軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まぁいいかと思ってしまうよ

価値観、あるいは趣味趣向の相違。それはどこにでも存在するものだろう。地球でも海外旅行に行けば、その違いに戸惑ったりすることもある。

同じ世界ですらそれなのだから、現在の俺のようにまったく別の世界に転移していれば、その相違は非常に大きなものになってしかるべきではある。

しかし、幸いなことにこの世界は俺のいた世界の影響を多分に受けており、独自の文化の中にもどこか地球らしさみたいなのを感じるので、順応しやすくは感じている。

もちろん魔法や一夫多妻制など戸惑ったものもあるが、いまとなってはおおむね馴染めているといってもいい。

だが、生憎なことに俺はいまその価値観の相違という感情をとても大きく感じていた。この世界に生きる人たちとの間に存在する確かな壁を……。

そう、俺がいま言いたいのは一言だけ……なんでオマエが七日目に存在している『ベビーカステラ料理専門店』!?

おかしいよね……だってこの七日目は、これまでの六日間で人気があった店が出店してるんだよね? てことは、え? この店人気あったの? いやいや、どう考えても悪ふざけの産物だろうが!?

本当にクロ以外が気に入るとは思えないような店なんだけど、なんで……。

「六王祭のスポンサー特権です」

「……」

ま た あ な た の し わ ざ か !?

これ、アレだよね? まさかの二日続けてベビーカステラ料理を食べなければいけないパターンだよね? 本当に、この世界のベビーカステラはどれだけ俺にトラウマを植え付ければ気が済むんだ。

「……念のために聞きますが、これ、他の店に行くという選択肢は」

「ないです」

「……ですよね」

俺としては出来れば別の店に行きたかったが、もちろんクロに対抗心のあるシロさんが、前日に俺がクロといった店をスルーするわけもない。

こうして、俺は二日連続でベビーカステラ料理を味わうことになった……辛い。

店の中に入ると前日と同じようにVIP席に通され、メニューを手渡された。う~ん、もうメニュー見てるだけで胸焼けしそうというか、ベビーカステラって文字が多すぎてゲシュタルト崩壊しそうな気分だが、なにか選ばないと……。

全然食欲が湧かないのを実感しつつメニューを見ていると、ふと妙なメニューを見つけた。

『特別メニュー(可愛くて気の利く超絶美少女に感謝してください)』

この文章からも感じる馬鹿さは、間違いなくアリスだろう。もしかして、アリスが料理を作ってくれるってことかな? アリスの腕前はすさまじいし、二日連続のベビーカステラ料理でも食べられるかもしれない。

そう考え、俺はその特別メニューを注文してみることにした。

「えっと、シロさんはどうします?」

「私も快人さんと同じもので」

この辺はやっぱりクロとは違いが出るものだ。クロは全品って注文してたしなぁ……。

「クロは、すべての品を注文しました」

「へ? あ、はい。そうですね」

「しかし、私は快人さんと同じものを頼みました」

「そ、そうですね」

「つまり……私の勝ちです」

「いや、勝ち負けの基準が分かりません」

またちょっとドヤ顔してるよ。なんだか今日のシロさんは、いつにも増してクロに対抗心を持ってるような気がする。なにかあったんだろうか?

そんな疑問が頭に浮かんだかと思うと、驚くべき速さで注文した料理が運ばれてきた。

運ばれてきたのは、なんとなくフランス料理を思わせる品で、大きなベビーカステラが皿の中央に置かれ、周囲にソースとかが付いていた。

これが、特別メニュー? ベビーカステラが大きくて、尻込みしてしまうが……アリスが作ったのなら、味はきっと一級品なんだろう。

「えっと、食べましょうか?」

「はい」

シロさんに一言告げてからフォークとナイフを手に持ち、大きなベビーカステラを切って口に運ぶ。ベビーカステラをナイフとフォークで食べる時点で、なんかいろいろ間違ってる気が――って、美味っ!?

こ、これは……見た目はたしかにベビーカステラだけど、実際は違う!? これ『肉』だ!

食感とかはハンバーグに近い感じで食べやすく、周りのソースとの相性もいい。なるほど、特別メニューというのは、ベビーカステラを使った料理ではなく『見た目をベビーカステラに似せた料理』ってことなのか……。

アリス、本当にありがとう! 今度絶対焼肉おごる!!

「快人さん」

「え? あ、はい。どうしました?」

「あ~ん」

「……はい?」

「あ~ん」

アリスの素晴らしいフォローに感動していると、なぜかシロさんが自分の料理をフォークに刺して差し出してきていた。

相変わらずの無表情な上に、抑揚のない声ではあるが……どうやら、俺に食べさせたいらしい。

ものすごく恥ずかしいが、シロさんのことなので拒否は受け付けてくれないだろう。俺はどこか諦めに近い感情で口を開く。

「どうですか?」

「えっと、美味しいです」

「そうですか、快人さんの食べている料理はどんな味がするのでしょう?」

「い、いや、同じ料理ですよ?」

「快人さんの食べている料理はどんな味がするのでしょう?」

「……食べます?」

「いただきます」

シロさんがなにを要求しているか理解した俺は、大人しく自分の料理をフォークに刺してシロさんに食べさせる。

同じ料理を注文しておきながら、この露骨なアピール……流石シロさんである。この図々しさと天然具合は、本当に凄まじい。

「そんなに褒められると、照れますね」

決して褒めてはいない。大事なことなのでもう一度言うが、決して褒めてはいない。

拝啓、母さん、父さん――いや、本当に今日のシロさんはグイグイ来るというか、いつも以上に困った感じではある。ただ、なんだろう? すごく楽しそうなのが伝わってくるから、ついつい――まぁいいかと思ってしまうよ。