にして言葉を発する。

「愚か者が! 力だけで主従が決まるとでも思っているのか! 国王より強い騎士など、この世界にも山ほどいる筈だ! そも、ご主人様に自分と同じ身体能力があったなら、あの戦いはご主人様の圧勝で終わっている!」

「……ミヤマくん、ミヤマくん。何かこの子、君と話してる時と全然態度違うんだけど!?」

「え、えと……アニマ、俺もそれについては知りたいから、何で俺に仕えようと思ったのか教えてもらって良い?」

「はっ!」

レイさんに対して、今にも襲いかかりそうな……威嚇に近い形相で怒鳴りつけていたアニマだが、俺が尋ねると即座に姿勢を正す。

「昨今、武器を持っていても自分から逃げる者も多い中、ご主人様は果敢にも自分に素手で挑みかかりました。明らかに戦闘能力と言う点で自分に劣るのに、一切の恐れも躊躇も無く」

「う、うん」

いや、アレはオートカウンターで顔も動かせなかっただけで、内心ビビりまくってたんだけどね。

後成り行きでそうなってしまっただけで、俺一人で遭遇してたら即座に逃げてたよ。

「あの時のご主人様の雄々しく勇ましい瞳……自分の心は業火に晒されるが如く焼かれ、ご主人様の虜になりました! ですが口惜しい事に、ブラックベアーだった時の自分は特殊個体の命に逆らう事が出来ませんでした!」

「それは、何かそういう能力って事?」

「はい! ブラックベアーの特殊個体は、他のブラックベアーを従える洗脳魔法に似た力を有しております! 最も今の自分は、元ブラックベアーではありますが、別の生命として生まれ変わっておりますので、ご主人様に牙を向けることはあり得ません! その点はご安心ください! この身も心も、ご主人様の為に存在します!」

つまり、アニマの話を要約すると……俺が明らかに弱いにも拘らず、アニマに挑みかかったから、その勇気に感銘を受けて仕えたいと思ったと言う事らしい。

大分誤解の様な気もするんだけど……アニマの中では、もう俺が主なのは確定らしい。

「う、うん。大体分かったよ。説明してくれてありがとう」

「勿体ないお言葉です! では、どうぞご主人様、何なりとご命令を!」

「え? 命令?」

「はい! この身はご主人様のご命令を受ける事こそ至上の喜び! さあ、何なりと!」

「……えと」

物凄く期待を込めた瞳でこちらを見つめてくるアニマだが、いきなり命令をしてくれと言われても……

「いや、その、特に命令とかは……」

「そ、そんな! じ、自分では、ご主人様のお役に立てないのでしょうか……」

いやいや、そんな世界が終わったみたいな絶望に染まった表情浮かべられても!?

どうしよう、コレ何か命令しないといけないの? でもそんな急に思いつかない。

「……ミヤマくん、少し相談があるんだけど」

「え?」

どうしようかと悩んでいる俺に、レイさんが小声で話しかけてくる。

「実はミヤマくんも多少は聞いてると思うけど、今リグフォレシアの警備隊がガタガタでね。猫の手も借りたい様な状態なんだ。だから、ある程度再編成が終わるまでの間、この子を貸してくれないだろうか? 元ブラックベアーって言うなら、戦闘能力は十二分なんじゃないかと思うし」

「それは、俺としては構わないんですが……」

アイシスさんによって半数近くの隊員が心を折られた警備隊に、アニマの力を貸してほしいと言うレイさんの言葉。

確かに現時点では俺にコレと言った命令なんてのは思い浮かばないし、間接的とはいえ警備隊の心が折れたのは俺のせいでもある。

俺の言葉を聞いたレイさんは、一度頷いてからアニマの方を向く。

「アニマくん、やっぱり君は戦闘能力には自信があったりするのかな?」

「あ゛? 何を気安く話しかけてきているゴミが、八つ裂きにされたいのか!」

「……えと、アニマはどのくらい強いのかな?」

「はっ! 自分はこの肉体を得た際、シャローヴァナル様より子爵級高位魔族と同程度の戦闘力を与えられております!」

「……やっぱり、この子は元ブラックベアーだ。ミヤマくん以外には殆どバーサーカーみたいなものじゃないか……」

それはもう分かりやすい程に俺とレイさん相手で態度を変えるアニマ。何と言うかその……濃い性格してるなぁ、この子。

ともあれどうやらアニマは元々の強さ以上に、シロさんから高位魔族に匹敵する力を与えられているらしい。

爵位級高位魔族並の力って、相変わらずあの天然女神は加減と言う言葉を知らないらしい。

「じゃあ、アニマ。エルフ族の警備隊が、今かなりガタガタらしくてね。それの再編成がある程度形になるまで、そっちに協力してもらいたいんだけど……」

「はっ! 了解いたしました! 不肖アニマ! 全身全霊を持って、ご主人様の命を完遂いたします!」

とりあえず警備隊への協力をしてほしいと告げると、アニマは物凄勢いで敬礼し、嬉々とした表情で答える。

余程俺の命令が聞けるのが嬉しいらしい……うん。本当に個性的な子だ。

「いや、心強いよ。それじゃあ、アニマくん。警備隊に話を通すから、私についてきてくれるかな?」

「黙れゴミ虫! 自分に命令して良いのは、この世でご主人様ただ一人だ!」

アニマの了承を受けて、レイさんが微笑みながら話しかけると……アニマの爪が物凄い勢いで伸び、レイさんの首筋に付きつけられる。

ブラックベアーの武器は凄まじいパワーと強靭な爪だが、どうやらアニマの武器も爪らしい。

「……ミヤマくん」

「アニマ。レイさ……レイジハルトさんの言う事をちゃんと聞く様に」

「はっ! 失礼致しましたレイジハルト殿! ご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします!」

「……凄いよ。ここまで極端に分かりやすい子、私も初めて見たよ」

どうやらアニマは本当に俺以外からの命令を聞く気は無いみたいだが、レイさんの指示に従う様に告げると、伸ばしていた爪を引っ込めて敬礼をする。

そして俺に丁重に挨拶をした後、レイさんについて警備隊の元へ向かっていくその背中を見ながら、俺は大きく溜息を吐いた。

拝啓、母さん、父さん――元ブラックベアーのアニマは、苛烈で分かりやすい性格をしていて、俺以外に対しては物凄く攻撃的だった。ただ幸いだったのは、俺の命令に関しては――絶対服従らしい。