軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話・アイシス・レムナント②~待ち続けた存在~

氷の居城の一角で、死王・アイシス・レムナントは静かに手にした本のページを捲る。

冷たさすら感じる程、孤独に染まった表情。静かな居城の中には本を読む音しか存在しない。

魔界、人界、神界、三つの世界の友好条約が結ばれてから、もうすぐ1000年。この1000年の間に魔界を取り巻く環境は大きく変わり、魔族の多くは人族、神族に良き隣人として受け入れられ、世界は大きく広がった。

しかし、アイシスを取り巻く世界は未だ閉じたまま……いや、むしろ1000年前より悪化していると言える。

現在魔界と人界は非常に友好的な関係を築いており、魔界の頂点たる六王もそれぞれの形で人界と関わりを持っていた。

冥王は元々の社交的で優しい性格もあり、人族や神族からの信頼も厚く、人族の中には冥王の信奉者も数多く存在している。

界王は特にエルフ族などからは神の如く崇められており、一部の地域では信仰の対象にすらなっていて世界中に多くの眷族を得た。

戦王は粗暴とも言える性格だが、裏表の無い豪胆な性格と戦いに拘るストイックさもあり、冒険者の中には危険な戦いに身を投じる際、勝利のまじないとして戦王に祈りを奉げる者も多い。

竜王は配下の飛竜を移動の手段として提供しており、特に行商人等は竜王を商いの神に見立て、竜の飾りをお守りとして持ち歩く様になった。

幻王は頻繁に姿を変える上、滅多に表舞台には姿を現さないので、同じ六王であるアイシスでさえどこで何をしているかよく知らないが、六王随一とも言える数の配下を駆使し、影から世界の平定を支えていると聞く。

そうして六王も広がった世界に合わせ、それぞれの立ち位置を定めていた……そう、死王と呼ばれるアイシスを除いて……

正確に言えば、死王の立ち位置もまた変化しているとも言える。そう、恐怖の対象として……

六王の中で最も恐ろしく危険な存在とされ、人族からも神族からも死の象徴として恐れられるようになっていた。

自分以外の六王が良好な関係を築いている事に憤りと悔しさを覚え、自身も人族と良好な関係を築こうと様々な手を尽くしてみた。しかしそれは全て、彼女が纏う死の魔力の前に無駄に終わってしまった。

魔族に比べて力の弱い人族は、特に恐怖という感情に敏感であり、界王が危惧していた通りアイシスは全く受け入れられる事はなかった。

抱いた希望は絶望へと変わり、枯れる程に涙を流し……絶望はいつしか、諦めにまで達した。

結果彼女は勇者祭以外で氷の居城から出る事は殆ど無くなり、世界中から集めた膨大な数の蔵書を読みあさりながら日々を過ごしてきた。

幸いと言うべきか不幸と言うべきか、金銭だけは使い切れない程にあった。

というのも、彼女が住む死の大地には希少な鉱石や宝石が数多く存在していて、それを欲しがるものは多く、彼女に莫大な金を積み採掘の許可を得ており、何もせずとも彼女の元には莫大な金銭が届けられる。

初めはそれらを人族等が欲しがっている事を知り、アイシスは無償で提供しようとしたが、かえって怯えられる結果になってしまった。

採掘の許可にしても、彼女は好きな所で好きなだけ採掘してくれて構わないと許可を出したつもりだが、採掘を行う者達は最も良質な鉱脈があるアイシスの居城の周辺には決して近付かず、彼女を刺激しない様にと考えているのか、死の大地の端で細々と月に少量だけ採掘を行っている。

そうして得た金で、彼女は孤独を紛らわす為に本を買いあさり、アイシスの居城には膨大とも言える数の本が集まったが……孤独を紛らわす為に集めた本は、皮肉にも誰も居ない居城で孤独に本を読むと言う、更に大きな孤独感として彼女の小さな双肩にのしかかる事となってしまい、結果として彼女の孤独はこの1000年で深く暗い物へと変わり果ててしまっていた。

