軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一周年記念番外編「二人の異世界旅行前編③・遊園地」

鷲羽山ハイランドに到着し、チケットブースで一悶着はあったものの無事入場することが出来た。

メインゲートをくぐると、即サンバステージが配置されておりブラジリアンパーク鷲羽山ハイランドの、熱いサンバへの情熱を感じた。

だが残念なことに俺は日本人であり、燃えたぎるようなサンバへの情熱は持ち合わせていない、そのため、サンバステージは華麗にスルーしてアトラクションへ直行することにした。

ちなみにこの鷲羽山ハイランド、定番のメリーゴーランドや観覧車も用意されているが、パンフレットを見て一番目を引くのは……4種類ものジェットコースターだろう。

名前の通り途中で横回転するウルトラツイスター、立ったまま乗るスタンディングコースター、後ろ向きに走るバックナンジャー……そして、シンプルな作りながら、錆びた鉄の音が長い年月が経過していることを証明して、『別の怖さ』を味わえるチューピーコースター。

実に園内のアトラクションの三分の一ほどはジェットコースターである。どの辺りにブラジル感があるのかは、まったく不明ではあるが……。

なお、チューピーコースターの冠になっているチューピーは鷲羽山ハイランドのマスコットである。ネズミの姿をしているが、某夢の国のネズミとはなんの関係も無い。オスのチューピーくんにメスのチューリーちゃんが存在するが、某遊園地のマスコットとは全くの別物である。

ちなみに公式HPによるとチューリーくんの好物は焼肉で、特技はバンジージャンプらしい……野生の逞しさを感じるが、生まれも育ちも鷲羽山ライランドである。公式HPのプロフィールによると、平成6年1月1日生まれなので、そこそこいい歳であることが推測されるが……考えないことにしよう。

「それで、クロ……どこから行ってみる?」

「う~ん……この『スカイサイクル』ってのに行ってみたい!」

「……う、うん。了解……じゃあ、行こうか」

流石クロというべきか、なんというべきか……最初にソレを選ぶとはお目が高い。

このスカイサイクルは鷲羽山ハイランドを代表するといっても過言ではない有名なアトラクションであり、ネットの口コミでもほとんどの記事で触れられているほどだ。

どんなアトラクションかというと、その名の通り高い位置にあるレールの上を二人乗りの自転車みたいな乗り物で進むアトラクションである。

似たところで「サイクルモノレール」とうのほのぼのした楽しいアトラクションがあり、乗車する人が自力で漕ぐた動力にお金がかからないので、お子様向けの遊戯施設などに多く存在するが、鷲羽山ハイランドのスカイサイクルは……完全に別物である。

このスカイサイクルは、『山の急斜面』に設置してある。これで乗る部分がしっかりしていれば、絶景を優雅に楽しむことが出来るだろうが……そうは問屋がおろさない。

なんとこのスカイサイクルの乗車部分は、ハンドル、サドル、べダル、チェーン……そしてそれを繋ぐフレーム『のみ』と言っていい構造であり、それを二台分くっつけただけのような造りになっている。

まぁ、早い話が『べダルを踏み外したら転落しそう』な感じというわけだ。

ならば『安全装置』がしっかりと付いているはずと考える人もいるだろうが……実際の乗ってみればその希望は粉々に打ち砕かれるだろう。

なんとこのスカイサイクル、安全装置は『ゆるゆるのベルトのみ』で、落下防止の網とかも存在しない。

そんな感じで、どこからどう見ても転落しそうなアトラクションであり、非常に恐ろしいアトラクションとしてテレビでも紹介されたことがあるらしい。

これは、俺も覚悟を決めなければいけないかもしれない。

「……カイトくん? 顔青いけど、大丈夫?」

「……う、うん。だ、大丈夫」

「それにしても、うわぁ~いい景色だねぇ、海も見えるよ!」

分かってはいたけど、超怖い!? なんか小刻みに横に揺れるんだけど!?車輪外れないのよね? 大丈夫だよね!? ついでに、想像以上にくっそ高いし、マジで怖い!?

しかも、子供用も乗れるように調整されているからなのかハンドルとかの位置が低くて前傾になるし、なんか木の枝がコースに少し突き出てて、そこはかとない不安も感じる。

あれ? 子供のころに乗った時、こんなに怖かったかな? 確かに父さんは「もう二度と乗らない」とか言ってたけど、俺ははしゃいで何度も乗りたがってたはずだけど……いま乗ると、父さんの気持ちがよく分かった。

これは、ちょっと本気で怖い……特に海側にせり出してるところとか特に……。

しかし、そんな俺とは対照的にクロはとても楽しそうである。景色を見ながら楽しそうにハンドルを握って……。

「……あっ」

「ちょっ!? クロ!?」

「力加減間違えて、ハンドル……『取れちゃった』……てへ」

「てへじゃねぇよ!? ど、どうするのソレ!?」

普段のクロは力加減が完璧なので忘れがちになってしまうが、彼女の力は人外とかそういうレベルでは無い。それこそ鉄製のハンドル如き、乾燥したそうめんを折る程度の力で粉砕できるだろう。

しかし、だからといって、よりにもよってこのタイミングで……。

「よっと」

「……あれ? 直っ……てる?」

「うん、これぐらいならすぐ直せるからね!」

「そ、そっか……よかった」

「じゃあ、気を取り直して……カイトくん! もう少しスピードあげていい?」

「やめてやめて! いやな予感しかしないから! この乗り物は、クロの脚力に耐えられるように設計されてないから!?」

もう少しスピードをあげてもいいかと尋ねるクロに対し、俺は全力で首を横に振る。だって、レールから飛び立つ未来しか見えなかったからね!?

