軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

すぐに信じる事は出来なかった

泣きやんだ後のアイシスさんと再び様々な雑談をして過ごした。

アイシスさんは終始幸せそうな笑顔を浮かべており、俺との会話を本当に楽しんでくれていると言うのが伝わってきて、俺としても嬉しく感じる。

楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、気付けば夕刻と言っていい時間になり、アイシスさんは帰る事になり、玄関先で少し寂しそうな顔をするアイシスさんを見送る。

「……カイト……今日は……ありがとう……凄く……楽しかった」

「俺も凄く楽しかったですよ。是非また遊びに来て下さい」

「え、ええ、死王様……き、き、気軽にお訪ねください」

「……ありがとう……リリア……今度来る時……宝石いっぱい持ってくる」

「えっ!? あ、いや、それは……」

引きつらせながらも家主としてのプライドがあるのか、リリアさんは何とか必死に笑顔を作ってアイシスさんに見送りの言葉を発し、返ってきた言葉に硬直する。

やはりブルーダイヤモンドやアイスクリスタルというのは凄まじく高価らしく、いくらアイシスさんがくれると言っても、真面目なリリアさんとしてはしっかり仕入れという形で購入するつもりの様だが、そうなるとアイシスさんと値段の交渉を行わなければならない。

そうなった場合……リリアさんの神経が凄まじい勢いですり減っていく気がする。

「……それじゃあ……さようなら……またね」

リリアさんに言葉を告げた後、アイシスさんが再び寂しそうな表情を浮かべたのが見えた。

アイシスさんは今までの環境が環境だっただけに当然と言えるかもしれないが、かなりの寂しがり屋だ。

そんなアイシスさんは今日は何度も楽しいと溢してくれ、本当に終始幸せそうにしていた……だからこそ、こうして帰るのが寂しくて仕方がないんだろう。

アイシスさんは魔界にある氷に覆われた地域に住んでいるらしいが、周囲に他の住人は居なくてアイシスさんだけらしい。

「……アイシスさん」

「……うん? ……カイト……どうかしたの?」

「いえ、もし良かったらなんですが……また次の機会に今度は俺の方が、アイシスさんのお宅に遊びに行っても良いですか?」

「……ッ!? ……い、いいの?」

「ええ、アイシスさんさえ良ければ」

「……うん……凄く……楽しみ」

俺の言葉を聞いたアイシスさんは、花が咲く様な笑顔を浮かべ何度も頷く。

うん。魔界にどうやって行くかとか、氷に覆われた大地で人間である俺がどうやるのかとか、その辺りは後でじっくり考えよう。

そして本当に嬉しそうな笑顔を浮かべたまま、何度も振り返って手を振りながら帰っていった。

アイシスさんの姿が見えなくなるまで見送った後で、屋敷に戻るリリアさんの後を追って俺も屋敷の中に入ろうとすると、無言でアイシスさんを見送っていたクロノアさんが話しかけて来た。

「……ミヤマ。少し良いか?」

「え? あ、はい」

元々真面目な感じの方ではあるが、クロノアさんは非常に真剣な表情を浮かべており、何かを決意した様な雰囲気に若干気圧されながらも頷く。

そしてリリアさんに断りを入れてから、庭の端……会話が他の人に聞こえない位置まで移動した後で、クロノアさんは静かに口を開く。

「告げるべきか否か、迷っていたが……今日の死王との件を見て、貴様という存在が我の想定を超えると判断した。故に、一つ忠告をしておく」

「……忠告、ですか?」

「うむ。あくまでこれは忠告だ。それを聞いた上でどう行動するかは貴様の自由、強制するつもりはない……だが、今後の為にも心にだけは留めておけ」

「……」

クロノアさんは何を言うつもりなんだろうか? 今日の件を見てと言うなら、一番可能性が高いのはアイシスさんに対してのことだろうけど……だとしたら、告げるかどうか迷っていたと言う発言が引っ掛かる気がする。

何故か妙に心がざわつく様な、居心地の悪さを感じながらクロノアさんの言葉を待つ。

クロノアさんはそのまま少しの間沈黙し、赤と青のオッドアイで真っ直ぐに俺を見つめながら口を開く。

「……冥王を……『クロムエイナを信用し過ぎるな』」

「……え?」

何を言われたのか、すぐには理解する事は出来なかった。

クロを信用するな? それは一体どういう事なんだ?

