作品タイトル不明
こんなに本気を出したんだ!?
おおよそギャグマンガでしか見たことがないような運搬方法により、空に浮かぶ城へと到着した俺は、アリスに対し恨めしい視線を送る。
「……お前……」
「か、カイトさん、ま、まぁ、落ち着いてください。私が、カイトさんに怪我なんてさせるわけがないですか、ほ、ほら、ちゃんと優しくキャッチしたでしょ?」
「それとこれとは、話が別だ……」
たしかに俺は怪我ひとつしていない。アリスはその無駄なハイスペックぶりをいかんなく発揮し、俺に衝撃すらまったく感じさせずにキャッチするという芸当を披露した。
だが、考えてみてほしい……シーソーで吹き飛ばされた俺を追い越し、キャッチできるということは……分かり切っていたことだが、アリスは普通に俺を運んでも、シーソーより遥かに早く俺をここまで連れてこれた。
つまり、あのシーソーのくだりは、完全なる悪ふざけである。
「ま、まぁまぁ、カイトさん、そんな怖い顔しないでください……ほ、ほら、皆中で待ってますから、ここで長々と説教している時間はないですし……」
「そうだな……アリス、ちょっと口開けろ」
「話の前後が全然つながってなくないっすか!? そして、ものすごく嫌な予感がするんですけど……」
たしかに、皆を待たせているという状況でアリスを説教している時間はない。しかし、このままでは俺の腹の虫が収まらない。
というわけで、俺は指示を出したあとマジックボックスから『オレンジと紫と黒のマーブル模様のベビーカステラ』をひとつ取り出した。
「……いやいや、カイトさん。それは駄目ですって……完全に生物が口にしていい色してないですから……」
「大丈夫……『俺も食べたから』……」
「カイトさんは、もうちょっとクロさんに厳しく接するべきだと思います……あっ、待って、近づけないでください!? この状況で取り出すソレが、美味しいわけな――もがっ!?」
なにかごちゃごちゃ言っているようだったが、その全てを無視してアリスの口の中に無理やり『俺がいままで食べたクロ作ベビーカステラのワースト1』を放り込む。
するとアリスは一瞬諦めたような表情を浮かべたあとソレを咀嚼し……片膝を付いた。
「……え? まっずっ!? なんすかコレ!? こんなの料理って言っていいんですか……私、この世界でもトップクラスに強い自覚がありますけど、マジもんの『ダメージ』入ったんですけど……これ『固定ダメージ』ある食べ物なんすか?」
「……俺は食べた時、気絶した」
「そんな劇物作るクロさんもクロさんですけど、カイトさんもなんで食べてるんすか!? これ、完全に見えてる地雷じゃないですか……」
「断り切れなくて……」
食べ物に固定ダメージとはなかなかどうして妙な言葉だが、痛いほど共感できる。いや、俺も断りたいなぁとは常々思ってるんだけど、クロがはじけんばかりの笑顔で差し出してくると……見えてても地雷を踏みに行ってしまう。
「カイトさんはクロさんに甘すぎですからね!?」
自覚はあるけど、どうにもならない……完全に惚れた弱みというやつである。
「……その、カイトさん。えっと……今度私が、なにか美味しいもの作りますよ」
「……ありがとう」
あれ? おかしいな、なんかアリスを叱るつもりだったのに、慰められてる。なんだろうこの、微妙な空気は……。
「……行こうか」
「……ですね」
どうもアリスを叱るという空気では無くなってしまったので、会場へと向かうことにした。
「な、なんか、近くで見る凄いな……この階段とかも滅茶苦茶綺麗だし」
「あっ、ちなみにこの城って、いままで世界には存在しなかった素材が使われているらしいですよ」
「……嫌な予感しかしないけど、具体的には?」
「『クロさんの全力パンチも一発ぐらいなら耐えられる』程度には頑丈らしいです」
「それはもう要塞だよ」
たしか、城を作ったのは神界だったっけ……どう考えても、自重という言葉を知らないシロさんの仕業である。というか、パーティーするために造った城に、なぜそれほどの強度が必要なのだろうか?
もしかして、その頑丈さを発揮する場面を想定してたりするのだろうか? ……やっぱり、帰っていいかな?
「……ちなみに、城の周りに生えてる木とかも、なんかすごいやつだったりするの?」
「なんでも、『食べた人の一番好みの味に変化する果実』が生るらしいです」
「……あっちにある噴水は?」
「『飲むと2時間の間、魔力が2倍になる水』が湧くらしいです」
「それが、俺の誕生日に対し、なにか意味があるのか?」
「……さぁ?」
やばいよこの空中城……あちこちにとんでもないものがありまくる。城の入り口に向かう途中でコレなら、内部はいったいどうなってるんだ?
ここ、俺の誕生日パーティーの会場だよね? 隠しダンジョンかなにかだっけ? ……城の中には山ほどラスボス級の方々がいるから、あながち間違いでもないかもしれない。
拝啓、母さん、父さん――なんというか、まだ場内に入ってすらいないのに冷や汗が止まらない。というか、何度も確認するけど、俺の誕生日パーティーをするんだよね? なんで会場作りの段階で――こんなに本気を出したんだ!?