その後もスピードを上げたがるクロを必死に説得しつつ、クロが今度はペダルを破壊しないだろうかという新たな恐怖と格闘しながら、なんとか一周を終えた。

「あ~楽しかったね! もう一回乗りたいな……」

「クロ! あっちのコースター、すごく有名で楽しいらしいよ! あっちに行こう! そうしよう!!」

「う、うん? カイトくんがそう言うなら……」

こ、これは、本当に……気をつけなければ、とんでもないことになりそうだ。

その後も、クロと一緒に鷲羽山ハイランドをあちこち見て回った。

「カイトくん、これ、なに?」

「ああ、このアトラクションは身長制限があるんだよ。140cm……クロはちょっと届かな? じゃあ、他のアトラクションに……」

「え? そんなことないよ! ほら、ちゃんと届くよ」

「……あれ? なんかクロ、微妙に……いや、微妙どころか『10cmくらい身長伸びてない』?」

「……キノセイダヨ」

「なぜ目を逸らした」

身長制限のアトラクションを自在に変化できる体で乗り切ろうとしたクロを見て、呆れたり……。

「か、カイトくん? 大丈夫?」

「こ、こける……マジでこける!?」

「ほら、ボクにつかまって」

「あ、ありがとう……というか、なんでクロはそんなにすいすい滑れてるの? インラインスケート初めてだよね?」

「え? 別に普通に滑れたけど?」

「……く、くそぅ、なんか悔しい」

高スペックなクロに軽く嫉妬したり……。

「カイトくん!? も、もう焼けたんじゃない?」

「まだ、もう少しだって……」

「……そろそろかな?」

「だから、まだだって……」

クロの希望により、ブラジリアンパークに来ておきながらお好み焼屋で昼食を食べたり……。

「やった! カイトくん、見て見て! 全部『壊した』よ!」

「違うから!? ボウリングはピンを倒すの! 粉々に粉砕するんじゃないの!! 早く直して!」

「そ、そうなんだ……よっと」

「というか、そもそも……そのボールは『オーバースローで投げるんじゃない』からね……下投げで転がすの……」

「……へ?」

16ポンドのボウリング球を弾丸のような速度で投げるクロに戦慄したり……。

非常に慌ただしくしながらも、なんだかんだで時間を忘れて楽しむことが出来た。

いろいろなアトラクションを見て回り、あたりが暗くなり始めたタイミングで、最後の締めくくりとして観覧車……レインボーワープに乗ることにした。

鷲羽山ハイランドは山の上の遊園地であり、観覧車から見える景色は本当に絶景といっていいものだった。

「ふわぁ~、綺麗な景色だね。海が夕焼けでキラキラ光ってるよ」

「うん、やっぱり締めは観覧車だよな……どうだ、クロ? 今日は楽しかった?」

「うん! すっごく楽しかったよ! どれもこれも、初めて見るものばっかりだったし……カイトくん、連れてきてくれてありがとう!」

観覧車から見える景色を並んで眺めながら尋ねると、クロは眩しいほどの笑顔を返してくれた。

遊園地デートなんてのは、俺にとっても初めての経験だったけど……本当に気が付けばあっという間だったと感じるほど、楽しかった。

クロと一緒に来れて、本当に良かったと、そう考えながらぼんやり景色を眺めていると……ふと腕に柔らかく温かい感触がした。

振り向くと、俺の腕を抱きかかえるように握りながら、俺にもたれかかってきているクロと目が合った。

「クロ?」

「えへへ……ねぇ、カイトくん?」

「うん?」

「……大好きだよ」

「……うん、俺も……」

ふたりきりの観覧車、夕焼けに染まる美しい景色。いいムードというのは、こういうことを言うんだろう。

心は温かく、気持ちはすごく穏やかで……自然と、クロのことを愛おしいという気持ちが溢れてくる。ソレはクロも同じだったみたいで、はにかむように笑いながら真っ直ぐに俺を見詰めて好意のこもった言葉を告げてくれた。

頬の赤さは夕焼けのせいか、それとも別のものなのか……たぶん、俺も同じような顔をしているんだろうな。

静かで、それでいてとても心地良い沈黙の中、俺たちはまるで互いに引き寄せられるように顔を近づけ……想いを重ねた。