軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『研究室メンバー』

昼食を食べ終え、有紗とアイリスさんと共に絵里奈の研究室へやって来た。

「うん? あっ、三人ともいらっしゃ~い」

白衣姿の絵里奈は、柔らかい笑顔で俺たちを迎えつつ、目の前にある実験器具に手を伸ばす。

「……また……カラメル焼き……作ってる」

「カラメル焼きにはね、無限の可能性があるんだよ」

「いや、ねぇと思いますけど……相変わらずですねぇ、絵里ちゃん先生は」

見慣れたともいえる絵里奈のカラメル焼きづくりを眺め、アイリスさんと有紗が苦笑しながら告げる。そしてその様子を見ていた俺の口からは、ふとある言葉が零れ落ちた。

「……あれ? ベビーカステラは?」

「うん? ベビーカステラ? あぁ、縁日とかで売ってるやつだね。アレも美味しいよね……あんまり食べる機会ないけどさ……で、なんでベビーカステラ?」

「え? いや……なんでだろ?」

「あはは、変な快人くん」

おかしいな? なんで急にベビーカステラなんて言葉が出てきたんだろうか? なんとなく、絵里奈がベビーカステラを食べてる姿を想像してしまったけど、そんな姿見た覚えがない。

けど、なんか妙にしっくりくる気がするんだよなぁ……本当になんだろうかこれ?

「他の人は来てないんすか? 凜々先輩とか、リディ先輩とか」

「う~ん、そのふたりは来てないね。けど、風ちゃんが来てるよ」

「おや? 風さんはこっちに居ましたか……それで、どこに?」

「……うん、ボクの仮眠用ベッドで寝てる」

「……そっすか……起こしてきますね」

「よろしく~」

有紗が口にした凜々先輩とリディ先輩というのは、同じ絵里奈の研究室に所属している上級生だ。

剣道の全国大会優勝者で、才女と名高い西行寺凜々花先輩と、アイリスさんと同じ留学生でアーチェリーの名手であるリディ・クアネット先輩。

どちらもとても優しく、いろいろお世話になっている。というか、絵里奈の研究室のメンバーは総勢六名と少数で、メンバー間の仲はとてもいい。

「……そういえば、今更だけどなんでうちの研究室って、こんなにメンバー少ないの?」

「うん? あぁ、希望者はいっぱいいるんだけど……ほらボクって、教授の中では最年少だからね。あんまり若輩のボクの研究室に沢山の人がいると、いろいろややこしいんだよ。だから、他にまわったりしてもらってるんだよ」

「へぇ、やっぱそういうなんて言うか、派閥間の力関係みたいなのがあるのか……」

「あはは、困ったものだけどね~。まぁ、ボクとしては少数の方が、個人個人をしっかり見てあげられるし、丁度いいけどね」

ハッキリ言って絵里奈は大学内でも人気がある。可愛らしくて優しいので、当然とはいえる。ただ、やはり最年少の教授という立場からくる、いろいろな厄介事はあるみたいで、時々俺の家に愚痴りにきたりもしている。

まぁ、出る杭は打たれるとはちょっと違うかもしれないけど、若くして才能あふれる絵里奈はいろいろな意味で目立つんだろう。

「……というか、うちの研究室は大学内でもかなり有名ですよ。なにせ『夢ヶ丘三大美女』と『夢ヶ丘三大美少女』が揃ってるわけですしね。というか、ほら、風さん。いい加減起きてください」

「うみゅ……あと三年……」

「なげぇっすよ!?」

薄紫のツインテールで、胸元にノートパソコンを抱え、サイズが大きめのカジュアルな服装を身に纏った少女……風さんを引っ張りながら有紗が戻ってきた。

「……こんにちは、風さん」

「うぁ? あぁ、快ちゃんとアイたんじゃない。やっほ~……」

眠たそうな表情で緩い挨拶をしたあと、風さんは研究室内にある椅子に座る……もとい有紗によって椅子に座らされた。

そしてそのタイミングで、アイリスさんが少し首をかしげながら有紗に尋ねる。

「……有紗……さっきの……三大なんとかって……なに?」

「おや? アイリスさんは知らないんですか? うちの大学……夢ヶ丘大学には、三大美女と美少女って呼ばれてる人たちがいるんですよ。ちなみに、三大美女は凜々先輩とリディ先輩……それと、アイリスさんですね」

「……え? ……私?」

「はい。そして、三大美少女は風さんと絵里ちゃん先生……そして、私です!」

ドヤ顔で告げる有紗をみて、アイリスさんは不思議そうに首を傾げる。まぁ、アイリスさんは自己評価が低いところがあるので、「なんで私なんだろう?」とか考えてるんだと思う。

客観的に見れば、アイリスさんが入らないわけもないんだけど……。

「……皆……研究室のメンバー……」

「ですね、だからでしょうけど……うちの研究室は滅茶苦茶人気で、希望者が殺到してるんですよ。まぁ、そういう邪な目的の人は、絵里ちゃん先生が断ってますけどね」

「う~ん、ボクとしてはその呼び方好きじゃないんだよね。ボクは大人なのにさ、美少女って……なんで美女の方じゃないのかなぁ?」

「……いや、だって絵里奈ちっこいし……」

「……」

「あっ、いや、その……」

軽く頬を膨らませながら告げた絵里奈に咄嗟に答えたあと、俺は自分の失言を後悔した。絵里奈は俺の方を見て、優しく微笑んでいる。しかし、長い付き合いの俺には、ソレが怒っている時の顔だと理解できた。

「……快人くん……次の課題、に・ば・い」

「……ごめんなさい、勘弁してください、黒須教授は魅力あふれる大人の女性です」

「わかればよろしい。でも、課題は増やすから」

「……え?」

迂闊な発言の代償は、課題の増加という形で返ってきた。冬休み前にして、大変厳しい罰である。

「あはは、まぁ、そういうわけで快人さんは幸せ者なんすよ。両手に花どころか、周囲は花だらけっすよ」

「……まぁ、否定はしない」

たしかに、俺はこの研究室唯一の男であり、同性からは羨ましがられるポジションだろう。まぁ、女性ならではの話題とかには付いていけないこともあるので、いいことばかりではないのだが……。

「あっ、ちなみに快人さんにも一応、そういう感じの呼び名はありますよ」

「え? マジで? 俺って、結構平凡だと思ってたんだけど……へぇ、そうなんだ。それは知らなかった。ちなみにどういう呼び名?」

なんだろう、ちょっとソワソワする。俺は容姿も平凡だし、成績も中の上くらい、これといった特筆するべき点は無いように思ってたけど……呼び名、二つ名みたいなのがあるのか。

なんかちょっと嬉しい……。

「……『夢ヶ丘の爆破予定地』ですね」

「ロクな呼び名じゃなかった!?」

それ完全に同性から恨まれてるパターンのやつじゃねぇか!?

「ちなみに、快人さんの同性からの評価としては……『爆ぜろ』が7割、『まぁなんだかんだでいい奴だから私刑は勘弁してやる』が2割、『付き合いたい』が1割ですね」

「ちょっと待って!? 『同性』の評価だよな!? 最後の一割なに!? 滅茶苦茶恐ろしい言葉が聞こえてきたんだけど!?」

「……実は快人さんと仲の良いあの方が……おっと、これ以上は野暮な話題ですね」

「そこでやめるなぁぁぁぁ!? 滅茶苦茶恐ろしいじゃねぇか!?」

知りたくなかったおそろべき事実。明日から、どんな顔して同性の友人に会えばいいんだよ。

もう、なんというか……先行き不安である。