軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新築記念パーティ②

アインさんにからかわれている……というか、からかうアインさんをなんとか別の場所に移動させようと頑張っているツヴァイさんを見つつ、引き続きアリスの言葉に耳を傾ける。

「まぁ、あの子は本当にいい意味でも悪い意味でも真面目でして……そのせいか、家族内でも割と誤解されてたりするんすよ」

「そうなの? けど、たしかにいろいろ厳しめだとはおもうけど……ツヴァイさんが家族を大事にしてるってのは、会ってまだそれほど経ってない俺でもわかるぐらいだけど?」

ツヴァイさんはたしかに礼儀に厳しかったり、フィーア先生のドジを咎めたりという面もある。ただ、それはあくまで家族を大切に想うからこそだというのは、俺も理解している。

フィーア先生やノインさんも、ツヴァイさんのことを怖がってこそはいたが、感応魔法で読み取った限りではそれ以外の悪感情は抱いていないようだった。

言ってみれば『家族想いな姉として好いてはいるが、厳しいところは怖い』という感じだ。なので、俺のイメージでは誤解されているという感じは……。

「いや、そもそもツヴァイさん……『全然厳しくない』ですからね?」

「……うん?」

「ツヴァイさんの家族内での評価は大きく分けてふたつです。『厳しくも家族想いの姉』と思っている人と、『優しくて家族想いの姉』と思っている人の二パターンですね」

「それは、ある意味で正反対な評価だな……なんでまた、そんな極端に分かれてるの?」

「まぁ、そこが最大の誤解ポイントですね。ちょっと待ってください、いまその二パターンの人を連れてくるので……」

そう言ってアリスが姿を消すして数秒経つと、その場にふたりの人物が現れた。

「あやや? カイトクンさんです! こんにちはですよ~今日はおめでとうです!」

「ラズさん……えっと、ありがとうございます」

「はいです!」

ひとりは満面の笑顔で小さな体をいっぱいに使って祝福の言葉を伝えてくれるラズさん……うん、間違いなくラズさんは『優しくて家族想いの姉』って思ってる側だろう。六王祭でもツヴァイさんと仲良さげだったし……まぁ、そもそも、コミュ力おばけであるラズさんと仲の悪い人というのを見たことないのだが……。

「ミヤマくん、こんにちは。今日は招待してくれてありがとう……それで、えっと、シャルティア様に呼ばれてきたんだけど?」

「フィーア先生、こんにちは」

ふたり目は穏やかに微笑みながら話しかけてきたフィーア先生。こちらはたぶん、ツヴァイさんを『厳しくも家族想いの姉』と思っている側だろう。

ドジの多いフィーア先生はよく叱られるらしく、嫌ってこそいないもののツヴァイさんのことはかなり恐れている感じがする。

そんなことを考えていると、アリスが再び姿を現し、ふたりに話しかける。

「おふたりとも、ちょっとあっちを見てください。ほら、ツヴァイさんが居ますよ?」

「わぁっ! ツヴァイお姉ちゃんです! 最近忙しそうでしたし、あとでお話したいですよ!」

「げっ、ツヴァイお姉ちゃん……ど、どど、どうしよう。ミ、ミヤマくん、私の恰好変じゃないかな?」

まさに両極端な反応である。ラズさんはツヴァイさんを見つけて嬉しそうに笑顔を浮かべ、フィーア先生は焦った様子で自分の身だしなみを気にし始めた。

「とまぁ、こんな感じの二パターンなわけです」

「う、うん。それは分かったけど……結局何が誤解なの?」

「それに関してはすぐわかると思いますよ。ラズさんちょっと聞いてもいいですか?」

「はい? なんですか、幻王様?」

俺の言葉に軽く苦笑を浮かべたあと、アリスはラズさんの方を向いて口を開いた。

「ラズさんもツヴァイさんとは長い付き合いですし、やっぱり礼儀作法とかで叱られたこともありますか?」

「もちろんあるですよ。めっ! って言われたです」

「なるほど、なるほど……ちなみにその叱られた時には『長い説教』がありましたか?」

「うん? なんでですか? ツヴァイお姉ちゃんはとっても優しいので、『長いお説教なんてしない』ですよ? 長くても『十分』ぐらいですよ?」

「えぇぇっ!?」

ラズさんが心底不思議そうに告げた言葉に、フィーア先生が大きく目を見開きながら驚愕の声を上げた。それもそうだろう、というか俺も実際驚いてる。

フィーア先生やノインさんの話では、ツヴァイさんの説教はものすごく長くて数時間コースらしい。しかし、ラズさんは長くても十分程度だと言っており、大きな違いがある。

「ラ、ラズ!? どういうこと? ほ、本当にツヴァイお姉ちゃんに長い説教されたことないの?」

「ないですよ? フィーアお姉ちゃんは違うですか?」

どうやら本当にラズさんは一度も長い説教をされたことはないみたいだ。疑問を感じつつ、アリスの方を見ると……アリスは再び苦笑を浮かべながら口を開いた。

「そう、この認識の違いが大きな差ですね。そして、その理由は……フィーアさん、貴女はツヴァイさんに説教されている時、どうしてます? ツヴァイさんの話が終わるまでジッと黙って、静かに説教を聞いているんじゃないですか?」