シンフォニア王国の王都北部に位置する山脈を、アイシスはフワフワと浮きながら移動していた。

彼女は勇者祭以外で殆ど己の居城から出歩く事はないが、まったく出歩かないと言う訳ではなく、年に数度ではあるが人界を訪れる事がある。

その理由は大きく分けで二つ、一つは新しい本を購入する為、そしてもう一つは彼女のささやかな趣味。

アイシスは幾千幾万の本を読んできたが、他者との繋がりを羨ましく思っているからか、中でも男女の恋愛が描かれた小説を読むのが好きだった。

特に身分の違う男女が恋に落ちる物語が好きで、いつも登場人物の女性に自分を重ねて熱心に読みふける。

そして彼女は特に気に入った小説を読み終えると、その物語の中に登場した品物や花を記念として収集しに行く事があり、それは彼女のささやかな趣味と言えた。

今回この山脈を訪れたのも、読み終えた小説の中で主人公の男性が好きな女性に贈る為、この山脈の頂上に生えている幻の青い花を取りに行くシーンがあり、その青い花を摘みに来ていた。

尤もあくまでそれは空想の物語用に脚色された話であり、実の所青い花……ブルークリスタルフラワーは珍しい花ではあるが、この山脈以外でも普通に取れるので態々ここまで出向く必要も無く、ましてや実際に山頂に生えているかどうかも分からない。

しかしそこはあくまで趣味であり、アイシスは出来るだけ小説と同じシチュエーションでその花を手に入れたいと考えていた。その為、山頂に飛んで行ったりはせず普通に山を登っていた。

山に住む動物や魔物が、彼女の接近を察知して逃げ出すのももはや慣れたもので、アイシスは特に気にする様子も無く山を登っていく。

そんな彼女の進路上にたまたま巣を作ってしまっていたワイバーン達は、不運にも死の災厄に見舞われる事となる。

「……邪魔」

一言静かに告げて、アイシスが体から死の魔力を放つと、ワイバーン達は文字通り羽虫の様に命を終えて地面に落ち、50を超える死体の山が形成された。

アイシスはそんなワイバーン達を気にする様子も無く通り過ぎ、山頂に辿り着くとそこに生えていたブルークリスタルフラワーを見つけ、満足そうに微笑んで一輪摘んで保存魔法をかけてから収納し、来た道を戻り始める。

すると進行方向の先、ワイバーンの死体の前に大勢の人間を見つけ、アイシスは首を傾げながらそちらに近付く。

怯えた様に震えていた人間達は、アイシスが近付いてきたのを確認して表情を青ざめさせ、その中のリーダー格の男が震えながら首を垂れる。

「し、死王様……」

「……なにしてるの?」

「わ、我々は、わわ、ワイバーンの討伐に来ました」

「……これ?」

「は、はい!?」

アイシスが声をかけると、男は明らかに怯えた様子で震える声で言葉を返してくる。

それもその筈、彼等人間にとって死王・アイシス・レムナントとは、勇者祭以外で遭遇する事は即ち死を意味する災厄と認識されており、討伐隊の中には涙を流している者も居れば、既に気を失っている者さえいる。

人界や神界において彼女は、気に入らない存在は即殺す様な危険な存在として認識されているが、アイシス自身にしてみれば、ワイバーンの様に知性が無い魔物ならともかく、自分に刃を向けていない人族をむやみに傷つけるつもりなどなかった。

しかし彼女の纏う死の魔力は、討伐隊に対し否応なしに死のイメージを叩きつける。彼等は既に何度も自分の死に様を脳裏に浮かべており、本能が強烈に逃げろと叫んでいた。

「……」

折角物語通りの場所でブルークリスタルフラワーを見つけた気分が台無しだと言いたげに、アイシスは微かに苛立ちを表情に浮かべ、同時にそれは死の魔力にも顕著に表れる。

「う、あぁ……うわあぁぁぁぁぁ!?」

冒険者だろうか? 一人が叫び声を上げて逃げ出し、それを引き金にした様に次々と討伐隊の面々が全力でその場から逃げ始める。

ただ逃げ出しているのは冒険者ばかりであり、騎士団の面々は流石に国を背負っている自覚があるのか、ガタガタと鎧の音が鳴る程体を震わせながらも、その場に残りアイシスに頭を下げ続ける。

