軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

完全に混乱していた

夜祭りは多くの人達で賑わい、お酒が入っている人も多いからか非常に騒がしい……はずだ。

だけど、なんだろう? この嫌な静けさ、背筋が冷たくなるような感覚は……。

「……」

いや、原因なんて分かり切ってる。先程から俺の三歩後ろを歩きながら、言葉通り片時も目を離さずに睨みつけてきているツヴァイさんのプレッシャーのせいだ。

本当になんでこんなに嫌われて決まったのか……って、うん? 嫌われてる? 待てよ……よくよく考えてみれば、別にツヴァイさんが直接俺に嫌いだとかそんなことを言ったわけではない。

まだ出会って間も無いけど、ツヴァイさんはそういうことを遠慮なくズバッと言いそうなイメージだ。

となると、もしかして、ツヴァイさんは仲良くなるまでは、こんな感じで塩対応の可能性もあるってことだ。うん、もしかすると、会話してみれば意外と話がはずむかもしれない。

領主みたいな仕事してるんだから初対面の相手に塩対応なわけがないとか、凄まじい威圧感で睨みつけてきてるとかは、この際忘れて……は、話しかけてみよう。

い、いくぞ……俺のコミュ力をフルパワーにして笑顔で……。

「つ、ツヴァイさんって、集中すると周りが見えなくなったりすることがあるんですか?」

「はい」

「じ、実は俺も似たような癖があるんですよ。奇遇ですね」

「そうですか」

「……はい」

「……」

「……」

会話続かねぇぇぇぇ!? 射殺すような目と淡々とした口調のコンボで、会話を広げることができない。くっ、俺のコミュ力では限界だというのか……あっ、コミュ力おばけのラズさんがこっち見てる。

「わ~カイトクンさん、凄いです! もう、ツヴァイお姉ちゃんと仲良しさんなんですね~」

「……」

どこをどう見たら仲良しに見えるのか、ちょっと詳しく説明してもらえませんかね? 完全にヘビとカエルの構図だからね!? アハトとエヴァも目を逸らさずに助けに入ってくれないかな……。

……まいった。ここまで会話に苦戦したのは、初めてシロさんと出会った時以来だ。

それでもシロさんはまだ、こちらを睨みつけていたわけでなかったので、なんとか上手く会話ができたが……ツヴァイさんの目力が凄まじすぎて、どうもうまくいかない。

なにか、仲良くなれるきっかけでもあれば……。

そんなことを考えながら足を進めていると、突然大きな怒声が聞こえてきた。

「なんだと! 戦うことしか能の無い戦王配下の分際で!」

「テメェらこそ、こそこそ隠れてるだけだろうが!!」

聞こえてきたその声に振り向くと、なにやら喧嘩が起っている感じだった。ちなみに俺とラズさん、アハトにエヴァは声のした方向を向いたが……ツヴァイさんは俺を睨みつけたまま視線を外すさない。どうやら怒声が聞こえないほど俺の監視に集中しているらしい。

「……またやってるよ。戦王配下と幻王配下……」

「アイツら、本気で仲悪いからなぁ……っと、巻き込まれても面倒だし、さっさと離れようぜ」

エヴァとアハトが呆れたような表情で呟く。う~ん、本当に戦王配下と幻王配下は犬猿の仲みたいだ。

そしてアハトの言葉通り、巻き込まれる前に離れようと思ったタイミングで……事件は起った。

戦王配下が持っていた酒瓶を投げつけ、幻王配下がそれを砕く。砕けた酒瓶から飛んだほんの一滴の酒が、俺をジッと睨みつけていたツヴァイさんの頬に当った。

とんだ滴は本当に小さく、気付くかどうか疑問に感じるレベルではあった。しかし、ツヴァイさんはそこで初めて俺から視線を外し、そっと自分の頬に手を当てる。

そして、手袋をした手で頬を軽く擦ったあと、その手を顔の前に持っていき……カタカタと震え始めた。

「……ぁっ……あぁ……」

変化が起ったのはツヴァイさんだけでは無かった。他の三人も何故か『世界が終わったかのような絶望的な表情に変わっていた』。

「や、やべぇ、やべぇよ……」

「ラズ姐!! すぐにアインの姐御に連絡を! 私たちじゃ止めきれない!?」

「わ、わわ、分かってるです!」

い、いったいなにが起ってるんだ? あのラズさんさえ、顔を真っ青にして慌ててる。

俺ひとりだけ状況が分からず混乱していると、ラズさんがどこからともなく取り出した弓で、空に向けて矢を放った。

そして、それとほぼ同時に……凄まじい怒声が周囲に響き渡った。

「貴様らぁぁぁ! よくも、よくも、『クロム様にいただいた私の体に汚れを』……貴様ら全員! この世に肉片一つ残ると思うな! 皆殺しだ!!」

「ッ!?」

地獄の鬼もかくやというような凄まじい表情を浮かべたツヴァイさんだった。か、完全にブチ切れていらっしゃる!?

まさに怒髪天を突く……大気が震えるほどの怒りを纏ったツヴァイさんが、青ざめた表情を浮かべている戦王配下と幻王配下に突っ込もうとした瞬間、ツヴァイさんの目の前にアインさんが現れた。

「落ち着きなさい、ツヴァイ」

「どけ! アイン!! クロム様に作っていただいた……私の至高の体に! 一切の汚れすら許されない究極の体に! あのゴミ共は!!」

「……貴女がクロム様に作ってもらった体を誇りに思っているのは知っていますし、その体を汚さないように『常に手袋』をしているのも知っています。しかし、貴女が暴れればこの周辺を焦土と化すでしょう……クロム様はそれを望みませんよ?」

「ぐっ……お、抑えろというのですか? この身を焦がすほどの怒りを……」

クロが望まないという部分に反応し、ツヴァイさんは目を血走らせながら唇を噛む。

「我慢しなさい……あと、『カイト様が怯えてますよ』」

「なっ!? あっ……」

続けて放たれたアインさんの言葉を聞いて、ツヴァイさんは驚愕した表情でこちらを向くが……俺はそれどころでは無く、混乱していた。

いや、怖がっていたり怯えていたりというわけではない。ツヴァイさんの怒りに関しては、人それぞれ大切なものがあることなので怯えたり引いたりするつもりはない。

では、俺がなにに混乱しているのかというと……『ツヴァイさんから伝わってくる感情』に対してだった。

先程までは、ツヴァイさんが魔力を抑えていたため感応魔法で感情を読み取ることは出来なかった。しかし、いまは怒りで魔力の制御が乱れているのか、ツヴァイさんの感情が伝わってきていた。

こちらを向いて困ったような表情を浮かべているツヴァイさんから伝わってくる感情。それは、困惑と焦りと……押し潰されそうなほどに大きい『好意』だった。え? どういうこと?

拝啓、母さん、父さん――俺は正直、ツヴァイさんに嫌われていると思っていた。だからこそ、ツヴァイさんから伝わってきた溢れんばかりの好意に対し――完全に混乱していた。