軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どんな力か知りたいものだ

ある日の昼下がり、俺はアリスに呼び出されて雑貨屋まで足を運んでいた。用件がなんなのかまでは分からないけど、なんとなくいつもとは違う気がする。

なにせアリスは普段姿を消して俺のすぐ近くに居るわけだし、基本的にすぐ済む用件であればその場で言えばいいはずだ。それをわざわざ場所を指定して来てほしいと言ってくるってことは、よほど大事な用件なんだろうか?

そんなことを考えながら通い慣れた雑貨屋へたどり着くと、またしても違和感を覚える部分があった。というのも、雑貨屋の扉に付いている札が……『close』となっている。

客がまったく来ない店ではあるが、普段は常に『open』となっていたはずだ。これは、本当になにか重要な話があると考えたほうがよさそうだ。

雑貨屋の中に入ると、店奥のカウンターにアリスが座っていた……着ぐるみを着ている店番用分体じゃないってことは、俺が扉を開けた瞬間に回り込んで座ったのかな? いや、考えるのは止めよう。緊張感が台無しになりそうだ。

「いらっしゃい、カイトさん。急に呼び出してすみません」

「いや、それはいいんだけど……」

「なんの用件か、ですね?」

「あ、あぁ」

アリスにしては珍しく、おふざけ一切なしですぐに本題に移行……本当に、なんの話なんだろうか?

「いや、まぁ、カイトさん。ものは相談なんですが……『心具』、覚えてみませんか?」

「……へ? えっと、心具って……アリスのヘカトンケイルとか、イリスさんのアポカリプスみたいな?」

「ええ、その心具……強い心を武器とする魔法です」

「……えっと、俺に覚えられるようなものなの?」

アリスの提案の意図はわからないが、内容自体にはそこそこ興味がある。アリスから受けた説明では、心具とは心そのものを武器にする魔法で、その性質は個々によって大きく異なるが、非常に強力な魔法であり、アリスの切り札でもある。

そういう自分だけの武器みたいなのには、男として憧れる。けど、果たして魔法の才能はかなり低いと言っていい俺が覚えられるのだろうか?

「大丈夫ですよ。ほら、前に心具の説明をしたときに言いましたけど……私の居た世界では、9割の人間が心具を使えたんですよ。完璧に使いこなすのは別として、使うだけなら簡単です」

「……ふむ」

「ついでに言うと心に心具を宿すのも、ものすごくお手軽です。『あるひとつの条件を満たした相手の心具』に『人間が触れること』って、それだけですね。まぁ、心に宿ったとしても目覚めるまでの時間には個人差があるんですけどね」

「へぇ、そのひとつの条件ってのは?」

強力な魔法のはずだが、意外なほどに簡単な習得条件……まぁ、その条件次第では困難なのかもしれないけど……こうして、話を持ち出してくるってことは、少なくともアリスはその条件を満たしているってことだろう。

「これも本当に単純ですよ……『自分のことを心から大切に思っていること』ですね。私の居た世界では、基本的に子供が生まれた時に、親の心具に触れます。なので、大抵の人は使えたわけです」

「なるほど」

「ですが、この世界で心具を覚えられるのは……『カイトさんだけ』でしょうね」

「……え?」

「理由は単純です。イリスは現状あくまで私の心具の一部なので、いまこの世界で心具を使えるのは私だけ。その私が、心から大切に思っている人間なんてカイトさんしかいないですからね」

少し気恥ずかしいのか、軽く頬を染めながら告げるアリス。

「ついでに言うと、理由までは完全にはわかりませんが……『心具は人間にしか宿らない』と思うんですよ。まぁ、私が大切に思っている相手というのが少ないので、検証はしっかりできてませんけど……フェイトさんや、クロさんで試したときには宿りませんでした」

「あぁ、それで俺に……」

「ええ、まぁ、もしかしたら世界が違うと駄目って可能性があるので、絶対ではないですが……手間のかかる作業でもないので、ちょっと私のヘカトンケイルに触れてみてください」

「……わかった」

正直、疑問はある。なぜアリスが俺に心具を覚えさせようとしているのか? しかも、本当に唐突に……。

あくまで想像でしかないのだが、もしかしたらアリスは『アリスが俺を守れない事態』を想定して、俺になんらかの自衛手段を持たせようとしているのかもしれない。

そうなると、思い浮かぶのはシロさんの試練か……まだ試練の詳細な内容が分からないのでなんとも言えないが、備えておいて困ることはないだろう。それに、心具にも興味があるし……。

そんなことを考えつつ、アリスのヘカトンケイル……光り輝く流星のひとつに触れてみると、一瞬体の奥で大きくなにかが脈打った気がした。

「……どうですか? カイトさん」

「えっと、いま一瞬なんか……体の奥底が脈打ったみたいな感覚があったけど、いまはなにも感じない」

「……問題なく宿ったみたいですね」

「え? これで、もう心具が宿ったの?」

「ええ……宿ることは宿りましたけど、いつ目覚めるかは不明です。宿ってすぐ目覚める人もいれば、数年経ってから目覚める人もいますし、少数ですが宿ったままで結局目覚めなかった人もいないわけではありません」

「……なるほど」

「その心具の名前と能力が、ある時ふっと頭に思い浮かびます。それが目覚めですね」

すぐにどんな力なのか分からないのは残念ではあるし、シロさんの試練までに目覚めてくれるかもわからない。けど、楽しみではある。

「さて、真面目モードはこれぐらいにして、お茶でもしましょう!」

「また、唐突な……」

「まぁまぁ、お茶を淹れてきますので、カイトさんはなにか食べ物を用意してください!」

「……ナチュラルに食べ物は俺に出させるんだな……まぁ、あるけど」

「食べ放題ですね! ありがとうございま――ぎゃんっ!?」

結局理由は説明しないまま、いつものおふざけモードに戻ったアリスを見て溜息を吐く。まぁ、アリスのことは信頼しているし、理由を言わないのにもなにか意図があるんだろうから聞かないでおこう。

そう考えてから俺はもう一度溜息を吐き、マジックボックスから茶うけの菓子を多めに取り出した。

拝啓、母さん、父さん――よく分からないまま、俺の心には心具という力が宿った。いつ目覚めるかは不明ということだけど、できれば早く――どんな力か知りたいものだ。

快人に出す紅茶を用意しながら、アリスは心の中でイリスに語り掛ける。

(……さすが、カイトさんの心具……私のヘカトンケイルと相性抜群ですね)

(ある程度の条件を満たす必要があるとはいえ、強力な心具だな……しかも、珍しいタイプだ。そして、たしかにお前の心具との相性はすさまじいな)

快人の心具はまだ目覚めてはいない。しかし、それはたしかに『快人の中に存在している』。ならば、アリスのヘカトンケイルであれば、絆を紡いだ相手である快人の力……心具の力を借り受けることができる。

ゆえに、アリスはすでに快人の心に眠る心具の名称も能力も分かっている。

(『主目的は別』でしたけど、これは嬉しい誤算ですね。場合によっては、戦局を覆す切り札にもなりますし……カイトさんと私のベストカップルっぷりがそのまま表れたような効果は、ぶっちゃけ超嬉しいです。滅茶苦茶自慢したいです)

(……惚気るのはあとにしろ)

(はいはい、じゃあ、カイトさんとお茶しながら、この心具も使う想定で、悪だくみをしなおしましょう)

(だから、作戦会議と言え……)

思わぬところで手に入った切り札に喜びながらも、アリスとイリスは慎重に決戦に向けての戦闘プランを調整していった。