軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロに少しだけ近付けた気がする

良く晴れた明け方、屋敷の庭に立つ俺の前では、柚木さんが物凄いスピードで庭園内を駆け回っていた。

「宮間せんぱ~い、やっぱこれ楽しいですよ!」

「ホント速いね。目で追うのも難しい位だ」

「あ~これで大会に出れたら、優勝間違い無しなんですけどね」

「あはは、確かに」

つい先日の事ではあるが、楠さんと柚木さんもほぼ同時に魔力に目覚め、クロが語っていた通り異世界人だからなのか、それぞれ普通とは違う才能を持っていた。

柚木さんは身体強化の魔法に物凄い適性があるらしく、魔力に目覚めて数日で、もはや人外と言っていいレベルの身体能力を獲得しており、特に元々走るのが得意だった事もあり、速度に関しては何とリリアさん達も敵わないらしい。

ちなみに身体強化の魔法自体は初歩中の初歩と言える程簡単な魔法で、俺も使う事が出来るのだが……残念ながら俺にそちらの才能は全くと言っていい程無かった。

柚木さんは元々100m走を12秒ほどで走るらしい。この時点で14秒前後の俺よりずっと早いのだが、その柚木さんが身体強化の魔法を使用して100mくらいの距離を走る速度は……なんと約1秒。時速に換算して300kmオーバーである。

そう、柚木さんは身体強化の魔法を使うと、新幹線並みのスピードで走れる。魔法って本当にとんでもねぇな。

ちなみに俺が身体強化の魔法を使用するとどうなるかというと、何と本来14秒かかる100m走が……13秒になる。ハッキリ言って誤差レベルの変化しかない。

そして楠さんは特殊な魔法が使えると言う訳ではないのだが、土属性の魔法に異常に高い適性があり、土属性の魔法だけなら中級魔法まで使える様になっている。

そんな訳で現状の俺、楠さん、柚木さんの魔法錬度を、仮に戦闘力という区分で分ければ……俺が最弱だ。

まぁそもそも戦闘を行う機会なんてないので戦闘力が高くてどうだと言う訳ではないが、そこはちょっと男の子としては残念な部分でもある。

ここは平和な世界であり、攻撃魔法を市街地等で使用するのは禁止されている事は分かっているし、魔物と戦いたいだとかは欠片も考えていない。

だけど、だけど……やはり俺も男の子である。カッコいい攻撃魔法に憧れない訳がないし、いざという時身を守る手段位は欲しいものだ。

「……っと言う訳で、何とかならないかな?」

「……え?」

ここ数日は忙しかったのか現れておらず、久しぶりに現れたクロに今朝方の出来事を話して尋ねる。

するとクロは珍しく戸惑った様な、明らかに俺の質問が予想外だったと言いたげな表情を浮かべる。

「い、いや、カイトくん。ここはアレじゃない? この前クロノアちゃんに聞いた事とかを追求するとこなんじゃないかな? 『クロ、お前は一体何者なんだ!』とかそんな感じの展開になるんじゃないの?」

「……うん? あれ? なんでクロがその話を知ってるんだ?」

「クロノアちゃんって凄い真面目だからね。態々ボクの所に、こういう話をカイトくんにした事後承諾になってすまないとかって言いに来たよ」

「クロノアさんらしいと言うか、何と言うか」

成程、この世界に個人情報保護なんて概念があるのかは分からないが、クロノアさんはクロの素性を一部とはいえ俺に伝えた事を、事後承諾ながらクロにちゃんと断りを入れたらしい。

やっぱリリアさんと似てるって言うかなんて言うか、クロノアさんも物凄く律儀な性格をしてるんだろうなぁ……

「まぁ、それは別にいいとして……」

「別にいいの!? いやいや、ほら、カイトくん。結構衝撃的な事実だったんじゃないの?」

「それはまぁ、驚いたし、色々思う所もあるけど……想像も及ばない事態が降りかかってくるのは、何て言うか……『慣れた』」

「……なんか、カイトくんが凄く逞しくなってる」

クロノアさんから聞いたクロの過去に思う所がない訳じゃないし、勿論驚いた事は驚いたが、あの件に関しては自分なりに色々考えてみた結果……考えた所でよく分からないという結論に達した。

