軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋人たちとの海水浴⑧

恋人たちと共にやってきた海水浴。最初にシロさんとリリアさんのペアのところに加わり、三人で泳ごうということになったわけだ。

うん、そこまではいい。別に競争するというわけでもないので、ふたりとの圧倒的なスペック差も気にならないし、問題なく泳げるはず……だった。

「……シロさん、俺がさっきなんて言ったか覚えてます?」

「三人で泳ぎましょうと言いました」

「ええ、その通りです。では、ソレを踏まえたうえで……なんで俺たちは『海底』に居るんでしょうか?」

「せっかく泳ぐのなら、海でしか見れない景色の中で泳ぐ方がいいかと思いました」

「……そうですか」

海に入るなりシロさんによって転移させられたので、ここがどこの海底なのかは分からない。しかし、上を見て見ても海面らしき光は見えないので、かなりの深さであることは想像できる。

なんか俺たちがいる周囲だけ不自然に明るかったり、ドーム状の空気の層みたいなものの中で会話ができるのは、シロさんの力によるものだろう。

うん、なんというかさっそく懸念していた事態が起こってしまった感じである。というのも、これまでの経験から分かったことだが、シロさんははしゃいでいると加減が緩くなるという特徴がある。

いや、普段もそんなに自重してる気はしないが、はしゃぐとより一層自重しなくなる。

「仮に一万歩ぐらい譲ったとして、こんな海底だと水圧とかで押しつぶされ……あっ、いや、やっぱりなんでもないです」

これだけの海底なら、このドームを出た瞬間にぺちゃんこになるんじゃないかと思ったが……生憎といま隣にいる方は、そういう常識が通用するような存在ではない。

おそらく、ただの人間である俺が、いまこの瞬間に外に出て泳いだとしてもまったく問題ないようになっているのだろう……試す気はないが。

っとそこでふと、先ほどからリリアさんの反応がまったくないことに気が付いた。こちらもなんとなく予想できながら振り返ってみると……。

「リ、リリアさん……やっぱり気絶を」

どうやら突然の海底という状況に頭が付いていけなかったのか、リリアさんは目を回して気絶していた。

しかしその直後、シロさんが軽く手を動かすと、リリアさんはハッとした様子で意識を取り戻した。

「え? あ、あれ? ここは? 私は?」

「ここは海です。気絶していては海水浴が楽しめないだろうと思い、起こしました」

「……そ、そうですか……お気遣い……あ、ありがとうございます」

……おかしいな。普通に考えればせっかくの海水浴をリリアさんが気絶したまま過ごすのは可哀そうだと、そんな善意からの手助けの筈だ。実際、シロさんは善意100%でやったのだろう、それは間違いない。

けど、なんでかな? 『リリアさんの逃げ道が塞がれた』とか、シロさんの前では気絶すら許されないとか、そんな風な考えが頭に浮かんできてしまう。

「……とりあえずシロさん、普通に泳ぎましょう。浜辺に戻してください」

「ふむ……条件があります」

「おかしいですよね。なんでこの展開で、俺の方が条件出されてるんですか……まぁ、とりあえず聞くだけ聞きますが……」

う~ん、これはよろしくない流れである。シロさんがはしゃいでいて、この若干理不尽な条件の提示……いままでも何度か経験した流れだ。

となると、かなりの確率でシロさんは……。

「イチャイチャが足りていないと思います」

「……はい?」

おや、やっぱ突拍子もないこと言い始めた。

「私たちと快人さんは恋人同士です。そしていまはこうして海水浴に来ています。そして私もリリアも水着です」

「……え、えぇ、そうですね」

「だというのに、いまだに『嬉し恥ずかしハプニング』はおろか、肉体的接触すらほぼ無しというのは、ゆゆしき事態だと思います。リリアも、そう思いませんか?」

「え!? わ、私ですか!? わ、私はその……」

「そう思いませんか?」

「思います! 創造――シロ様のおっしゃる通りかと!」

まさか自分の方に話を振られるとは思っていなかったのか、リリアさんは慌てふためきながら返答する。

なんというか、言わされた感が半端ではない。悲しいかな、いかに本人が無礼講だと言っていても、相手はシロさん……世界の頂点である。

リリアさんの性格的にも立場的にも、肯定する以外の選択肢は選べないだろう。あっ、また胃薬飲んでる。

「う、う~ん。シロさん、ストレートにお願いします。つまり、なにをしたいんですか?」

「私としてはもっと快人さんとイチャイチャしたいのです。しかし、快人さんも他のペアの元を回る関係上、いつまでも私たちとだけ居るわけにはいかないのは理解しています。なので、妥協案で手を打つことにします」

「……妥協案?」

「はい。というわけで、この場で『ハグ』を要求します。たっぷりねっとり? な感じでお願いします」

「……」

シロさんの要求は分かった。しかし、途中変に疑問形だったりする辺り、またどこか変なところから知識だけ仕入れてきたのではないかと思う。

あと、その台詞を無表情で言ってるのは中々にシュールな気が……うん、いや、待てよ。

もしかしてだけど、シロさんが俺とリリアさんを海底に連れてきたのって……この状況を作るためじゃなかろうか? 俺が浜辺に戻してくれと言い出すのを予想するぐらいは、いまのシロさんには容易だろう。

そして、俺とシロさんとリリアさんの三人だけで海底に居るという状況も、気恥ずかしさを軽減させて俺が要求を飲みやすいようにとかそんな事なんじゃないだろうか?

そう考えると、転移させてすぐ泳ぐのではなくこうして空気のドームみたいなものを作ってることにも説明がついてしまう気が……。

「……シロさん」

「なんですか?」

「もしかして初めから、それが狙いでした?」

「その通りですが?」

「えぇ、そんな堂々と肯定するんですか……」

「はい。快人さんとイチャイチャしたいので」

「ぐっ……」

すげぇよこの人、回りくどいことしてきたわりには、一切誤魔化さないよ。あとそんなストレートにイチャイチャしたいとか言われると、それはそれで恥ずかしい。いやまぁ、嬉しくないと言ったら嘘になるんだけど……。

これはなんというか一本取られたという感じだ。しかも、要求もなんというか可愛らしいレベルであり……叶えてあげたいと思ってしまう。

どうやら俺が選べる選択肢も……ひとつしかないみたいだ。

「……え? あの……それ……対象に私も入ってます? こんな格好でそんなことをされたら、わ、私は――あっ、そうです、気絶は……」