その光景を冷たい目で見た後、アイシスはそれ以上何も言う事はないと震える騎士団の横を通り、山を降りて行く。

彼女自身分かってはいたが、理不尽な拒絶には苛立つもので、先程までの上機嫌な様子とは変わり、明らかに不機嫌な表情で道を進み、途中でふと足を止める。

「……この魔力……クロムエイナ?」

王都の方向から同じ六王であるクロムエイナの魔力を感じ、視線を動かすと、王都上空に空間消滅魔法が発動してすぐ消えていた。

「……」

クロムエイナが発動させたであろう魔法を確認し、アイシスは少し考える。

討伐隊と出会ったおかげで気分が良くないから、気の良いクロムエイナと話をして、鬱屈とした気分を少しでも解消しよう。

そう考えを纏め、アイシスは進路を王都の方に向けてゆっくり進みだした。

単なる気まぐれであり会えなければ会えないで構わないと考えていたせいか、アイシスはゆっくりと移動し夕暮れ時になってから王都に到着した。

先に逃げた冒険者から話が伝わったのか、住民の大半は自宅に入り、息を殺して災厄の象徴が過ぎ去るのを待っている。

アイシスにとっては見慣れた光景、彼女が街を訪れた際は遅かれ早かれこういった状態になるのはいつもの事と言えた。

ただ一つ普段と違ったのは、アイシスが進む道の先に一人の青年が立っていた事……

青年は近付くアイシスを茫然と、怯えた様な目で見ていた。ただ、昼間に遭遇した討伐隊とは、少し怯え方が違っていた。

討伐隊の面々は、アイシスの存在を知っているからこその怯え、それに対して青年は未知の事態に遭遇したかのような怯え方をしている。

「……奇妙な魔力……貴方……勇者?」

「ッ!?」

珍しい反応だったのと、この世界の人間とは少し感覚の違う魔力を纏っていた為、アイシスはこの青年が今年の勇者役だと思って尋ねる。

異世界の人間だからと言って、彼女は受け入れてもらえるかもしれない等とは……もう考えてはいない。

それは既に過去の勇者役に対して幾度となく試してみた。しかし、結果は何も変わらなかった。

異世界人にとっても自分は恐怖の対象であると理解しており、アイシスは特に期待した訳でも無く単なる挨拶として声をかけた。

「……繰り返す……貴方……勇者?」

分かってはいた事だが、震えたまま言葉を返してこない青年に、アイシスはもう一度だけ問いかける。

昼間の件で苛立っていた事もあり、少し不機嫌さの籠った言葉が死の魔力を伴って放たれ、青年はビクッと肩をすくませ、少しして恐る恐ると言った様子で口を開く。

「……俺は……異世界人、ですが……勇者では……ありません」

「……そう」

青年が言葉を返してきた事に、アイシスは率直に言って少し驚いた。

正直言葉が返ってくるとは思っていなかった。震えたまま無反応か、逃げだすか、どちらにせよこれで会話は終わりだと思っていたが、青年は震えながらも言葉を返してきた。

死の魔力を纏うアイシスと対峙するにはそれなりに心が強くなければならない、しかも現在のアイシスはかなり不機嫌であり、身に纏う死の魔力も普段より凶悪なものになっている筈。

