作品タイトル不明
海水浴中編⑧
アイシスさんとフェイトさんのペアの元では、大きなトラブルも起きず終始三人で和気藹々と楽しむことができた。微妙な出来だった俺とフェイトさんの作品も、アイシスさんからアドバイスをもらいつつ修正したことで、最終的にはそれなりにいい感じに仕上がった。
なんというか、シロさんとリリアさんのペア、クロとジークさんのペアと、なんだかんだでトラブルというかハプニングが連続して多少気疲れしていたので、終始穏やかに雑談が続くこのペアの元は非常に心癒された。
というか、何気にアイシスさんとフェイトさんは雑談をするにしても相性がいい。フェイトさんはよく喋り、アイシスさんはどちらかというと物静かなタイプなので、フェイトさんが話題を提供してそれにアイシスさんが応じるという形がとてもしっくりきていた。
それこそ場合によっては俺が間に入る余裕もないほど、ふたりの会話が盛り上がっていることもあった。意外と言ったら失礼かもしれないが、このペアが一番上手くいってるような気もする。
できればそのまままったりと冷たいドリンクでも飲みながら雑談を楽しみたかったが、これ以上長居するとお昼までに残るペア……アリスとアニマの元に行けなくなってしまうので、後ろ髪引かれる思いをしつつもアイシスさんとフェイトさんに断りを入れて、次のペアの元に向かうことにした。
残すところ最後のペアであるアリスとアニマは、海から上がっており、ふたりで作業……というか、昼食の準備を行っていた。
まだ少し距離があって会話までは聞こえないが、アニマが包丁を持っていて、アリスが指を立てながらなにかを話しているように見えるので……アリスがアニマに料理を教えているといった感じだろうか?
どうやらこのふたりも、それほど問題なく親交を深められているみたいだとそう感じながら、ふたりの元に辿り着く。
「ふたりとも、もう昼食の準備してるの?」
「ええ、今回は私が用意するって啖呵も切りましたしね。まぁ、そうはいってもそれほど時間はかからないんで、あとでもいいんですが……アニマさんが料理を教えてほしいって言ってきたので、準備ついでに軽く教えてるところですよ」
俺が声をかけると、アリスがこちらを向かないままで説明してくれる。まぁ、コイツのことだから俺が近づいてきてるのには気付いていただろう。あとこっち向かないのは、たぶんというか、間違いなく照れてる。
「へぇ、アニマが」
「はい! 自分も多少は覚えがあるとはいえ、まだまだ未熟。せっかくこうして、世界でもトップレベルの技術を持つお方がいらっしゃるので、ご指導を賜っているところです!」
アニマがキラキラと目を輝かせながら告げると、アリスがどこか疲れたような表情を浮かべた。気持ちは分かる。ここまであからさまに「尊敬してますオーラ」を出されると、気疲れしてしまうのだろう。特にアリスの場合は、迂闊にふざけられないというのもあるんだろうが……。
俺が思わず苦笑を浮かべると、アリスは溜息をひとつ吐いたあと、アニマの方を向いて口を開いた。
「いいですか、アニマさん。料理においてはなによりも大切なものがあります。愛情だとか、小手先の技術だとか、そういう小賢しいものは全部わきに置いて……『味見』です!」
「……味見、でありますか? しかしそれは……」
「ええ、そうですね。当たり前のことです。でもその当たり前が一番重要なんです。いいですか、そもそも悪意なくクソ不味い料理を誰かに食べさす奴ってのは、味見をしないか、味覚がおかしいかのどっちかなんですよ! 味見してれば人に出す前に、成功か失敗かなんてわかるんですよ」
アリスはそこまで言ったところで言葉を止め、別の方向を向きながら叫ぶ。
「分かりますか! クロさん! 味見が大事なんですよ!! 味見さえしてれば、カイトさんが味わったであろう地獄の九分九厘は阻止できてたはずなんすからね!!」
「え? ボク!?」
突然話を振られて少し離れた場所に居たクロが驚いたような表情を浮かべていたが、俺としてはむしろアリスに拍手を送りたい気分である。もっと言ってやってくれ……というか、もう少しキツメに言ってやってくれ、本当に俺の今後のためにも……。
そんな風に考えていると、アリスは視線をアニマの方に戻し、さらに言葉を続ける。
「まぁ、というわけでアニマさん……アレ、悪い例ですからね。あそこの、ベビーカステラの可能性の追求だとか言って、そこそこの頻度でダークマターを製造する人みたいになっちゃ駄目ですよ」
「…‥な、なるほど」
「俺からも切実に頼む、ああはならないでくれ」
「ご主人様が、そう仰られるなら、くれぐれも注意します」
思わぬ展開ではあったが、むしろハッキリと言及してくれたのはありがたい。さすがこういう時のアリスは本当に頼りになる。
まぁ、クロは首をかしげており、いまいちピンときてないみたいなので……改善は望み薄ではあるが……。