「で、でも、ほら! ボクの本当の姿とか気になったりするでしょ?」

「あぁ、確か黒い煙だっけ? う~ん。要するに『綿菓子の怪物』みたいなものだろ?」

「全然違うよ!?」

「そっか、うん。まぁ、それに関しては別に……どうでもいいかな」

「えぇぇぇぇ!?」

俺の反応が予想外だったのか、非常に驚き慌てているクロを微笑ましく思いながらコーヒーを飲む。

確かにクロがかつて神界に攻め込んだとか、本当の力を姿を隠しているとか、衝撃を受けた事は間違いないし、聞いたその日は色々考え込んだりもした。

「でも、聞いたところでどうせはぐらかすだろうし……」

「うぐっ、い、いや、分かんないよ。何かヒント的な事言うかもしれないよ?」

だけどまぁ、考えた所でそれが何だと言う感じだ。

仮にクロが実は物凄く悪い奴だとして、それを俺がどうにかできるかと言われたら、どうしようもない。

クロは俺とは比べ物にならない程強大な力を持った存在な訳だし、俺にどうこうできるものでも無い。

逆に今までの印象通りただのお人好しだったとして、その場合は別に何か問題がある訳でもない。

つまるところ、考えた所で俺にこの問題をどうこうする事は出来ないと言う事……それに……

「仮にクロが昔悪意を持って神界を侵略したとしても、何かしらの打算があって俺に色々世話を焼いてくれてるとしても……俺がクロに感謝してる気持ちは無くならないし、クロが大事な友達だって事が変わるとも思えないし……だから、別にどうでもいいかな」

「……く、くそぅ……何か凄いカッコ良くて、これ以上何も言えない……」

「まぁ、そう言う訳で、クロの方から話してくれるなら聞きたいと思うし、もっとクロの事を知りたいとも思うけど……俺の方から焦って何かを聞いたりするつもりはないよ」

「……むぅ」

そう、それが俺が考えた末に出した結論。

クロが話してくれるなら聞きたいけど、クロが話したくない内容を無理に聞いたりしたくは無い。だから、俺の方からあれこれと追及したりはしない。

だけどただ話してくれるのを待つだけじゃなくて、俺の方でも色々考えて、クロの事をもっと知っていこうと思う。そうすれば自然と答えは出てくるんじゃないかな?

うん。何と言うか、俺もこの世界に馴染んできたのか、割と落ち着いた考え方が出来る様になってきた気がする。

俺に言いくるめられたのが気に入らないのか、クロは拗ねた様に頬を膨らませているが、特に反論も思いつかない様子だ。

子供みたいなその様子が可愛らしく、つい無意識に手を伸ばし……膨らんでる頬っぺたを突いてみた。

「ひゃぅっ!? かか、カイトくん!? 急に何するの!?」

「あれ? 何か新鮮な反応……」

「いきなり女の子のほっぺ突くとか、セルハラだよ!」

「……セクハラな」

「むぅぅぅ」

「あはは、ごめんごめん」

何と言うか普段から考えると、立場が逆転した様なこの状況がなんだかおかしくて、堪え切れずに笑いが零れてしまう。

クロはますます不貞腐れた様子で、ヒマワリの種を詰め込んだハムスターみたいに頬を膨らませてこっちを見てくるが、可愛いばかりで全然怖くない。

「……別にドキドキしてないもん。ちょっとカイトくんが、ボク好みにカッコ良くなってて驚いただけだもん……」

「うん? 何か言った?」

「何でもないよ、カイトくんの馬鹿!!」

「だから、ごめんって……」

今まで俺は、救われたと言う感謝もあってか、どこかクロに対して一歩引いて接していたのかもしれない。

実際こうして思い切って近付いてみれば、今までとはまた違うクロの一面も見えてきた。

やっぱり変に周囲から聞いた情報だけでアレコレと決めつける必要なんてない。俺は俺の目でクロを見て、クロがどんな存在なのか、俺がクロとどう接していくのかは……ゆっくり考えていけばいいと思う。

まぁ、ともかく今は、すっかり機嫌を損ねてしまったお姫様のご機嫌取りからかな……

拝啓、母さん、父さん――色々思う所もあって、不安を感じない訳ではない。だけど、根拠は無いんだけど、なんとなく――クロに少しだけ近付けた気がする。