昼間に見た騎士より強者には見えないが、その騎士には出来なかった不機嫌な自分への返答を行えると言う事は、かなり強い心を持った人間なのかもしれない。

青年に対する認識を少し改め、アイシスは青年に向かって手を差し出す。

「……私は……アイシス……アイシス・レムナント……よろしく」

「!?!?」

名前を告げ手を差し出す。

無駄な行為だとは他の誰よりもアイシス自身が分かっている。これはあくまで形式的なものであり、手を差し出したのは形だけだ。

いかに心が強かろうと関係ない。生物である限り、アイシスに抗える力がない限り、差し出したその手を取る事は出来ないのだから……

「……」

差し出したアイシスの手を見て、青年は明らかに怯えを強くし一歩後ずさる。

これは分かっていた結末……何千回と繰り返されてきた、この先も変わる事がない当り前の出来事。彼女が生まれた瞬間から背負い続ける枷で……呪い。

アイシスは青年の反応を責める気など無く、それ以上青年を怖がらせない為にそっと手を引こうとした。

――その先の光景を、アイシスは知らなかった。予想すらしていなかった。

静寂の中で乾いた音が響き、降ろしかけていた手が止まる。

「……!?(なにを……してるの?)」

アイシスの目の前で青年は突然自分の顔を両手で叩き、一度目を閉じてから……強い意思の籠った目を彼女に向けた。

その目は恐怖に怯える弱者のものではない、しかし他の六王達の様な彼女に抗える力を持つ強者の目でも無い。

それは怯えながらも、恐怖を感じながらも、何かに挑もうとする挑戦者の瞳。

アイシスは確信した。目の前の青年は挑もうとしている。弱い体で小さな魔力で……アイシスに抗える程の力等欠片も持っていない筈なのに、それでも死の魔力に正面から挑戦しようとしていると……

