軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気の利く素敵な恋人だ

火の二月2日目。いつものようにアリスの雑貨屋に来ていた俺に、アリスが渾身のドヤ顔を浮かべながら話しかけてきた。

「見てくださいカイトさん! 私の作り上げた新商品の数々!」

そう言ってアリスがカウンターの上に並べたのは、20個はありそうな魔法具の数々だった。新商品というからには、どれもいままでには無かった魔法具なのだとは思う。

そう考えると20という数はすさまじいな……。

「へぇ……ずいぶん沢山あるな。いつの間にこんな数の新商品を開発したんだ?」

「ふふふ、アリスちゃんに抜かりはありません。六王祭でせっかく素材使い放題だったので、自分用のも確保しながら作ってました!」

「……感心するべきか、呆れるべきか……」

「そういうわけで、いままでは素材が希少で作るのが難しくて、構想だけだった新商品も作ることができたんですよ!」

ちゃっかりしているというか、意地汚いというか、まぁ、アリスらしいといえばらしい。

なんだかんだ言って俺もアリスが作った新商品には興味がある。悪ふざけの産物とかも混ざってそうな予感もするが……。

「……それで、どんな商品なんだ?」

「そうですねぇ、じゃあまずはコレから紹介しましょう! カイトさん、これがなにか分かりますか?」

「う、う~ん……見た目は、コンタクトレンズっぽいけど……」

「正解です。正確にはカラーコンタクトレンズですが……」

アリスが初めに説明し始めたのは、色とりどりのコンタクトレンズ……これが新商品? もしかして、なにか変わった機能が搭載されているんだろうか?

「ふふふ、見た目はただのファッションアイテムに見えますが、実はこのコンタクトにはすごい機能が付いているんです!」

「ふむふむ」

「なんと……こうして『手をかざすと光ります』!!」

「おぉ……うん?」

「ですから、こうやって手をかざすと強い閃光を放つんですよ!」

「……う、うん……で?」

「え?」

たしかにカラーコンタクトは、アリスが手をかざすと結構強めの光を放った……だから、どうしたというんだろうか?

「えっと……光るだけ?」

「光るだけです」

「……光るとどうなるの?」

「カッコいいじゃないですか!」

「……」

どうしよう? 一品目から悪ふざけの産物が出てきてしまったぞ。俺はこの謎のアイテムに対して、いったいどんなリアクションをとればいいのだろうか?

「えっと、ターゲットは?」

「……魔眼ごっこがしたい14歳とか?」

「ターゲット狭っ!?」

「いやいや、でも、ものすごい技術を使ってるんですよ! この薄いレンズに魔法陣を仕込むには、凄まじい技術がいるんです。光の強さも調整可能ですし、色も選べます!」

あ、頭が痛くなってきた。力を入れるところが致命的に間違っている気がする。

「……技術の無駄遣い過ぎる。というか、そんな手間かかってたら高くならないか?」

「まぁ、ざっと銀貨1枚ってところですね!」

「……絶対売れない」

誰がこんなおもちゃに10万円出すんだよ……。本当に、なぜこれを作ろうと思ってしまったのか……企画段階で止めておけよ。

「じゃ、じゃあこれはどうですか!」

「……見た目が『クラッカー』な時点で、嫌な予感しかしない」

「これは、ひもを引くと同時に中身が分裂して、超広範囲にばら撒ける優れものですよ!」

「……」

「ち、ちなみに、最高射程は『2㎞』です!」

「……それもう兵器だよ」

いま、分かった。こいつが作ったのは『店で売るための新商品』ではない。『思いついたけどコストがかかるので作らなかった悪ふざけグッズ』だ。

この調子だと他の品も使いどころが微妙なものばかりなのだろう。え? つまりは、俺はこれからしばらくくだらないおふざけグッズの披露会に付き合わされるの? ……帰っていいかな?

