軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夏番外編「一泊二日! 海の星への旅(エデン付き)」③

その感覚はなんと表現するべきだろうか? 背筋に寒気が走るどころではない。まるで、背中が全部凍りついたかのような……痛みすら感じる寒気。

その発生源に向かって、恐る恐る振り向き……俺は完全に硬直した。

「あぁ、可愛いよ。可愛いよ我が子……愛でたい、いっぱぁい! 愛でたいよぉ……」

蛇に睨まれた蛙というのはこういう状態を示すのだろう。ほんの少しの間に、エデンさんの様子は急変していた。

口元は、果たしてこんなにも狂気に染まった笑みがあるのだろうかというほどの弧を描き、目からは完全にハイライトが消え去っていた。

「はぁ~我が子がいっぱい甘えてくれて嬉しいよぉ。やっぱり、我が子も私と一緒に居るのが、幸せなんだよねぇぇぇ」

「え、エデ……ン……さん?」

「欲しいよぉぉ……我が子の全部を、愛で尽くしたい。そう、そうだよ! 我が子にだってそれが幸せなんだよ!! ふふ、ふふふふふ」

「ひぃっ!?」

あまりに恐怖に後ずさりながら、この惑星に来たばかりのころの会話……エデンさんが普段は自制しているという信じがたい話を思い出した。

ありえないと、そう思っていたが……まさか、本当に……まだ上があったのか!?

「ほらぁ~おいで、愛しい我が子ぉ! いっぱい、いっぱい、愛でてあげる。可愛い可愛い我が子を、いっぱい抱きしめてあげる。体も全部綺麗にしてあげるね。そうだ! せっかくだから全身を舐めて綺麗にしてあげるよ。大丈夫私は神だから、細菌なんてないよ、本当に全部全部全部綺麗にしてあげられるよ!!」

「……」

普段のような圧倒的に長い台詞ではないが、込められている狂気は普段とは比べ物にならない。というか壊れ切ったような笑みが恐ろしすぎる!?

「ねぇ? 愛しい我が子ぉ……」

「ひゃ、ひゃい!?」

「なんで……『後ずさるの』?」

「ッ!?」

「あっ、そっか~私を焦らしてるんだぁ。もう、我が子はおちゃめだなぁ~ふふふ、そうだよね! 砂浜で追いかけっことかあるよね! 我が子はそれがしたいんだね!」

「い、いやそれは――なっ!?」

駄目だ怖すぎる!? 本能という全身がこの場から逃げろと叫びまくってるのに、あまりの恐ろしさに体がロクに動いてくれない。

大量の冷や汗が流れる中、目の間に一陣の黒い閃光が煌めき、大きな土煙が上がった。

なにが起こっているか分からず呆然としていると、少しして土煙が晴れ……拳を突き出しているクロと、ソレを受け止めているエデンさんが見えた。

「……なんでぇ? 邪魔すのぉぉぉ?」

「ちょ、ちょっとカイトくん!? これどういう状況、地球神いつもより遥かに逝っちゃってるんだけど!?」

「……俺もどうしてこうなったか教えてほしい」

異常を察知して駆けつけてくれたらしいクロも、エデンさんの様子に驚いているみたいだった。エデンさんはそのまま少し沈黙したあと、握っていたクロの拳を離し……まるで地獄の底から響くような声を発した。

「……邪魔、するんだぁ? 私と我が子の逢瀬を……」

「とりあえず、もうちょっと落ち着いてくれないかな? このままじゃ話が……」

「邪魔、邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔……消えちゃえ、我が子と私を邪魔するやつは全部全部!! この世から消えされぇぇぇ!?!?」

「ぐっ……このぉ!」

エデンさんが狂気に染まり切った声で避けたんだ直後、クロが手を動かし、ふたりを包み込むように漆黒のドームが出現した。

その直後に轟音と共に惑星全体が揺れた。

どれぐらいの時間が経っただろうか、何度も大地震のような揺れが起こり……そして漆黒のドームが消え去り、ふたりが姿を現し……同時に倒れ込んだ。

「クロ!? 大丈夫か!?」

クロの体は半分ほどが黒い霧のようになっており、直感的に彼女がいつもの姿を保てるほどの力が残ってないことを察して駆け寄った。

「……う、うん。なんとか……いつもの倍ぐらい強かったっていうか……驚いたんだけど、いつもの喧嘩では地球神って、『一応ボクを殺さないように手加減』してたみたい」

大きな疲労が感じられる声でクロはそう告げ、ゆっくりと体を再生させながら体を起こした。

「でも今回は本当に殺す気っていうか……こっちの攻撃全然避けず、体を超速再生しながらひたすら攻撃しまくってきたせいで、本当にギリギリだっだよ……でもなんとか、勝てたかな」

「そ、そっか……ありがとう」

「あはは、どういたしまして」

とりあえずクロが無事なことにほっと胸を撫でおろしながら、エデンさんの方を向くと……こちらも羽は半分以上焼け落ち、あちこちボロボロの状態だったが、地面に手を突きながらゆっくり起き上がった。

「……今回ばかりは、礼を言います神の半身。つい我が子愛しさに理性が飛んでしまいました……私の落ち度です」

「う、うん。というか、ボクびっくりしたというか、いまだ信じられないんだけど……君、普段のアレってもしかして自重してあの状態だったの?」

「当然です。過度な愛は重いものです……適度な愛情表現でなければ、我が子を怖がらせてしまうではありませんか」

「「……」」

エデンさんがこともなげに告げた言葉に、俺とクロは無言で顔を見合わせた。適度ってなんだったっけ? 神様の世界では違う意味なのかな?

しかしどうやら普段自重しているとうのも、今回のことが意図したものでは無いというのも本当らしく、エデンさんは仇敵とばかりに嫌っているはずのクロに素直に頭を下げて謝罪していた。

「我が子も怖がらせて申し訳ありません」

「あ、い、いえ、実際になにかされたわけではないので……というか、先ほどの喋り方が素なんですか?」

「返答が難しいですね。ですが、そうですね……あの口調の時は『冷静ではない状態』と思っていただけで結構です。我が子の意思を無視して己の欲望を優先しかねないので、ああなった場合は神の半身かシャローヴァナルを呼んでください」

エデンさんが普段冷静であるかどうかはさておいて、どうやらあの状態はエデンさんとしては本意ではないらしい。

というか、あの状態を見たからなのか……いちおう普段はぶっ飛んでいても俺の意思は尊重してくれるし、編んだかんだでまともな風に思えてしまう。

ま、まぁ、ともあれ……エデンさんの新しい面、というか恐ろしすぎる面を見ることになってしまったが……なんとか無事に終われてよかった。

ただひとつ……エデンさんが『あの状態になったら~』と、今後も俺があの恐ろしい姿と対面することを前提に話しているのが、あまりにも不安である。