「そ、そのとおりですけど……」

「フィーアお姉ちゃん、それは駄目ですよ!」

「え? だ、駄目かな?」

「はいです! だって、フィーアお姉ちゃんが黙ったままだったら、ツヴァイお姉ちゃんは『フィーアお姉ちゃんに話が伝わったかどうか分からない』ですよ!」

「え? えぇ?」

ふむ、なんだろう……ちょっと、アリスの言う誤解の正体が見えてきた気がする。アリス曰くいい意味でも悪い意味でも真面目過ぎる性格、ラズさんとフィーア先生の認識と対応の違い……そこから導き出されるのは……。

「なぁ、アリス。もしかしてだけど、ツヴァイさんの説教が長いのって……『相手が理解してないと思って、同じ内容を繰り返してるだけ』とか、そんなことなんじゃ……」

「ッ!?」

「正解です。しかもくそ真面目なので、繰り返すたびに言い回しや内容をいちいち調整してます」

フィーア先生が完全に唖然とした表情を浮かべている。

「とりあえずカイトさん、アインさんのからかいも終わって、ツヴァイさんも落ち着いたみたいなので、いまから言う言葉をそのままツヴァイさんに言ってみてください」

「わ、わかった」

「フィーアさんは、ここで聞き耳立ててください。この距離でも十分聞こえるでしょ?」

「……は、はい」

内容に驚きつつも、アリスの話を了承し、俺はアリスから聞いた言葉を伝えるためにツヴァイさんの元に移動する。

「……ツヴァイさん、その、お疲れ様です」

「ミヤマ様。お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません」

「い、いえ、気にしないでください。それより、ツヴァイさんに少し聞きたいことがあるんですが……」

「聞きたいこと、ですか? はい、私に答えられるものでしたら、なんなりと」

さっきまでの会話でツヴァイさんに対する印象が変わったせいか、こうして話していても前ほど緊張はしない。表情に変化こそほとんどなく、釣り目が鋭い印象ではあるが……先入観を抜きにすると、ツヴァイさんは丁重かつこちらに配慮した対応をしてくれている。

いまも突然の質問だというのに、特に疑問を抱くことなく応じてくれているし……やはり、アリスの言う通り優しい方なのだろう。

「えっと、ツヴァイさんはよく家族の指導をしていると聞きましたが、大変じゃありませんか?」

「いえ、なにより大切な家族のためですし、苦に感じたことは一度もありません。妹や弟を叱咤するのは心が痛みますが、ソレを見過ごして家族が外で恥をかくことになってしまっては、後悔してもしきれません。心苦しいですが、少々厳しく叱ることもありますね」

「そうですか……なんというか、凄いですね」

「お褒めの言葉、恐縮です。ですが……あまり自慢できることでもありません。お恥ずかしながら、私には『物事を難しく伝えすぎてしまう』という悪癖がありまして、そのせいで指導が無駄に長引くことも多いのです」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ、私にもっと説明力が有れば、もっと簡潔に指導できるのでしょうが……難しいものですね。改善しようとは考えているのですが、なかなか上手くいかないのです」

どうやら本当に俺の予想は正解だったみたいだ。そしてアリスが言った、真面目過ぎるという理由もよく分かった。

ツヴァイさんはなにか上手くいかないことがあると、『自分に原因がある』と考えるタイプなんだろう。たしかに、抱え込んでしまうという点で誤解を受けやすいタイプなのかもしれない。

そのまま俺は少しの間ツヴァイさんと雑談をしたあと、お礼を言ってからアリスたちの下に戻った。

フィーア先生は混乱しまくっているみたいで、落ち着きなく視線を動かしている。

「え? じゃ、じゃあ、本当にツヴァイお姉ちゃんの説教が長かったのは……私が黙って聞いてたせい?」

「その通りです。いままでのツヴァイさんの説教をよく思い出してみてください。ある程度話したところで、『少し間を空けていませんか?』」

「……た、たしかに、たびたび間が空くことが……」

「そのタイミングで『今回はこうゆう理由で失敗しました、次はこうします』って言ってたら、説教は終わってたわけです。しかしそこを沈黙すると、真面目なツヴァイさんは『自分の言い方が悪かったせいで理解できなかったのだろう』と、同じ話を言葉を変えて繰り返すわけです」

