軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の成長⑨

言ってみればそれは、ほんの些細な変化だったのかもしれない。気の持ちようと言ってしまえば、それまでかもしれない。

だけどあとになって簡単なことだったと思うものほど、見つけにくいものじゃないかとも思う。

少なくとも、フェイトさんが「まず相手を知る」と目的を切り替えたことで……両親とフェイトさんの関係は劇的に改善されつつあった。

もちろんところどころぎこちない部分もあったが、そこは俺が間に入ったりして上手く間を取り持つことで、会話は途切れることなく続いていった。

「あはは、そうなんだ。アカりん、料理下手なんだねぇ」

「……い、いえ、少しです。ものすごく少し、僅かに、僅かに……紙一重で! 他の人より料理が苦手なだけです」

「天と地ほど距離のある紙一重だなぁ」

「……あなた?」

「あ、はい、すみません」

フェイトさんは母さんとも父さんとも自然な笑顔で会話ができるようになっていたが、特に母さんの方と馬が合ったみたいだった。

「だめだなぁ、アカりん」

「い、いや、それを言ったらフェイト様だって神様なんですから、料理とかしたことないでしょ? なら、フェイト様だって下手かもしれないじゃないですか!」

「……ふぅ、残念だったね、アカりん。私は運命を司る神だよ? 『美味しいものができる』って運命を確定させれば、適当に作ったって美味しい料理が作れるんだよ」

「ズルじゃないですか!?」

「まぁ、そうじゃなくても私は神だし、大抵のことはやればできちゃうよ。実際、初めてクッキー作った時も簡単に美味しくできたしね」

「ぐ、ぐぬぬ……スペックの差が憎い」

フェイトさんが自然に笑顔を浮かべるようになったことで、母さんの方も緊張が取れてきたのか、だんだんと内容も友達と話すような気安い会話へと変化している。

そこでチラリと時計を見てみると、もうそれなりにいい時間であり、そろそろお開きにしたほうがいいかもしれない。

「……まぁ、母さんの料理下手の話は置いておいて、そろそろいい時間ですしお開きにしますか?」

「あっ、そうだね。たしかに結構話し込んじゃったね」

俺の提案に頷く……すっかり肩の力が抜けたフェイトさんを見て微笑みながら、俺は気になっていたことを尋ねてみることにした。

「どうでした、フェイトさん? 母さんと、父さんには……興味を持てました?」

「う~ん、分かんない」

そう答えながらもフェイトさんの表情に影はなく、どこか清々しい雰囲気だった。

「でもさ、たぶん……それでいいんだと思う。だってさ、心なんて複雑なもんだよ。こうなったら興味を持って、ここまでなら興味はないとか、そんな風に線引きはできないし……するべきじゃないと思うんだ」

