軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

心行くまで味わいたい

アリスによって新たなベビーカステラの可能性を発見し上機嫌なクロ。いずれその新たなる可能性とやらを体感する羽目になる俺は、戦々恐々としていた。

まぁ、先のことは不安ではあるが、とりあえずはいまのことだ。クロを必死に説得し、食べ物の屋台が並ぶエリアから脱出して、アトラクションのあるエリアへ向かうことにした。

この六王祭六日目は、エリアごとに出店の種類を区別しているらしく、ガイドブックによると魔法具なんかを売ってるエリアもあるみたいだった。

そうしてたどり着いたアトラクションエリアは、なんというか縁日の遊びが満載という感じだった。輪投げ……いや、リングターゲットや射的のような定番のものもあれば、型抜きなんて懐かしいものもあったので、順に回っていくことにした。

「ふっ!」

小さく、それでいて力強く告げたクロの言葉と共に、手に持ったおもちゃのライフルから弾が放たれる。打ち終わると即座にライフルを半回転させ再び弾丸を装填し、クロは一糸乱れぬ動きでターゲットに向かって次弾を発射する。

「……ふぅ、まぁ、こんなものかな!」

「……いや、ドヤ顔してるとこ悪いけど……全部外してるから……」

「あ、あれ? これ、結構難しいね」

射的で華麗に全弾外したクロが、困ったような表情で苦笑する。

なんというか、クロは決してなんでもかんでも完璧なわけじゃない。もちろん俺には想像すら及ばないほどの力と知恵を持っているが、普段の彼女はどこか抜けているところもあったりする。

まぁ、そういう完璧じゃないところも親近感がわくというか、なんだかんだでクロの魅力のひとつだと思えるから不思議だ。

「おっ、すごいカイトくん! 当たったよ!!」

俺が的に当てれば、まるで自分のことのように喜んでくれる。その明るい声に導かれるように隣を振り向き、目が合えばニコッと可愛らしい笑顔を浮かべてくれる。

些細なことかもしれないが、こういう細かな仕草が本当に可愛らしく、一緒にいて幸せな気持ちになれる。本当に俺にはもったいないぐらい素敵な恋人だ。

「うぉっ、凄いなクロ……わな……リングターゲットは百発百中じゃないか」

「ふふふ、まぁ、ボクはこう見えて世界ランク……」

「うん?」

「……2位……と……友達だからね! ちょっと得意なんだよ!」

「そ、そっか……」

明らかに慌てた様子で視線を逸らすクロ……まさかとは思うが、コイツ、ベビーカステラ仮面の正体に気づかれてないとでも思ってるのだろうか?

う、う~ん。ここは触れないでおいてあげるほうがいいかな……。

「く、クロ、次のに行こうか?」

「う、うん。そうだね……あっ、アレ、あそこにあるやつやってみようよ」

「うん? ……なんだアレ? チョコレートゲーム?」

クロが次の場所へと指さしたのは、見覚えのない出店だった。ただ、なんとなくではあるが……看板のあちこちに『ハートの模様』が付いていたり『カップル限定』の文字があったり、不安しか感じない。

いや、というか、これ絶対恥ずかしいやつだろ……。

「い、いや、クロあれはちょっと……」

「ささっ、早く早く!」

「ちょっ!? 力強っ!?」

嫌な予感がした俺は、その出店に行くのは止めないかと提案しようとしたが……テンションの上がったクロに手を引かれる。

もちろん、比較的非力といっていい俺がクロの力に抵抗などできるわけもなく、流れるように出店の前に到着した。

その出店にあるのは、中央でピンクと白に分かれた棒状チョコレート……。う、う~ん、気のせいかな? 俺こういうやつ見たことある。これ、アレじゃない? 棒状チョコレートを両端から食べていくやつなんじゃ……。

あっ、フリップみたいなのに説明書いてある……完全に例のゲームだ。いやいや、さすがにこれは恥ずかしすぎるんじゃ……。

「はい、カイトくんは白いほうね!」

「もう買ってる!?」

悪い意味で予想通りだったチョコレートゲームだが、悲しいかなクロはすでにノリノリでチョコレートを購入してしまっている。

そういえば、そうだった。初めてのデートの時もそうだったけど……クロって、素肌を晒したりとか、そういう類のことは恥ずかしがるんだけど……人前でいちゃつくことに関しては、一切恥ずかしがらないんだよな。

駄目だ、これ……断れない。クロのキラキラした目を前に断るとかできない。というか、すでに咥えてるし……。

「ん~」

「……う、うぐっ……い、いただきます」

クロの催促に覚悟を決め、俺は棒状チョコレートを中腰になる形で咥えた。

クロの身長に合わせるためしゃがんだこともあって、先ほどまでよりクロの顔が近くに見える。その、ハッキリ言ってクッソ可愛い。

チョコレートを食べながらなので、ゆっくりと近づいてくる顔……美しい金色の瞳に吸い込まれてしまいそうな気さえする。

しかも、今日のクロの髪型はポニーテール……正面から見ると、また本当に可愛くて困る。

周囲の音も聞こえない、チョコレートの味もまったく感じない。この瞬間は、目にも心にもクロしか存在していないような、そんな不思議な時間。

顔の距離が近づくたびに、愛しさがどんどん大きくなっていき……クロがゆっくりと目を閉じた頃には、恥ずかしさも忘れていた。

拝啓、母さん、父さん――ふいに訪れる甘いひと時。重なる唇は想いを重ねた証いろいろ恥ずかしさはあったけど……いまはただ、あとのことは考えず、この幸せを――心行くまで味わいたい。