軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新築パーティを行おう④

決して多くの言葉を交わすというわけではないが、話に詰まったり気まずくなったりするわけでもなく、イルネスさんと過ごす時間は本当に穏やかに過ぎていく。

そしてそろそろワインやつまみも終わりそうだと感じたタイミングで、俺はイルネスさんに声をかける。

「……イルネスさん」

「はいぃ?」

「今日は、俺のワガママに付き合ってくださってありがとうございました。もしまた、同じような機会があれば……またお誘いしてもいいですか?」

「もちろんですよぉ。その時は~喜んでぇ、ご一緒させていただきますねぇ」

たぶん……今後もイルネスさんは、俺が渡した給料を今回の件に似た形で俺に返してくれるつもりなのだろう。それが分かっていたからこそ、俺は次も誘っても構わないかと問いかけ、イルネスさんは了承してくれた。

こうしてイルネスさんと過ごす時間は心安らぐので俺としても嬉しいところではあるが、ただやはり無力感というか……イルネスさんの働きに応えられてないという思いはある。

「……なんというか俺は、いつもイルネスさんにいろいろなことをしてもらってばかりですね」

そんな思いがあったから、だろうか? つい、そんな言葉が口を突いて出た。

イルネスさんには本当に言葉では言い表せないほど、沢山のことでお世話になっている。だけど、そのお礼をしっかりできたという実感はない。今回の給料も、結局は巡り巡って俺に戻ってきたようなものだ。

そんな思いの籠った言葉ではあったが……。

「いいえ~それはぁ、違いますよぉ」

「……え?」

イルネスさんは、ハッキリと否定の言葉を告げながら首を横に振った。

そして、イルネスさんは少し微笑みながら……普段は合っていない目の焦点を合わせ、真っ直ぐに俺の目を見つめながら言葉を続ける。

「貴方がぁ、私から~いろいろなものを貰っているとぉ、感じるように~私もぉ、カイト様からぁ、たくさんのものを貰っていますぅ」

「……そう、なんですか?」

俺を見つめる吸い込まれそうなほど美しい黒い瞳には、それだけで温かいとすら思えるほどの優しさが宿っている気がした。

「例えば~カイト様はぁ、いつも私に~『ありがとう』とぉ、そう言ってくれますよねぇ?」

「……へ?」

「貴方の身の回りのお世話をするのは~私の仕事ぉ、言ってみれば~行って当然のことですぅ。ですが~貴方はぁ、洗濯ものを持って行ったときもぉ、紅茶を淹れてお持ちした時もぉ、必ずぅ……ありがとうと~言ってくれますぅ」

そこでいったん言葉を区切ったあと、イルネスさんはいつもの特徴的な笑みとは別の……心から幸せそうな深い笑みを浮かべた。

「……カイト様にとってはぁ、些細なことかもしれません~。ですが~私にはぁ、その一言がぁ、どうしようもなく~嬉しいんですよぉ。あくまで一例ですがぁ、それ以外にも~数えきれないくらいぃ、貴方からはいろいろなものをいただいていますよぉ」

「……イルネスさん」

「だからこそ~私もぉ、貴方に~いろいろなものを返したいとぉ、貴方に喜んでもらいたいとぉ、そう~思うのですよぉ」

照明用の魔法具に照らされて見えるイルネスさんの顔は、なんというか目が離せないほど……眩しいぐらいに美しく、その言葉を間違いなく本心から言っていると伝わってきた。

本当になんというかこの人は、聖母とかそんな言葉が似合うほど眩しすぎる。そんな風に言われてしまうと、もうこれ以上なにも言えなくなってしまう。

俺が言葉に詰まったことで一度会話は止まり、イルネスさんは座っていたソファーからスッと立ち上がる。

そして、マジックボックスからなにやら大き目な…‥ケープのようなものを取り出して俺の肩にかけてくれた。

「……今日の夜はぁ、少し冷え込みそうですぅ。あまり遅くならないうちにぃ、お休みくださいねぇ」

「……はい。そのえっと、ありがとうございました」

「いえいえ~こちらこそぉ、楽しいひと時を~ありがとうございましたぁ」

イルネスさんはそう言って再び微笑んだあと、手早くグラスや皿を片付け、深く一礼してから部屋を出ていった。

それを見送ってから、俺はふとイルネスさんにかけてもらったケープに視線を動かす。

以前イルネスさんには手編みのひざ掛け貰ったことがあるが、このケープも少し手触りが似ている気がするので、たぶんイルネスさんが編んでくれたのだろう。

と、そこまで考えたところで……ふとケープの裏側に、赤いバラが三本と葉っぱが刺繍されているのが見えた。

……あれ? なんで内側に刺繍が? 表裏が逆……というわけでもなさそうだけど……。

イルネスさんに限って、間違えて刺繍をしてしまったということもないだろうが、その意味はよく分からなかった。控えめな方だし、目立たないように裏側に刺繍したのだろうか?

そういえば、イルネスさんはいつも薔薇をあしらったタイを首元に付けているし、もしかしたら薔薇の花が好きなのかもしれない。だとしたら、しっかり覚えておこう。

薔薇は特殊な花であり、色や本数によって花言葉が変わる。

赤い薔薇なら『愛情』、白い薔薇なら『純潔』、黄色の薔薇なら『友情』といった風にさまざまな花言葉が存在する。

その中でも赤い薔薇には、その葉にも花言葉が存在する。

赤い薔薇の葉の花言葉は『あなたの幸福を祈る』であり、まさにイルネスの性格に合ったものではある。

だが、快人に贈られたケープに、隠すように刺繍させていた花にはさらに別の意味が存在する。

薔薇は恋愛を象徴する花でもあり……『誰かに贈る場合は、その本数によっても花言葉を変える』非常に特殊な花である。

たとえば……。

1本の薔薇ならば『一目惚れ』。

13本の薔薇ならば『永遠の友情』。

50本の薔薇ならば『恒久』

そんな風に色だけではなく、贈る本数によっても花言葉を変える薔薇。

そして、赤い薔薇を3本贈るときの花言葉は――

――『あなたを愛しています』