軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋人たちとの海水浴⑪

砂浜に戻ってきたことと、シロさんとリリアさん……というよりリリアさん側の緊張がある程度解けたことで、ちょうどいいタイミングとも言えたので他のペアの元に顔を出すことにした。

シロさんとリリアさんの元を離れ、次はどこに行こうと軽く視線を動かしてみる。アイシスさんとフェイトさんのペアは、見えはするが結構離れた場所に居る。

アリスとアニマは、海辺でなにやらアニマが真剣な表情でアリスの話を聞いている……というか、教えを乞うているように見える。

クロとジークさんは……少し離れた砂浜で……うん? あれ、なにしてるんだろう? クロが突っ立ってて、ジークさんがその前で不思議な動きをしている。

他の二組とは少し違った様子というか、いまいちなにをしているのか分からなかったクロとジークさんのペアが気になり、俺はそちらに向けて足を進めた。

少しして距離が近くなってくると、次第にふたりの声が聞こえてきた。

「速さや強さじゃなくて、全身を流れる魔力の動きに注意して!」

「はい!」

「うん! どんどん良くなってる。その調子でもう一セット……って、うん? カイトくん?」

あれ? なんだろうこれ? なにをしているかよく分からなくて近付いたのに、なんで近付いたら遠目に見るよりもっと状況が分からなくなったんだろうか?

「……えっと……クロ? ジークさん? いったいなにを……」

「……はっ!? そうだ、遊びに来てたんだった!?」

「う、うん?」

俺が声をかけると、クロはなにやらハッとした表情を浮かべる。ジークさんも同じく足を止めて、どこかしまったという感じの表情を浮かべていた。

「……うっかりだったね、ジークちゃん」

「も、申し訳ありません。私のせいで……」

「いやいや、気にしなくていいよ」

頭を下げるジークさんに笑顔で気にしなくていいと告げるクロ、俺はまったく状況が分からずに首をかしげていた。するとクロが俺の様子に気付いたのか、苦笑を浮かべながら説明してくれる。

「あはは、いや、初めは普通に遊ぼうとしてたんだけどね。ジークちゃんと話してるうちに、伸び悩んでるって話を聞いてね」

「クロム様が動きを見てくださるということで、簡単なステップ練習をしていました」

「あぁ。なるほど……」

クロとジークさんの説明をきくと状況はすぐに理解することができた。クロは人を育てるのが好きで、その指導力はアリスですら負けを認めるほど……伸び悩んでいたジークさんとしてはせっかくの機会に、ぜひアドバイスをもらいたかったのだろう。

「……それでクロ、ジークさんはどうだったの?」

「すごく才能があると思うよ! ボクが見てきたエルフ族の中でも一番かもしれないけど……もったいない!!」

「も、もったいない?」

「うん。せっかく飛びぬけた才能があるのに、『伸ばす方向性を間違えてる』。いま伸び悩んでるのは、それが原因だろうね」

「す、すみませんクロム様! そ、そのお話、もっと詳しく!」

「大丈夫、ちゃんと説明するよ」

クロの評価を聞いて、普段の落ち着いた印象からは想像もできない勢いで聞き返すジークさん。どうやら思った以上に、伸び悩んでいたことを気にしていたみたいだ。

するとクロは一度頷いたあと、どこからともなく黒板を出現させた。俺とジークさんはなんとなく、砂浜に体育座りをして黒板を見る。

クロはチョークを使って黒板になにやらデフォルメしたキャラクターを描いていく……アリスほど上手いというわけではないか、特徴はとらえておりジークさんとアニマを描いているのが分かった。

「ジークちゃんの伸び悩みの原因……っていうのはちょっと言い方が悪いけど、方向性を間違えた理由は単純だよ。リリアちゃんとアニマちゃんを参考にしちゃったからだね」

「……リリとアニマさんを?」

「うん。ジークちゃんにとって戦闘を見る機会の多い格上って言うとこのふたりだから、どうしても仕方がない部分はあるんだけどね。だけど、このふたりはジークちゃんとは『タイプが違う』」

「タイプ、ですか?」

説明をしながらクロはさらに黒板にデフォルメしたジークさんの絵を描く。

「うん。細かく説明すると長くなるから、すごく簡単に言うけど……リリアちゃんやアニマちゃんは、寄り道は最小限にしてどんどん魔力量や出力を伸ばすのが向いてる。『パワータイプ』というか『力戦派』みたいな感じだね。逆にジークちゃんは、幅広く手を広げて手札を増やして成長していくのが向いてる。『テクニックタイプ』……『技巧派』ってところだね」

「技巧派……」

「シンプルな反復練習でグングン伸びるリリアちゃんやアニマちゃんに比べて、ジークちゃんは同じことを続けていると壁に当たりやすいとも言えるね。だからふたりと同じような訓練をした場合は、成長率に差があってどうしても引き離されちゃう」

「……」

クロの言葉を聞いて、ジークさんはなにやら考え込むような表情で俯く。その様子を見たクロが一度話を止め、少し待つとジークさんは顔を上げてクロに問いかける。

「……もし、私が広く技術を磨いたとして……私は、いずれリリやアニマさんに追いつき追い越せるほどに……強くなれるのでしょうか?」

「うん、気持ちはわかるよ。テクニックタイプって言われて、シンプルで強いパワータイプには敵わないんじゃないかって思ったんだね? ただ、これはあくまで成長傾向の話だよ。究極的な言い方をすれば、最終的にはすべての能力を限界まで鍛え上げるのが一番いいわけだしね」

「な、なるほど……」

「まぁ、そういう前置きをした上でテクニックタイプが強くなれるかって話だけど……ほら、あそこにいるよ。テクニックタイプの『トップというかほとんど極致』みたいな子」

そう言ってクロが指さした先には、アニマと話しているアリスの姿があった。なるほど、アリスは間違いなくパワータイプではなくテクニックタイプだろう。しかしその上で、パワータイプすら寄せ付けないほどに強い。

テクニックタイプが強くなれるのかという問いに対して、これ以上ないほど説得力のある答えである。

「ちなみにどっちかと言えばボクはパワータイプだね。だからジークちゃんが目標にするべきなのは、ボクじゃなくてシャルティアみたいな戦闘スタイルってことだよ。さて、ソレを踏まえたうえでジークちゃん」

「は、はい!」

「……また時間のある時でいいから、『ボクの指導』受けてみる気はない?」

「………………へ?」

そう言って明るい笑顔で手を差し伸べるクロの表情は、なんだか生き生きとしており……つくづく彼女は人を育てるのが大好きなんだなぁと、そんな風に感じられた。