軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強い貴方に憧れて、凄い貴方に仕えたいと願い……ありのままの貴方に恋をした

自室でソファーに座り本を読んでいると、控えめなノックの音が聞こえてきた。

「開いてますよ、どうぞ」

「失礼します、ご主人様。手紙を持ってまいりました」

「あぁ、いつもありがとう、アニマ。そこに置いといてくれるかな?」

「了解しました」

これはよくあるやり取り……俺に届く手紙を処理してくれているのはアニマなので、こうして俺の友人から届いた手紙を持ってきてくれる。

アニマも慣れたもので、俺の返答を聞いて手早く未読の手紙を机の上の分かりやすい場所に置いてくれた。

そして、アニマが一礼して退出していくのがいつもの流れだが、今日はそこで俺が口を開いた。

「……アニマ」

「はい?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いま時間とか大丈夫?」

「はい、問題ありません!」

ビシッと敬礼をして答えてくれたアニマに微笑みながら、俺は先ほど見た両親とアニマの会話について尋ねてみることにした。

「……えっと、実はさっきアニマと母さんと父さんが話しているのを偶然聞いちゃったんだけど……」

とそこまで言ったところで、アニマがなにやら青ざめた表情を浮かべているのに気付いた。あれ? なんだこの反応……。

「ち、違います!? さ、先ほどの発言は、決してご主人様を軽視したわけではなく……」

「あっ、うん。いや、怒ってるわけじゃないんだ……言い方が悪かったな」

あぁ、なるほど……俺に怒られると思って青ざめていたのか、なんというかアニマらしいと言えばアニマらしい。

「えと、なんて言ったらいいか……怒ってるわけじゃないけど、ちょっと内容が意外だったんでね」

「意外、ですか?」

「うん、俺の勝手な思い込みかもしれないけど……以前のアニマだったら、あそこでもっと俺のことを過剰に持ち上げてたんじゃないかって思って……少し意外だった。だから少し、それについて聞いてみたくてね。あっ、もちろん無理にとは言わないけど」

アニマは以前と比べて大きく成長しており、特に精神面の成長が著しいように感じていた。だからだろうか、彼女にどんな心境の変化があったのかを聞いてみたいと思った。

俺の質問に、アニマは戸惑うような表情を浮かべて沈黙し、少ししてからポツリと控えめな声で告げた。

「……関係ないから、です」

「うん?」

「あっ、いえ、違います! 悪い意味ではなくその……えっと……す、少しだけお待ちください! 言葉を纏めます」

捲し立てるようにそう告げたあと、アニマは目を閉じて何度か深呼吸をした。そして被っていた帽子を外し、片手で胸元に抱えるように持ってから、目を開いて真っ直ぐに俺を見ながら話し始めた。

「……お恥ずかしい話ではありますが、かつての未熟だった自分は……ご主人様に指摘されたように焦っていたのだと思います。能力だけでなく、精神的な面でも」

「……」

「説明は難しいですが、きっと……従者としての自分の立ち位置にも自信が無かったんだと思います。だから、過剰にご主人様を褒め称えました。『自分の仕える主はこんなにも凄いんだ』と、そんな主に仕える自分も凄いんだと、獣が縄張りを主張するように叫んでいたのだと思います」

思い当たる節が無いとは言わない。以前のアニマも決して考えなしの性格ではなかった。むしろいろいろ考えていたと思う。

そして思い返してみれば、初対面の時に自分のことを畜生と呼んだり、アリスに劣等感を感じたりと……もしかすると根本的にアニマは、自分に自信が無かったのかもしれない。

「いま思い返せば、なんて馬鹿な真似をしていたのだと恥じ入るばかりですが、当時の自分にはソレに気付く余裕もありませんでした」

「……けど、いまは考えが変わったんだよね?」

「はい……いえ、変わってないのかもしれません。ただ『気付けた』だけなのだと思います」

「気付けた?」

「……ご主人様があちらの世界に戻られていた一年八ヶ月、考える時間だけは十分にありました。そこで自分は、己の気持ちを見つめなおしてみました」

そう告げて言葉を区切ったあと、アニマはまた少しだけ沈黙し、強い意志の籠った目で俺を見つめながらその想いを伝えてきた。

「……凄くなくていいんです。強くなくていいんです。自分はご主人様が凄い人だから仕えているわけでも、強い人だから尽くしたいと思っているわけでもありません」

言葉を続けるたび、アニマの顔が赤く染まっていく。それでも彼女は言葉を止めることはなく、真っ赤な顔で言葉を紡いでいく。

「そんなことは関係なく、自分は、自分は……いつも優しくて、それでも立つべき時には勇気を振り絞り、自分のような従者にも温かく接してくれるご主人様を……お、お、お慕いしています!!」

「っ……」

「その想いに気付けたから、その想いが確かなものだと確信できたから……自分にはもう、ご主人様を過度に持ち上げる必要などなくなったのです。自分は……なにも飾らない、ありのままのご主人様が……一番素敵だと思うから……ご主人様の傍で、ご主人様のお役に立ちたいと思うのです」

凄い人だから好きになったわけじゃない、強い人だから慕ったのではない……なにも飾らないありのままの俺を好きになったのだと、そんなありったけの思いが込められた言葉。

それが六王祭のころから見え隠れしていた感情に、ハッキリと答えを出した彼女の気持ち。

それは本当にどうしようもなく温かく、そして――嬉しい言葉だった。