軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編~エピソード・オブ・ルナマリア~①

年末が近づき賑わう王都を、ルナマリアはのんびりと歩いていた。肉体の成長期も終わり、大人と言って差し支えない身長になった彼女は、いまや最上位冒険者として王国内でもちょっとした有名人である。

そんな彼女は現在、やや暇を持て余していた。

「……お母さんはフィーアお姉ちゃんのところ、いまは抱えている依頼も無し、やることないですね」

特に目的はなく、夕方にノアの迎えに行く以外これといって予定もない。どうしたものかと視線を動かしながら歩いていると、ふとルナマリアはひとつの看板を見つけた。

「……シンフォニア王国武術大会……あ~そういえばそんな時期でしたね。暇つぶしには丁度良さそうです」

ルナマリアが目にした看板に書かれていた武術大会は、毎年年末に王国騎士団主催で開催されるものであり、騎士団に所属していなくても参加できる大会である。

王国中の腕自慢が集まるそれは、なかなかに人気の行事を言っていい。

ルナマリアは看板を見て少し考えたあと、入場券を売っている露店に近づき口を開いた。

「一枚もらえますか、立ち見席でいいですよ」

「あいよ……おや? アンタ、見たことあるね……『黒百合のルナマリア』じゃないのかい?」

「あ~そんな通り名もありましたね」

「参加じゃなくて、見学でいいのかい? アンタなら、騎士相手でもいいとこまで行くと思うけど……」

黒百合とは、ノアの鮮血姫のように最上位冒険者としてのルナマリアの通り名である。冥王クロムエイナを尊敬していると公言しており、彼女を真似してか冒険者として活動する時はいつも黒いロングコートを着ており、そこからこの二つ名がついた。

現在は私服なのでロングコートは来ていないが、それなりに有名人であるルナマリア。武術大会の受付の年配の女性は、彼女が最上位冒険者であることに気付いた。

「う~ん……今回の優勝賞品ってなんですか?」

「風鳴りの短剣だよ」

「あ~エアロカッターの魔法が込められている短剣でしたね。う~ん、珍しいし貴重ではありますが……エアロカッターなら自前で間に合ってますし、せっかくのオフに戦うのも面倒です」

「そうかい? そりゃ、残念だね……アンタが参加すれば、『シンフォニアの三花』が揃い踏みだったのに……」

残念そうに呟いた女性の言葉を聞き、ルナマリアの眉がピクリと動いた。

「……へぇ、てことは『白薔薇』と『紅椿』がいるんですね」

「あぁ、どっちも今回が初参加だよ」

「それはそれは、一度見てみたいと思ってたんで、ちょうどいいタイミングでしたね」

「どっちもとんでもない強者だよ……ほら、立見席3Rだよ」

「ありがとうございます」

シンフォニア王国には三花と呼ばれる、花の通り名を持つ存在が居る。白薔薇の戦姫リリアンヌ・リア・シンフォニア、紅椿の騎士ジークリンデ、そして黒百合の冒険者ルナマリア……。

思わぬところで並び称される者の戦いが見れることに喜びつつ、ルナマリアは入場券を受け取って闘技場に入っていった。

会場はいま熱狂に包まれている。稀代の天才との呼び声も高いリリアンヌが、素手で相手の剣を砕き勝利するという出来事があったから……。

その光景を見ながら、ルナマリアは売店で買ったドリンクを飲む。

「……」

その目つきは鋭く、声援に応えて手を振るリリアンヌを睨みつけるように見ていた。

始まったばかりのころはそれなりに楽しんでいたルナマリアだが、いまはとてもつまらなそうな……どこかららだった表情を浮かべていた。

期待外れ……ルナマリアの感想はそれにつきだ。そしてそれは、参加者の実力が……という意味ではなかった。

「……つまんない顔で笑う人ですね。なんていうか、出来のいいお人形みたいで……腹が立ちますよ」

ポツリと呟いたその言葉は、歓声にかき消されて誰の耳にも届くことはなかった。

武術大会で準優勝という結果を収めたリリアンヌは、かけられる賞賛の言葉に対応したあとで、闘技場の通路を歩いていた。

参加者用の通路であるはずのそこは、本来試合に参加していない者は居ないはずだった。しかし、リリアンヌが歩く先には……青空のような色合いの髪の女性が立っていた。

「……貴女は? どうやってここに?」

「いろいろコツがあるんですよ。まぁ、それは置いておきましょう……ひとつ、聞いてもいいですか、王女殿下?」

「……なんでしょう?」

「楽しかったですか?」

「え?」

ルナマリアの言葉を聞き、リリアンヌは意味が分からないと言いたげに首を傾げた。

「周りの声ばかり気にして、肩に力入れ過ぎて力の抜き方も忘れて……貼り付けたような笑顔で対応するだけ……人望ないでしょ、王女殿下」

「なっ……いきなり、なにを……」

「嫌いなんですよ。貴女みたいに、無駄に背伸びしてるガキンチョ……気の抜き方も知らないようじゃ、そのうち壊れちゃいますよ?」

「……」

どこか喧嘩腰に告げるルナマリアの言葉に、リリアンヌもやや鋭い目を浮かべた。

互いに探り合うかのように沈黙のなかで視線が交差し、少ししてルナマリアが溜息を吐いた。

「……まぁ、いまの私がなにを言っても貴女には届かないでしょうね。あくまで、いまは……です」

「分かりません。貴女がなにを言いたいのか、私には分かりません」

「私の名前はルナマリア。覚えておいてください……次の機会には、しっかり『貴女を助けてあげます』よ」

「……助けてくれなどと、頼んだ覚えはありませんし、助けられる理由もわかりません」

「えぇ、頼まれてなんかいませんよ。『私が貴女を助けたいから、勝手に助ける』……ただ、それだけです。それじゃあ、また会いましょう……王女殿下」

そう告げるとルナマリアはリリアンヌに背を向け、軽く手を振りながら歩き出した。

「……私の名前は、リリアンヌです」

「いまの貴女を名前で呼ぶ気なんてないですよ……つまらない王女殿下」

「っ!?」

振り返らないままそう告げて姿を消すルナマリアの背を、リリアンヌは言いようのない苛立ちを感じながら睨みつけていた。

そしてこれが、のちに自他ともに認める大親友となるふたりの……初めての出会いだった。