「……」

「今日私は、アカりんやカズやんと話してて楽しかったし、また話したいと思った……だから、それでいいんだと思う」

「なるほど、確かにそうですね」

たぶん、これは満点に近い答えなんじゃないかと感じた。いままで興味があるかないかのふたつで線引きしていたフェイトさんの価値観が変わり、ソレに捕らわれなくなった。

それは本当に、驚くほど大きな成長だと思う。

「……まぁ、そういうことで私はそろそろ帰ろうかな? アカりん、カズやん、また話そうね」

「はい、是非」

「こ、今度は私の料理がそこまで下手じゃないことを納得させますからね」

「納得できるといいなぁ……でも、運命を見る限り期待薄かな?」

「私の料理下手は運命に定められてるんですか!?」

「あはは、じゃそういうことで……」

母さんを軽くからかってから、浮かぶクッションにのって扉の方に移動したフェイトさんだったが、扉に手をかけたタイミングで停止した。

「……フェイトさん?」

じっと動かず沈黙したままのフェイトさんを見て声をかけると、フェイトさんはゆっくりとこちらを振り返りながら微笑みを浮かべた。

「あ~もうひとつ分かっちゃったかな。そっか、こういう気持ちなんだね……アカりんとカズやんはさ、たしかこの世界に合わせて体を創造してもらったんだっけ?」

「え? あ、はい」

「その通りです」

「……そっか」

フェイトさんはなにかに納得したように頷き、クッションから降りて母さんと父さんに向けて手をかざした。

「我が名――フェイトの名において――巡りゆく運命に告げる」

「「え?」」

「なっ!?」

突然威厳ある声で言葉を紡ぎ出したフェイトさんに母さんと父さんは首を傾げ、俺はソレがなにか知っているために驚いた表情を浮かべた。

「かの者たち――ミヤマアカリ、ミヤマカズヤの両名を――我が祝福を受けるに値する者と認める」

それは間違いなく本祝福を行う口上……それを聞いて、ようやく俺は先ほどのフェイトさんの質問の意味が理解できた。

母さんと父さんはこの世界の人間の体に合わせた肉体を創造されている。それはつまり、この世界の人間と免疫力などが同じということだ。

だからふたりは祝福が無くとも病気にかかりやすいとかそう言うことはない……だけど、逆に、かからないわけではない。

「故に――我が名――フェイトの名において――運命に命ずる」

だからフェイトさんは、母さんと父さんが病気にかからないように祝福を……いや、それだけなのだろうか? 病気にかからないだけなら、仮祝福でも問題はないはずだ。というよりそちらのほうが、この世界の人間にとっては一般的なもの……それを本祝福にすると言うことは、なにか別の意図があるのかもしれない。

「巡りゆく運命よ――かの者たちの背を押す風となり――幸福な未来へと誘え――我が名――フェイトの名において――かの名――ミヤマアカリ、ミヤマカズヤの名を――我が加護の及ぶ者たちとして――我が名と連ね――運命に記すことを許す」

その言葉と共に眩い光が母さんと父さんを包み込んだ。

「……よし、これでおっけ~」

「え、えと、フェイト様? いまのは?」

祝福を終え緩い表情で告げるフェイトさんに、母さんが戸惑いがちに尋ねる。

「私の祝福、まぁ一種の防御魔法だと思えばいいよ……これで病気になったりしないし、最高神の本祝福はそれぞれ原理は違うけど『不老』になるからね、これで寿命で死んじゃうこともないよ」

「「ッ!?」」

「……フェイトさん……」

「だってさ、カイちゃんは不老なのにさ、ふたりは普通の人間と同じ寿命じゃアレだしね。それに人間は脆いからね~事故とかで死んじゃうかもしれない。そしたらきっとカイちゃんはいっぱい悲しむよね……私はそんなの見たくないよ」

少し照れ臭そうに頬を染め、顔を逸らしながら告げるフェイトさんの声は、とても優しくて温かいように聞こえた。

「……やっと少し、『カイちゃんにとって大切な人を、私も大切に思う』って気持ちが理解できた気がする。ま、まぁ、これで大抵のことは大丈夫だと思うよ。なんたってふたりには運命が味方に付いてるわけだし、これで簡単に死んだりはしないよ」

「……フェイトさん……ありがとうございます」

「あ、あはは、それじゃ、祝福がなにかとかその辺はカイちゃんから聞いてね。じゃ、私は帰るよ! またね~」

照れ臭かったのか、捲し立てるように告げたあとフェイトさんは姿を消した。フェイトさんは俺の両親のかつての死因を知っている。

だからこそ、二度と同じようなことが起こらないようにと……気を利かせてくれたんだろう。本当に、俺はいい恋人を持てたと思う。

そして同時に、そういう発想が出るまでにフェイトさんが成長してくれたことが、なんだか嬉しくて……誇らしい気がした。

人界から神界へと戻り、自分の神殿へと向かう途中でフェイトはふと足を止めた。

「……カイちゃんには感謝だね。タイミングが良かった。いまよりもっとあとになって、心に余裕が生まれてからお茶することになってたら……アカりんもメモを落とすことはなかっただろうし、私が空気の打開にってソレに縋ることもなかった」

快人が素早く動いて、両者が会える場を用意したからこそ大収穫と言っていいほどに上手くいったと感じながら、フェイトは目を切り替えてから視線を動かした。

そしてシャローヴァナルと同じように神界から人界の景色を見て……ふっと柔らかく微笑んだ。

「……価値観を変えられたからかな? 前よりずっと綺麗に思える。シャローヴァナル様があの一件以降……見てたのは、こういう景色だったのかな? ふふ、悪くないねこういうの……いろんなものが、前よりずっと好きになれそうだよ」

フェイトがそう呟いたあとで、変化は起こった。紫の目に金の文字のようなものが縁取るように現れていた瞳に……金色の十字が現れた。

そして彼女の瞳に……いままで見ていた運命だけではなく、新たなものが映った。

「ふ、ふふふ……あぁ、いい『未来』だなぁ。変わっちゃわないように、私も頑張らないとね」

快人の隣で心の底から幸せそうな笑顔を浮かべ、多くの人たちに囲まれている己の姿……そんな未来を見たフェイトは、未来への新しい希望を胸に神殿へと帰っていった。