「……」

なるほど、つまりツヴァイさんの評価が家族内でも真っ二つなのは、その空白に反応をしているかどうかだったということか。

「さて、分かったところで実際に試してみましょう。フィーアさん、はい、このグラス持ってください」

「へ? えっと……」

「そして、この中身を、ワザとツヴァイさんの前で零して、説教されてください。そして、先ほどまでの話を思い出して対応してみてください。きっと誤解は解けるでしょう」

「……わ、わかりました」

ワザと説教をされるという部分に一瞬顔がこわばったが、それでもフィーア先生はグラスを受け取り、ゆっくりとした足取りでツヴァイさんに近づいていく。

その後ろ姿を見送りながら、俺はアリスに対してとある疑問を投げかけた。

「……フィーア先生って素直な性格だし、ガチガチに緊張してるから、ワザとドジするなんて不自然になりそうだけど?」

「あぁ、大丈夫ですよ。あの子のドジは筋金入りなので、ああやって適当に誘導すればきっとそれとは全く違うところでドジを……」

「ふぎゃっ!?」

「……踏むでしょ?」

アリスの言葉が終わる前に、フィーア先生は自分の服の裾を踏み、派手にすっ転んだ。さすがアリス、完璧な読みである。

そして、転んだフィーア先生を見てツヴァイさんは素早く反応した。

「フィーア! 貴女はまた……」

「ひぃっ!?」

「あれほど足元に注意しないと言ったでしょう」

「ひゃい!?」

「いいですか、そもそも……」

そして予想通りというかなんというか、不注意に対する説教が始まった。厳しい表情と、鋭ささえ感じる声での説教はかなりの迫力であり、俺が怒られているわけでもないのに、思わず背筋が伸びてしまう。

ツヴァイさんはそのまま数分、正座したフィーア先生に不注意に対する説教を行い……そして、ある程度話したところで言葉を止め、ジッとフィーア先生を見た。

睨むようなその表情にいままでは委縮して沈黙していたであろうフィーア先生は、アリスのアドバイスを思い出したのか、恐る恐るといった感じで口を開いた。

「……ご、ごめんなさい、ツヴァイお姉ちゃん。私がちゃんと足元を見てれば、こんな風にはならなかった……その、次からは、もっと気を付けます」

「……」

フィーア先生がそう言って頭を下げると、ツヴァイさんの表情がふっと和らいだように見えた。

「……分かればいいのです。ほら、立ちなさい、フィーア」

そう言って正座していたフィーア先生を立ち上がらせ、フィーア先生の服に付いた汚れを軽く手で払いながら、ツヴァイさんは優し気な微笑みを浮かべる。

「恥をかくのもそうですが、それ以上に……貴女はたしかに強く、転んだ程度で怪我などしないでしょう。でも、それでも私は大切な妹である貴女が転ぶと気が気ではないのです。あまり、心配をかけないでください」

「……ツ、ツヴァイお姉ちゃん……」

「さっ、綺麗になりましたよ。先ほど言ったことに注意して、パーティを……」

「ツヴァイお姉ちゃぁぁぁぁぁん!?」

「フィ、フィーア!? ど、どうしたのですか急に?」

ツヴァイさんの優しい言葉に感極まったのか、フィーア先生は目を潤ませてツヴァイさんに飛びついた。

「ごめんさい! わ、私……いままでツヴァイお姉ちゃんのこと誤解してて!!」

「ご、誤解? ど、どういうことですか? いまいち話の要点が……」

「お姉ちゃぁぁぁぁぁん!」

「お、落ち着きなさい、フィーア。い、いったいどうしたんですか……ちゃんと話は聞きますから、ここは人目もありますし、一度泣き止んで……」

いままでツヴァイさんを怖がっていたことの罪悪感からか、泣きじゃくるフィーア先生に対して、ツヴァイさんは状況が理解できないのか戸惑った表情を浮かべている。

なんとかフィーア先生を落ち着かせようと、オロオロとしながら言葉をかけ続けるツヴァイさんは、本当にただ妹思いの優しい姉にしか見えなかった。

なんというか、いろいろ驚きの内容ではあったが、本当のツヴァイさんを知ることができてよかったと、そう思えた。

そのままツヴァイさんとフィーア先生の様子を見続けるのも失礼だと思い、あいさつ回りを再開することにしてソッとその場を離れる。

少し騒がしさもあるが、それでもパーティはおおむね穏やかに信仰していると言っていいだろう。

そう、そう思ってた。集まったメンバーはとんでもない方ばかりではあるが、それでも前の誕生日パーティで多少慣れたし、問題なく過ごせると……そう……思ってたんだ。

……空間が歪むほどの魔力をぶつけ合いながら睨み合う『この世界の神と異世界の神』を見るまでは……。