「貴様が奴に対して好意的な感情を抱いているのは理解しておる。そして奴が魔界だけでなく人界、果ては神界の者にも大きな信頼を得ているのも知っておるし、奴を悪しき存在だと告げるつもりも無い」

「じゃあ……」

「だが、我は奴を清き存在だとも思ってはいない。いや、むしろ警戒しておる」

「ど、どうして?」

反射的に問い返してから、後悔した。

出来ればこの先は聞きたくないと感じながら、耳を塞ぐ事も出来ず、俺はただクロノアさんの言葉を待つ。

「……理由はいくつかある故、順を追って話す事にするが……ミヤマ。貴様はかつて魔界と神界の間に戦いがあった事を知っておるか?」

「……え? あ、はい。ずっと昔に戦争があったって……」

何故そんな事を聞いてくるんだろう? 嫌な予感しかしない。

子供の様に明るく無邪気で、それでいて相手の心を見通す程に深慮深く、腐りかけ自分の心に蓋をしていた俺に道を指し示してくれた大恩ある存在。

まだよく知らないながら、心惹かれ始めている事を自覚し始めた……とても大切な友達。

だけど俺はクロの事をまだ何も知らない。彼女がどんな存在で、どんな風に今まで生きてきたのかも……

「当時の事を知る者は、今や魔界にも神界にも一握りしか存在せんが……アレは、戦争ではない『侵略』だ」

「……」

「今より二万年程過去の出来事。一体の比類なき力を持った魔族が、強大な力を有する魔族をまとめ上げ、神界に攻め込んできた……それが伝承としてのみ語られておる魔界と神界の戦いの真実」

「ッ!?」

「……もう、理解していよう。そう、その神界に攻め込んできた魔族こそ、現在の冥王であるクロムエイナだ」

「!?!?」

拝啓、母さん、父さん――俺にとってクロはとても大きな存在で、俺は彼女の事をもっと知りたいと思っていた。だけど、告げられたその言葉は――すぐに信じる事は出来なかった。

「……あっ……リリウッド……いらっしゃい」

『お邪魔します。どうやら、今日の訪問は上手くいった様ですね』

「……分かるの?」

『ええ、今の貴女となら人族も会話が出来るのではないかと思う程、上機嫌の様ですから』

アイシスが人族の屋敷に友達に会いに出向くと聞き、助言を行いながらもかなり心配していたリリウッドだが、今のアイシスの様子を見ればそれが杞憂であった事はすぐに分かった。

余程今日の出来事が楽しかったのだろう。アイシスは非常に上機嫌の様子で、身に纏う死の魔力もいまだかつてない程圧が弱くなっていた。

『ところで、それは一体何をしているのですか?』

「……カイト……本が好きって言ってた……だから……本……プレゼントする」

先程からアイシスが様々な本を手にし、それを選定するかの様に分けながら積み上げているのが気になり訪ねると、どうやら人間の友人に贈る本を選んでいるらしい。

リリウッドはその様子を微笑ましそうに見つめ、何の気無しに置かれた本を見て……硬直した。

『……あの、アイシス』

「……うん?」

『これは『古代魔法』の載った魔道書では? これを一体どうするおつもりで?』

「……カイトが欲しいなら……あげる」

『いやいや、駄目ですって……これにはかなり危険な魔法が――って、その手に持っている本! それも『禁書』じゃないですか!?』

「……カイト……喜んでくれるかな?」

『ちょっと、アイシス!? 当り前の様に包み始めないで下さい!! ちょっと、そこに積んである本を全部見せなさい!!』

慌てた様子でアイシスに駆け寄り、リリウッドは積み重ねてある本の山を見つめる。

古代魔法の魔道書、禁術の記された書物、国宝級の価値がある古文書……そこには人界の経済を容易く崩壊させてしまう程、希少な本が積まれていた。

死の大地にある氷の居城。普段は不気味な程の静寂に包まれるその場所に……今日は苦労性の六王の叫び声が響いていた。