「う~ん。パーティーとかで盛り上がると思うんですけどねぇ……そういえば、パーティーで思い出しましたけど、カイトさんの誕生日っていつなんすか?」

「なんだ? 藪から棒に……」

「いや、私も恋人兼親友というベストパートナーである以上、その辺の情報は知っておきたいかなぁっと……カイトさんの世界の暦でいいので、教えてください」

「相変わらずの図々しいポジションは置いておいて……7月2日だよ」

「へぇ、じゃあ、こっちの世界でいうところの『火の二月2日目』……え? えぇぇぇぇ!? ちょ、ちょっと! カイトさん、今日じゃないっすか!?」

「……言われてみれば、たしかに……」

天の月を12月、火の月を1月と新年基準で考えると……たしかに今日は俺の誕生日である。ただ、実際の体感時間で言えば、俺が召喚に巻き込まれたのが夏だったので、まだ誕生日という感覚ではないのだが……。

「たしかに……じゃねぇっすよ!? なんでもっと早く言ってくれないんですか! 私、なんにもプレゼントとか用意してないですよ!!」

「い、いや、べつに気にしなくていいって、俺も忘れてたぐらいだから……」

「いやいや、恋人としては絶対抑えたいイベントじゃないっすか……というか、忘れてたって……」

「う~ん。10年くらい誕生日を祝うなんてなかったから、うっかりと」

「……」

両親が死んでから、俺は誕生日を祝ってもらった覚えはない。というか、誕生日を人に話したことすらほとんどない。

おじさんとおばさんには迷惑をかけたくなかったし、それ以外ではぼっち街道まっしぐらだったので、当然祝ってくれる人なんていなかった。

いや、もしかしたら、母さんと父さんが祝ってくれた誕生日を思い出してしまうので、無意識に避けていたのかもしれないな……。

そんなことを頭に思い浮かべていると、なにやらアリスがマイクに似た魔法具を取り出した。

「全員に緊急伝達! 今日はカイトさんの誕生日です! 繰り返します、今日はカイトさんの誕生日です! 即座にカイトさんの知り合い全てに情報を伝達してください!! これは、最優先命令です!! その後の指示は追って伝えます!」

「ちょっ!? アリス!?」

「いままでのカイトさんの誕生日がどうだったかは知りませんが……私という気の利く超絶美少女を恋人にしておいて、灰色の誕生日なんて過ごせると思わないでください!」

「……お前」

ドヤ顔で告げるアリスの顔を見て、思わず俺の顔にも笑みが浮かんだ。

拝啓、母さん、父さん――今回ばかりは、その自称に文句をつける気にならない。というか、アリスの気遣いが心底嬉しい。認めよう。たしかに、アリスは――気の利く素敵な恋人だ。

その情報は……世界を震撼させた。

「今日の会議は中止! ボクは急用ができたから、ゼクス! あとはお願い!」

「了解しました。アイン殿もすでに動いているみたいですな」

「今日はボクに関係する案件は全部断って! 取り次いだら、怒るからね!」

「かしこまりました」

魔界では、とある商会の会議室で、冥王が大慌てで部屋を飛び出し……。

「運命神! 貴様、仕事は……」

「仕事とカイちゃんの誕生日、どっちが大事だと思ってるの!」

「当然、快人さんの誕生日です」

「シャローヴァナル様!? い、いつの間に……」

神界では、トップが直々に指揮をとって動き出し……。

「ルナ、状況は!」

「すでに、アルクレシア帝国およびハイドラ王国からも、トップ直々に当家への訪問依頼が!?」

「ここじゃ絶対無理ですよ!? 兄上にすぐに場所を確保するように伝えてください! とんでもない騒ぎになります!!」

「わ、分かりました!」

人界では、とある公爵家の当主が涙目になりながら緊急で手配を進めていたり……。

本人の知らないところで三世界全てを巻き込んだ、誕生日パーティーの準備が急ピッチで進められていた。