心が大きく震え、遥か昔に消えた筈の……希望という感情が奥底から沸き上がってくる。

無理だ。出来るわけがない。

そう感じる心とは裏腹に彼女は差し出した手を降ろす事は出来なかった。否、降ろしてはいけないと強く感じていた。

微かに抱いたアイシスの心の奥底の小さな願い、それに応えるかのように青年は震えながら、ゆっくり……本当にゆっくりとだが、確実に少しずつ手を動かし始める。

恐怖に耐える様に強く、血が出る程に強く歯を食いしばりながら……必死にアイシスの願いに応えようとしてくれている。

それは言うならばこの時、この瞬間にしか起こり得なかった奇跡。

アイシスが読んだ本を気に入らなければ、今日出歩く事は無かった。

クロムエイナの魔法を見なければ、討伐隊と出会い不快な気分になっていなければ、王都を訪れる事はなかった。

青年を勇者役と勘違いしなければ、声をかける事はなかった。

そして青年――宮間快人が、クロムエイナと出会っていなければ、彼は挑もうとはしなかった。

様々な要因が奇跡の様に噛み合い、そして――その瞬間は訪れた。

長い、本当に長い時間をかけ、快人の手はアイシスに届く。

何千年も願い続け、もう得る事は出来ないと諦めかけていた。

何故こんな力を持って生まれたのかと、自分は何の為に生まれて来たのだと絶望し続けた。

枯れる程に涙を流し、周囲の変化を嘆きながら……それでも、ずっと、彼女は心の奥底でその存在を待ち続けていた。

死の魔力に抗える程の力が無くとも、それでも立ち向かい、それを克服して自分の手を握ってくれる存在を……

「……宮間快人と言います。よろしくお願いします。アイシスさん」

「……!?!?!?」

向けられた優しい声の言葉が、暖かい笑顔が……アイシスの心を包み込んでいた氷を溶かした。

そしてその瞬間、アイシスは強く、本当に強く確信した。

自分はこの青年――快人に出会う為に生れて来たのだと……

『珍しいですね。アイシス、貴女の方から訪ねて来るとは……』

「……リリウッド……お土産……何が良いと思う?」

『お土産、ですか? 誰かに持って行くのですか?』

「……うん……友達……出来た」

あまり居城から出歩く事の無いアイシスが訪ねて来た事に、リリウッドは微かに驚いた表情を浮かべていたが、その理由を聞いてその驚きは更に大きくなった。

『友達ですか、それは高位魔族ですか? それとも上級神ですか?』

「……ううん……人間」

『……はい?』

「……だから……人間」

『え? そ、そんな……人族にそこまで強大な力を持つ者が居るのですか?』

アイシスが告げた人間という言葉を聞き、リリウッドは珍しく取り乱した様子で尋ねる。

しかし、尋ねられたアイシスの方はキョトンとしており、不思議そうに首を傾げる。

「……カイト……強くないよ?」

『……んん?』

「……騎士とかよりは……ずっと弱い……魔力も小さい……」

『それなのに、貴女と友達になったのですか?』

「……うん……カイト……私の手……握ってくれた……いつでも遊びに来ていいって……笑ってくれた」

『……化け物ですか、その人間は……』

アイシスが頬を赤く染め、嬉しそうに告げる言葉を聞き、リリウッドは信じられないと言いたげに唖然とした表情を浮かべる。

少なくともリリウッドには、ただの人間がアイシスの死の魔力に抗えるとは思えなかった。

「……カイト……異世界人だけど勇者じゃないって……言ってた」

『異世界人? カイトという名前なら、男性ですか?』

「……うん……優しくて……カッコイイ」

『……変ですね。以前シンフォニア王国で行われた夜会に、私の眷族が参加していまして、今回の勇者召喚に事故があったと言うのは聞きましたが……その夜会に居た異世界人は、勇者役の男性一人に女性が二人だったと聞きましたが?』

リリウッドは世界中に多数の眷族が居て、シンフォニア王国で行われた新年のパーティーに、その内の一体が参加していた為、勇者召喚の事故についてもある程度の話は聞いていた。

しかし、アイシスの語る人物に当てはまる様な存在は、聞き覚えがない。

「……なんで……カイト……参加して無かったの?」

『分かりませんが、何か別の用事というのも考え辛いですね。その時点ではこの世界に来て四日程度ですし……となれば或いは、国から不当な扱いを受けている可能性も……』

「……」

『あ、いや、あくまで可能性ですよ? もしかしたら程度ですからね』

「……そう」

アイシスの纏う雰囲気が明らかに変わったのを見て、リリウッドは慌ててあくまで推測だと告げる。

『……あの、仮にですよ。もし、仮にそのカイトさんという方が、不当な扱いを受けていたら?』

「……それした奴……全員殺す」

『……い、いや、落ち着きましょう。国滅ぼす気ですか貴女……』

「……カイト虐める国なんて……滅びればいい」

『……』

リリウッドは確信した。本当にそうだった場合、アイシスは本気でシンフォニア王国を滅ぼしてでも、その犯人達を皆殺しにすると……

真顔で告げるアイシスの言葉に苦笑しながら、リリウッドは慌てて眷族に魔力で伝達を送り、早急にその件を調査する様に命じた。

『で、でもほら、そんな事をすると、そのお優しいと言うカイトさんが悲しんでしまうのでは?』

「……うっ……カイトが悲しむなら……滅ぼさない……半殺しにしとく」

『……(あの、アイシスがここまで素直に引いてくれるとは……本当にそのカイトさんというのは何者なんでしょうか?)』

今迄からは考えられない程素直なアイシスの反応に、リリウッドは再び驚きながら、一番初めの話題であるお土産について、アイシスの相談に乗ることにした。

初めはその未知の存在とも言える人間に半信半疑だったリリウッドだが、快人の事を本当に幸せそうに話すアイシスを見て、自然を笑みを浮かべる。

『……(アイシスがここまで入れ込む人間。少し興味がありますね。そう言えばシンフォニア王国ではもうすぐエルフ族の祭りが……ふむ、良い機会ですし、その際に足を運んでみましょう)』

「……リリウッド……聞いてる?」

『え、ええ。やはり初めの訪問ですし、消費できる品が良いでしょう。異世界から来たと言う事ですし、こちらの世界の食べ物など良いかもしれません』

「……成程……リリウッド……世界樹の果実……頂戴」

『構いませんが、まさか持って行くつもりじゃないですよね?』

「……駄目?」

『駄目とは言いませんが、あまり高価な物を持って行っては相手を恐縮させてしまうでしょう』

個性の強い六王の中で、極めて良識的と言えるリリウッドは、アイシスの言葉に溜息を吐きながら、それでも文句は言わず彼女のお土産選びに付き合った。

もう長く見ていない、アイシスの心から幸せそうな笑顔を見て、それをもたらしてくれた……死王の心の氷を溶かしてくれた快人への感謝を心に抱きながら……