軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『始まりの黒、終わりの白』

神域に吹く柔らかな風が、同じ銀白色の髪を揺らし、金色の瞳が交差し合う。

「……いまになって思い返してみれば、私が貴女という存在を作り出したのは……本当にただの気まぐれだったんでしょうね」

「うん?」

「私自身、当時の私がなにを考えていたのか、いまいち理解できませんが……いまは、そうですね。貴女を作り出して、良かったと思ってますよ」

「ど、どうしたの? 急に……」

いつも通り抑揚は無いが、どれでもどこか穏やかに感じる口調でシャローヴァナルが告げ、クロムエイナは不思議そうに首をかしげる。

「本当に不思議なものです。貴女と私は同じ存在と言っていいはずなのに、なにもかも違う。性格も、生き方も、『背の高さや胸の大きさ』も、まるで正反対ですね」

「最後のやつ関係ないよね!? ボクは、姿変えられるからね! これが限界値じゃないからね!?」

「でも、そうですね。やはり似ているところもあるのでしょうね」

「……ねぇ、シロ。ちゃんと聞いて? いまボク、すごく大事なこと言ったよ?」

クロムエイナの訴えを華麗にスルーして言葉を紡ぐシャローヴァナル。長い付き合いのクロムエイナは、これ以上訂正しても無駄だと考えて溜息を吐く。

しかし、その呆れたような表情は、次のシャローヴァナルの言葉で一変した。

「正反対だというのに、奇しくも私たちは……『同じ存在を求めました』」

「……」

それが快人を指していることは、クロムエイナもすぐに分かった。しかし、シャローヴァナルの言葉の真意までは分からなかった。

たしかに快人は、クロムエイナが召喚魔法陣に細工をしたためこの世界にやって来た。クロムエイナが求めた存在と言っても、おかしな言い回しではない。

しかし、いまの言い回しであれば、シャローヴァナルも快人を求めたと聞こえる。たしかにシャローヴァナルが快人を気に入っているのはクロムエイナも知っているが……長い付き合いの彼女でも、シャローヴァナルの心の奥底は分からなかった。

しかし、シャローヴァナルはそこで一度言葉を止め、少し間を開けてから微かに笑みを浮かべた。

「……貴女のおかげで、私は自分に心があるということを知ることができました。いままで言う機会はありませんでしたが……ありがとうございます、クロ」

「……シロ……」

「貴女の方がどう思っているかは分かりませんが……私にとって貴女は、同一存在以前に『大切な友』です」

「あ、あはは、急に言われると照れちゃうよ。本当に、今日はどうしたの?」

ストレートなシャローヴァナルの感謝の言葉に、クロムエイナは照れた様子で頬をかく。シャローヴァナルに友と言われたことが嬉しかったのか、不思議そうにしながらも、どこか嬉しそうだった。

「……そんな貴女じゃなければ……私はもっと『非情な手段』を躊躇いなく選べたのでしょうね……」

「え?」

その言葉と共に、シャローヴァナルの雰囲気が一変した。先ほどまでの、どこか穏やかな空気は消え去り、ピリピリと肌を刺すような威圧感が周囲を包み込む。

「……我が半身、クロムエイナ」

「ッ!?」

「……『本当の始まり』はどこだったか、今更それを論ずる気はありません。貴女が彼の物語の始まりならば、私はその終わりに立ちます……これは、私から貴女への『宣戦布告』です」

「し、シロ? い、いったいなにを……」

突然の宣戦布告、その言葉に戸惑うクロムエイナに対し、シャローヴァナルは表情を変えないままで淡々と言葉を紡ぎ続ける。

「決戦は天の月29日目の夜から30日目の終わり……送還の時間まで……覚悟しておいてください。この戦いは2万年前とは違います。『引き分け』はありません。『私の勝利か敗北』、そのどちらかでしか決着はしません」

「……シロ、どうして……なんで、そんな……」

「私にも『諦めきれないもの』があります。たとえ、友である貴女と対峙することになっても……快人さんを守りたいのであれば、貴女も全力できてください」

「……」

シャローヴァナルの決意は固い。それは表情が変わらなくとも読み取ることができた。だからこそ……分からなかった。

そうまでして、シャローヴァナルが求めているものとはなんなのか……本当の始まりとはなんなのか……今更ながら、クロムエイナは友であるシャローヴァナルのことを、いまだなにも知らないと痛感した。

2万年前一度対峙したふたつの存在は、いまいま再び向かい合う。宮間快人という特異点を中心として……。

「……というわけで、話は終わりました。お茶でもしましょう」

「……へ?」

「やはり茶請けは、ベビーカステラですかね?」

「え? い、いや、ちょっと待って……お願いだから待って!」

「なんですか?」

かと思ったら、一瞬で緊張していた空気は消え、平常通りの抑揚のない声で告げるシャローヴァナル。もちろん、クロムエイナはその急激な変化についていけず、面食らったかのような表情を浮かべていた。

「……さっきまでの緊迫した空気はどこにいったの!?」

「さぁ? 意思のあるものではないですし、行き先に関しては風の吹くままではないでしょうか?」

「そうじゃなくて!? あ~もうっ!」

「突然叫んでどうしたんですか?」

「……分かんないよ。ボクには、シロが本当に分からない……」

「そうですか? 不思議ですね……では、お茶にしましょうか」

「……そう……だね」

先ほどまでの話など、まるでなかったかのようにいつも通り天然ボケを披露するシャローヴァナルに、クロムエイナはガックリと肩を落とす。

そして、諦めたような表情でシャローヴァナルが出現させた椅子に座り、お茶を飲み始める。

「……というか、宣戦布告した相手とお茶飲んでいいの?」

「うん? 宣戦布告はしましたが、貴女を嫌いになったわけでもありませんし……敵対するのも天の月29日目からなので、いまお茶をするのは問題ないです」

「……う、う~ん」

間の抜けたような空気で締めくくられた両者の会話……しかし、決してシャローヴァナルが口にしたことが消えてなくなったわけではない。

宮間快人という存在が、この世界で紡ぐ一年の物語……その始まりと終わりが対峙するまで、もうそれほど長い時間は残されてはいない。